062_サイドス国王、外交力というものを知る
戴冠式まで時間があるので新公王に面会を申し込んだが、面会は実現されなかった。
「ここまで徹底しているとは思いもしなかったですな」
カルモンが苦笑して呆れている。
他国の国主を迎えたのだから、本来なら面会して近況を確認したり今後のことを話し合ったりして、有意義な対応をするものだ。しかし、新公王はそれをせずに、あからさまに僕を軽視している。
「他国と折衝ができると思えば、無駄な時間も有意義なものになります」
「アムリッツァ殿は前向きですな」
「私の立場上、主要な国々が集まるこういう場は、腕の見せどころですからな」
「ははは。確かにそうですな」
僕やカルモンには無駄な時間でも、アムリッツァ外務大臣には有意義な時間になる。そのアムリッツァ外務大臣が懐から紙を取り出して、差し出してきた。
「レバルス王国、サンマルジュ王国、モルゴレス連邦、シン王国、ザリバ王国、キリス王国、インバム連邦王国は、我が国に同調してくださると約束してくださいました」
アスタレス公国は事実上ウインザー共和国の属国だ。そのウインザー共和国の北にあるレバルス王国は、ウインザー共和国と戦争状態にある。
僕のサイドス王国はレバルス王国と同盟を締結し、アスタレス公国とウインザー共和国の両国と対峙している構図になっている。
サンマルジュ王国とモルゴレス連邦は、レバルス王国と同盟関係にあって、その関係もあってサイドス王国の友好国だ。これまでアムリッツァ外務大臣が精力的に外交を行ってくれたことで、これらの国のように友好国は増えている。
シン王国はレンバルト帝国の向こうにある東の国で、サイドス王国からもそうだがアスタレス公国からもかなり遠い。国力はウインザー共和国とほぼ同じだと思われ、レンバルト帝国に次ぐものだ。
逆にザリバ王国とキリス王国は、魔の大地を挟んだ場所にある国で、ザリバ王国は友好国だし、キリス王国は準友好国だ。共に小国ということもあって、レンバルト帝国に半従属している。
キリス王国とは今でも魔の大地の境界線を巡って折衝が行われているが、関係は悪くない。
インバム連邦王国はサイドス王国から海を渡って北西へ向かうとある大きな島の国だ。サイドス王国とは貿易を行っているけど、ウインザー共和国とはあまり関係がいいとは言えない国だ。
「ご苦労だったね。アムリッツァ外務大臣が行ってくれている交渉のおかげで、戴冠式は面白いことになるだろう」
アムリッツァを外務大臣にして、本当によかった。こういった地味な交渉の積み重ねが、国の力となるのだから彼のような人材は大事にしなければと、再認識した。
「はい。公王がどんな顔をするのか、とても楽しみですな」
「外交も大事ですが、軍の動きも活発化してきたようですぞ」
カルモンが嬉しそうに、話に入ってきた。
「情報ではアスタレス公国軍が、公都サルベリアンとゲーリックの間に集結しつつあるとのことです」
「無駄なことをするものですな」
カルモンの報告を聞いてアムリッツァ外務大臣が首を振った。
アムリッツァ外務大臣は無駄なことと言うけど、この無駄がないと僕がわざわざここまできた甲斐がないというものだ。
僕という餌があることで、新公王の無能さが際立ってくれるのだから。
『スーラ。あの件はどうなっているかな?』
『問題ない。いつでもいいぞ』
『了解』
現在、スーラは魔の大地のモンスターが、アスタレス公国に侵入するのを防いでいる。しかし、ことが起こればスーラはそれを止めることになる。そうなると、スーラによって抑え込まれていたモンスターが、アスタレス公国に雪崩れ込んでくるだろう。
元々、アスタレス公国は魔の大地から出てくるモンスターの被害があったけど、それをスーラの力で止めてやっていた。
しかし、新公王の愚かさのおかげで、再びモンスターの侵攻を受けることになるだろう。
愚かな新公王に罰を与えるのはいいけど、一般人にモンスターの被害が及ぶと考えたこともある。だけど、この国の民は獣人たちを虐げて、獣のように扱うのが普通だと思っている。
僕はそういった外道に手を差し伸べる気はない。自分たちがモンスターの餌になる恐怖を味わい、後悔するべきだと思う。