071_魔の大地へ
コミカライズの更新日ですよ~。
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・コミック1巻発売(7/21予定)
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071_魔の大地へ
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アスタレス公国の公王サンドレッドは、寝たきりで意識はない。
まあ、意識があっても構わないが、あったらまた卒倒すると思う。
「ホリスはどうだ?」
捕虜にした王族の管理を任せているバルドース侯爵に聞く。
「相変わらずキャンキャン吠えております」
予想はしていた。でも、牢にこそ入れていないが、監禁されているのになぜ強気でいられるのか? ウインザー共和国が助けてくれると思っているのだろうか? それとも、他に強気に出る根拠があるのかな?
僕が見るところ、ただの虚勢だけど。
「まあ、ホリスのことはどうでもいい。彼が何をしても、余が慌てる事態にはならない」
カルモン、シバ・シン、アマリエ、バルドース侯爵、ドロゴーム伯爵、ボールクロス子爵、合流した義兄ザバル、レオン、ガレリオン、そしてスーラがいる中、事実を述べる。
義兄ザバルとレオンは南部から東部を併呑し、公都で僕たちと合流した。
さて、ポリレック伯爵、オレル子爵、アステラス子爵、ドレル男爵を覚えているだろうか? この4人は僕にいち早く降伏してきたアスタレス公国の貴族たちだ。
ウインザー共和国が軍を出して、アスタレス公国の西部から北部に向けて侵攻してきたのだが、4人は真っ先に寝返った。いやー、本当に見事な手のひら返しだったよ。
「共和国軍はおよそ7万。北部の貴族がそれに迎合し、10万以上になっております」
シバ・シンが淡々と事実だけを述べた。
「たった10万で、陛下の軍を下せると思っているのが滑稽ですな」
カルモンはまったく危機感を持っていない。
危機感と言うと、僕も持っていない。だって、ウインザー共和国を介入させることが僕の、いや、僕たちの目的だから。
「されど、共和国が動いたことで、従属した者たちが浮足立つでしょう」
ドロゴーム伯爵が懸念を口にするが、その懸念はアスタレス公国の貴族だった3人だけのものだった。
「構わない。そのていどのことで浮足立つ者は、共和国軍を殲滅した後に滅ぼす」
僕がそう言うと3人は驚いたが、元々僕の臣下だった者は誰も驚かない。
「ドロゴーム伯爵。この王都の兵数はどのくらいだ?」
「申しわけございません。陛下の侵攻を受けて多くの兵士が逃げ出しており、かき集めても3000がいいところです」
「質のいい兵士はどれくらいだ?」
「それですと500がいいところでしょう」
「なら、その500を集めてくれ」
「承知しました」
ドロゴーム伯爵には、旧アスタレス公国の兵士たちを指揮してもらおう。
「その兵数で公都を守るのは難しいだろう。アマリエに2000を与える。ドロゴーム伯爵と協力して公都を守ってくれ」
「はっ、承知いたしました」
これで公都はいい。あとは……。
「東の魔の大地から溢れ出しているモンスターは、余とスーラで向かう。カルモンは全軍を以て共和国軍を迎え撃ってくれ」
「承知しました」
「お待ちください。陛下とスーラ殿のお2人で、モンスターを討伐なさると聞こえたのですが?」
あまり口を開かないボールクロス子爵が、珍しく口を開いた。
彼はこれまで言葉ではなく、行動で部下を引っ張ってきた無骨な人物だと聞いている。僕はそういう人物を好ましく思うし、信用できると思っている。
「その通りだ。余とスーラでモンスターを討伐すると言ったのだ」
「陛下のお力は我ら常人の及ぶものではありませんが、それでもお2人でモンスターどもが闊歩する地へ赴くのは、さすがに危険です!」
本当に僕のことを心配しているのを感じる。
「ならば、ボールクロス子爵も共にくるがいい」
「某はそのようなことを申しているのではなく、軍勢をお連れくださいと申しているのです」
このひたむきさ、否、愚直さがいい。
こういう不器用な人物は、出世しないんだろうな。でも、僕の国では、こういう人物が出世できるようにしたい。
「軍勢は不要だ。カルモンやシバ・シンたちがなぜ黙っているか、ボールクロス子爵のその目で確かめるといいだろう」
言葉ではなく、実際に見せるほうが分かりやすくていい。
▽▽▽
アスタレス公国の東側は、魔の大地とソムノ王国と接している。
ソムノ王国はレンバルト帝国の属国のような国だが、魔の大地から出てくるモンスターに苦しんでいるのは、アスタレス公国と同じだ。
「陛下。本気ですか?」
「なんだ、怖気づいたのか? サミエル」
