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006_貴族の四男、恥ずかしい

 


 先ほど退室したケンドレー家のザック殿から魔力を感じた。しかも魔力量が半端なく多い。


 たしか、アムリス侯爵家のケリス嬢が婚約破棄した少年のはずだが、あれだけの魔力量を持っているザック殿を婚約破棄するとは、当代のアムリス侯爵は噂通りの無能のようだ。

 容姿も悪くないのに、ケリス嬢は何が気に入らなかったのだ? 家柄か? もし家柄でしか人を見ないのであれば、愚かなことだ。


 ケンドレー家は先代のオットー殿が戦功を立てて男爵に叙されたが、当代のヘンドリック殿は特徴のないパッとせぬ男だ。

 その嫡男のウオルフ殿も何度か会ったことがあるが、男爵家の嫡男だということを笠にきて鼻もちのならない小僧であった。


 ん、待てよ……。本来であればまだ成人もしていない子供になぜ軍を任せたのだ?

 ケンドレー家の戦力は大したものではないが、それでも当主の代理として軍を任せるのだ、嫡男でなくとも、長男のロイド殿や次男のサムラス殿でもよかったはずだ。

 いや、ザック殿は魔力を持っている。他の子供よりもはるかに戦向きだ。だからか……?


 ケンドレーを探ってみるか。そうすれば、ザック殿の情報も得られるであろう。

 あれだけの魔力を持っている者は希少だ。四男であれば、家を継ぐこともあるまい。

 今回の戦いでどれほどの働きをするか分からぬが、働き次第ではこちらに引き入れておくべきだろう。

 上手くいけば、我がボッス伯爵家にとってこれ以上ない味方になるだろう。


 それに……ザック殿の副官の男、あれはたしか……。あの男がなぜザック殿についているのだ?

