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045_サイドス国王、武術大会の開催を決める

 


 謁見の間でアスタレス公国の使者と対面している。

 この謁見でアスタレス公国と協議していたことの正式な回答をするのが、今回の僕の仕事だ。とは言っても、基本的なことは外務大臣のアムリッツァ伯爵が読み上げて、最後に使者へ声をかけるだけなんだ。

 ちなみに外務大臣はアスタレス公国の使者がきてから陞爵させて、今はアムリッツァ伯爵になっている。


「今後半年で小麦200万トン、大豆300万トン、トウモロコシ500万トンをアスタレス公国へ輸出するものなり」


 アムリッツァ伯爵が擦り合わせた内容を読み上げる。

 僕の国にはルメヌスがいるので、アスタレス公国のように不作や凶作になることはない。

 ルメヌスとはサイドス湖に住んでいたアクアドラゴンなんだけど、亜神に昇華していて豊穣の権能があるらしい。

 そのルメヌスは、かなり昔にスーラに助けられた恩があるということで、スーラが僕のところにいる限りは僕の領地に豊穣の加護を与えてくれるんだ。おかげで、食料に困ることはないので、とてもありがたい。


「アスタレス公国新公王即位式へ、ザック・サイドス陛下が臨席するものである」


 臨席という言葉を聞いて使者の表情が一瞬強張った。

 臨席ではなく参列とか出席ならそういうこともなかったと思うけど、アムリッツァ伯爵はあえて臨席という言葉を使った。

 要は、サイドス王のほうがアスタレス公王よりも上なんだぞ。って言っているわけだ。こういうのは外交なので、サイドス王やサイドス王国をより大きく見せるために必要らしい。

 しかも今回は食料を輸出してやっているんだぞ。という立場なのでそういった上下関係をより鮮明にしているんだ。


 ちなみに、モンスターの退治要請は合意できなかった。

 多分、アスタレス公国は最初からモンスター退治の話をまとめる気がないのだろう。


「使者殿、此度は大儀であった」


 僕のお仕事は最後にこの言葉を言うだけ。

 こういうのはどうも好きになれないけど、これも国王としての仕事だと割り切っている。


 アスタレス公国の使者が帰っていき、僕はユリア妃とお茶をして執務室に戻った。

 執務室に戻ると、すぐにカルモンとザバルを呼び出した。


「アバラス・カルモン・マナングラード、ただ今参上いたしました」

「ザバル・バジーム、参上仕りました」


 2人が僕の目の前で膝をつく。


「2人とも楽にして」

「「はっ」」


 謁見の間ではないのだからもう少し肩の力を抜いてくれればいいのだが、僕が国王になってからカルモンは特に堅苦しくなった。


「今日、2人にこれを渡そうと思ってね。スーラ」


 僕の声にスーラが席から立ち上がって、何もないところから2つのものを出した。

 いつも思うけど、あれはどこにあったものなんだろうか? スーラは笑うだけで教えてくれないんだけど。


「それは……」

「なんと……」


 カルモンとザバルはスーラが出したものに目が釘付けになっている。


「これらは僕が2人のために造った剣と槍だよ。2人とも剣をソルジャーギルドに返上したと聞いたから、造ったんだ」


 もちろん、素材はオリハルコンだ。

 2人は僕に仕えるためにソルジャーギルドに武器を返上したから、それに代わる武器を用意したんだ。


 カルモンに剣、ザバルに槍を渡す。

 カルモンは剣を鞘から半分だけ抜いて見つめ、ザバルは槍の先を見つめる。

 喜んでくれるといいのだけど……。


「陛下のご厚意はとても嬉しく思います。されど、某はこの剣をいただくわけにはまいりません」


 鞘に剣を完全に納めたカルモンが、両手で剣を恭しく持って僕に差し出した。


「某もカルモン殿と同じでございます。陛下」


 ザバルまで……。なんで?


「剣と槍は気に入らなかった?」

「いえ、これほどの剣、剣聖が持つ聖剣にも勝るとも劣らぬ名剣だと思っております」

「この槍も素晴らしいものでございます」

「なら、なぜ受け取ってくれないのかな?」


 カルモンとザバルは顔を見合わせて頷く。なんだ?


