ロッペンハイマーへ
ロッペンハイマーへ
どういうわけか、このヨハンってお爺ちゃん――やたらと先生のことを聞いてくる。
そうだ、せっかくなのでちょっとさっき覚えたステータス確認をさせてもらいますね!
ステータスオン!
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ヨハン・フィッツジョラルディン
クラス 聖騎士 Lv 26
HP390 MP193 SP270
攻撃250 守り240 速さ160
スキル
風魔法、回復魔法、水魔法、聖魔法
状態変化魔法、剣技Lv5
装備
十字聖教の剣、十字聖教の鎧、
十字聖教の盾、十字聖教の兜
加護:神ニーヤの印
称号:聖教十字軍副団長の証
進化:条件を満たしていません
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ボミエ・ルル・ユーミン
種族 猫人族
クラス 魔法士 Lv 26
HP230 MP270 SP180
攻撃130 防御140 速さ160
装備
スターライトの杖、魔法士のローブ
魔法士の帽子、魔法士の靴
スキル
鑑定魔法Lv3、火炎魔法Lv2、水魔法Lv2、
氷結魔法Lv3、土魔法Lv2、 回復魔法Lv2
星魔法Lv2
加護:ピックルの愛
称号:なし
進化:条件を満たしていません
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「先生というのは、どんなお方なんじゃ? なぁ、メアリーさんや!」
「あっ、はい。何でしょうか?」
「そ、その先生はどんな感じなんじゃ?
知的でスレンダーな感じかのう? それとも家庭的でぽっちゃり系かの〜?」
何をそんなに食いついているのかしら、このお爺ちゃんは。
「んー、そうですね……。
雲のようにふわふわしていて、肌の触り心地がとっても良くて癒される……
まさに、私の理想のお母さんって感じです」
「オホー! ええのう、ええのう!」
「ちょっとヨハン爺、興奮しすぎニャ。
あとで『想像と違ったニャ〜』とか言ってへこんでも知らないニャ」
「ワン! ワン!」
チューリップが短く吠えた瞬間、空気が変わった。
ヨハンとボミエが反射的に立ち上がり、それぞれ武器を構える。
森の奥――闇の中から、ニタニタと不敵な笑みを浮かべたゴブリンどもがじりじりと近づいてくる。その数、ざっと三十匹以上。
メアリーは思わず息を呑み、二人の背中を見る。
そこには、さっきの余裕たっぷりな雰囲気はもう無かった。
「ど、どうするニャ、この数……」
「困ったのう。こりゃ、ワシら二人だけでは、ちいと厳しいかもしれん……」
その時、ゴブリンマージの一匹が杖のようなボロ木を振り上げ、
先制攻撃とばかりに炎の矢を飛ばしてきた。
「炎矢魔法――フレアアローか」
「甘いニャ。氷結矢魔法――フリーズアロー!」
ボミエの放った氷の矢が、炎の矢を空中で相殺する。
だが、すぐさま四匹のゴブリンがボミエめがけて飛び出してきた。
「来るぞい、ボミエ!」
ヨハンが一歩前に出て、ボミエの前に立つ。
聖剣を構え――。
「ダブルスラッシュ!」
鋭い二連撃で前にいた二匹をまとめて斬り払い、その隙を埋めようと脇から回り込んできた一匹の喉を突き刺す。
「風刃魔法――ウィンドカッター!」
ボミエはヨハンの背後から風魔法を放ち、残った一匹をまとめて真っ二つにした。
「ど、どうじゃ? あと一匹!」
「二人とも、あれ!」
メアリーが震える指で後方を指さす。
振り向いたヨハンとボミエの視線の先――。
そこには、後方支援のゴブリンアーチャーたちがいた。
一斉に弓を引き絞り、雨あられのように矢を放ってくる。
「くっ!」
ヨハンは剣で矢を叩き落とし、ボミエは氷結盾魔法・アイスシールドを展開して身を守る。
だが近くで動いていた四匹目のゴブリンは、仲間の放った矢をもろに受け、その場に前のめりに倒れ込んだ。
「うそ……仲間ごと狙って?」
「なんでコイツら、仲間のこと気にしてないニャ?」
「ゴブリンはのう、仲間であろうが何であろうが、お構いなしじゃ。
自分さえ良ければそれでいい、そういう連中じゃよ」
ゴブリンどもは構わず前進を続ける。
数の差は歴然。守るべき対象――メアリー――まで抱えて戦うには、あまりにも不利すぎる。
「やっぱり、誰かを守りながら戦うには、この圧倒的な数はキツイのう……」
じりじりと後退しながら、三人は湖の方へと追い詰められていく。
その時だった。
――ザバァァッ!
湖の方から、大きな何かが水を割って近づいてくる音が聞こえた。
その気配に反応するかのように、メアリーがぱっと顔を上げ、元気よく両手を振る。
「先生ーーっ!!」
湖面が盛り上がり、巨大な魚がこちらへ向かって跳ね上がった。
「うわぁ〜! 魚が、オイラに食べられるために自分から飛び込んで来たニャ!?」
「違うニャ。食べるのはこっちじゃニャ……って、え? アレが……?」
ヨハンの胸中に積み上がっていた「理想のお母さん像」が、
バリバリと音を立てて崩れ落ちるのが、外から見てもわかるくらいだった。
「アハ〜。やっぱり思った通りニャ。ヨハン爺、残念だったニャ」
その瞬間、ゴブリンどもの動きがピタリと止まった。
ヨハンとボミエはすぐに悟る。目の前でぷかぷか浮いている魚――つまりアタシの仕業だと。
そしていつの間にか、自分たちの体も動かないことに気づいた。
「う、動けんぞい……?」
「こ、これは……念力サイコキネシスかニャ?」
「せ〜いかい♪」
アタシは湖から上がり、そのまま倍化スキルで身体をぐんと大きくする。
メアリーを背中に乗せ、さらにヨハンとボミエ、チューリップも一緒に浮かせて背中へ乗せた。
「先生、この人たちも一緒に乗せてあげてください!
