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066_サイドス国王、出陣を命じる

 


 港町のゲーリックを占領し、対アスタレス公国の前線基地化する。防壁を築き堀を掘って防御力を上げる。

 こういうのは、難民だった獣人たちを安心させるために必要な投資だし、ゲーリックを要塞化することで周辺の領主たちに圧力をかける。

 それから、志願兵に鎧と武器を与える。これらを僕の創造魔法によって行ったので、さすがに疲れた。

 また、アムリッツァはインバム連邦王国へ旅立った。彼ならアスタレス公国の後ろで糸を引くウインザー共和国包囲網を完成させてくれると思う。


「陛下。アスタレス公国への降伏勧告の使者が戻って参りました」

「そうか。通してくれ」


 騎士団のアマリエ・サージャスを使者として降伏勧告を行った。


「アマリエ。ご苦労だった。ホリスはなんと返事した?」

「はい。錫杖を投げつけられました」


 錫杖と言えば、公王の証だよね? それをホリスは投げたのか。

 まだ公王にもなっていないホリスが、錫杖を持つこと自体が身分不相応だけど、その錫杖を投げるということは、公王という地位を軽視していることになる。

 敵国のとは言え、使者に公王の証である錫杖を投げるホリスのバカさ加減が、際立ったできごとだよね。


「それは災難だったね。それ以外に何かあったかな?」

「戴冠式の警備責任者であった騎士団長のゼグド・ケロミジア殿が、更迭されたようです」

「それは予定通りの行動か。しかし、アスタレス公国の中でゼグド・ケロミジア以上の将はいないのに、最大戦力を更迭するとはね」


 僕のその言葉に、誰も否とは言わない。

 末端の役人のことまでは知らないけど、アスタレス公国の重臣の中で唯一と言っても過言ではない人物であり、将軍としても優秀な人物のゼグド・ケロミジアをよくも更迭したものだ。

 自分たちを守るべき人材を更迭して、よく平気でいられるものだと感心する。いや、呆れるよ。


『スーラ』

『おう』

『サンドレッドが意識不明の重体というのと、戴冠式に出席した僕を襲って失敗して僕の怒りを買ったと、各地で噂を流してくれるかな』

『もうやっているぜ』

『さすがはスーラだ。やることが早くて助かるよ』

『このていどのこと、大したことではないぜ』


「アスタレス公国が内戦に陥るのか、それとも外敵である僕がいることで纏まるのか、しばらくはこのゲーリックで様子を見る」

「その間に、志願兵の訓練を行います」

「志願兵はカルモンに任せる。アマリエは本国からの物資の管理、ガレリオンの部隊にはゲーリック周辺の警戒を頼む」

「「「はっ!」」」


 ゲーリックに入って四日後には、僕に帰順の意思を示す貴族たちがやってきた。ゲーリックがある場所に近い土地を治める貴族たちだ。

 彼らは戦々恐々として僕の前に跪いている。僕はそんなに怖くないよ?


「某、ジョナサン・ポリレック伯爵にございます。この度は、サイドス陛下の麾下に加わりたく、参上いたしました」


 四十歳ほどの金髪茶目の紳士は、ゲーリックに隣接する地域の領主であるポリレック伯爵だ。


「フーダイ・オレル子爵にございます。サイドス陛下への忠誠をお誓いいたします」


 伯爵よりもやや年上に見える金髪碧眼の紳士はオレル子爵。伯爵と同じく、このゲーリックの近くに領地を持つ。


「ルイーザ・アステラス子爵にございます、陛下。どうかおそばにお置きください」


 僕よりやや年上に見える二十代の女性子爵は、赤毛藍目の美しい人だ。

 先ほどから僕に対して胸を強調している気がするけど、こういう派手な美人は僕の好みではない。


「エリック・ドレル男爵にございます。陛下の偉業をお手伝いいたしたく参上いたしました」


 同じくぼくよりやや年上の茶髪茶目のドレル男爵は、野心溢れる目をしている気がする。

 その野心が空回りせず僕の役に立ったら、その野心は叶うかもしれない。


「ザック・サイドスだ。領地は安堵。働きには十分に報いると約束しよう」

「「「「ありがとうございます」」」」

「早速だが、四人にはこのまま北上し、余に反抗する者たちに誅罰を与えてくれ」


 四人はそのような命令が与えられるとは思ってもいなかったのか、かなり驚いている。

 僕がゲーリックを得た以上、すでにアスタレス公国への侵攻は始まっている。それさえも分からず、僕のところにきたのかな?


