063_サイドス国王、戴冠式をぶち壊す
戴冠式の日がやってきたので、僕たちは満を持して戴冠式が行われる城へと向かった。
この城はサイドス城よりも小さく古い。補修はされているようだけど、粗が目立つ。
僕一人をボロホテルに泊まらせるのは、敵として認識しているのだからあるとして、外国の国主や使者を迎えるのに、これではあまりにも酷い。新公王はそんなことも分からない人物ということだろう。
「どうやら、他の国の使者よりもかなり落ちる部屋を割り当てられたようです」
そんな中でも、僕たちに宛がわれた部屋はかなり見窄らしい。
「敵対する国だからと言って、このような部屋に通す気が知れないな」
「こんな見窄らしい部屋を見せるとは、侮られても仕方がありません。本当に新公王は愚かですな」
アムリッツァ外務大臣とカルモンは、愚かな新公王の顔を思い浮かべ笑っている。
僕も笑うしかないので、二人の気持ちは痛いほど分かる。
しばらくして式が始まると、会場へ案内される。もちろん、会場の隅のほうに僕の席がある。新公王は徹底しているね。
式を静観するが、大したことはない。こんな式を見せるために各国の代表者を集めたのかと思うと、失笑しかでない。
「陛下、もういいのでは?」
「左様。このようなことにつき合うのも時間の無駄でしょう」
「分かった。それでは、お暇するとしよう」
丁度、新公王が神官によって王冠を頭に載せてもらうところだったが、僕たちは席を立って堂々と式場を出ていこうとする。
目立つようにわざわざ中央の道を通って退席するので、目立って仕方がない。
「失礼ながら、どちらへ」
僕たちの前に式を警護していると思われる騎士が現れた。
「帰国するのだ。退いてくれ」
カルモンが前に出て騎士の対応する。
「今は戴冠式の最中です。席にお戻りください」
騎士に退く気はないようだ。
「席とはどこだ? こちらにおわすお方は、サイドス陛下にあらせられるぞ。どの席に戻れと言うのだ?」
低く、それでいて会場中に届くような声を発したため、注目は新公王の戴冠ではなく、僕たちに集まっている。
「あちらの席に」
「この国は、一国の王をあのような席に案内する常識知らずか。国のていどが知れるというものだぞ」
「なっ!? 失礼ですぞ」
「失礼は貴様らであろう! このような侮辱を受けて、我が国は黙っているほどお人よしではない!」
「うっ……」
カルモンの迫力に騎士が後ずさる。
「そこを退きなさい」
アムリッツァ外務大臣が言い聞かせるように、騎士に声をかける。
「し、しかし……」
「我らは帰ると言っているのだ。この国の騎士はサイドス国王を拉致するつもりか!」
「そ、それは……」
「ミリタス。道を開けるのだ」
「だ、団長!」
ロマンスグレーの髪を短く切りそろえた初老の騎士が現れた。この人物が騎士団長のようだ。
「失礼しました。私は公国騎士団長を務めております、ゼグド・ケロミジアと申します。部下が失礼をいたしました。どうぞ、お通りください」
「ケロミジアとやら、貴殿は苦労しているようだな。この国が嫌になったらいつでも余のところにくるがいい。歓迎するぞ」
「……ありがたいお言葉にございますが、遠慮させていただきます」
「ふっ、その気になったらでいい」
僕たちは歩き出し、ケロミジアの横を通り過ぎる。
このケロミジアは公国内でも珍しい親サイドス王国の人物だ。だからこの戴冠式が終わったら更迭される予定だ。
スーラがこういう情報を得てくれるから、敵味方、もしくはそのどちらでもない人物の選別がしやすくて助かる。
城から出るのに数度邪魔された。僕たちの帰路に軍を配置する時間稼ぎだと思う。
軍を配置しても勝てなければ意味がないし、何よりも僕の命を取らないと新公王の目的は達成できない。
「やっぱり馬車に乗らないとダメかな?」
「国王陛下が馬車に乗らず、馬に乗っていては軍事行動だと思われますから」
アムリッツァ外務大臣がどうしても馬車に乗れと言う。
僕は馬車よりもアルタの背の上のほうが落ちつくんだけど、体面とか色々面倒なことがある。早くアスタレス公国軍が現れてくれないだろうか。
『おーい。戴冠式だがな、ザックたちが立ち去った後、はちゃめちゃになったぞ』
『どうなったの?』
『半分以上の国の代表が、ザックたちの後に続いて戴冠式の途中で帰ったんだが、新公王サンドレッド・アスタレスは悔しさのあまり、卒倒して意識が戻ってないぞ』
『あははは。何それ? 自分が種を蒔いていたのに、バカじゃないの』
『ああ、おかげで城内は大騒ぎだ。それにつけ込んで第三公子のホリス・アスタレスが野心を露わにしているぞ』
『そうか、サンドレッドと公王争いをして負けたホリスが、また野心がぶり返したわけか』
『ああ、アスタレス公国はまた荒れるぞ』
『えーっと、僕が手を下すまでもない?』
『しばらく様子見して、美味しいところでいただけばいいんじゃないか?』
『ウインザー共和国はどう出るかな?』
『長引くようなら介入するだろうな。だが、すぐには無理だ。レバルス王国が動き出すからな』
『そうなるように差し向けたのは僕たちだけど、レバルス王国は本当に動くかな』
『動かなければ、ウインザー共和国を併呑してから、それを理由に攻めればいい。約束を守らない国は滅ぼしたほうが、あと腐れないからな』
『スーラの考え方は、相変わらずだね』
『この世の中、喰うか喰われるか、生きるか死ぬかだ』
『それはそうだけど……』
『あと、レンバルト帝国だけどな』
『また話が変わるね』
『レンバルト帝国も皇帝が死にそうで、後継者争いが激化しているぞ。油を注いでやれば、大炎上すること間違いなしだ。どうするよ?』
『皇帝の容態はかなり悪いの?』
『意識不明だ。ありゃー、もう意識が戻ることはないと思うぜ』
『そうなんだ……後継者は?』
『第一皇子が皇太子だったが、こいつは二十年前に死んだし、その後に皇太子になった第三皇子も十年前に死んだ。それ以降は皇太子を置かなかったのが混乱の原因だな。今の皇帝は長生きしすぎたわけだ』
最近は大きな戦はなくなったけど、レンバルト帝国も内情が不安定だと、また大きな戦がいがあるかもしれない。
しかし、たとえレンバルト帝国が二つに分かれても大国に変わりはない。
戦乱の足音が聞こえてきそうな情勢か……。僕も生き残るために、力をつける必要がある。
もっと国を大きくし、僕自身ももっと強くならないといけない。大変なことだけど、やらないとこちらが滅びる。