076_ソロモンの悪魔?
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076_ソロモンの悪魔?
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ロットジャグ城を拠点にして、ウインザー共和国のブルドング州アラゴス地方を完全に支配下に置くために数度の戦いがあった。
戦いはどれも勝ち、アラゴス地方はサイドス王国の支配下に置かれることに。
これでウインザー共和国とは完全に敵対したことになる。もっとも、僕はそのつもりで侵攻したんだけど。
進軍はアラゴス地方に留めた。
一気にウインザー共和国を潰すことなんてできないし、旧アスタレス公国のこともある。
旧アスタレス公国のことと言えば、ポリレック伯爵、オレル子爵、アステラス子爵、ドレル男爵たち裏切り者は、全員捕縛した。
表面上は許さないと言うけど、この4人は眼中にない。
彼らは有利なほうに傾く天秤のようなもので、主義主張があるわけではないのだ。それを責めるようなことはしない。それが彼らの処世術なのだから。
ただし、ウインザー共和国側についてサイドス王国を裏切った以上は、領地を安堵するわけにいかないので、4人の首は刎ねた。
4人になにかしらの才能があれば生かせておくこともあったけど、彼らに見るべき能力はなかった。
アラゴス地方の守りをレオンに任せ、僕は旧アスタレス公国の公都だったサルベリアンに戻った。
やるべきことがたくさんある。
「陛下。北西部の反抗勢力を鎮圧してまいりました」
義兄ドリアス・アードンによって、最後の反抗勢力が鎮圧された。
彼には二番目の姉が嫁いでいて、爵位は男爵。
今回の功績をもって、同じく義兄のザバル・シルバーホックと共に陞爵させたいと思っている。
旧アスタレス公国領内は長く内戦が続き、さらには僕が侵攻したことで戦が続いていた。
国内はかなり疲弊していると言っても過言ではない状態だ。
「ご苦労だった。怪我はないか?」
「はっ、戦が下手な者たちでしたので、怪我をするような場面はございませんでした」
そんなに激しい抵抗を受けたわけではないと聞いていたけど、ドリアスは戦が上手いというイメージがないので、どんなことで命を落とすか分からず心配だった。
今回のことでドリアスは子爵に陞爵し、このアスタレス公国に領地を与えることになる。
もう一人の義兄のザバルも同じで、彼は伯爵に陞爵させてアスタレス公国にその地位に見合った領地を与えることになる。
それと、ザバルには旧アスタレス公国の統治を任せるつもりなので、このサルベリアンに置く総督府の初代総督になってもらおうと思っている。
そんなわけで、ボロボロの城をぶっ壊して、新しく総督府を築くことにした。
城を更地にするのに2日、その上に宮殿のような城を築くのに5日かかった。
僕は箱物を創造しただけ、内装や調度品は現地の職人に任せることにする。
また、城の周囲にあった貴族街も新しく造り替える。これは臣従した旧アスタレス公国の貴族たちに資金を出させて区画整備する。
サイドス王国では、国が決めた以外の税を徴収することは許されない。
もし、定められた税以外を徴収した場合、すぐに改易になる。そのことは最初に言い聞かせた。
その上で、貴族たちが持つ資金を吐き出させるのが、今回の狙い。
もちろん、各貴族の財力を把握している。スーラが全部調べてくれたからね。
だから、財政難になるような厳しい支出は求めていない。あくまでの余剰分を吐き出させる施策だ。
この件を任せたスーラとシバ・シンがとても楽しそうに仕事をしているのは、見ないことにしている。
「義兄殿には、この旧アスタレス公国をまとめてもらいたい」
「某に……ございますか?」
「この国は長く続いた内戦のおかげで、酷く荒廃している。そういった地域を復興させ、豊かにしてほしい」
「某にできますでしょうか?」
「義兄殿への支援は惜しまない。思うように力を振るってほしい」
「そのような大任を任せていただき、感謝の言葉もございません」
ザバルが頭を下げる。
「ただし」
ザバルが頭を上げたところで、そう続けた。
