073_大国との接触(序)
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073_大国との接触(序)
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「おおっ! デカいなぁー」
ワーカーと言われる普通のジャイアントアントは1・5メートルほど、ソルジャーは2メートルほど、そしてクイーンは4メートルほどの大きさになる。
しかも、ワーカーは茶色でソルジャーは焦げ茶、クイーンに至っては真っ黒な体をしていて、禍々しい気配を惜しげもなく垂れ流している。
「サミエル。あれは余が殺る」
「はっ! 陛下の戦いを見て学ばせていただきます」
「余の戦い方は魔法ありきのものだ。あまり参考にはならないぞ」
「それもまた勉強にございます」
サミエルは万を越すジャイアントアントの大群と戦い、ソルジャーを殲滅してひと皮剥けた感じだ。
それに、従順になった気がする。
元々、僕に従ってはいたけど、僕の力に疑問を持っていた感じ。それがなくなったんだと思う。
グラムを構え、巨大なクイーンに向ける。
「グラム。大物だぞ」
「ひゃっはー! あんなのは、ドラゴンやゴーレムに比べれば、大したことはねぇぞ!」
クイーンもやる気満々で、僕を見据えている。
「潰れろ、グラヴィティ5」
ドンッ。5倍の重力がクイーンを襲うが、5倍ではクイーンは潰れなかった。
「まあ、この程度で潰れるとは思わなかったよ」
「ギィィィィッ」
耳障りな鳴き声を発し、口から何かを吐き出した。
飛んできた何かを飛び退いて避けると、それがジュワーッと音を立てて付着した地面を溶かす。
「蟻酸か。それもかなり高濃度の蟻酸のようだね」
クイーンは5倍の重力をやや気にするそぶりを見せるも、蟻酸を何度も吐き出してくる。
このままでは地面が蟻酸だらけになってしまう。それがクイーンの思惑なのかもしれない。
蟻酸で地面が埋まってしまえば、僕の動きがかなり限定される。そうなったら、かなり僕が不利になる。そう思っているようだ。
「モンスターのくせになかなか考えているようだね」
でも、僕は重力魔法もあれば、創造魔法だってある。さらに、身体強化もできるんだ!
「泥沼!」
創造魔法で地面を泥沼に変える。
体の半分以上が泥沼に沈み込んだクイーンは、5倍の重力もあって動くことができない。
ただし、蟻酸攻撃はまだ続いているので、僕は動きを止めない。
「硬化」
今度は泥沼を固める。体のほとんどが地面に埋まったクイーン。
僕はそのクイーンの後方に回り込んで、グラムをその背に突き立てた。
「ギィィィィィィィィッ」
クイーンの顔が真後ろを向く。それは僕を正面に収める角度。
その口が開かれ、僕に向かって蟻酸が吐き出される。
「グラヴィティ15!」
「ギシャッ」
15倍重力を発動させると、クイーンの顔が潰れた。
グシャリッと顔が潰れ、吐き出そうとしていた蟻酸が漏れた。
硬化で固めた地面にダラダラと垂れる蟻酸が、悪臭を放つ。
「お見事にございます。陛下」
サミエルがもろ手を挙げて僕を褒め千切る。
これでジャイアントアント討伐は終了。
ジャイアントアントに追い立てられて、魔の大地から溢れ出してきたモンスターも討伐が完了している。
「スーラ、サミエル。すぐに北に向かう」
「すでに戦いは終わっているかもしれませんが、それでも向かいますか?」
真面目秘書官のスーラが、そう口にした。
「それならそれで、事後処理をしないといけない」
「承知しました」
僕たちは急いで北上した。
巣の中には卵があったけど、その卵はスーラの分体に任せた。
スーラが言ったように、共和国軍はすでに壊滅していることだろう。
でも、事後処理は僕がしなければいけない。国の代表者として大国としっかりと交渉しないといけないのだ。
以前からスーラを通じてウインザー共和国を調査していた。ここでウインザー共和国のことを少しおさらいしておこうと思う。
ウインザー共和国はアスタレス公国を事実上属国にしていた大国。およそ300年ほど前に9カ国が集まって、ウインザー共和国を建国した。
今のウインザー共和国に国王はおらず、大統領という国家元首が居る。
9カ国が集まってできた国なので、9つの州から成り立っている国。その9つの州の代表者は統領と言われていて、元々は各国の王族だった。その9人の統領の中から大統領が選出される。
つまり、小国が寄り集まってできた国を、今も各王族が支配しているのがウインザー共和国だ。
はっきり言って、寄せ集め集団。9つの州で文化も価値観も違うという歪さ。
だから、今回の出兵も賛成と反対の統領が居たと聞く。
僕たちがアスタレス公国の北部、ウインザー共和国との国境付近に到着した時には、本当に戦いは終わっていた。
戦場だった場所には、多くの死体が転がっている。だけど、その死体はウインザー共和国軍の兵士である。サイドス王国軍の被害は軽微だった。
「当方の被害状況ですが、死者は3名、重傷者は32名、軽傷者は178名です。重傷者と軽傷者に関しましては、エリクサーを使っておりますので、後遺症もなく完治しております」
シバ・シンが読み上げた数値は、かなり少ない。
相手は10万を越える兵力を用意してきた。こちらも合わせて8万ほどの兵力を用意した。
そんな戦いで死者が3名なのは、少なすぎるだろう。もっとも、僕の軍の被害が少ないことに文句はない。
「対しまして、敵、ウインザー共和国軍の被害ですが、死者はおよそ2万、重傷者はおよそ1万、捕虜にしたのは重傷者を除きおよそ2万5000になります」
10万の兵力が、死者重傷者合わせて3万の被害を出した。
さらに、2万5000もの兵士が捕虜になったことと合わせると、総被害は5万5000になり、総兵力10万の半数以上の数だ。
これは一般的に壊滅と言っていい被害である。
ウインザー共和国はこの敗戦を受けて、どういった対応をしてくるだろうか?
僕なら素直に負けを認めて謝罪する。この首一つで許してくれるのなら、国を保つために差し出すのも吝かではない。
「現在、レオン殿の第二軍とザバル・シルバーホック殿の軍が、追撃戦を行っております」
両軍がウインザー共和国領に侵攻。これは予定通りの行動。
アスタレス公国だけを奪った場合と、アスタレス公国とウインザー共和国の一部を奪った場合では、今後の意味合いが違ってくる。
アスタレス公国だけだと、最悪の場合、ウインザー共和国が手を引く可能性がある。だけど、ウインザー共和国領の一部を得ることで、ウインザー共和国は後に引けない状況になる。
僕が目指すのは、大陸の統一。僕にとってウインザー共和国はアスタレス公国と同等であり、地図上からその名を消す国なんだ。
「サミエル」
「はっ!」
「兵2万を与える。この北部を安定させよ」
「承知いたしました!」
僕と行動を共にしたサミエルは、魔の大地で僕の力を間近で見た。僕の力を知った彼は、僕を裏切らないと思う。
「ボリレック、オレル、アステラス、ドレルの四名は、舌の根が乾かぬうちに、余を裏切った。これを許すことはない。そのつもりで対処せよ」
「はっ!」
アスタレス公国と戦争になった時、いち早く僕に下った四名。だけど、彼らはすぐに僕を裏切った。
アスタレス公国を裏切り、僕を裏切った。次はウインザー共和国を裏切ることだろう。そんな彼らを信用なんてできない。
「カルモン、シバ・シン。余と共にウインザー共和国に向かってもらう」
「はっ!」
「承知しました」
僕はウインザー共和国のブルドング州アラゴス地方へ軍を進める。
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