039_スーラ、触手を得る
35話から39話まではスーラの過去です。
読み飛ばしても大丈夫です。
狐火!
馬のモンスターに向けて撃った狐火は見事に命中して、馬の全身を青白い炎が包んだ。さすが、俺様!
馬が倒れると、俺はその馬を取り込んだ。
『(ピコン)ブルーアイペガサスを取り込みました。氷の瞳をスロットにセットしますか?』
氷の瞳? どんなスキルなんだ?
試してみたいが、スロット2とスロット3はもしもの時のために空けている。
ここはストックだが、どのスキルを廃棄しようか……。
王者の牙と破壊の牙が牙で被っているが、この2つはライオンキングとテラーダイナソーという高ランクと思われるモンスターのスキルだ。
捨てるにはもったいない気がするけど……、いや、覇王の威圧をスロット2にセットしてストックを1つ空けることにしよう。
そして、氷の瞳をゲットだ。
『(ピコン)ストック覇王の威圧をスロット2にセットし、氷の瞳をストックします』
もっとスロットがほしい。そしてストックの空き容量がほしい。
これは切実な願いだ。
そのためには強いモンスターを喰わねばならない。
そうすれば能力ランクが上がるし、能力ランクが上がればそれだけ強くなれる。
それすなわち、この世界で生き抜けるわけだ。
それはそうと、俺はスライムだということをやっと認識した。
水面に映る自分の姿を見たら、スライムだったのだ。
黒い半透明の体は涙型でつぶらな瞳があった。口はなかったが、全身が口であり足であり胴体である。
最近の俺の流行りは体の形状を変えることだ。
形状を変えることは川に流されている時にできるようになったが、せっかくだから体の一部を伸ばしたりできないかと思い、練習している。
体全体を変化させるよりも一部だけ伸ばすのは非常に難しく、なかなか上手くいかない。
しかし、スライムに生まれ変わったからには、なんとしても触手プレイを覚えなければいけない!
そんな使命感に駆り立てられて、昼夜を問わず触手の訓練をしている!
「………」
大きめの石の上に居座って触手の練習をする。
え、創造魔法は練習しないのかって? 創造魔法も大事だが、触手はもっと大事だと思わないか? 俺は触手のほうが大事だと激しく思うわけだ!
ふにーーーっ! 伸びろーーーっ! たまにモンスターが俺の触手の練習を邪魔しにくる。
今度はオオカミのモンスターだ。俺が気づいていないと思って、体を低くしてそろりそろりと俺に近づいてくる。
オオカミという種は群れを作る習性があるはずなので周囲をよく見てみると、俺の周囲に3匹のオオカミがいた。
俺は体を動かさずに体のどこにでも目を移動させることができるのである!
それにしても、1匹が俺の気を引き、他の2匹が俺をしとめるという連携のようだ。なかなか頭がいい。
先手必勝、俺の気を引きにきている一番近いオオカミに狐火をファイエル!
オオカミに狐火が命中して燃え上がる。オオカミは熱さと呼吸ができない苦しさでもがき苦しんでいる。
それを見た他の2匹は、燃え上がっている1匹に俺が意識を集中していると思ったのか、こちらへ向かって走り出して一気に距離を詰める。
俺は迫りくる2匹のオオカミへ向かって冷静に狐火をファイエル!
能力がDに上がってから俺の狐火は、同時に3つまで発動できるようになっている。
同時発動すると、1つ1つの大きさが小さくなるが、それでもかなり強力だ。
今回は同時に2つを発動させて2匹のオオカミに向けてファイエルした。
高速で飛んでいく狐火は1匹に当たり、1匹はなんと狐火を躱した。
驚いた、この狐火は結構な速さで飛んでいくので避けられることは滅多にない。それをあのオオカミはやってのけたのだ。
よく見ると、この1匹は他の2匹に比べ体が大きい。どうやらボス的なオオカミのようだ。
迫りくるオオカミは狐火の連射を躱してくる。
俺が焦っていると見たオオカミの口元が少し緩んだ。甘いんだよ、覇王の威圧!