ボールクロス子爵と呼んでいては距離が近づかないと思って、道中でファーストネームで呼ぶように変えた。
「何を仰いますか! このサミエルは、モンスターごときに恐怖を覚えることなどありません!」
「その意気だ。いくぞ!」
「はっ!」
目の前にいるモンスターは、数百の群れを作っている。
僕はアルタに跨り、グラムを構えた。
スーラはどこで捕まえたか知らないけど、濃い藍色の鱗の翼竜に乗っている。そんなに大きくないけど、それでも全長10メートルはあるドラゴンだ。
そしてサミエルは大型の馬に騎乗し、槍を構えた。
「突撃!」
僕の合図で、アルタが走り出す。それに続いてサミエルも馬の腹を蹴った。
「サミエル、遅れるなよ」
「承知!」
僕たちの動きを見て、スーラも動き出した。
最初にモンスターの群れに接触したのは、スーラだ。翼竜は風のように空を飛ぶので、かなり速い
「ハハハハ! 恐れおののけ、覇王の威圧!」
覇王の威圧の威圧を受け、モンスターの群れの動きが止まった。どのモンスターも恐怖しているのが分かるほどに、怯えている。
「サミエル。スーラがモンスターの動きを止めた。一気に駆け抜けるぞ!」
「しょ、承知!」
モンスターの群れが近づくにつれ、サミエルの表情が強張ってくる。僕はもう慣れてしまったけど、数百ものモンスターの群れに突っ込むのだから、恐怖しても不思議ではない。と言うか、それが普通の感情だと思う。
アルタがモンスターを踏み潰し、僕がグラムでモンスターを切り伏せる。サミエルも僕についてこようと、必死に槍を振る。
数百ものモンスターを殲滅させたところで、スーラが乗った翼竜が降りてくる。
「西に2キロほどのところに、約300の群れを発見」
「了解。サミエル、モンスターの群れを潰すぞ」
「は、はい……」
2回目に遭遇したモンスターの群れは、僕の重力魔法で動きを封じて殲滅した。
3回目は重力魔法を軽くしたので、モンスターは多少動けるようにした。それでも簡単に群れを殲滅。
4回目は重力魔法を使わず、普通に動けるモンスターに突撃した。その頃になると、サミエルの目から光が失われ、灰色になっていた。
「サミエル。余とスーラであれば、モンスターなど物の数ではないことが分かったか?」
「はい。某の浅慮でした。どうかお許しください」
跪き頭を垂れるサミエル。
「サミエルも余の身を案じてくれてのことだ。ありがたく思っているぞ」
「もったいなきお言葉にございます」
「サミエルもモンスターとの戦いに慣れたし、そろそろ本命を退治しようか」
「ほ、本命にございますか?」
「スーラ、説明を」
寝ている翼竜を撫でていたスーラに、これからのことの説明を促す。
僕とサミエルの前に腰を下ろしたスーラは、金属のカップに注がれたホットワインを飲み口を潤した。
「ここから北に30キロほど下りますと、ジャイアントアントの群れがいます」
そこでまたホットワインで口を潤したスーラは、話を続ける。
「数はおよそ3万。クイーンジャイアントアントが巣を作っていますので、ジャイアントアントはさらに増えていくでしょう」
「さ、3万……。ジャイアントアントが3万もいるのですか?」
「はい。そう言いました」
サミエルは目を見開き、固まってしまった。
「一般的に、1万のジャイアントアントがいたら、小国が亡ぶと申します。今回は3万なので、アスタレス公国が今も健在だったとしても、滅ぶのは時間の問題だったでしょう」
「………」
「陛下がこの国を治めていなければ、アスタレス公国の民はジャイアントアントの大群に喰われていたことでしょう」
クイーンジャイアントアントの繁殖力は凄まじいものがある。その繁殖力を支えるためにも、食料は豊富なほうがいい。そのため、巣ができるとその周辺のモンスター、人間、樹木などが食い尽くされてしまうほどである。
「陛下。援軍を呼びましょう」
「何を言っているのですか? 私と陛下がいるのですから、ジャイアントアントが3万いようが、5万いようが関係ありません。皆殺しにするまでです」
スーラが涼しい顔でそういうと、サミエルは再び固まってしまった。
「サミエルもモンスター相手の戦いに慣れたと思うし、明日は本命のジャイアントアントの大群を狩るよ」
「このサミエル・ボールクロス。アスタレス公国ではその人ありと言われていましたが、それが井の中の蛙大海を知らずだと分かりました。そして、陛下とスーラ殿が某の考えの外にいる存在なのだと、よく理解しました。明日はお2人の邪魔にならぬよう、一世一代の戦いをお見せする所存にございます」
サミエルは覚悟を決めた。
僕はそんなサミエルの肩に手を置き、微笑みながら「頼むよ」と言う。
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