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夜間灯り見回り ――便利屋ギルド、最も不向きな人材の有効活用

回せない仕事


オープニング


――セシリア・ワレンシュタイン


 ロッペンハイマー冒険者ギルド。

 昼下がりの受付は、珍しく静まり返っていた。


「……これ、残っちゃったわね」


 受付嬢ディジーが、掲示板から外した依頼票を指先で揃える。

 向かいの席のミーアが、苦い顔で頷いた。


「夜間の灯り見回り……」


「こういうのは、どうしても避けられるのよね」


 ディジーは肩をすくめる。


「危険度は低い。

 でも放置できない。

 ……なのに、受け手がいない」


「挑戦した冒険者もいたわ」


 ミーアが言った。


「でも途中で放り出したり、

『こんなの冒険じゃない』って戻ってきたり」


 沈黙が落ちる。


 冒険者ギルドの本来の役割は、

 “危険な仕事を回すこと”。


 だが――


「街を回す仕事は、誰がやるの?」


 ディジーの呟きに、ミーアは答えられなかった。


 そのとき、ディジーが思い出したように言う。


「……便利屋ギルド」


「え?」


「最近できた、小さなところ」


 ミーアの眉が動く。


「配達、清掃、点検……

 冒険者が敬遠する仕事を、きちんと回してるって噂よ」


「孤児院の件も、あそこだったわね」


「そう」


 ディジーは依頼票をまとめた。


「冒険者ギルドが“受けられない仕事”を、

 正式に回せる先があるなら……」


 ミーアは、少し考えてから頷いた。


「……必要ね、それ」


 ディジーは立ち上がった。





本文


1.受付にて


 夕方前。

 便利屋ギルドの受付は、まだ少し慌ただしかった。


 帳簿を整理しているのは、車椅子の少女――セシリア・ワレンシュタイン。

 最近ようやく、受付業務にも余裕が出てきたところだ。


「夜間の灯り見回り……ですね」


 依頼票を読み上げ、顔を上げる。


「街灯の点灯確認と、消えかけている灯りの報告。

 深夜帯、毎日……」


「地味だけど、大事な仕事よ」


 ふわりと宙に浮かぶお魚先生が、腕を組んだ。


「最近は、カルロ村の方にも人手を割いてるからね。

 騎士団も巡回はしてるけど、全部は回りきれない」


 メアリーが、少し考え込む。


「……私たちだけで回せますか?」


「正直、厳しいわね」


 お魚先生はあっさり言った。


「でも――ちょうどいい人材が、いる“かも”」


「え?」


「確定じゃないけど。

 話を聞いてみる価値はあるわ」


 セシリアが小さく首を傾げる。


「……どなた、ですか?」


「行けば分かる」


「え、今から?」


「こういうのは、熱が冷めないうちがいいのよ」



2.ワーグハウゼンへ


 夕暮れの街道を抜け、ワーグハウゼンへ。


 石造りの家々が並ぶ職人の町は、

 昼とは違う静けさを帯びていた。


「夜の町って……昼と全然違いますね」


 メアリーが小さく呟く。


「ここは職人町だからね。

 夜は、作業を終えて休む人が多いの」


 やがて、町外れの建物へ辿り着く。


 ノックに応じて現れたのは、黒装束の死霊術師――ネロ。

 その背後に立つのは、黒衣の骸骨騎士。


 アーヴァインである。


 夕闇の中、無言で立つその姿は、

 相変わらず存在感が強かった。


「……こんばんは」


 お魚先生が、にこやかに手を振った。



3.説得開始


「……なぜ我が、そのような仕事を?」


 低く、重い声。


「安心しなさい。討伐じゃないわ」


「オレも戦闘は勘弁な」


 ネロが肩をすくめる。


「今回は、カルロ村の件とは別。

 “町を回す仕事”の話よ」


 お魚先生は、視線をアーヴァインへ向ける。


「夜間の灯り見回り。

 街灯の確認と、不審があれば報告」


「戦闘は?」


「基本なし」


「……我が、それを?」


「ええ」


「……なぜ我が?」


「正直に言うと――怖がられないから」


「…………」


 骸骨であることを、否定する言葉は出なかった。



4.条件提示(重要)


「もちろん、無償じゃないわ」


 一拍置いて、条件が提示される。


「一晩につき銀貨五枚。

 ワーグハウゼンとロッペンハイマー、両地区を含む」


「……毎晩、か」


「月まとめなら、一人銀貨百五十枚」


 アーヴァインは、静かに計算する。


「……悪くない」


「カルロ村の整備資金にも回せるな」


 ネロが頷く。


「衣装と身分証は?」


「用意するわ。

 便利屋ギルドの簡易マントと旗」


「……旗?」


「うちの仕事だって分かるでしょ」


 短い沈黙の後。


「……了承しよう」


「決まりね」


「オレが召喚した骸骨を同行させてもいいよな?」


「ええ。

 ちゃんと衣装を着せてくれれば問題ないわ」


 その横で、メアリーが目を丸くする。


「……ガ、ガイコツさんも……?」



5.契約成立


 その夜。


 ワーグハウゼンからロッペンハイマーへ、

 いくつかの影が静かに歩いた。


 黒衣の骸骨と、軽やかな死霊術師。

 肩には、便利屋ギルドの小さな旗。


「……何だ、あれ」


「便利屋ギルドらしいぞ」


「……怖くないか?」


「……でも、灯り全部点いてるな」


 その夜、街灯は一つも消えなかった。


 翌朝。


 セシリアは、受付帳簿に静かに書き込む。


夜間灯り見回り

担当:アーヴァイン、ネロ(召喚随行)

契約:継続


 小さく息を吐き、微笑んだ。


「……回せましたね」




後書き(作者視点)


 派手さはありません。

 剣も魔法も振るわれません。


 けれど、こうした「地味な仕事」こそが、

 町を支え、物語の土台になります。


 誰かが灯りを確認し、

 誰かが異変を見逃さず、

 誰かが“問題が起きない夜”を作っている。


 カルロ村の再開拓が動き出した今、

 便利屋ギルドは「何でも屋」ではなく、

 回せなかった仕事を、回す場所になりつつあります。


 剣を振るう者だけが、世界を守っているわけではない。

 そんな話でした。


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