「王侯貴族の統治は、民のためのものでなければならない。民を蔑ろにした統治をした場合は、たとえ義兄でも容赦なく断罪する。そのことを肝に銘じてほしい」
「承知しましてございます」
「ザバル・シルバーホックを伯爵に叙し、旧アスタレス公国の統治を任せる総督に任ずる」
「はっ! 粉骨砕身、あい務めまする!」
再び頭を下げる。
次はもう1人の義兄に視線を向ける。
「ドリアス・アードンを子爵に叙し、ポルゲン郡を与える」
ポルゲン郡というのは、僕がこの旧アスタレス公国で初めて得た土地、港町ゲーリックがある地域のこと。
アメリカン級外輪船が寄港できる大きな港があり、僕が保護した獣人たちが暮らす町。
今後はウインザー共和国へ海から侵攻する時に、拠点になる重要な場所だ。
他にもアスタレス公国を潰し、ウインザー共和国のブルドング州アラゴス地方を占領したことの褒美を与えた。
さらに、帰順した旧アスタレス公国貴族の領地替えなども行った。
これまで獣人を蔑んできた旧アスタレス公国の貴族や民は、サイドスの支配を受けて獣人と同じ立場になる。
これまでの選民意識を持っていると、身を亡ぼすことになると布告する。
僕の言葉の意味が分からない人は必ず現れると思う。その時にしっかりと処分することが、今後の課題だろう。
『うーん……』
『どうしたんだ?』
『旧アスタレス公国って、なんだかイメージがよくないよね』
『なんだ、そんなことか。だったら、名前を変えてしまえばいいじゃないか。お前は王様なんだから』
『そうなんだけど、良い名前が浮かばないんだ』
『ならば、俺がつけてやろう』
『本当!? で、どんなの?』
『まあ、焦るな。俺の案はこうだ。サイドスと三番目を表すスリーをちょっとだけ捻って合体させると―――サイ●スリー』
『え? 今、ピーって聞こえたんですけど!?』
『気にするな』
『しかも、三番目って、どういうこと?』
『サイドス領が一番目、アイゼン国をサイドス王国にしたのが二番目、アスタレス公国が三番目だ』
『でも、ロジスタがあるよ』
『サイドスになってから数えるんだよ。分かったか? それに公国なんだから、絶対にサイ●スリーだ!』
『いやいやいや。ピーっと言ったからダメだと思うよ』
『ふんっ、そんなもの気にするな。全ては俺を中心に回っているのだ』
『すごい暴論!』
『サイ●スリーにしろ! これで決定だ!』
『ごめん、やっぱ無理』
『ちっ』
『今、舌打ちした?』
『してねぇよ』
『……したよね』
『うるさい! 俺に舌はない! だから、舌打ちなんかできないんだ!』
『た、たしかに……スライムに舌はないけど……』
『それよりも、サイ●スリーがダメなら、ソロモンはどうだ?』
『ソロモン……いいね。ピーもないし、いいよ。それ、どういう意味?』
『昔いた王様だよ。ソロモン王っていうんだ。72柱の悪魔を従えていたって聞いてるぞ』
『え!? 悪魔!? 人間の王様の名前なんだよね?』
『人間の王だな。俺は会ったことないけど』
『しかし、悪魔とは縁起が悪いよね』
『何言ってるんだ。お前だって俺やカルモンのような化け物を従えているじゃないか』
『スーラはともかく、カルモンは人間だからね』
『カルモンが人間の域から逸脱してることは、お前も理解していると思うが?』
『むぅ……それに関しては、否定できないかな……』
『それにソロモンの悪魔って言えば、たった一発で敵艦隊をぶっ飛ばした奴だ。縁起はいいと思うぞ』
『そ、そうなの……?』
『おう、旧アスタレス公国をソロモンって改名しろ。そうしたら、俺がアト●ックバ●ーカをぶっ放してやるぜ!』
『またピーって聞こえた! それ、絶対にやったらダメなやつだよね!』
『いいんだよ、この世は俺のものなんだから!』
『暴論が拡張されている!?』
『さぁ、ソロモンの悪魔を召喚するんだ!』
『うーん、それ、よく分からないけど、悪魔じゃなくて悪夢じゃないの?』
『……えっ!? なんで知ってんだよ!?』
『さっきからスーラの思考が駄々洩れだよ』
『くっ……ザックのくせに……』
でも、ソロモンか。いいかもしれないね。
▽▽▽
アスタレス公国をソロモン地方と改名した。同時に旧公都サルベリアンはコンペイトウに改名。
『ソロモンよ、俺は帰ってきた!』
『………』
スーラのテンションが上がっている。何がスーラを突き動かすのだろうか?
