048_サイドス国王、犯罪に厳しい
聖騎士の犬と言われた僕はガチャに目覚めて最強を歩む ~最強になりたいわけじゃない。ただ、誰かに引け目を感じたくないだけなんだ~
もよろしくお願いします。
「余に嘘をつき、余の国民を食い物にした貴様は、万死に値する! 楽に死ねると思うなよ」
「わ、私は何もしていない!」
この期に及んでまだ白を切るバーズ・ハイマンに、オスカーが作った薬を飲ませるように指示する。
すると、バーズ・ハイマンはこれまでの犯罪を自白した。あまりにも犯した犯罪が多くて呆れてしまったが、僕はバーズ・ハイマンの供述から芋づる式に犯罪者を捕縛して断罪することにした。
『まったく、これだけの人たちが犯罪に手を染めていると思うとうんざりするよ』
『人間という生き物は、他人が美味しい思いをしているなら自分もと思うものだ』
『バーズ・ハイマンの処刑は四股を引き裂く刑でいいかな?』
『それか地面に埋めて首だけ出しておいて、餓死させるというのもいいかもしれないぞ』
『見せしめだからそれもいいね』
バーズ・ハイマンはスーラの提案した生き埋めの刑にすることを決めた。
民によく見えるようにサイドスの町の大広間の一角に、バーズ・ハイマンを埋めて見せしめにした。
今回の摘発で経済の中枢にいる人物も多く捕縛したので、サイドスの町の犯罪取り締まり強化は経済の混乱を招くことになった。
だが、僕は取り締まりの手を緩めることはなく、サイドス王国全体にその手を伸ばした。
本来ならロジスタークに駐留する王国第二軍と合流して、今頃はモンスターを狩っていたのに犯罪者のために僕の出征は中止になってしまった。
「陛下、これ以上続ければ国内の経済がガタガタになってしまいます」
謁見の間の玉座に座る僕に、膝をついた財務大臣のアンジェリーナが進言してきた。
財政を預かっているアンジェリーナからすれば、切実な問題なのは理解している。
そして、この謁見の間に集まった貴族たちも頷いてアンジェリーナに同意している。
僕はそんな貴族たちの顔を見回して、首を横に振った。
「重窃盗、強姦、殺人などの重犯罪を取り締まるだけで経済がガタガタになるのであれば、それは経済の中心にまで重犯罪者がいるということだ。そのような経済であれば、とことん破壊するに限る。そう思わないか、財務大臣」
「それは……」
手は緩めない。そして……。
「皆にも申し伝える。もし諸侯の中に、サイドス王国の法を犯した者がいたなら1カ月以内に申し出よ。猶予内に申し出た者は、多少の手心を加えることを約束しよう。だが、猶予後に犯罪が明らかになれば、それは家を潰すことになるとここに宣言する」
謁見の間が騒然になった。
「貴族とて法を守らぬ者は犯罪者である! 軽微なものは目を瞑るが、重犯罪を犯した者はよく考えて対処せよ! 余の目と耳はどこにでもあると思うがよい!」
僕は玉座から腰を上げる。
「もし、諸侯の親族に犯罪者がいたなら、その者を捕縛するのは諸侯の責務である。そして、法の下で裁く。もし、その者を放置したり庇ったりすれば、それも家を潰すことになるだろう!」
貴族たちの表情が強張っているのがよく分かる。
「余に反抗するのであれば、すればいい。止めはしない。だが、勝てると思うなよ」
僕はにやりと笑う。
「余はザック・サイドスである! 余の前に立ちはだかる者、その者に協力した者、すべてを滅ぼす!」
傲慢だな……。
だけど、今は傲慢な国王、絶対的な強者が必要な時だ。
貴族であっても犯罪者は許さない。僕の宣言を無視したらどうなるのか、圧倒的な恐怖をもって貴族を粛清する。
僕の柄ではないけど、今はそんなことを言っている時ではない。このサイドス王国では、貴族は国民を守る存在であり、民を守るための貴族なんだということを分からせなければならない。
「猶予は1カ月である。直ちに自らの行いを顧み、親族たちの行動を確認するがよい!」
このサイドス王国で重犯罪を犯したら、シャレにならないということを貴族と国民に分からせる。