 まさかケンドレー家に仕官したのか? あの男が……? まさかな。


 ▽▽▽


 ボッス伯爵の別宅は、さすが伯爵家といった豪華さだった。

 別宅なのに大きな建物と豪華な装飾品、質の高い使用人、どれをとってもケンドレー家とは大違いだ。


『おい、ボケっとするな。今のザックはまだ弱い。このままだと死ぬぞ』

『う……』

『やっと目の強化ができるようになったていどなんだから、腕だけ強化、足だけの強化、やることはたくさんある。ボケっとせずに訓練あるのみだ!』

『はい!』


 く、スーラに主導権を握られている……。僕が主でスーラが眷属なのに。

 でも、スーラの言うことは正しい。だから僕は必死で努力しなければいけないんだ。


 僕は必死に腕の強化を訓練した。視力強化ができたためか、腕の強化は思ったより早くできた。

 次は足の強化だ。イメージだ。イメージするんだ。イメージ。イメージ……。


 ……なんとか足の強化もできるようになった。疲れた。外はいつの間にか暗闇が支配していて、とても静かだ。


「ふー、疲れたから寝よう」


『何を言っているんだ!? 次は指だ。右手の親指を強化しろ』

『え……。少し寝かせてよ』

『バカ野郎! そんなことで戦場で生き残れると思うなよ!』

『わ、分かったよ』


 スーラは厳しい。僕はその日の夜は一睡もできなかった。

 朝になり、僕は全身のどの部位でも強化できるようになっていた。すると、スーラが次の指示をしてくる。


『おい、部下の爺様たちに小石を集めさせろ』

『小石? 何に使うの?』

『ザックの部隊は誰も弓を持っていなかっただろ?』

『うん。多分、矢が勿体ないとあのクソオヤジが思ったんだと思う』

『だから、矢の代わりに小石を投擲して、遠距離攻撃できるようにするんだよ』

『でも、小石を投げても……』

『甘いぞ! いいか、ザックは身体強化魔法の使い手なんだ、小石一つでも極悪な武器になるんだよ!』


 スーラの説得を受けてというか、勢いに押されてカルモンに小石を集めるように頼んだ。


『次は重力魔法だ!』

『え、まだ寝られないの?』

『今夜はゆっくりと寝かしてやるから、夜まで重力魔法の訓練だ!』

『うぅ……分かったよ』

『言っておくが、重力魔法は奥の手だ。いざという時に使えない奥の手なんて、奥の手じゃないからな』

『分かっているよ』


 本当に厳しい……。僕はスーラの指示の元、重力魔法を訓練した。

 重力魔法は身体強化魔法と違って、元々は僕の属性ではない。だから、身体強化魔法よりも習得に時間がかかるとスーラは言う。


『だが、オレがいるんだ。短時間でザックに重力魔法を覚えさせてみせる!』

『ありがとう……』


 睡眠時間と引き換えなのでかなりキツイけど、戦場で生き残り、さらには成り上がるための戦功を立てるためにはスーラに従って重力魔法の訓練に打ち込む。


『重力は重さを操る魔法だ。つまり、重くするだけではなく、軽くすることだってできるんだぞ』

『そうか、重さを操るなら軽くもできるんだね』

『自分が鳥の羽根のように軽いとイメージして、重力魔法を発動させろ。そうすれば、軽くジャンプしただけで数メートルのジャンプができるぞ』

『鳥の羽根……』


 僕は鳥の羽根。とても軽く、そよ風が吹いただけでも飛んでいく。それが僕の重さなんだ。


「………」


 まあ、そんな簡単に重力魔法が発動することはない。

 自分が元々持っていた身体強化魔法だって苦労して部分強化ができたくらいなんだから、新しく覚えた重力魔法がそんなに簡単に使えるとは思えない。根気よく訓練するしかない。


 夜になって訓練から解放された僕は、泥のように眠った。そして翌朝、僕は身支度を整えて外に出た。


「若様、全員準備完了です」

「カルモン、ありがとう。ボッス伯爵に挨拶に向かうからついてきて」

「承知しました」


 ボッス伯爵の率いる兵士は1000人ほど。その1000人もの兵士が整列してボッス伯爵が出てくるのを待っている。

 他の寄子である騎士爵や男爵、子爵家の当主やその代理も前のほうに並んでボッス伯爵を待っているので、僕もその末席に並んでボッス伯爵を待つ。


 しばらくすると、数人の側近を伴った鎧姿のボッス伯爵が現れた。

 立派な体格なので、威厳ある武人に見える。この辺りの領主のドンとしての威厳は十分に備わっていると思う。


「皆、待たせた」

「ボッス伯爵。我ら一同、準備は万端です。ご指示を」


 あれはたしか、サブラス・グローム子爵だったと思う。初日に挨拶をした人物で、豪快な方だ。

 困ったことがあったら頼ってこいと言ってくれた。亡き祖父と親交があったと言っていたので、ここでも祖父のおかげで僕は助かっている。


 ボッス伯爵の寄子の多くはよい方ばかりで、なんで僕はクソオヤジのような奴の子供に生まれたんだろうと、恨めしく思った。


 他の貴族たちは皆が馬に乗っているけど、僕は徒歩で行軍する。

 荷車も他の貴族は数台、ボッス伯爵にいたっては数十台も用意しているけど、僕たちは1台だけ。

 30人の行軍で家からの支援もほとんどないので、運ぶものがないのだ。


 こういう光景を他の貴族がどう見ているのか、あのクソオヤジは気がつかないのだろうか? まあいいや、この戦いが終わったら家を出る僕にはケンドレー家のイメージなんて関係ないことだ。

 行軍は順調で、ボッス伯爵の屋敷を発ってから4日後には戦場まで1日の町へ到着した。


「僕たちは町の外で野営だよ。準備をお願い」


 1500人以上の軍なので全員が町には入れない。だから、さきほどの軍議で町の外で野営することが決まった。


「承知しました。おい、野営の準備だ」


 カルモンが老兵士たちに野営を指示して、老兵士たちが手際よくテントなどを設置していく。


 行軍途中でもモンスターと遭遇すれば、討伐することになるので、現れたモンスターは僕の部隊に討伐を任せてもらえた。

 おかげでモンスターの素材が手に入った。町でモンスターの素材を売って物資を買おうと思う。


 他の貴族は貴重な部位があれば別だけど、通常はモンスターを解体しない。行軍に遅れが出るからだ。

 だけど、僕の部隊は物資不足と資金不足なので、モンスターを解体して資金を得なければならない。恥ずかしいことだ。


 

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