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057_サイドス国王、決勝戦(槍の部)を見る

 


 武術大会の本戦一回戦と二回戦、そして準決勝戦が終わり、カルモンとザバルは順調に勝ち上がった。

 あと一勝すれば、それぞれ優勝だ。

 ザバルの決勝戦の相手は、マーク・サバトという人物で明るい金髪を短く刈り上げた偉丈夫だ。

 モルゴレス連邦という北の国の出身で、その槍の腕は素晴らしいものがあると僕は思っている。

 ザバルの勝ちは揺るがないと思っているけど、油断していると足元をすくわれるかもしれない。それほど強いのだ。


「これより槍の部の決勝戦を行います!」


 司会をしているスーラの声に力がこもる。


「西ゲートより入場するのは、モルゴレス連邦が生んだ風雲児! 電光石火の槍使い、マーーーーーーークッ・サバトーーーーーーッ!」


 スーラが競技台の上で大きなジェスチャーでマーク・サバトを呼び出すと、そのマーク・サバトが西ゲートから入場してきた。

 悠然と歩くマーク・サバトのその手には、愛用している3メートルほどの槍が握られている。

 マーク・サバトが持つ槍はハルバートというタイプの槍で、槍頭に斧がついている。このハルバートを軽々と操り、最終予選と本線を危なげない戦いぶりで駆け上がってきた30歳の武人だ。


 マーク・サバトが競技台に上る。

 負けることは考えていない、自信溢れる顔をしている。


「東ゲートより入場するのは、元剣王、現サイドス王国近衛騎士団副団長、数少ないドラゴンスレェェェェェェイヤーーーーーーッ、ザバーーーーールッ・バジーーーーーーームッ!」


 スーラはドラゴンスレイヤーの部分を巻き舌で強調する。ノリノリだ。

 ザバル自身は成体になりきれていない若いドラゴンだったと謙遜するけど、ザバルもドラゴンを倒している。

 若いドラゴンでもドラゴンを単独討伐できる人間は数えるほどしかいないので、ザバルは誇っていいと思う。


 東ゲートからザバルが出てきた。

 僕に仕えてから無精髭を切り揃えて容姿には気をつけているザバルは、2メートルを少し超える長さの素槍(直槍とも言われる)を持っている。

 スーラはザバルの髪の毛と同じ赤い柄の槍は皆朱槍(かいしゅのやり)だからと言って、僕の臣下ではザバルとカルモン以外に持たせるなと言っていた。

 ザバルは槍を使うのでいいけど、カルモンは槍を使わないので実質的にはザバル1人しか皆朱槍を使っていない。そのためか、近衛騎士でも槍を使う部隊はいつかこの皆朱槍を持てるようにと、訓練に励んでいると聞く。


 ザバルも競技台に上がり、スーラを挟んでマーク・サバトと対峙する。

 若いマーク・サバトには勢いがあり、ザバルには老練さがある戦いだ。とても見ごたえのある試合になるだろう。


「ルールの説明をします。ルールはいたって簡単で、相手を殺さない、槍以外の武器の使用は禁止、以上です。なお、決勝戦は時間無制限になります。勝敗は相手が気絶する、審判が試合続行不可能と判断する、競技台から落下して10カウント以内に競技台上に戻れない、そして競技台から3回落下する、です」


 スーラの説明が終わり、競技台からスーラが下りる。


「それでは、試合を始めます。お互いに構え!」


 スーラの声で2人が槍を構える。

 すでに2人の攻防は始まっているのか、殺気のようなプレッシャーがこの貴賓席まで伝わってくる。


「始めっ!」


 その合図と同時に2人の姿がブレる。お互いに電光石火の動きで槍の攻防を繰り返す。

 すさまじい攻防だけど、あの槍の動きが見えている観客は何人いるだろうか? 僕も素の状態では槍の動きが見えないので、視力を強化してやっと見えている状況だ。


「すごい……」


 ストライムの呟きが聞こえてくるが、僕も二人の攻防に舌を巻く。


 競技台のほぼ中央でお互いに槍だけの攻防をしていたが、マーク・サバトが足を使い始めた。

 ザバルはマーク・サバトの攻撃をいなすのに終始しているようだが、まだ余裕があるように見える。

 そんなザバルに対してマーク・サバトは額に汗が滲み、今の攻撃が全力なのだと分かる。

 ザバルが負けるとは思っていなかったが、どうやら僕が思っていた以上に2人の力の差は大きいようだ。


 観客も引き込むほどの攻防が競技台の上で繰り広げられている。

 これだけの試合を観戦できて、貴重な経験になっていると思う。


 決着の時は突然訪れた。

 マーク・サバトにやや疲れが見えたと思った時、ザバルが大きく踏み込んでマーク・サバトの右肩に槍を突き刺したのだ。

 槍の長さはマーク・サバトのほうが長いが、まるでザバルの槍のほうが長いかと錯覚するような突きだった。

 僕は思わず立ち上がって身を乗り出して見ていた。それほど、2人の試合は素晴らしいものなのだ。


「ぐっ!? まだまだ!」


 右肩に槍が刺さったのに、マーク・サバトはまだ試合を続行する。

 ハルバートを左手一本で横に薙ぐと、ザバルと距離を取る。

 マーク・サバトの右肩から血が流れ出すが、この出血では長くは戦えないだろう。

 僕はスーラを見るが、スーラはまだ試合を止める気はないようだ。


 マーク・サバトが左手一本でハルバートを突き出し、ザバルがわずかに動いてハルバートを躱す。

 ハルバートを操って斧の部分でザバルを引っかけようとしたマーク・サバトだが、ザバルはその上の反応をして踏み込んでいきマーク・サバトの左肩へ槍を突き刺した。


「勝負あり!」


 スーラの声がコロッセオ内にこだまして、競技台へ飛び込んでいき、蹲っているマーク・サバトの両肩にチープエリクサーをかけた。

 すくりと立ち上がって、ザバルを見たスーラがさらに大きな声をあげる。


「この勝負、ザバル・バジームの勝利!」


 この瞬間、コロッセオの中が割れんばかりの歓声に包まれた。鼓膜が破れそうなくらいの大歓声に、無意識に耳にかけていた身体強化魔法を切った。

 ザバルの横にスーラが移動し、ザバルの腕を高らかに掲げる。

 ザバルの誇らしげな表情が印象に残る。


「ザバル・バジームの武威に称賛を、マーク・サバトの健闘に賛辞をお送りください!」


 ザバルは観客の称賛の声に全身を包まれ立ち尽くす。

 スーラは観客を煽るのがなかなか上手い。


 

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