今回のことで経済が崩壊して犯罪者ではない人が餓死して死ぬかもしれない。そのための炊き出しはしているが、全てにいき渡っていないことは承知している。
民を守ると言っておきながら、民を苦しめているのは理解している。本末転倒であるとも……。
だけど、犯罪はその犯罪を見て見ぬふりをする者がいることにも問題がある。
犯罪者を放置したら自分たちも酷いことになると思う土壌を作る。僕の独りよがりの政策かもしれない。だけど、犯罪を少なくするためには、皆に危機意識を持たせなければいけないと思うんだ。
『おい、東B区の役人が炊き出しの食料を横流ししたぞ』
『分かった』
僕は自ら近衛兵を率いて東B区へ向かう。
「ザック・サイドスである! エーネマン・ホルスを援助物資の横領の罪で捕縛する!」
「なっ、わ、私は何もしていません!」
六十代のかなりふっくらとした役人が慌てて否定する。
「余の目と耳はどこにでもあるぞ。どうしても否定するのであれば、この薬を飲むがいい。それでエーネマン・ホルスが犯罪者か無罪か分かる」
「ひぃぃぃぃっ」
「分かっていると思うが、薬を飲んでから自白しても罪は軽くならないからな。さぁ、早く飲め!」
「も、申しわけありませんでした!」
見事な土下座をするエーネマン・ホルスは、その場で洗いざらい罪を告白した。
エーネマン・ホルスの横流しの相手も捕縛して城に帰ったけど、どうして犯罪はなくならないんだろうか?
『役人には多くはないけど、給金を払っているのに……』
『欲だ』
『それは分かっているよ。でも、横領は見つかったら死罪で家財没収になるんだよ。割に合わないと思うんだけど』
『見つからないと思っているんだよ。ほんの一握りの奴しか、ザックに俺がついているなんて知らないからな。必ず見つかると分かっていればやらないが、見つかるのはほんの一部だと思っているからやってしまう。リスクとリターンでリターンのほうが上回っていると思っているわけだ』
ため息しか出ない。
だけど、しばらくはそういった不届き者を摘発しまくって、リターンよりもリスクのほうが高いということを知らしめるしかない。
貴族に提示した1カ月の期限が終了した。
数人の者が犯罪を告白して国の裁定を待つ姿勢を見せたが、当然のように犯罪を隠そうとする貴族も多い。
「カルモン、近衛騎士は100人でいい」
「承知しました」
全員が騎馬に跨った近衛騎士が城門の前に揃う。
「これより、余に反抗する者を滅ぼしに向かう。近衛騎士は正義の剣である! 犯罪者を滅ぼすのに躊躇することのないように!」
「おおおお!」
100人の近衛騎士が剣を掲げ声をあげる。
悠然と町中を進み、町を出ると速度を上げる。
身体強化魔法で強化した近衛騎士と騎馬が猛スピードで駆けていく。僕もアルタに跨って先頭を走る。
「陛下、ゾーンランド侯爵の城が見えてきましたぞ」
「カルモン。ゾーンランドに使者を出せ。直ちに開門せよと」
「はっ!」
ゾーンランド領は内海の海岸線沿いにある土地だ。
漁業と多少の交易によってそれなりに裕福な土地だけど、そのゾーンランド領を治めているバーラス・ゾーンランドは、違法奴隷の売買によって財を蓄えている。
罪を認めて申し出ていればバーラス・ゾーンランドは死罪だが、家を潰すことはしなかっただろう。
だけど、バーラス・ゾーンランドは僕が犯罪を摘発すると宣言してからも違法奴隷の売買を続けていた。
だから真っ先にバーラス・ゾーンランドとゾーンランド侯爵家を潰すことにしたのだ。
使者に出ていた3人の近衛騎士が戻ってきた。
だが、その後ろには数十人の兵士がいて、近衛騎士たちを追いかけてきているように見えた。
「馬上より失礼します」
「構わん!」
近衛騎士が馬上からの報告を断るので、僕は許可を出す。
「バーラス・ゾーンランドは陛下の勧告に従わず、戦う意思を見せております」
「分かった。ご苦労であった」
僕は使者の近衛騎士を隊に戻してカルモンを見た。
「敵が兵力を揃えるのを待つ」