「どうした? 余の麾下に入った以上、戦いは避けられない。貴殿らの力を余に見せてくれ」

「しょ、承知いたしました。これより軍をまとめ、北上いたします」


 ポリレック伯爵が返事し、他の三人もそれに従う意思を示す。

 年長のポリレック伯爵とオレル子爵の二人は、僕のところにきて今の領地の安堵がされればいいと思っていたようで、武力行使を指示されるとは思ってもいなかったんだと思う。

 逆にドレル男爵は武力行使で戦功が立てられると思っているのか、張り切っている。

 アステラス子爵は僕が彼女の色香に反応しないのが、不満のように見える。

 まあ、四者四様の思惑があるということだね。


 ▽▽▽


 本国のロジスタ領からレオンの王国第二軍が北上を開始したと報告があったのが十日ほど前のことで、このゲーリックを支配下に置いてから二十日ほどが経過した。

 また、ローゼン領と名を変えた旧ボッス領から、補給物資が届いた。創造魔法であるていどの物資は創造できるけど、物資が届くのはありがたい。

 何よりも本国から物資が届いたという事実が、自分たちは忘れられていないと難民たちの心を軽くする。


「手の者の報告では、魔の大地のモンスターが北上を始め、アスタレス公国の東部を縦断し、ウインザー共和国方面に向かっています」


 ローゼンから到着した物資と共に、シバ・シンも一緒にやってきた。

 これからはシバ・シンもこのゲーリックで、諜報活動と僕の補佐を行うことになる。


「そろそろ頃合いですな」


 カルモンが静かな声で語ると、ガレリオンは頷く。


「現状、このゲーリックには約四万の志願兵がおります。公都へ進軍する軍と、レオン将軍の王国第二軍と合流する軍に分けましょう」

「モンスターのほうはどうするのだ? 東側にも獣人たちはいるのではないか?」

「あの辺りにいる獣人たちはかなり少ないとの情報です。また、我が手の者が獣人たちを逃がす行動に移っていますので、獣人たちの被害はほぼないと思っておりますが、念のためにレオン将軍に難民保護の指示を出しておけばよいかと存じます」


 シバ・シンはカルモンの質問に淀みなく答え、僕のほうに体を向けて頷く。

 僕は彼の合図で家臣の一人を見つめた。


「ザバル・シルバーホックに1万5000の軍を預ける。副将はガレリオンに任せる」


 ザバル・シルバーホックには僕の一番上の姉のルイーザが嫁いでいる。ヘンドリック・ケンドレーが処刑された時、ルイーザを離縁せず保護してくれた生真面目で気骨のある人物だ。

 シルバーホック領はローゼン領に接しているため、補給物資の護衛をしてきたのをそのまま僕の指揮下に組み込んだ。


「二人はアスタレス公国の南部を平らげ、レオンに合流するように」

「「はっ、ありがとうございます」」


 茶髪に焦げ茶色の瞳をした11歳年上の義兄ザバルなら、しっかりと大任を果たしてくれると思う。

 それに、軍の大隊長であるガレリオンなら、ザバルをしっかりと補佐してくれるだろう。


「僕は2万5000の軍を率いて公都へ向かう。副将はカルモン、参謀にシバ・シン。このゲーリックはスーラに任せる」

「失礼ながら、ゲーリックの守りが手薄では?」


 シバ・シンがゲーリックの守りに、懸念を示した。でも、守るのはスーラだからね。


「シバ・シン殿。それなら問題ない。スーラ殿は某が100人いようとも、勝てぬご仁だ。5万や10万のくらいの軍であれば、片手間で殲滅してくれよう」


 カルモンのスーラへの信用が半端ないな。


「カルモン殿は謙遜されているようだが、俺もスーラ殿の実力に不安はないと思っている。スーラ殿はまだ陛下が伯爵だった頃に、難民だった俺たちを助けるために陛下とカルモン殿と共に、たった3人で1万のアスタレス公国軍を圧倒していたからな」


 ガレリオンが腕を組んで、シバ・シンに話して聞かせる。


「分かりました。スーラ殿、失礼しました。ご容赦くだされ」

「いえ、シバ・シン殿の懸念はもっともなことです。お気になさらないでください」


 スーラの真面目秘書官も板についてきた感じだ。


「それでは2日後に出陣する。皆、準備を怠らないように!」

「「「「はっ!」」」」


 

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