「キャインッ!?」
覇王の威圧は全方位に向けて放たれるので死角はない。
俺から遠く離れない限り覇王の威圧からは逃げることができないのだ。
恐慌状態に陥ったオオカミに狐火をファイエル。
オオカミは逃げることもできずに狐火は命中して、オオカミを炎で包み込む。なかなか厳しい戦いだったが、俺は生き残った。なんちゃって。
小さめの2匹のオオカミを取り込んで得られるスキルは共に俊足だった。これは縮地があるのでパスして、大きめのオオカミからは危機感知を得られた。
頑丈と硬化とガードが被るので3つのうちから交換しようと思う。
さて、どれにするかと考えてみてもセットしない限り効果は分からない。
そうか、だったらセットすればいいのだ。一番最初に捨てようと目にした硬化をセットしてストックの空きを作る。
硬化をスロット3にセットすると使い方が脳内に流れ込んできた。
まあ、予想した通りの効果で、体を硬くするというものだ。
スライムの体を硬くしたら、動けるのだろうか? 柔らかいから回転走法や変形ができるのであって、硬化してできるのか試してみることにした。
……まったく動かない。体を硬化するとスライムの場合は動けないと脳内メモリーに記録した。
スーラ(D)
種族:グラビティスライム
種族スキル:重力魔法 吸収
天与スキル:創造魔法
スロット1:狐火
スロット2:覇王の威圧
スロット3:硬化
感知系ストック:気配感知 熱感知 危機感知
攻撃系ストック:王者の牙 破壊の牙 スラッシュ エレキカッター 酸弾 氷の瞳
防御系ストック:頑丈 ガード 回避
補助系ストック:立体起動 恐怖 エネルギーチャージ 縮地
その他ストック:捕食 血の契約
しかし、能力がDになってから、一向にランクが上がる気配がないな。
やはり大物を喰わないとランクは上がらないのだろう。だが、大物と戦うには些か心もとない。
もう少し強いと思えるくらいにならないと、そのためにはもう1つはスロットがほしい。
どこかにデカ物の死体が落ちていないかな。そんな都合のよい話はないな。自分でなんとかしよう。
その前に触手の練習だ。もし、人に出会えたら、触手が役に立つんだ!
ふにーーーっ! 伸びろーーーっ! 俺は無心で触手の練習をした。
その先にあるエッチなことなんか何も考えていないぞ。そう、俺は無心なのだ。まるでブッダのように石の上で無心で触手の練習なのだ!
「………」
石の上にも三年。俺はとうとう触手をものにした。
ふふふ、これで、触手でヌルヌルプレイができるのである! 邪心だと? 邪心の何が悪い! 俺は聖人君子でも仏でもないのだ! 力を得たなら、その力に溺れて何が悪いか!?
よし、旅立ちだ。本来、俺は山に向かっていたが、川に流されて山とは反対方向にきてしまった。
初志貫徹なんて言う気はない。
もし、山を目指すのであれば、あの大きな滝を上らなければいけないのだ。
あの滝を上るのは面倒だし、俺は高所恐怖症なのだ。
木の上ていどならまだ我慢できるが、さすがに数百メートルの落差がある滝を上ろうとは思わない。
川に沿って河原を進むと、森の木々の種類が変わってきた。
今までは背が高い大きな木だったので木と木の間がそれなりに離れていたが、この辺りからは今までより低くて細い木が密集していて密林のようになっている。
「………」
密林に入ってすぐにヘビのモンスターに出会った。
向こうはなぜか俺を見て冷汗を流している気がする。って、俺はナメクジじゃねぇっ! スライムだ!
まあいい、動かないのであれば、狐火で燃え尽きるがいい。ファイエル!
サクッとヘビのモンスターを倒して、先を進む。
ヘビのスキルは熱感知だったが、それはすでに持っているのでストックしなかった。
さらに進むと、ゲンゴロウのデカいのが出てきた。
最初はゴキブリが川の中にいると思ったんだけど、ゲンゴロウだった。しかし、デカい。
ゲンゴロウとは戦いはなかった。向こうは川の中、俺は陸の上。戦いになるわけがない。
だが、トカゲは違う。トカゲは水の中でも陸の上でも、木の上でも好き放題だ。
だから燃やしてやった。狐火は本当に優秀だ。
トカゲは熱感知を持っていた。爬虫類は熱感知ばかりだ。嫌になる。
あ、カエルだ。こいつもデカいな。うわっ!? 長い舌がいきなり出てきて俺はカエルの腹の中に納まってしまった。喰われてしまったわけだ。
カエルの腹の中で狐火をファイエルしたら自爆しそうだ。だったら、このままカエルを取り込もう。俺はスライム、スライムを殺さずに飲み込んだツケを命で払ってもらおう。
胃壁にべたりと張り付いてカエルを取り込む。カエルは異変を感じ暴れているが、もう遅い。
胃を突き破って内臓を喰い散らかしていく。最後には皮だけになったカエルを喰らい完食だ。ご馳走様。
『(ピコン)ディメンジョンフロッグを取り込みました。体内空間をスロットにセットしますか?』
なんだと? 体内空間? なんだか面白そうなスキルじゃないか。
俺は迷わず硬化を破棄して体内空間をスロット3にセットする。
『(ピコン)硬化を廃棄し、体内空間をスロット3にセットしました』
俺の脳内に体内空間の情報が流れ込んでくる。
なるほど、体の中に色々なものを貯め込めるのか。アイテムボックス的なスキルだ。いいスキルを得ることができた。カエルには感謝だ。
スーラ(D)
種族:グラビティスライム
種族スキル:重力魔法 吸収
天与スキル:創造魔法
スロット1:狐火
スロット2:覇王の威圧
スロット3:体内空間
感知系ストック:気配感知 熱感知 危機感知
攻撃系ストック:王者の牙 破壊の牙 スラッシュ エレキカッター 酸弾 氷の瞳
防御系ストック:頑丈 ガード 回避
補助系ストック:立体起動 恐怖 エネルギーチャージ 縮地
その他ストック:捕食 血の契約
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次話からザックの話に戻ります。