同日、旧アスタレス公国の王族や貴族など、A級戦犯者や獣人奴隷の扱いが特に酷かった者たちを処刑した。
『ふっふっ。腐ったアスタレスに属さねば、貴様も苦しむ事はなかったろうに』
『………』
いや、彼らは自分の意思でサイドスと戦ったり、奴隷を不当に扱った悪人だからね。
処刑は当然で、もっと苦しませて殺せと思う人は、たくさんいると思うよ。
「以後、ソロモンの統治はザバル・シルバーホック総督に一任する」
「はっ、全身全霊を以て陛下の代理をあい務めまする」
総督府の内装工事はまだ続いているけど、最優先で謁見の間は体裁を整えた。
その謁見の間において、僕は義兄であるザバルに全権委任総督として、ソロモンの統治を任せる。この任命式と同時に、僕はサイドスに戻る。
「ロットジャグ城のレオン大将と連携し、後方支援を怠らぬように頼むぞ」
ウインザー共和国から奪ったロットジャグ城には、レオンを配置した。
今回の功績でレオンは大将に昇進し、対ウインザー共和国防衛の総司令官として3軍団を率いることになる。
「承知しております。彼の地は重要拠点にございますれば、連絡を密にして対処いたします」
「それでいい」
任命式後、僕はすぐにコンペイトウを発った。
もう1人の義兄ドリアス・アードンが治めるゲーリックから船でサイドスに帰るつもりだ。
サイドスに帰ると、ユリア妃が小さな乳飲み子を抱いて僕を迎えてくれた。
「その子が僕の子……?」
「はい。ザック・サイドス陛下のお子です。男の子ですよ」
「なんて可愛いんだ! 食べちゃいたいよ!」
その子を抱きかかえると、笑ったように見えた!
「スーラ、とっても可愛いよ。君もそう思うよね」
「サルみたい」
「なんてことを言うんだよ!」
「嘘は嫌いです」
「グヌヌヌッ。もういい。スーラには抱かせてあげないから!」
スーラにはこの子の可愛さが分からないんだ!
僕はこの子をプリンケプスと名づけた。将来は僕の後を継いでこの国の王になる子だから、大切にしつつ厳しく育てようと思う。
この2年後、なんとジャスカが僕の元に戻ってきてくれた。しかも剣聖としてだ。とても嬉しくて、飛び上がったのを晩年になっても覚えていた。
そして8年後には、ウインザー共和国を併呑した。
また、アイゼン国王を殺したマーヌン・アイゼンも捕縛して、その罪を償わせた。
ユリアには申しわけなかったが、マーヌンは処刑した。最後まで往生際が悪い人物だった。
その後19年をかけて南の大陸を統一した僕は、大王として君臨することになる。
だけど、僕の覇道はそれで終わりではない。まだ始まったばかりなのだ。スーラと共に、覇道を歩み続けるつもりでいる。
長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。
他の作品もありますので、引き続き【なんじゃもんじゃ】の作品をよろしくお願いいたします。