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061_サイドス国王、暗躍する

 


 ボッス侯爵の屋敷で一泊した後、僕たちは再び船上の人になった。

 ボッス侯爵はシーサーペントを見て目を白黒させ、解体を請け負ってくれた。旧アイゼン国の歴史でも、退治されたことのないモンスターなので、ボッス侯爵も張り切っていた。

 僕としてはアメリカン級戦艦の戦闘力が、シーサーペント戦で分かって満足している。外海にはシーサーペントよりも強いモンスターがいるとスーラは言っていたけど、僕たちの常識からすればシーサーペントはものすごく強いモンスターで、遭遇したら死を覚悟するようなモンスターだ。だからシーサーペントの素材はとても高値で取り引きされている。

 ボッス侯爵には、シーサーペントの解体処理を任せているので、販売額の三割を与えることにした。


「陛下、ゲーリックが見えてきました」


 アメリカン級一番艦(旗艦)ジョージ・ワシントンの艦長であるベック・ドミンゴが指差したほうを見ると、水平線だったところに陸地が見え始めた。


「あれがアスタレス公国の港町ゲーリックか」

「陛下、これからは敵地にございます。総員に警戒態勢を取らせます」

「艦長に任せる」

「はっ!」


 艦長は水夫たちに警戒態勢をとらせ、二番艦ジョン・アダムスと三番艦トーマス・ジェファーソンに手旗信号で命令を伝達した。

 しばらくして無事に寄港できたジョージ・ワシントンから下船した僕は、アスタレス公国の役人から挨拶を受ける。


「サイドス王国国王陛下に於かれましては、無事にご到着あそばし、祝着至極にございます」

「ザック・サイドスである。世話をかけるが、よろしく頼みおく」

「はっ」


 役人に敵意というものは感じなかった。末端の役人には、僕を害する計画は秘密にしているのだろう。

 近衛騎士が乗る騎馬と僕が乗る馬車を自前で持ってきたので、それらを船から降ろしている光景を、役人や商人たちが驚きをもって見つめていた。

 そもそも三隻の戦艦に、騎馬を300頭も乗せているのはあり得ないのだが、アメリカン級戦艦は多くの兵と騎馬を乗せることができるように造られている。

 300名の近衛騎士団と、2000名の王国軍兵士を引き連れて、アスタレス公国の公都サルベリアンへ向けて出発した。道中は特に問題なく、同行した役人もおかしな動きは見せない。

 公都サルベリアンに入ると、割り当てられたホテルに入った。ただ、このホテルがあまり見栄えのいいものではなく、カルモンなどはかなり怒っていた。


「このようなホテルを用意するということは、新公王の無能さが分かるものです」


 周囲にホテルの従業員と思われる者がいるが、外務大臣のハイマン・アムリッツァは声高に新公王の無能さをアピールした。


「まあ、所詮はアスタレス公国ていどの小国を従えるのに、何年もかかった人物ですから、陛下に比べれば無能でしかないのだろう。このようなホテルに他国の国主を泊まらせるのが、その証拠だ」


 カルモンも楽し気に悪口を言う。

 僕たちのこの会話は、間違いなく新公王に漏れているだろう。だが、そんなことは織り込み済みで、あえて聞かせてやっているのだ。


「しかし、この国の軍の質はよろしくないですな。新公王が無能だと、軍の質も悪くなるのですかな?」


 カルモンがさらに煽るようなことを口走る。煽っていいと言ってあるが、鬱憤を全部吐露するんじゃないかな?

 僕たちの前に、料理が並べられていく。しかし、いくら敵対心を持っていると言っても、まさか料理に毒を入れるとは思わなかった。まあ、即効性の致死毒ではなく、遅効性で何度も摂取しないと効果がないものなので、料理は食べたけど。


「カルモン。この薬を全員に飲ませておくんだ」

「これは……?」

「毒消しだ。料理に毒が入っていた。もっとも、今すぐどうにかなる毒ではないから、それを飲んでおけば大丈夫だよ」

「承知しました。しかし、新公王は本当に無能ですな。他国の国主に毒を盛るなど、考えられません」

「だから、無能なのでしょう。カルモン殿」

「違いないですな、アムリッツァ外務大臣」


 この翌日からアムリッツァ外務大臣は、他の国々の国主や使者への訪問を始めた。

 僕がいかに低レベルな対応受けているか、他の国の方々に聞かせて回っているのだ。中には、アスタレス公国の庇護国家であるウインザー共和国と敵対しているレバルス王国の使者や、大国レンバルト帝国とも接触している。

 少なくとも、僕が泊まっているホテルの質が低いのは、誰の目にも明らかなので、それだけでもアスタレス公国の国力の低さと、新公王の無能さをアピールできる。


「他国の国主を迎える準備もできていないのに、公王の戴冠式などできるのかと触れ回っておきました」

「他国の反応はどうかな?」

「半分は新公王に批判的でしょう」

「十分だ。それだけの国から愚かな国だと思われればいい」


 この国の評判が落とすのが、第一段階だ。

 さて、第二段階へ移行するか。


「スーラ。例の件はどうなっているかな?」

「はい。すでに、手配済みでございます」


 真面目秘書官モードのスーラは、よどみなく答える。


「陛下、戴冠式が楽しみですな。ははは」

「カルモン。あまり大声で笑っては、店の者に気づかれるぞ」

「む、そうでしたな。これは失礼つかまつった」


 

今月は月曜日更新します。

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