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075_大国との接触(滅)

・コミック1巻発売中

・小説1巻発売中

どうぞ、読んでください。

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 075_大国との接触(滅)

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 ロットジャグ城が陥落してから2日後、ウインザー共和国の使者がアラゴス地方に入ったと報告を受けた。

 さて、どんな使者が送られてきたのか。最初はガツンとやるつもりなので、横柄な態度をとるような使者だったらいいなと、勝手に思っている。


 現在、僕はロットジャグ城がある山の麓、そこにある町を散策している。

 人口3万人ほどの町で、鉄鉱石の鉱山と鉄製品の製造が主産業。

 鉄鉱石や鉄製品は国にとって非常に重要な産業になる。なんと言っても、武器や防具を生産しているのだから、軍事力に直結する町なんだ。

 だから、ウインザー共和国にとって、この町は重要拠点なんだ。その町を僕が押さえた意味は大きい。

 もっとも、サイドス王国とアスタレス公国を合わせても、国土はウインザー共和国のほうが広いので他にもいくつか鉱山を持っている。

 でも、そんなことはどうでもいいんだ。この鉱山の町を僕が手に入れた。そのことが重要。


 町の角を曲がると、露店が出ている通りに出た。

 他国に占領された直後なのに、露店を出しているんだね。商魂たくましいと言うかなんと言うか。


「らっしゃい、らっしゃいー。今日も熱々、メタルリザードの串焼きだよー」


 威勢のいいお兄さんか串焼きを売っていた。

 香ばしい良い匂い。僕はその串焼きを1本買った。


「毎度ありー」


 串焼きは塩味が利いていて、美味しい。

 こういう下町の味を味わうのはいい。城に居ると豪華な料理が出てくるけど、ああいう料理は美味しいけど……僕の口には合わない。

 こういった庶民の味というのかな、そういうもののほうが僕は好きだ。

 育った環境が平民以下だったからか、そう思ってしまうんだよね。なんと言っても僕は納屋で寝起きしていたし、食事も残飯のようなものだったからね。


 木箱に腰かけて美味しい串焼きを味わっていると、僕を囲むように近づいてくる者たちの気配がした。

 これはマズいと思った僕は、腰を浮かせてこの場を離脱しようとしたけど、その気配のほうが少し早く、僕を完全包囲した。

 くっ、しまった。


「見つけましたよ、陛下。もう逃がしませんぞ!」

「カルモン……そういきり立たなくても」

「騎士団長たる某に黙って、町中を散策など言語道断! 陛下におかれましては、ご自分の立場というものを理解しておられないようですな」


 凄い剣幕だ。


「ちょっと散歩してただけだから」

「ここは2日前まで敵地だった場所ですぞ。散歩などもっての外!」

「……悪かったよ」


『アハハハハハ。カルモンのほうが一枚上手だったな』

『そんな大層なことではないんだけど』


 僕はカルモンと騎士たちに両腕を抱えられて連行される。

 町の人たちが見ているんだけど……。僕、これでも国王なんで、犯罪者のような扱いは……あ、はい。ごめんなさい。

 カルモンが凄い眼力で睨んでくるんだ。


 ▽▽▽


 ウインザー共和国の使者がやってきた。

 昨日はカルモンにずっと説教をされていて、気分がむしゃくしゃする。

 この気持ちを使者に向けよう。うん、そうしよう。


 僕が創造魔法で改装したロットジャグ城の大広間で、ウインザー共和国の使者を迎える。

 シバ・シンから聞いた情報では、この使者はブルドング州の統領の一族らしい。昔なら王族だった人物だね。

 でも、今でも王族のような暮らしをしているのか、とても大きなお腹をしている。

 あんなに大きなお腹だと、戦闘なんてできないんじゃないかな? 大広間に入って来る時の動きも、かなり緩慢だった。文官系なのかな。


 使者の服もかなり上等なものだと分かるけど、彼から一歩下がった位置に上等なドレスを着たご婦人も居る。他の随行者とは明らかに雰囲気が違う。

 このご婦人の情報はない。誰だろう?


『あれはアールソルジュ州を収めているムスカ統領の娘で、ペニー・ムスカ、30歳独身だ』

『ムスカ統領の娘? 30歳で独身? 容姿はまだ20代の前半くらいに見えるよ』


 貴族や高貴な生まれの女子が、30歳で独身というのは、かなり稀だと思う。

 大概は政略結婚でどこかの家に嫁がされてしまうから。


『厚化粧だ』


 目を強化して見ると、スーラが言うようにかなり化粧が厚かった。

 女性は化粧でかなり変わるとユリア妃が言っていたけど、本当なんだね。

 しかし、それで10歳も若く見えるのは、素直に凄いと思う。


『この使節団は使者のソック・マルムールよりも、使者の補佐官であるペニー・ムスカのほうが主導権を持っているぞ』

『なぜそんな人が補佐官なの?』

『ウインザー共和国の政治的なものだ。このロットジャグを治めていたのが、ショウバン統領で、使者のソックはその一族。だから、ショウバン家の者が使者ってわけだ』


 そういう面倒な駆け引きは、どこにでもあるんだ。

 僕の場合は、スーラや臣下たちのおかげでそういった面倒なことをかなり減らせているんだけど、それでも面倒な交渉はあるからね。


「某、ショウバン統領家の一員、ソック・マルムールと申す」


 使者は大きなお腹を突き出して……いや、あれは胸を張っているのか?

