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美人な先輩がアホすぎる!  作者: 古野 けた
2/20

バイト

「いらっしゃいませーっと!ミノリ君じゃないか!!」

「……帰ります」


  土曜日、いつものファーストフード店でシェイクでも飲みながら勉強しようと入店した。するとカウンターにはマキ先輩が立っていた。ホラーである。


「ちょっ、ちょっと待った!ミノリ君!まだ入店して3秒も経ってないぞ!」

  俺は必死に引き止められ、呆れながら振り返る。

「はぁ……マキ先輩、勝手にカウンターに入ったら怒られますよ?」

「いやいや、これバイトだからな?正式な許可を受けて侵入してるからな?」

  侵入って言っちゃダメでしょ。


  しかし、先輩の言う通り服装は店員と同じ物を着用し、ネームプレートにも『マキ』と書かれている。しっかり髪もポニーテールにしている。

「なんで急にバイトなんてやり始めたんですか?」

「そりゃ、自分探しのためだよ」

「それは女子大生がアフリカに旅行へ行く時の口実です。本当は何なんですか?」


  すると先輩はやけに早口に「お金目的でやった、悪いと思ってる」と俯く。

「それは事情聴取中の犯人です。バイトを悪いと思わないでください」

  まぁ、しっかりは言わなかったがお金が欲しくてやっているのだろう。


「まぁまぁ、私がバイトしている理由なんて耳に近づいてきたハエのようなものだろ?」

「それめちゃくちゃ気になってるじゃないですか。そこまではないですよ」

「そうなのか?まぁいい、とにかくメニューを選びたまえ」

  そう言ってマキ先輩はカウンターに置かれたメニューを指さす。


  帰る気満々でいたが仕方ない、飲み物でも買って帰るか。

「そうですね……シェイクのバナナ味、Mサイズでお願いします」

  俺が注文するとマキ先輩はレジのタッチパネルに顔を向ける。

「シェイクの……バナナの……あー!店長!これどうやったらMサイズになるんですか!?」

  どうやら操作にまだ慣れておらず後ろで心配そうに見ていた店長を呼ぶ。


「あー、ここを、なるほどなるほど!あ、ホントだ!Mサイズになった!ありがとうございます!えーっと、ご注文以上でよろしかったですか?」

  どうやら解決したようだ。

「はい」

  俺は頷く。


「では、ご注文繰り返しますね。照り焼きチキンがお二つでよろしかったですね」

「うっわビックリした!全然違うじゃん!なんで?Mサイズになったって言ってましたよね?」

「あー、ホントだ!なんでだろ?」

  先輩は首を傾げながらタッチパネルを操作する。


「えーっと……注文なんだっけ?」

  忘れるタイミングがどこにあったのか分からないがそれでこそ先輩だ。俺はしっかり答える。

「シェイクのバナナ味のMサイズです」

「あーそんな一気に注文するんじゃない!混乱するだろ!」

  先輩は画面を見つめながら頭を抑える。

「一気にって1つしか頼んでないんですけど」


  それから先輩は何やらパネルを色々タッチして必死に注文を打ち込む。

「えー、あー、あ、出来た……他にご注文ございますか?」

「あ、出来たんですね。注文は以上でいいです」

「では、ご注文繰り返しますね。シェイクのバナナ味のMサイズがお1つですね」

  おぉ、ちゃんと出来てる。俺は心の中でホッと一安心した。先輩が試行錯誤してる間、店長が死にかけた表情で見守ってたからな。


「店内ですか?店外ですか?ちなみに私はあと20分でバイトが終わるので、店内でしたら隣でたーっぷりサービスしてあげま___」


「テイクアウトで!!!」


「イートイン入りましたァァァ!!!」


  客の要望を聞かないアホ店員のせいでイートインになった。

  しかも飲み物だけなら外に出れるが、サービスでLサイズのポテトとか付けてくるもんだから店内で食わざるおえない。


  まぁ、終わるのが20分後らしいしそれまでには食べ終わっているだろう。

  俺はそう思いながら4人席のシートに座り急いで食べ始めた。


-----------------------------


 5分後


「ミノリ君お待たせー!サービスのために待っててくれるなんてエッチなヤツだなー」

  そう言って私服になったマキ先輩が隣に座って抱きついてきた。


  バイト終わりだと言うのに先輩からはいちごミルクのような甘ったるい匂いがした。しかしそんなことより、どデカいマシュマロに俺は窒息しかけている事の方が重大だ。


  俺はすぐに振りほどくと酸素を肺いっぱいに吸い込む。

「はぁはぁ……今すぐ殺人未遂として通報してもいいですか?」

「え!何故だ!?」

  先輩は何も理解できないのか素で驚いている。


「というか早くないですか?あと20分でバイトが終わるって言ってませんでしたっけ?」

「店長が早めに上がっていいぞって言ってくれたからな。いやー店長は優しいな」

  店長も早くいなくなって欲しかったんだろうな……。


「まぁ俺はもう食べ終わったんで帰りますけどね」

  俺はポテトの容器を捨てやすいように潰す。


「安心しろミノリ君、私がハンバーガーを沢山貰ってきたからな」

  マキ先輩はリュックから大量のハンバーガーを机に広げる。

「え、これ何個あるんですか?」

「23個だな」

  絶対食べきれないだろ……。


「とりあえずミノリ君には21個あげよう。私は2個で十分だ」

  この人、食べきれないの分かってるじゃん。それでいて押し付けてくるじゃん。


  それから、俺とマキ先輩は机の上に置かれたハンバーガーをただひたすらに食べていた。


「……あ、そういえばマキ先輩ってお金貯めて何に使うんですか?」

  俺がそう聞くとマキ先輩は食べるのを中断してボソッと呟く。


「ちょっとエジプトに行こうと思ってな……」


  本当に自分探しに行く気だったのかこの人……。





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