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044_サイドス国王、伝説の金属を得る

 


「殿、じゃなかった陛下、ロジスタ領の調査から戻ったですぞ」

「ご苦労さま、オスカー」


 僕の執務室にオスカーの元気な声が響く。錬金術師のオスカーは、ロジスタとその奥にある魔の大地の調査をしてもらっていた。

 魔の大地は危険な場所だから、アマリエ・サージャスに中隊を預けてオスカーを護衛してもらった。

 このアマリエ・サージャスは、僕が国王になる直前に第四王子のゴウヨーに仕えていた黒髪の女騎士だ。

 僕が国王になると旅に出ていたが、2カ月ほど前に戻ってきていることを知ったので、僕に仕えてほしいと頼んだら了承してくれた。


「アマリエ・サージャスもご苦労だった。オスカーのお守は大変だっただろう」

「は、ありがたきお言葉」


 アマリエ・サージャスの表情を見れば、かなり苦労したのが分かる。


「陛下、某は何も問題を起こしておりませんぞ」

「オスカーがそう思っていても、他の人はそう思わないの。まったくオスカーは……」

「不本意ですぞ」


 ふくれっ面をしても、オスカーの迷惑な性格は皆知っているからね。


「はいはい。それでロジスタと魔の大地はどうだったの?」

「ロジスタはモンスターの発生もなく落ち着いていますぞ。土地は荒れていますが、開拓は可能ですぞ」


 それはよかった。

 あの土地は開発すればかなり多くの穀物生産地になると、農林水産大臣のジェームズも言っていたからな。

 それに、僕が貴族になった時に拝領した土地だったから、サイドスのほうが落ち着いたら開発したいと思っていたんだ。


「それで魔の大地のほうは?」

「再建したロジスタークより東はかなりモンスターの数が多いですぞ。しかし、ロジスタークに設置したモンスター除けのマジックアイテムのおかげでロジスタ領への侵入はありませんぞ」


 モンスター除けを設置したのは、ロジスタからモンスターを駆逐した直後だ。

 もう2年になるけど、長期間の効果確認も兼ねてオスカーを派遣した。


「それじゃ、ロジスタの開発を進めることは問題ないね?」

「はいですぞ。しかもですぞ、ロジスターク付近には、ミスリルの鉱床もありましたぞ」

「それについてはワシから報告するぞ」


 オスカーの言葉を引き継いだのは、スミスギルドを率いるマッシュ・ムッシュだ。

 今回のロジスタ調査隊にマッシュ・ムッシュも参加してもらっていた。

 スミスギルドは元々ロジスタークに拠点を置いていただけに、ロジスターク付近には詳しい。それに、鉱物資源などはオスカーよりもマッシュ・ムッシュたちのほうが詳しいからね。