さっきゴブリンから私を助けてくれたんです!」
「アラ、そうなの〜? じゃ、特別料金ナシで乗せてあげるわ」
「うわっ!? な、なんじゃ体が浮いとるぞい!」
「ひぃぃ、たかいニャーー!!」
「ワン!」
アタシは勢いよく夜空へと飛び上がった。
ヨハンは初めての空中飛行に目を輝かせ、夜空の星々の美しさに感激している。
一方でボミエは高所恐怖症らしく、チューリップにしがみついて絶叫だ。
「ワン……」
「こ、怖いニャ〜っ! もう魚は食べないから許してニャ!!」
「なんでチューリップに謝っとるんじゃ、お前は」
「だ、大丈夫ですよ、ボミエさん! すぐ慣れますって!」
メアリーが半分笑いながら声をかける。
「じゃ、このままロッペンハイマーまで行っちゃおうかしらね。
お爺さんたち、ちょっと道案内頼めるかしら?」
「私、まだ町に行ったことないんで……。
ヨハンさん、それにボミエさんも、お願いします!」
「うむ、任せるのじゃ。
それと、町に着いたらどこか朝ご飯を食べられる所へ行きたいのう」
「あっ、それならミンジュンさんのお店に行きませんか?
私、《探索サーチLv1》って能力スキルを覚えたみたいなので、
ダンジョンや町の中ならこれで探せますよ!」
「アラまぁ、すごいじゃないの。さすが真なる勇者ね〜」
アタシは素直に感心した。
星の輝く夜空を、しばらく四人+一匹で飛んでいく。
体感で三十分ほど経った頃、前方にぽつぽつと灯りが増え始めた。
「おおっ、みんな見ろ! ロッペンハイマーの町が見えてきたぞい!」
ヨハンが立ち上がり、ボミエの肩を叩いて前方を指さす。
つられてメアリーもそちらを見る。
「うわぁ……! すごいですね!
町って、夜でもこんなに明るいんですね!」
上空から見下ろすロッペンハイマーの町並み。
深夜四時とは思えないほどそこかしこに灯りが点り、レンガ造りの建物と温かな光が混ざり合って、美しい景観を作り出している。
オレンジや赤茶の三角屋根が並び、その合間から、
この町のシンボルである教会の高い塔が、暗い空を突き刺すように伸びていた。
「アラ、建物が随分カラフルね〜。なかなか賑やかそうな町じゃないの」
「朝になると、教会の連中が塔のてっぺんの鐘を鳴らすニャ」
「へぇ〜、THE・ファンタジーって感じね」
ひとまず町の近くに降下し、城壁のそばに着地する。
アタシは三人を降ろし、透明化を使ってインヴィジブルに切り替えた。
城門前には槍を持った守衛がひとり。
どうやらウトウトしていたらしく、ヨハンの声にビクッと反応して目をこする。
「……あぁ? ヨハン爺に、ボミエじゃないか。
どうしたんだよ、お前らがこんな時間に帰ってくるなんて珍しいな。
何かトラブルでもあったのか?」
「アーリッヒ、いつも入り口の警備ご苦労だニャ」
「ヘキサの森で野宿するつもりがのう、ゴブリンの集団に襲われたんじゃよ」
「そうか、大変だったんだな。
とりあえず早く帰って、ゆっくり休めよ。……へへっ」
守衛アーリッヒは、三人と一匹を快く通してくれた。
「先生、もう大丈夫ですよ」
「オッケー」
アタシは城門をくぐったところで透明化を解除し、姿を現した。
石畳はデコボコしていて、道端には馬車が停めてある。
見上げれば、オレンジ色の屋根が連なり、その向こうに教会の塔。
(ふふん、なるほど。この世界の文明レベル、
アタシたちの世界で言うと中世ヨーロッパの十六〜十七世紀あたりかしらね〜)
ヨハンとボミエにとっては「いつもの町」なのだろうけれど、
メアリーにとっては全てが新鮮だ。
生まれてからずっと、あんな暗くて汚れた村で暮らしてきたのだから、
このライトアップされた夜の町並みは、さぞかし眩しく見えるに違いない。
「綺麗ですねーっ!!
私、町の建物を見てるだけで、ものすごく感動しちゃいましたよ!」
「感動するのはとっても良いことだけど、
目的はミンジュン君のお店よ。――メアリーちゃん、《探索サーチLv1》お願いね」
「はい、先生!」
メアリーは目を閉じて小さく息を吸い、スキルを起動する。
「探索サーチ――オン!」
その瞬間、彼女の視界の奥に、簡易的な地図が浮かび上がる。
まるでゲームのミニマップのように、夜のロッペンハイマーの町が線と点で表示される。
「あっ、ありました!
ここから少し北西に行った通り沿いに、ミンジュンさんのお店があります!」
「さすが真なる勇者ね。頼りにしてるわよ、メアリーちゃん」
「えへへ……!」
こうして、アタシたちは――
元勇者(逃亡中)イ・ミンジュンの店を目指して、
ロッペンハイマーの夜の街を歩き出した。