「このまま一気に潰さないのですか?」
「バーラス・ゾーンランドに従う兵の数が多ければ多いほど、生贄になる」
生贄という言葉を使った僕をカルモンが驚いたように見る。
「陛下に従わない貴族への見せしめですな。そのほうが、殺す数は減る」
カルモンの言葉に僕は頷く。
ロジスタの悪魔であり恐怖王ザック・サイドスの恐ろしさを忘れかけている貴族たちに、もう一度見せてやる。
この恐怖王というのは、サイドス国内でまことしやかに囁かれている僕の二つ名だ。こんな二つ名がある僕の宣言を無視したバーラス・ゾーンランドを始めとした貴族たちには、本当の恐怖を味わってもらい、貴族たちが二度とバカなことを考えないようにしたい。
使者を追いかけてきた兵士たちを1人だけ残して全滅させる。
見逃したその1人には、バーラス・ゾーンランドに恐怖を伝えてもらわないといけないから。
「さて、どれほどの数を揃えますかな?」
「時間もないし数はそれほど多くないと思うよ。それに、バーラス・ゾーンランドに手を貸せば皆殺しにされるんじゃないかという恐怖も与えている」
「左様ですな」
その半日後、バーラス・ゾーンランドは1500ほどの兵を出してきた。
バーラス・ゾーンランドはそれなりに裕福な土地を領有している侯爵なので、総兵力は5000ほどある。
だけど、急なことと兵士が逃げたことでバーラス・ゾーンランドの下に集まった兵は1500ほどだった。
意外と多いと感じたのは僕だけではないと思う。
「傭兵もいるようですな」
「傭兵だろうと正規兵だろうと関係ない。立ちはだかる者は踏み潰すのみ」
僕がグラムを抜いたのを見たカルモンと近衛騎士たちも剣を抜いた。
「犯罪者バーラス・ゾーンランドを捕らえよ! その他の者は切り捨てろ! 突撃!」
「おおおおおおおっ!」
僕がアルタを走らせると、カルモンと近衛騎士たちもそれに続く。
頬に当たる風が殺気にまみれている。だけど、不思議と不快感はない。むしろ、心地いいとも思える。
僕は書類仕事よりも戦場で剣を振っているほうが生きていると実感できるようだ。
敵兵が槍を全面に並べて、その後ろから魔法や矢が飛んでくる。
その魔法と矢を重力魔法で落とし、破壊を恐怖をまき散らす。
「バーラス・ゾーンランド以外で、歯向かう者は皆殺しだ! 進めーっ!」
歯向かう兵士は1人も生きて帰さない。
この兵士たちもバーラス・ゾーンランドが違法奴隷売買をしているのを知っている可能性が高い。知らなくても国王の命に従わないバーラス・ゾーンランドに従ったことで謀反が成立する。
そして何よりも彼らは生贄だ。
彼らには悪いが、僕の意志を国内の貴族に知らしめるための、生贄になってもらう!
日頃からカルモンとザバルに鍛えられている近衛騎士と、ただの兵士たちではそもそもの練度が違う。
さらに僕の身体強化魔法によって強化された近衛騎士が、ただの兵士に襲いかかる。
兵力は15倍あるバーラス・ゾーンランド軍だが、たった1時間で1500人の兵士は全滅した。
もちろん、近衛騎士たちには目立った怪我はない。
「城の制圧戦に移行する」
バーラス・ゾーンランドは城に逃げ帰ったようなので、カルモンの指示で城へ攻撃を仕かけることにした。
僕は城門を創造魔法で破壊する。創造魔法は何かを創造するだけではなく、今あるものを破壊することもできる。
全ては僕のイメージ次第の魔法なのだ。
城門を無に帰した僕たちは場内へなだれ込んだ。
元々1500人の兵士をかき集めて、その総力を以て僕たちを迎え撃ったバーラス・ゾーンランドなので、城内に残っている兵士は多くない。
バーラス・ゾーンランドとその家族以外は切り捨てていく。
「陛下。バーラス・ゾーンランドとその郎党を捕縛いたしました」
近衛騎士の1人から報告を聞いた。
「ご苦労」
この城には近衛騎士を置いて、僕はバーラス・ゾーンランドとその郎党をサイドス城へ連れて帰る。
<<お願い>>
評価してくださると創作意欲もわきますので、評価してやってください。