山賊団への対処
――まずは、筋を通す
朝の喧騒が一段落した頃。
便利屋ギルドの仮事務所を出て、
アタシとメアリー、そしてミンジュンは冒険者ギルドへ向かった。
石造りの建物は相変わらず人の出入りが多い。
剣を背負った者、鎧の音を鳴らす者、
掲示板の前で依頼票を睨みつけている者。
「やっぱり、こっちは空気が違いますね……」
メアリーが小さく呟く。
「仕事の匂いが濃いのよ」
アタシはそう返しながら、受付へ向かった。
⸻
受付にて
カウンターにいたのは、見覚えのある受付嬢――ディジーだった。
「いらっしゃいませ。
……あ、便利屋ギルドの方ですね」
視線が柔らかくなる。
「本日は、どのようなご用件でしょう?」
「裏山での件について、報告と相談を」
アタシが簡潔に告げると、
ディジーの表情がわずかに引き締まった。
「……少々、お待ちください」
そう言って、彼女は奥の扉へと向かう。
「ギルドマスターに繋ぎます」
数分。
長くも短くもない待ち時間。
「……通してもらえるみたいですね」
メアリーが小声で言う。
「ちゃんと筋を通すのは大事よ」
アタシは頷いた。
⸻
ギルドマスター室
重厚な扉の向こうは、意外なほど簡素な部屋だった。
大きな机。
壁際の書棚。
そして、机の向こうに座る壮年の男。
「冒険者ギルド・ロッペンハイマー支部、ギルドマスターのハルドだ」
低く、落ち着いた声。
「話は受付から聞いている。
……まずは、自己紹介を」
「便利屋ギルドを預かってます。
こっちはメアリー、こちらがミンジュン」
「料理人です。兼、町の雑用係ですね」
ミンジュンが軽く頭を下げる。
ハルドは一つ頷き、話を促した。
「それで、状況は?」
⸻
状況説明
アタシは、昨夜の出来事を順を追って説明した。
裏山で発見された血痕。
破棄された衣類。
獣人たちが保護していた魔物の子供。
そして、彼らの証言。
「……山賊団が、子供を攫っていた可能性が高い、と」
ハルドは顎に手を当てる。
「だが――」
そこで一度、言葉を切った。
「正式な被害届も、依頼も、まだ上がっていない」
「ええ」
アタシは頷く。
「だからこそ、まず報告に来ました」
「正しい判断だ」
ハルドはそう言って、椅子に深く腰掛けた。
「冒険者ギルドとしても、
裏山周辺の不穏な動きは把握している」
「……ですが?」
メアリーが恐る恐る尋ねる。
「依頼がない以上、
“討伐”として動くのは難しい」
現実的な答えだった。
⸻
提案
沈黙。
その空気を破ったのは、ハルドだった。
「ただし」
彼は指を組む。
「このまま放置する気もない」
アタシは少しだけ、表情を緩めた。
「共同で、捜索隊を出すのはどうだろう」
「共同、ですか?」
「冒険者ギルドと、便利屋ギルド」
ハルドは淡々と言う。
「名目は“周辺警戒および行方不明者の捜索”
討伐ではない」
「それなら……」
「動ける」
ミンジュンが短く答えた。
「町の人間を守る、という点では目的は同じだ」
ハルドは微笑んだ。
「冒険者側からは、
斥候と戦闘経験者を数名出そう」
「こちらは、地理と聞き込みを担当します」
アタシが即答する。
「獣人達からの情報も、共有可能です」
「助かる」
ハルドは立ち上がった。
「では、正式な書面を交わそう」
⸻
共同捜索、決定
ギルドマスター室を出た時、
メアリーが小さく息を吐いた。
「……思ったより、ちゃんと話が進みましたね」
「だから言ったでしょ」
アタシは肩をすくめる。
「町の仕事は、町のルールで動くのよ」
背後で、ミンジュンが静かに言った。
「これで、山賊団も動かざるを得なくなる」
「ええ」
アタシは頷いた。
「――次は、現場ね」
討伐ではない。
だが、確実に包囲網は狭まっていく。
町は、もう見て見ぬふりをしない。