「我ら両名は、このような素晴らしい褒美を受ける功がありません」


 功……。功績がないから……?


「それは僕が2人のために造ったものだから、功績とか気にしなくていいんだ」

「そういうわけにはまいりません。これほど剣と槍を受け取るにはそれなりの功が必要です。そうでなければ他の者たちへの示しがつきませぬ」


 2人がこれほど頑なになる理由は僕のためなんだと思った。

 僕が2人を優遇すれば、他の臣下が不満を持つ。それはサイドス王国にとってよくないことだ。


「陛下、よろしいでしょうか?」


 スーラに何か考えがあるようだ。


「どうしたの?」

「お2人に功がなければ、功を立ててもらいましょう」

「しかし、功と言っても戦争は……」

「いえ、武術大会を開催しましょう」

「武術大会?」

「武術大会で優勝した者に、その剣と槍を与えればいいのです」


 武術大会か……。言い案だと思う。


「でも、それだと1人しか」

「剣の部と槍の部の二部構成にすればいいのです」

「なるほど……」

「あとはカルモン様とザバル様が優勝すればいいことです」


 スーラの鼻の穴がピクピクしている。他にも何か企んでいるようだけど……。


「よい案だと思う。2人はどうかな?」

「某は武術大会に出場したく存じます」

「陛下、某もカルモン殿と同じ意見にございます」


 僕は2人をじっと見た。


「勝てるかい?」

「その剣のためであれば、勝って見せます!」

「左様! 某もこの槍を手に入れるために勝って見せます!」


 僕は頷き、スーラを見た。


「よし、決まった! スーラ。その武術大会を開くには、どうすればいい?」

「それでは、総務大臣のメリーシャ・ドウバック様に仕切ってもらいましょう」


 メリーシャ・ドウバックは総務省を任せている女性だ。

 元々総務省の幹部だったし第四王子や王太子の派閥ではなく、ユリア妃を奉じていた幹部だった。

 二年前で三十七歳だったはずだから、今年で三十九歳になるはずだ。あ、女性の年齢に触れるのは失礼か。

 国内の行事の多くは総務省の管轄なので、任せても問題ないだろう。


「総務大臣なら適任だと思う。スーラは総務大臣と武術大会のことを進めるように」

「はい」


 それからこの話が進むのは早かった。

 武術大会は8カ月後に行われることになって、国内外に大々的に宣伝することになった。

 国内外に大々的に宣伝したらカルモンやザバルでも優勝できないんじゃないかと思ったけど、スーラは2人を信じろと言っていた。


「アスタレス公王の即位式が喪の明ける1年後。武術大会のことでしばらく騒がしいと思いますが、即位式へ出席する準備は叔父上の内務省に任せます」

「承知しました。陛下」


 武術大会があるので忘れがちだけど、アスタレス公国へいく準備もしなければいけない。

 お祝いの品々や僕の服を用意したり色々と時間のかかることが多い面倒な役回りなんだけど、これで卒なく役目を果たしたら叔父を子爵に昇爵させる理由になる。

 昇爵の後は内務大臣になってもらう。普通、大臣というと伯爵以上がなるんだけど、それはアイゼン国の話だ。

 僕のサイドス王国では男爵でも能力があれば大臣にする方針を打ち出している。叔父を子爵にするのは、そういったこととは関係なく僕の血縁者への配慮という意味合いが強い。


『ザック、コロッセオを造るぞ!』

『コロッセオ?』

『武術大会を開催する施設だ』

『ああ……。そう言えば、そういった施設は今のサイドスにないね』


 旧王都にはあるけど、それではいけないのかな?


『せっかくサイドスを王都にしたんだ。諸外国の度肝を抜く絢爛豪華なコロッセオを造ってやれ』

『一応、諸外国から来賓がくる予定だし、素晴らしい施設を造るのには賛成だけど……』


 スーラは僕の横でマナポーションを持って立っているだけなんだろ?


 

<<お願い>>


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