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043_サイドス国王、呆れる(★★★簡易地図あり★★★)

 


 アスタレス公国からの使者がまたきた。

 アスタレス公国は獣人などの他人種の差別について改善すると言ってきたのだ。


「あのアスタレス公国が差別を改善するとは、にわかには信じられませんな……」


 僕もカルモンと同じ意見だ。だけど、使者がそういってきた以上、こちらとしても無下に扱うわけにはいかない。


「交渉はこれからになりますが、アスタレス公国に対する我が国の方針をはっきりさせておかねばなりませんでしょう」

「ゼルダ殿の仰る通りです。アスタレス公国が差別の改善と引き換えにどのようなことを言ってくるか分かりませんが、こちらも備えておくべきでしょう」


 ゼルダに同調したアンジェリーナは不機嫌そうだ。

 まさかアスタレス公国が差別改善を飲むとは思ってもいなかったので、予想が外れたのが気に入らないようだ。


「予想されるのは食料支援、モンスター退治の支援、新公王の即位式へ来賓を出すですか」


 スーラが3つの案を挙げたけど、食料支援とモンスター退治の支援はあるのかな?


「スーラ殿。即位式のことはありそうだが、食料とモンスターの件はどういうことですかな?」


 叔父がスーラに確認する。僕も疑問に思っていたから、回答を聞きたい。


「この数年、アスタレス公国は不作続きで食料に困っています。そして、我が国でも魔の大地からモンスターが溢れ出てきた過去がありますが、同じようにアスタレス公国側でもモンスターが溢れ出しており、かなりの被害が出ています」


 スーラの情報だから間違いないだろう。しかし、ロジスタで起こっていたモンスターの被害がアスタレス公国でも起こっていたとは思わなかった。

 たしかに魔の大地はアスタレス公国とも接しているけど、他国のことだから気にもしていなかった。


「しかし、それならウインザー共和国から支援を受ければいいのでは?」


 ウインザー共和国はレンバルト帝国ほどではないが、大きな国だ。それに、これまでアスタレス公国の後ろ盾にもなっている。

 サイドス王国に何かを頼むのであれば、ウインザー共和国に頼むはずなんだけど……。


「ウインザー共和国もここ数年不作続きだったため、アスタレス公国へ食料の支援をすることができないようです。そして、食料がないことでモンスター退治の派兵もできません」


 今は情報を扱う部署を立ち上げようとしているが、他国に諜報員を送り込むのは簡単ではない。

 特に国交のないアスタレス公国やウインザー共和国へ諜報員を送り込むのは難しい。今はスーラの分体を派遣して情報収集しているが現状だ。


 他に商人などは国交のない国でも交易をしているので商人から情報を得るということもできるが、商人は自分たちの利益になるのであれば情報を提供してくれるけど、そうじゃないと間違った情報を混ぜてくる場合もある。

 だから信用できる商人を多く作る政策も打ち出しているけど、簡単ではない。

 まあ、スーラの分体がいる間は正確な情報がリアルタイムで入ってくるので、今はまったく問題ない。ただ、情報機関は将来的に必ず必要になるから、アイゼン国が滅んでズタズタになった情報網を今は再構築している途中だ。


「食料支援はまだいいとして、モンスター退治の支援を要望されたらどうされますかな?」


 ゼルダは聞いているけど、その口ぶりはモンスター退治は受けないほうがいいと言っている。


 アスタレス公国にはまだ多くの獣人が住んでいる。

 食料がなければ獣人が真っ先に餓死するだろうし、モンスターで困っているなら獣人がモンスター退治に引きずり出されて被害を被っているはずだ。


「食料支援でもモンスター退治支援でも僕は受けるつもりだ」

「よろしいので?」

「食料でもモンスターでも、一番割を食うのは獣人のはずだ。放ってはおけない。ただし、このサイドス王国は、アスタレス公国の属国でもなんでもない。それなりの筋は通してもらう」


 僕の言葉にカルモンが口角を上げ、ゼルダは仕方がないといった感じだ。

 他の皆からも異論はなかったので、もし支援の話が出たら受けることでいいだろう。


「支援するにしてもただ働きでは、示しがつきません。ですから、獣人の貴族を立てさせてそこに獣人を集めさせてはいかがですか?」


 叔父が面白い提案をしたと思う。もし、本当にアスタレス公国が他人種の差別を改善するのなら、獣人の貴族がいてもいいだろう。


「しかし、差別を改善するだけでも難しい話ですから、貴族となれば簡単ではないですぞ」


 今まで黙っていたが、ハイマン・アムリッツァ子爵が口を開いた。

 彼は数カ月前から外務大臣に就任している。

 実を言うと、外務大臣は僕が即位してからしばらく空席だった。他にも空席の大臣職はあるけど、外務大臣をいつまでも空白にしておくわけにもいかないので、アムリッツァ子爵に任せることにしたんだ。

 彼は元々内務省の官僚だったけど国内の貴族との折衝を担当していた。交渉事に慣れている彼なら外務大臣の重職もしっかりと担ってくれると思っている。もちろん、フォローはしっかりするつもりだ。


