070_従属には生を、反抗には死を
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わずかな兵士たちが町中の道を塞ぎ、徹底抗戦を声高に叫んでいる。
「あの者どもは、民に迷惑をかけることをなんとも思っていないようですな」
カルモンが呆れ果てている。
ここは公都の中。建物と建物をバリケードで繋ぎ、魔法や矢を撃ってくるのは、数百人の貴族と兵士だ。
「余が出る」
「陛下。あの者たちを生かす必要はございません。城を攻める前に、景気よく滅ぼしてやりましょう」
シバ・シンは遠慮なしに、好きなようにしていいと言う。
まあ、あんな奴らに容赦する気は、毛先ほどもないけど。
僕はアルタをゆっくりと進める。
魔法が飛んでこようが、矢が飛んでこようが、重力で地面に落とす。
僕がバリケードの手前まで進むと、抵抗は収まっていく。
「ぐぅっ」
抵抗していた者たちが、5倍重力によって地面に伏せているからだ。
創造魔法で瓦礫を地面に埋め、道をすっきりとさせる。
「な、なんだって言うんだ……?」
彼らは僕の力を知らないようだ。
僕がどうやってアイゼン国を切り取ったのか、どうやってサイドス王国を治めてきたのか、それを知っていればこんな無駄な抵抗はしなかっただろう。
「余はザック・サイドス! 殺戮王ザック・サイドスである!」
目の前で無様に伏せている兵士たちに名乗ったのではない。
これから僕の民になる、公都に住む者たちに向かって名乗ったのだ。
殺戮王なんて二つ名は好きではないが、国を治めるのに都合がいいから使っている。
「余の進む道を邪魔する者は、こうなる!」
グラムで伏せている兵士たちを差す。
同時に兵士たちの体が潰れて、地面に真っ赤な血が流れ出る。
「余に歯向かうのであれば、止めはせぬ! だが、その先に何が待っているか、そなたらの目にしかと焼きつけろ!」
むごい殺し方だと分かっている。
だけど、見せしめは派手にやらなければ意味がない。それによって、被害を最小に抑えることができるのだから。
「全軍、前進!」
重力魔法で潰れた人間だったもの、肉塊と血だまりの上を僕はアルタに跨り進む。その後には僕の軍が続き、兵士たちの無残な屍を踏みつけていく。
「公都の民は、陛下の力に畏怖しましょう」
シバ・シンが隣に馬を進め、僕にだけ聞こえるように囁いた。
僕は何も言わず、わずかに顎を引く。
抵抗なんて無駄だと思わさないと、いつまでも戦いが続く。
そうなったら、死傷者の数はもっと多くなるのだから、僕は殺戮王という汚名を甘んじて受け入れよう。
城が見えてきた。
城門が開いていて、その前には貴族と思われる者たちが待ち構えている。
どうやら、僕と戦っても勝てないと判断したようだ。
「陛下。某が」
「頼む」
カルモンがあの者たちの意図を確認するため、進み出た。
何やら話をして3人の人物を連れてカルモンが帰ってくる。
「この者どもは、陛下に従うそうにございます」
カルモンなら城門の前から、城内の殺気を感じ取ることができるだろう。
そのカルモンが連れてきたということは、この3人は本気で僕に従属するようだ。
僕の前で3人は膝をつき頭を垂れる。
「ザック・サイドスだ。面を上げよ」
白髪白髭の老人、金髪をセミロングにした40代、赤毛を短く刈上げた40代の3人。
「某はロジミニール・バルドース侯爵にございます。陛下」
白髪白髭の老人は、バルドース侯爵と名乗った。
僕の記憶にあるその名は、アスタレス公国の重鎮だ。しかし、公王サンドレッドと意見が合わず、謹慎を命じられていた人物だったと思う。
意見の相違の元は僕で、バルドース侯爵はサイドス王国との関係をよいものにするべきだと主張していたと思う。
「エミル・ドロゴーム伯爵にございます。陛下」
金髪をセミロングにした40代は、ドロゴーム伯爵。バルドース侯爵同様、謹慎させられていた人物だ。
領地を持たない法衣貴族だったはずで、元々は軍の将軍をしていた人物だ。その指揮能力はかなりのもので、シバ・シンから何度か名前を聞いたことがある。
