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054_サイドス国王、武術大会最終予選

 


 スキンヘッドのスベルキンは、小柄ながらも長い槍を自由自在に操る。

 その対戦相手であるザバルは自分の手足のように槍を扱うスベルキンの攻撃を軽やかなステップで躱していく。

 スベルキンは一般枠から勝ち上がってきた武人だが、まさかこれほどの使い手が無名で埋もれているとは思ってもいなかった。

 近衛騎士でも槍を扱う部隊を組織してもいいんじゃないかなと思ってしまう。

 近衛騎士は剣も槍も扱うけど、基本は剣になる。城の中の警備は槍のような取り回しの悪い武器より剣のほうがいいと言われているからだ。

 でも、スベルキンが扱うような2メートルくらいの短めの槍なら城内でも十分に使えると思う。槍の才能がある者は槍を持たせ、剣の才能がある者には剣を持たせる。いい案だと思うから、武術大会が終わったらカルモンとザバルに提案してみよう。


 それはそうと試合は白熱し、スベルキンが突けばザバルが受け流し、ザバルが薙げばスベルキンが受ける。

 一進一退の攻防が繰り広げられている。


「ザバルさんは嬉しそうですね」


 ユリア妃の言うように、ザバルの口元がやや上がって笑っているように見える。


「あのスベルキンはかなりの使い手のようだから、ザバルは強い相手と戦うのが嬉しいのだろうね」

「スベルキンさんの槍はまるで蛇のように変幻自在ですね」

「あのような使い手が無名だったことに驚きを覚えるよ」


 戦場では剣よりも槍のほうが主力になるけど、戦場で使われる槍は4メートルくらいの長いものが主流で使い方も突くのではなく叩きつけるものだ。

 そういった戦場の槍とは違った槍同士の戦いは珍しい。

 ザバルやスベルキンが使っている短めの槍は馬上槍に似ているけど、馬上槍は2人の使っている槍のようにしなったりしない頑丈なものが使われている。

 馬上槍はまさに突くための槍なので、突いたときに鎧ごと敵を貫くための鋭さと頑丈さが求められているからだ。

 もちろん、突いて敵を馬上から落とすだけでもかなりのダメージを与えることができるんだけど。

 僕は槍は使ったことないので分からないけど、槍でも色々な種類があって使い方が変わると当然だけど戦い方も変わるんだろうな。


「あ、ザバルさんが!?」


 弟のストライムが真剣に戦いを見ている。

 ストライムのマメだらけの手を見れば分かるが、ストライムは剣を嗜む。ただし、ミリアムのような才能はなく、その腕は可もなく不可もなくといったところだ。

 ストライム本人もそのことは分かっているらしく、剣で身を立てることは考えていない。

 2年後に15歳になって成人したら僕の弟として、それなりの領地を与えることになると思う。本人もそのつもりで領地経営などの勉強をしていると叔父は言っていた。

 自分に剣の才能がないと分かってどれだけ悔しい思いをしたのか……。


「ストライム。あのスベルキンという男、なかなかの者だ。お前の家臣として取り立ててはどうだ?」

「え!? ……いいのですか?」

「もちろんだ。ただし、スベルキンがストライムに仕えると言うかは別の話だぞ」

「はい。ありがとうございます!」


 ストライムがとても嬉しそうだ。


 ザバルとスベルキンの戦いは制限時間ギリギリまで続いたが、最後はザバルがスベルキンを場外へ突き出して終了した。

 場外へ落ちたら負けになるルールなので、そういう戦い方もある。

 今回はザバルが将来有望な若者に稽古をつけてやった。僕にはそんな感じの試合に見えた。


 剣の部でカルモンの試合が始まる。相手はS級ソルジャーのロイズ・ハッシュ。

 派手な赤髪が目につくが、かなり落ち着いているように見える。それに体格も偉丈夫と言っていい立派なものだ。

 彼は今年31歳らしいが、ジャスカが剣王になってからS級ソルジャーになった遅咲きの人物である。なんでも10人いるS級ソルジャーの中で3番目に年齢が高いらしい。

 ザバルは彼のことを知っていて若い時にかなり苦労した大器晩成型で、これからも伸びるだろうと言っていた。


 そのロイズ・ハッシュが礼儀正しく対峙するカルモンに一礼する。

 カルモンも礼を返し、何か言葉を交わしている。身体強化魔法で耳を強化しているが、観客の声がうるさくて聞こえない。

 こんなことなら、競技台のそばにマイクを置いて声を拾わせればよかった。


 2人が剣を抜いてロイズ・ハッシュは両手で剣を正眼に構えるが、カルモンは下段に構えた。

 競技台から僕のところまではかなり離れているが、2人の気迫がひしひしと伝わってくる。


「陛下はカルモンさんと対戦者のロイズ・ハッシュというS級ソルジャー、どちらが勝つと予想しますか?」


 弟のストライムが聞いてきた。


「ロイズ・ハッシュの気迫はすさまじいものがある」

「では、カルモンさんが負けると?」


 僕はストライムを見て微笑む。


「カルモンの気迫はロイズ・ハッシュの気迫とぶつかり合うのではなく、受け流している」

「……?」

「よく見るといい。長きに渡ってカルモンが剣聖の座に就いていたのは、決して剣王やS級ソルジャーが弱いからではない」

「カルモンさんが勝つのですね」


 僕は頷いた。決して身内のひいき目ではない。

 僕でも分かるほどに、カルモンとロイズ・ハッシュの差は大きいのだ。


 ロイズ・ハッシュが動き、剣を突き出す。最短の軌道を辿って剣がカルモンの胸に向かう。

 さすがはS級ソルジャーの剣だ、僕ではこの一撃を躱すことはできないだろう。ロイズ・ハッシュという人物の力は本物だ。


 だが、カルモンはその上をいく。剣はカルモンを刺したように見えたが、次の瞬間にロイズ・ハッシュの後方へカルモンが現れ、その首に剣を当てた。


「……参った」


 圧倒的な力の差だ。誰が見ても分かる勝利。

 あまりのことに観客まで静まりかえるほどで、ロイズ・ハッシュの声が聞こえるほどだった。


「すごい……」


 ストライムが呟いた。観客の誰もがそう思っていることだろう。


「あれがもうすぐ60に届くという人物の動きなのか……」


 カルモンの年齢は57歳。武人としての峠はとうに下り坂のはずだが、カルモンに体の衰えはない。

 元々誰もが認める達人で体の衰えがあったとしても技は益々冴えていた。そこに僕の身体強化魔法によって体の衰えがなくなるどころか最盛期の体を取り戻してしまった。

 この武術大会は魔法による補助は認められていない。僕もカルモンの身体強化魔法を解除している。でも、僕の身体強化魔法で回復した体は最盛期の状態のままだ。

 長きに渡って鍛えてきた技に、最盛期の体。カルモンが負けるとしたら、油断によるものだと思う。だけど、カルモンが油断するなんて考えられない。


 

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