 とにかく、偉そうに名乗りを挙げた。

 使者だから平伏しろとは言わないけど、もう少し横柄な態度を改めたほうがいい。ほら、カルモンたちの目が鋭くなっているよ。

 あまり調子に乗っていると、どうなっても知らないからね。

 僕がガツンッとやってやろうと思っていたけど、使者の態度があまりにも横柄なので、僕よりもカルモンたちのほうが爆発しそうだ。


「余がザック・サイドスだ」


 短く名乗って言葉を切る。

 そこでムスカ女史に視線を向けた。


「そちらの女性は、ペニー・ムスカ殿で良いかな?」

「わたくしのことをご存じでしたか。さすがはサイドス陛下ですわ。ウフフフ」


 鳥の羽の扇子で口元を隠して笑うムスカ女史。

 なんというか、所作が古い。中傷するつもりはないけど、ウインザー共和国の女性はこういった所作をするものなのかな?


『昔の王家の伝統を守る教育を受けてきたから、あんな感じなんだよ。まあ、行き遅れの古女狐(ふるめぎつね)だな』

『……伝統は大事だよね』


「わたくし、ムスカ統領が娘、ペニー・ムスカと申します。サイドス陛下に顔を覚えていただき、光栄の至りですわ」


 ウインザー共和国には9つの州があり、旧王家が統領と名を変えてそれぞれの州を治めている。

 そのため、力のある統領家とそうでない統領家があるのだけど、ムスカ統領家は主流派でショウバン統領家は非主流派になる。

 この2人の家柄は補佐官のムスカ女史のほうが上だけど、今の立場はマルムールのほうが上。ややこしいね。


 話はマルムールがした。内容はこのロットジャグ城を始めとした、占領地を返せというもの。

 だけど、占領地を返還する対価を何も提示していない。それで、ただ返せというのは、さすがに虫が良すぎる。それに、捕虜についても対価に言及していない。

 マルムール(こいつ)、フザケテルのかな? いくら僕が温厚でも、ここまで内容のない話を受けるわけないのに。

 だから僕はムスカ女史に聞いてみることにした。


「ムスカ殿。今の使者殿の話に補足はありますか?」

「はい、陛下。交渉はまだ始まったばかりですわ。ですから、お互いの意見を聞き合うことが必要だと考えております」


 上手いこと言葉を濁したね。まあいい。


「では、余の考えを述べよう。このロットジャグ城は返還せぬ。捕虜は条件次第で返還する。条件を考えてから出直すが良い」


 僕がそう言うと、マルムールは顔を真っ赤にして、目を見開いた。なんか茹でタコみたいで面白い顔だ。


「我が国と全面戦争をするつもりか!?」

「先にしかけてきたのはそっちだ。余はこれからも貴国との戦いを続けるつもりだが、そっちは違うのか?」

「なっ!?」

「言っておくが、余はウインザー共和国ごときに尻尾を振るどこぞの滅んだ国とは違うぞ。ここで正式に宣戦布告でもするか?」

「き、貴様!?」

「お待ちを!」


 マルムールの言葉を遮るムスカ女史。


「何かな、ムスカ殿」

「先ほども申しましたが、交渉はこれからにございますわ」

「ムスカ殿に確認するが、あなたはそこに居る使者よりも上の権限を持っているのかな?」

「……いいえ」

「では、僭越というものではないですかな」

「その通り! ムスカ殿は控えておられよ!」


 マルムールがキッとムスカ女史を睨みつける。

 誰が敵かマルムールには分かっていないのかな?


「良いか、今すぐロットジャグと捕虜を返還しろ。さもなければ、ウインザー共和国が本気で貴様を叩き潰す!」

「宣戦布告、しかと承った。カルモン、全軍に進軍を命じよ!」

「はっ!」

「なっ!?」


 マルムールは真っ赤だった顔が蒼白になった。

 一回戦はしている。なのに、ここで僕が退くと思っていたのかな?

 だけど、もう遅い。交渉は決裂、僕は全軍に進軍の命令を発した。


「使者殿のお帰りだ」


 立ち上がった僕は、大股で大広間を出て行く。

 むしゃくしゃしていた気分が、少しだけ晴れた。かな?

 でも、ウインザー共和国がこんな使者を送ってきたのだから、僕は悪くないと思う。

 大国だからと言って僕が唯々諾々と言うことを聞くと思っていたようだけど、その考えが甘かったということを、しっかりと認識してもらおう。


 

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