「サミエル・ボールクロス子爵にございます。陛下」
赤毛を短く刈上げた40代の人物は、ボールクロス子爵か。彼も法衣貴族で、公国ではとても有名な人物だ。槍の名手として名を馳せていて、前線指揮官としてとても優秀だと聞いている。
今は槍を持っていないが、僕に従うというのは歓迎すべきことだ。
政治家として有能なバルドース侯爵、軍の指揮官として有能なドロゴーム伯爵、そして前線指揮官として有能なボールクロス子爵。
この3人が僕の臣下になってくれるのは、大きな収穫だろう。
「余に従ってくれるのだな」
「我ら3名、身命を賭して働かせていただきます」
代表してバルドース侯爵が答えてくれた。
「陛下。ここにはおりませぬが、ゼグド・ケロミジア伯爵も陛下に従うと申しております。どうか、受け入れていただきますよう、お願い申しあげまする」
ケロミジア伯爵は騎士団長だった人物で、僕が戴冠式の途中で席を立った際に通してくれた人物だ。
あの後、更迭されたと聞いていたけど、僕に従うと決断してくれたようだ。
「承知した。そなたらとケロミジア伯爵は、決して無下には扱わない」
「「「ありがたき幸せに存じあげ奉りまする」」」
3人の案内で城内へ。謁見の間に入ると、10人ほどの兵士に囲まれたホリス・アスタレスがいた。
もちろん、兵士が彼を守っているのではなく、兵士が彼を監視しているのだ。その証拠に兵士の半分が剣を抜いて、ホリスに向けている。
「この裏切りどもが!」
ホリスが耳障りな叫び声をあげる。
「我らの後ろには、ウインザー共和国がいるのだ! お前たちは必ず報いを受けるぞ!」
サンドレッドが僕に喧嘩を売らなければ、ホリスは公王になれたかもしれない。だから、僕のことが許せないし、僕を引き入れたバルドース侯爵たちが許せないのだろう。
でも、そもそもサンドレッドが喧嘩を売らなければ、僕が戴冠式の途中で席を立つこともなかったし、サンドレッドが卒中を起こすこともなかったかもしれない。つまり、ホリスが公王になるような事態は発生しなかったのだから、僕を恨むのはおかしな話だと思う。
「サンドレッドはどこに?」
僕はホリスを無視して、バルドース侯爵に声をかける。
「はっ。容態が思わしくないため、自室のベッドの上にございます。今はケロミジア伯爵が監視しております」
「動かせないのであれば、無理に動かす必要はない。ケロミジア伯爵には、引き続き監視を怠らないようにと伝えてくれ」
「承知いたしました」
バルドース侯爵が近くにいた兵士に伝令を命じました。
「他の王族は?」
「主だった者は、すべて捕らえております」
ドロゴーム伯爵が1歩前に出て答えた。
公国にあって最も優秀な将帥であるドロゴーム伯爵が指揮を執ったことから、王族はほぼ全員捕縛できたようだ。
「ただ、前公王の庶子については、すべて把握しているわけではありませんので」
ドロゴーム伯爵が視線を落とし、言い淀む。
「庶子はそんなに多いのか?」
「前公王は無類の女好きでしたので」
どこにも同じような人物はいるものだ。
僕の父親も正室1人、側室3人、その他に僕が知っているだけで、2人の妾がいた。おそらく僕が知らない妾は他にもいたと思う。もしかしたら、僕が知らない弟妹が他にもいるかもしれない。ため息が出る。
「庶子は分かっているだけで構わない。それと―――」
僕は3人の顔を順に見ていく。
「―――元アイゼン国王太子マーヌン・アイゼンの行方を知っているか?」
バルドース侯爵が前に出る。
「マーヌン・アイゼンはすでにこの国にはおりませぬ。今はウインザー共和国に保護されているはずです」
その情報はスーラから聞いていたけど、念のために確認した。
ウインザー共和国が僕を撃退するために、アスタレス公国に進軍してきてくれればマーヌンは使わなくても済むが、進軍してこなかったらマーヌンを理由にウインザー共和国に侵攻できる。
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