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059_サイドス国王、情報部を強化する

24日に短編「軍人をしていたら、不時着陸した惑星で超人になってしまった!」を投稿しています。

楽しんでください。

 


 表彰式で僕はカルモンとザバルの勝利を称えた。

 今回の武術大会で主催国のサイドス王国が優勝者を出したことで、サイドス王国の面目は保たれた。


「2人ともよくやった!」


 僕は2人に優勝賞品としてカルモンにオリハルコンの剣を、ザバルにオリハルコンの槍を贈呈した。

 それから1カ月。僕は三度目のシバ・シン訪問をしている。


「このようなあばら家に陛下自らお越しいただき、恐悦至極に存じあげまする」


 二度目の時もシバ・シンは僕に会うことはなかったが、今回は僕の訪問を受け入れてくれた。

 シバ・シンは濃い青色の髪の毛と黒い瞳をした若者で、僕よりも三歳年上だという。そんな若者に僕は三度も訪問しているわけだけど、このシバ・シンという人物は確かに大物の雰囲気がある。

 僕と同じ黒い瞳がなんでもお見通しだと言っているような、そんな人物なんだ。


「単刀直入に言う。余の臣下として仕えてくれないだろうか?」


 シバ・シンはジッと僕の瞳を見つめる。


「陛下自らお声をかけていただき、身に余る光栄に存じあげます」

「それでは」

「しかしながら、このような若造に何ができましょうか? 陛下のお力になれるようなことはないと存じます」


 これくらいのことで諦めるわけにはいかない。三度目にしてやっと会えたんだ、僕の臣下に加えて情報を扱う部署を立ち上げないと、僕が死んでスーラがこの国から離れたらサイドスは詰んでしまう。


「正直に言う。余はこのサイドスだけで終わるつもりはない。アスタレス公国、ウインザー共和国といった国を併呑し、レンバルト帝国さえも併呑する。そのためにはシバ・シン、君の力が必要だ。余に仕えてほしい」

「………」


 シバ・シンは眉をピクリと動かしたが、表情を変えることはなかった。


「シバ・シン殿、余の下で余の目と耳となってくれ」

「陛下は大陸統一をお考えですか?」

「そうだ。余は大陸を統一し、この大陸に東の大陸にも負けない文明を築きたい」


 シバ・シンはふーっと息を吐いて、僕を見据えると紅茶を飲み干した。


「少々お待ちください」


 シバ・シンは僕に一礼して席を外す。


『彼は僕のところにきてくれるかな?』

『大丈夫だ。ザックの大風呂敷を聞いて、乗らない奴は無能だ』

『大風呂敷……?』

『実現が難しい話ってことだ』

『そう言われると、確かに実現は難しい話だね。でも、僕をそそのかしたのはスーラなんだから、スーラが大風呂敷って言うのは納得がいかないんだけど』

『ははは』


 笑って誤魔化してもダメだからね。

 まったくスーラは、人を乗せておいて……(ぶつぶつ)。


 シバ・シンが戻ってきた。その手に何か大きな紙を持っているけど、なんだろうか?


「お待たせしまして、申しわけございません」


 そう言って彼はテーブルの上に大きな紙を広げた。


「これは……」

「この大陸の地図にございます」


 たしかに地図だ。しかし、ここまで精巧な地図は初めて見た。

 国王の僕でさえ見たことのない精巧な地図をシバ・シンは持っている。どういうことだ?


「陛下、このサイドス王国はここにございます」


 シバ・シンは地図の下側の小さな国を指さす。

 たしかにこのサイドス王国は小国に分類される。だけど、実際に地図で見ると本当に小さい。すぐ隣のレンバルト帝国の広大な領土にばかり目がいってしまう。


「陛下はこの小国のサイドス王国を支配しているだけにすぎません」


 実際に口に出して言われると、なんだか凹む。


「その小国の国王である陛下が、大陸を支配すると仰られる」

「そうだ」

「陛下はバカですか?」

「………」


 僕は賢いとは思っていないけど、面と向かってバカと言われるのは心外だし、腹が立つ。


「しかし、面白い」

「え?」

「その大風呂敷は、面白い」


 お、大風呂敷って言ってる。スーラと同じ出身?


「私もそのバカバカしい話に一枚噛ませてください」

「え……。それって」


 シバ・シンが席を立って、床に膝をついた。


「このシバ・シン。生涯一度の仕官をしたく存じます。ザック・サイドス陛下、どうか某を臣下の列にお加えください」


 シバ・シンは口上を言い切ると、頭を下げる。

 三度目にしてシバ・シンは僕と初めて面談したのに、わずかな時間で僕に仕官したいと言ってくれた。しかも、バカとか大風呂敷とか言われたのに、士官してくれる。


「こんなバカでも仕官してくれると?」

「バカだから仕官のし甲斐があるのです。まともな神経や思考の持ち主なら、大陸の覇者になるなどと言いますまい」

「たしかに……」


 これは褒められているのか?


