041_サイドス国王、家族は禍族?
アスタレス公国の使者は、サイドス王国と国交を樹立したいと言ってきた。
「まさか国交を樹立したいとは、彼の国も面白いことを考えますな」
カルモンが顎に手をやり首を傾げる。
「無理もないでしょう。こちらにはロジスタの悪魔である陛下がいますから」
ゼルダの言葉にカルモン、ケリー、リサ、レオン、ザバル、アンジェリーナたちが頷いた。僕としては、少々納得がいかないんだけど。
「それでどのように返事をされますか?」
皆が僕を見てくる。いや、ここは皆で議論しようよ。
「皆の意見が聞きたい」
「されば、某から」
日頃寡黙な獅子獣人のレオンが珍しく口を開いたので、僕は頷いてレオンを促した。
「某はアスタレス公国との融和は反対でございます」
アスタレス公国は獣人を亜人と言って蔑んでいる国で、それは今も変わらず不当に獣人を差別している。
レオンはアスタレス公国から逃げてきた難民だし、アスタレス公国は獣人を戦争の肉盾として使った経緯がある。
だから、レオンがアスタレス公国を憎むのは理解できるし、憎んで当然だとも思う。
「それは、レオン殿がアスタレス公国に恨みがあるからかな?」
ゼルダが指摘すると、レオンは首を横に振った。
「確かにアスタレス公国は獣人を差別し、某は陛下に庇護を求め逃げてきました」
皆がレオンの言葉に耳を傾ける。
「しかし、某の気持ちはどうでもいいのです。某は陛下の御意に従うと誓ったのですから」
「それでは、なぜ反対なのかな?」
「エンデバー軍務大臣、このサイドス王国に獣人がどれほどいるとお思いか?」
このサイドス王国の人口の約30パーセントは、獣人だ。
もし、アスタレス公国と友好的な関係を築いた場合、国内の獣人たちが反発するのは目に見えている。
「国内の獣人の反発があると言うのだな?」
「ないほうがおかしいでしょう」
レオンの懸念はもっともだと皆が頷いている。
「他に意見はないか?」
僕は皆の顔を見ていき確認する。
すると、財務大臣のアンジェリーナが手を上げたので、発言を促した。
「アスタレス公国に人種差別の改善を提案してはいかがでしょうか。それで改善すれば国交を持っても国内の獣人に説明ができますし、断られたらそれを理由に今まで通り敵国として扱えばよろしいのです」
「なるほど。それでしたら我が国はアスタレス公国の態度次第で国交を樹立させる用意があるという意思表示ができ、決して戦をしたがっているわけではないと国内外に示すことができるわけか」
ゼルダが納得している。
今まで敵対してきたけどこれからは親交を深めたいと言ってきた相手に、この国は差別のない国だからそちらの国も差別をなくしてほしい。そうすれば、親しくできるよ。と言うことで問題はアスタレス公国にあるんだということが、国内外に示せるわけだ。よい案だと思う。
それにアスタレス公国建国の経緯が差別によるものなので、それを改善させたとしたらサイドス王である僕の名声が高まるわけだ。
「レオン。もし、アスタレス公国で獣人たちの差別がなくなったら、アスタレス公国と国交を開く。感情的に許せないかもしれないけど、国としては悪くない案だと思う。どうかな?」
「アスタレス公国が差別のない国になるのであれば、国内の者たちを抑えるのはなんとかなりましょう」
アスタレス公国に対する方針は決まったので、使者にその旨を伝えた。
使者は自分の判断で回答できるものではないので、本国へ持ち帰ると言って帰っていった。
「さて、アスタレス公国がどのような判断をするのか、見ものですな」
カルモンはにやにやしている。アスタレス公国が人種差別を改善するわけがないと思っているんだろうな。僕もそう思うけど。
アスタレス公国は元々アイゼン国の領土だった。なぜ独立したのかというと、人種差別が原因と言われているんだ。
アイゼン国は多種族国家なので、人種差別は禁止されていた。だけど、現在のアスタレス公国、当時のアイゼン国北部は人族の比率が多く人種差別が根強く残っていた。
当然、当時のアイゼン国は、北部の貴族たちに圧力をかけた。すると、当時のアスタレス公爵が北部貴族をまとめて独立してしまったのだ。
その際にウインザー共和国の支援を受けたアスタレス公爵は、アスタレス公国を建国してアイゼン国に宣戦布告をした。
もちろん、アイゼン国も黙っているわけなく、お互いに血で血を洗う戦いを数年間繰り広げたんだ。
だから、アスタレス公国にとって獣人などの他人種を差別するのは、建国の歴史とも言っていいので簡単に人種差別を改善するなんてことはできないはずだ。
「しばらくはアスタレス公国の出方を見守るしかないね」
念のためにスーラの分体をアスタレス公国に送ってもらうことにした。
アスタレス公国の使者が帰っていってから1カ月ほど経過したある日、僕が執務室で嫌いな書類仕事をしていると叔父ラルフ・ケンドレーが面会を求めてきた。
叔父には妹たちのことを頼んでいるので、ミリアムたちに何かあったのかと思ってすぐに面会した。
「陛下におかれましては、ご機嫌麗しく―――」
「叔父上、ここではそのような堅苦しい挨拶は不要です」
「ありがとう存じます」