「オスカーの言ったように、ロジスターク付近にはミスリルの鉱床がある。だが、それは元々分かっていたことだ」


 ミスリルゴーレムが発生した付近には、必ずミスリルの鉱床があると聞いた記憶がある。

 そのために、マッシュ・ムッシュたちのようなドワーフがロジスタにやってきたんだ。


「そこで、今回は魔の大地へさらに踏み込んで調査をした」


 あまり無理はしないようにって言っておいたんだけど、オスカーもそうだけどマッシュ・ムッシュたちドワーフも我が強いからな……。

 アマリエ・サージャスはダブルパンチの苦労をしたんだろう。何か彼女を慰労してあげないといけない気がしてきた。


「それで、何かあったの?」

「おう、アダマンタイトを見つけたぞ」

「アダマンタイト……」


 僕の記憶が確かなら、アダマンタイトはミスリルよりも硬い金属で、加工がかなり難しいはずだ。


「あと、わずかだがオリハルコンもあった」

「オ、オリハルコン!?」


 伝説的な金属だというのは知っている。

 そんな金属があの魔の大地にはあったのか……。


「オリハルコンのほうは採掘してきた。アダマンタイトはそれなりの埋蔵量がありそうだからじっくりと掘っていくつもりだ」

「そ、そう……」

「他にもあるぞ」

「まだあるの!?」

「金、銀、銅の鉱床もあった。かなりの埋蔵量だと思う」


 アダマンタイトやオリハルコンの報告を聞いた後だからそこまで驚かないけど、普通だったらかなり色めき立つ話だと思う。


「そういった鉱物を採掘するには、モンスターが多すぎるがな。がーっははははは!」

「そうか、モンスターが邪魔なんだね」


 なんだかマッシュ・ムッシュの豪快な笑い声を聞いていると、全然大したことない気がする。


「あ、そうだ。忘れるところだったぜ。魔鉄の鉱床もあったぞ」

「そ、そうなんだ。魔の大地はすごいね」


 魔鉄というのは、鉄のように加工しやすい金属なんだけど、魔力を含んでいて鉄よりも丈夫な金属だ。

 価値としては鉄とミスリルの間くらいだったと思う。

 隣の大国であるレンバルト帝国には、装備を魔鉄で統一した軍団があると聞いたことがある。大国だからできることだね。


「オリハルコンは倉庫に搬入しておいた。見るか?」

「伝説の金属だから、一度見ておきたいな」


 マッシュ・ムッシュの先導で僕は倉庫に向かうことにした。


「陛下よ、オリハルコンを少し分けてもらうことはできないか?」


 歩いていると、マッシュ・ムッシュが僕を見上げて聞いてきた。

 なんだか目がうるうるとしているんだけど……、むさ苦しい髭面のオジサンでは返って気持ちが悪い。


「量はどのくらいあるの?」

「荷馬車一台分だ」

「じゃあ、少しならいいよ」

「おお、さすがはザック陛下だ!」


 マッシュ・ムッシュはとても嬉しそうに喜んだ。


「陛下、よろしいのですか?」


 元剣王で今は近衛騎士団の副団長をしているザバル・バジームが怪訝な表情で問いかけてきた。


「オリハルコンを見つけたのは、マッシュ・ムッシュたちの功績だ。その労に報いてやらないとね」

「それではオスカー殿やサージャス殿にもという話になりますぞ」

「2人がほしいと言えば、少し分ければいい。だけど、オスカーはオリハルコンに興味はないし、アマリエ・サージャスは物欲より名誉を重んじる性格だから、他の褒美でいいと思うよ」

「なるほど。出すぎました、お許しを」

「いいよ。そういうことを言ってくれる臣下がいるということが、一番の宝だからね。これからも、よろしく頼むよ」

「はっ、ありがたきお言葉!」


 倉庫には、木箱に詰められたオリハルコンが4箱あった。


「オリハルコンは軽くて硬い金属で、簡単なことでは加工できない」


 木箱の中から青空のような色をした金属の塊を取り出したマッシュ・ムッシュが、僕にその金属を手渡す。

 青く澄んだ金属は、不純物など混じっていないかのような、完全な美しさを持っている。


「………」


 この金属は……。


『オリハルコン。お前のグラムもオリハルコンだな』

『やっぱりグラムの色なんだ』

『ザックは知らずにオリハルコンを創造していたんだよ』

『なんでもっと早くに教えてくれないのさ』

『聞かないからさ』

『う、確かに聞かなかったけど……』


 スーラと念話で話していたら、マッシュ・ムッシュが僕の顔をじーっと見ていた。


「陛下よ」

「何かな?」

「陛下の剣、グラムとか言ったな? あれはオリハルコンだろ?」

「……そうだと思うよ」

「一度でいいから見せてほしいんだが」

「………」


 マッシュ・ムッシュがすがるような目で見てくる。


「悪いが、グラムは僕以外に触られることを嫌うんだ」

「……やはりインテリジェンスソードだったか」

「インテリジェンスソード?」

「知能や意思のある剣ってことだ」


 なるほど、それならグラムはインテリジェンスソードだ。


「すまなかった。グラムについては諦める。だが、本当にオリハルコンをもらっていいんだな?」

「あまり多くなければいいよ」


 僕がそう言うと、マッシュ・ムッシュは頷いてオリハルコンの塊を3つ抱え込んだ。


「これだけもらうぞ」

「それだけでいいの? その木箱の半分くらいならいいよ」

「いや、ワシにオリハルコンを扱えるのか、まだ自信がない。だからこれだけでいい」


 僕だけではなく、ここにいる全ての人が驚いた。

 まさかマッシュ・ムッシュの口から「自信がない」という言葉が飛び出すとは思ってもいなかったんだ。


「そう……なら、マッシュ・ムッシュにそのオリハルコンを褒美として与える」

「感謝するぞ、陛下」


 マッシュ・ムッシュはオリハルコンを大事そうに抱えて、自分の工房に帰っていった。


「さて、このオリハルコンをどうするか?」

「オリハルコンでできた剣は決して折れず、切れ味も損なわれないと聞いたことがあります。剣を扱う者にとって憧れの剣です」


 そう言えば、ザバルの剣もとても素晴らしい存在感を持った剣だった。

 たしか、剣王を辞退した時にソルジャーギルドに返上したと聞いたけど……。


「ザバルが持っていた剣は……」

「今はソルジャーギルドの剣王であるジャスカ殿が使っている剣ですな。あれはおそらくアダマンタイト製にございます。陛下」


 僕の元を離れたジャスカは、剣王選を勝ち抜き1年半ほど前に剣王になっている。

 カルモンも剣聖を辞退したので、3人の剣王による剣聖選が行われたけど、ジャスカは惜しくも負けてしまった。

 でもジャスカはまだ若いから、カルモンの意思を継いでいずれ剣聖になると思う。

 僕のところに戻ってきてほしかったけど、ジャスカは剣聖選後すぐに武者修行の旅に出たと聞いている。

 ジャスカのことはいいとして、そうか、ザバルもカルモンも武器をソルジャーギルドに返上してしまったんだ……。


「某は剣よりも槍のほうが得意なのですが、ソルジャーギルドには聖槍の類はありませんから、剣を使っていました」

「槍のほうが得意なのに、剣を使ってカルモンと戦ったの?」

「剣聖選は剣でなければいけませんので」

「ああ、そういうわけか」


 槍が得意なのに剣で剣王にまでなったザバルはすごい努力家なんだろうな。


「アンジェリーナ。この木箱は僕がもらっていいかな?」


 さきほどマッシュ・ムッシュが開けて中からオリハルコンの塊を持ち出した木箱だ。


「陛下のよろしいように」

「それでは、この木箱は僕の工房に運んでおいてもらえるかな。あとの3箱はアンジェリーナと各大臣でどうするか決めてほしい」

「承知しました」


 僕は中途半端な1箱だけもらって、あとは財政を預かるアンジェリーナに任せることにした。


 

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