「アムリッツァ大臣。ダメで元々、上手くいけばいいていどと考えて交渉してくれ」

「承知しました」


 外国の使者と国王が直接交渉するわけではない。こういう時は外務省が全面に立って交渉することになる。

 だから方針がないとアムリッツァ外務大臣も交渉どころの話ではなくなってしまう。


 それから数日後、アスタレス公国の使者との交渉の途中経過を、アムリッツァ外務大臣から聞いた。

 アスタレス公国は予想通り食料支援とモンスターを退治する軍事支援、そして新公王の即位式への参列を求めてきた。

 しかも、即位式へ参列するのは使者ではなく、僕自身にきてほしいと言っているらしい。


「話になりません。友好国でもないのに、国王が自ら即位式に参列するなどありえません」


 財務大臣のアンジェリーナが不機嫌そうに否定する。


「左様、いくら国交を開くと言っても、今までさんざん戦ってきた相手。即位式への参列は某で十分でしょう」


 アムリッツァ外務大臣も自分が即位式に出席すると言う。

 それが普通なんだと僕も思う。


「交渉はまだ途中。決裂するにしても、国交を開くにしても、まだこれからです」


 即位式のことは切り上げて、アムリッツァ外務大臣は他の内容を報告する。


「食料は輸出という形でそれ相応の対価を回収する方向でまとまりつつあります。軍事支援のほうは、アスタレス公国側は善意の支援を求めています。対して当方は領地の割譲、またはそれなりの対価を要求しています」


 支援と言っても、アスタレス公国はサイドス王国の属国でもなんでもないので、無償で食料を提供したり軍を派遣するわけにはいかない。だからそれなりの対価をもらわないと話にならないのだ。


「領地の割譲はあり得ないでしょう。たしかアスタレス公国には大規模な鉄の鉱山があったはずです。採掘権をもらってはいかがですか?」


 アンジェリーナが別の切り口を提案する。対価さえあれば、領地でもお金でも採掘権でもなんでもいい。それで出兵の理由ができるのだから。

 採掘権の線で交渉することでまとまり、最後の報告になる。


「獣人貴族の件は、かなり難色を示しています」


 使者は差別の改善と叙爵は別物であって、アスタレス公国の貴族の叙爵をサイドス王国がとやかく言うのは内政干渉だ。と、かなり強硬に拒否しているらしい。

 使者の言っていることは正論だし当然の反応だと思うが、差別の改善だって内政干渉に当たると思うのは僕だけかな?


 アスタレス公国は支援を求め、サイドス王国は協力をすると回答する。基本は支援ではなく協力だ。

 支援をするだけの親密さなんてアスタレス公国にはないし、虫がよすぎる話。

 アムリッツァ外務大臣には、毅然とした態度で交渉するように指示をして会議は終わる。


『アスタレス公国の新公王は、ザックのことを相当嫌っているぞ』


 自室に戻ると、スーラが念話で話しかけてきた。


『いきなりどうしたの? それに、僕が治めるサイドス王国と国交を開きたいと言ってきたのは、向こうだよ?』

『簡単な話だ。ザックは公太子を討ち取り、第五公子も打ち取った。新公王になることが決まった第二公子サンドレッド・アスタレスにとっては、兄弟を殺した仇がザックだ』

『そんなことは分かっていたことじゃない?』

『まあ聞け』

『………』

『新公王サンドレッド・アスタレスは29歳。対してザックは18歳。まあ、ザックが王になったのは16歳だったけどな。要は、比べられるんだよ。ザックは圧倒的な武力によって瞬く間にアイゼン国を飲み込んだ。それに対してサンドレッド・アスタレスは何年も兄弟と争って国内の疲弊、つまり食料不足に拍車をかけ、魔の大地と接している地域の防衛を怠った』

『………』

『サイドス王は国内をよく治め、旧勢力が兵を起こしても瞬時にこれを鎮圧。食料に関しても十分な量が国内にあってインバム連邦王国へ輸出している。サイドス王国はアスタレス公国と正反対だってことだ』

『だから僕が嫌いでも、僕に支援を頼んできたんじゃないの?』

『そう思うか?』

『違うの?』

『今回の食料支援と軍事支援、そして即位式への参列。本命は即位式だ』

『なんで? 食料不足やモンスターの脅威のほうが、深刻な状況のはずだよね?』

『ふふふ、食料はウインザー共和国経由でインバム連邦王国から買える。まあ、この2カ国が間に入ればそれだけ値段が高くなるから、サイドスから直接買いたいという思惑があるようだが』

『当然のことだね』

『軍事支援にしたって、食料さえなんとかなればウインザー共和国に頼み込むことができる』

『そうかもしれないね』

『じゃあ、なぜ即位式にザックの参列をと言ってきたか分かるか?』

『……サイドス王国との友好をアピールする。ってわけじゃないんだろうね』

『分かってきたじゃないか』

『今の話を聞いたからね』

『つまりサンドレッド・アスタレスは―――』


 僕はスーラの説明を聞いて絶句するというか、呆れた。


『はぁ……。なんでそんなにバカなんだろうか』

『人間なんてそんなものだ。だから見ていて面白いし、歯がゆいとも思う』


 サイドス王国周辺マップ。

挿絵(By みてみん)


 

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