「大陸統一は常人にできるようなものではございません。ザック・サイドスという大きな志を持っておられるお方でなければ、ならない偉業でしょう」


 僕はシバ・シンの手を取る。


「余は必ず大陸を統一する。シバ・シンには余を大陸の統一王へと押し上げてもらいたい」

「微力ながら尽力させていただきます」


 よかった。これで弱かった情報部の再編ができる。


「さっそくですが、陛下」

「何かな?」

「情報を得るには、優秀な諜報員が必要になります」

「当然のことだね」

「某が使っている者たちがおります。その者たちをこれまで通り使いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「問題ない。シバ・シンには情報部を預ける。全てシバ・シンの好きにしてくれ」

「ありがたきお言葉。陛下の信頼に応えられますよう、努力いたします」


 僕はシバ・シンを伴って城に帰り、皆にシバ・シンを紹介した。


「今後はこのシバ・シンに情報部を預ける」

「陛下、よろしいでしょうか」


 叔父のラルフ・ケンドレーだ。


「何か?」

「シバ・シン殿の爵位はどうされますか?」

「しばらくは無位とする。本人が功績もないのに爵位を得るのは不本意だと固辞するのだ」

「左様ですか。では、情報部担当大臣ということでよろしいでしょうか」

「うむ、それでいい」


 城内で働く人員の管理は内務省の所管なので、叔父としては確認しておかなければならないだろう。


「陛下、私からもよろしいでしょうか」

「申せ」


 今度は財務大臣のアンジェリーナ・ザルファである。


「情報部の予算はどのようにいたしますか?」

「今年は臨時に大金貨1万枚を増やす。来年は予算会議で諮ることにする」

「承知しました」


 アンジェリーナ・ザルファが下がると、他にないかと皆を見回す。

 なさそうなので、僕が最後に……。


「シバ・シンは何かあればスーラに諮るように」

「陛下。失礼ながらお聞きします。スーラ殿は陛下の何でございましょうか?」


 シバ・シンのその言葉で謁見の間が静寂に包まれた。

 あのカルモンでさえ、目を見開いてシバ・シンを見ている。

 そんなに驚いたり緊張しなくてもいいのに。


「スーラは余の半身である。それ以外の言葉が思い浮かばないな」

「……承知しました。以後、スーラ殿へ何ごとも諮ることにいたします」

「それでいい」


 シバ・シンが納得したところで、全員を下がらせる。

 ふー、ひと仕事が終わった。今後はシバ・シンが情報部をしっかりと管理してくれるだろう。


 その翌日、シバ・シンが面談を求めてきた。

 大臣の面談は全てに優先されるため、予定されていた面談の間にシバ・シンとの面談が差し込まれる。


「今回、情報部の人事を刷新したく存じます。陛下のご裁可をいただければと存じ上げます」


 人事の刷新……?


「こちらをお読みください」


 紙の束を近衛騎士経由で受け取る。何、この厚み?


「………」


 読んでみると、情報部の半分以上の人員を別の部署へ移動か解雇するというものだった。


「この人事の意図を教えてほしい」


 これだけの人員を排除するのはただ事ではない。


「そこに名のある人物は、これまで情報部に所属していたにも関わらず、情報の重要性を知らず、情報を軽視していたものにございます。そのような者がいるだけで他の情報部員の邪魔になります」


 理にかなった説明だ。だけど、かなりの人員を削減することになる。それで大丈夫なのか?


「補充の人員はすでに手配しております。昨日、陛下より許可を得た者たちでございます」


 そう言えば、今までシバ・シンが使っていた者を採用すると言っていたね。


「分かった。この者たちの配置換えは認める。だが、解雇は認めない。この解雇対象の者も配置換えを行うように。どうしても情報部内での配置換えができない場合は、他の省庁へ配置換えを行うように」

「承知しました。そのように手配いたします」


 僕は書類に今の指示を書いて玉璽を押し、シバ・シンに返した。

 多分、そのくらいのことは織り込み済みなんだろうね、シバ・シンはまったく顔色を変えずに指示を受け取った。

 しかし、この短時間で人員の整理をするほど情報部を把握したのだろうか?

 まあいい、僕はシバ・シンに情報部を任せたのだから、あまり口出しはしない。解雇はやりすぎだけど、できる限り彼のやりたいようにさせてやろう。


 

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