僕がクソオヤジを殺したことが原因だと思うけど、どうしても他人行儀というか臣下に徹した言動をする。
そんなに僕が怖いのかな? いくら僕の権力が絶大でも、罪もない人を罰することはしないんだけど……。
僕は圧倒的な力で国内を平定したし、戦った相手にかなり恐怖をまき散らしたからかなり怖がられている。それは仕方ないけど、叔父に限らず臣下にも恐れられているのは不本意だ。
僕が貴族になった当初からの臣下たちは、歯に衣着せぬ指摘をしてくれる。そういった臣下たちのほうが僕の間違いを気づかせてくれるので、ありがたい。
フレンドリーに接しろとまでは言わないけど、もう少し踏み込んできてほしいな。
「叔父上、ミリアムたちは健やかに過ごしていますか?」
「はい。最近はかなり落ち着いたようです。それに妃様にもお心を砕いていただいており、皆が感謝の言葉を口にしています」
ユリア妃も色々と気にかけてくれているので、本当に感謝の言葉しかない。
「ストライムとジョセフには、いずれ領地を与えるつもりなので今から領地経営について勉強をさせておいてください」
ストライムはクソオヤジの七男、ジョゼフは八男になる。
ケンドレー男爵家は目の前にいる叔父のラルフ・ケンドレーに継いでもらったので、ケンドレー領を与えている。
ケンドレー家は僕を可愛がってくれた祖父が興した家なので、断絶させるつもりはない。クソオヤジのおかげでケンドレー家は謀反人の家と陰口をたたかれているけど、僕の出身家なので声高にそういうことを言う人はいない。
話を戻すけど2人の弟には別の家を興してもらうつもりだ。ただし、2人がクソオヤジのようになった場合は、領地や爵位を与えることはできない。
だから、2人には有能でなくていいから、差別意識のない真っすぐな性格に育ってもらいたい。
「それはようございます。2人も喜ぶことでしょう」
「叔父上にはこれからも面倒をかけますが、皆のこと、よろしくお願いします」
僕は叔父に頭を下げる。
「顔を上げてください。そのようにされますと、かえって恐縮してしまいます」
「叔父上には損な役回りを押しつけてしまったので、心から感謝しています」
僕は顔を上げて叔父の目を見て、感謝の気持ちを述べた。
「いえいえ、私のようななんの功もない者を男爵にしてくださったのですから、陛下には感謝しております」
叔父も僕に頭を下げた。
「さて、陛下。本日は別の件で内々にお話がありまして……」
叔父は僕の周囲にいる近衛騎士たちをちらりと見る。
この部屋には4人の近衛騎士がいる。その近衛騎士に聞かせられないような話があるということだろう。
「皆は控室へ」
僕は近衛騎士たちに隣の控室で待つように指示をした。
「しかし……」
近衛騎士が反論しようとするのを左手を上げて制止する。
「叔父と話すだけだ」
「……承知しました」
4人が部屋を出ていく。
ただし、僕の左斜め前の机で書類仕事をしているスーラは動かない。
叔父はスーラのほうをチラチラ見る。
「スーラは僕の半身だ。ここで見聞きしたことは絶対に他言することはないから安心してほしい」
「……分かりました」
叔父は頷く。
「昨日、私のところにサムラス殿が訪ねてきました」
「サムラス……」
サムラスはクソオヤジの次男で、4歳年上の兄だ。
行方をくらませていたから、僕はあえて探すこともしなかった。
クソオヤジや嫡男のウォルフと違って、サムラスに影響力はないから僕に恨みを持って反抗するなら、それでもいいと思ってのことだ。
「サムラス殿だけではありません。サマンサ殿、セリドル殿、ハークス殿、ラビヌウス殿、ロイエイヌス殿も一緒でした」
サマンサはクソオヤジの次女で2歳年上、セリドルは五男で僕と同じ年、ハークスは六男で2歳年下になる。ラビヌウスは正室、ロイエイヌスは側室になる。行方不明になっていたケンドレー家の者たちである。
「皆一様に疲れ果てていまして、とりあえずは私の屋敷で保護をしています」
行方不明になっていたケンドレー家の者がこれで全て揃った。
だけど、今頃になってサムラスたちは何しに出てきたのかな? まさか僕に何かをしてほしいと言うんじゃないだろうね?
「それで、サムラスたちはなんと?」
「それが……。これまでの非礼を陛下にお詫び申しあげたいと」
別に追っ手を差し向けているわけではないけど、逃亡生活に疲れ果ててしまったんだろうな。
叔父の話でも疲れ果てていたと言っていたし、元々貴族として庶民よりはいい暮らしをしていたので、隠れて暮らすのにも限界がきたんだと思う。
「詫びは受け入れる。罪には問わないから好きにしろ」
僕がそういうと叔父は困ったような顔をした。
そうだよね、叔父に面倒事ばかり押しつけていては、いつか叔父から恨まれそうだ。
「と言いたいところだけど、叔父上もそれでは困るでしょう。数日、預かってください。その間にどうするか考えます」
「このような話を持ち込んでしまい、申しわけございません」
叔父が深々と頭を下げる。
「さきほどから2人して頭の下げ合いですね」
「左様で」
2人して苦笑いした。
本当にケンドレーの人々は僕に祟る。
僕に構わず好きに生きればいいのに。
<<お願い>>
評価してくださると創作意欲もわきますので、評価してやってください。