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035_スーラ、誕生する

35話から39話まではスーラの過去です。

読み飛ばしても大丈夫です。

 


『異世界に転生してみませんか』このフレーズに惹きつけられて製作会社の名も知らないゲームを買ってしまった。

 衝動買いなんて珍しくない。月に2タイトルか3タイトルのゲームを買うが、そのほとんどが衝動買いだ。

 買ったゲームのほとんどはクソゲーで、オープニングを見た瞬間に電源オフして二度と触ってないゲームも1タイトルや2タイトルではない。さて、今回のゲームはどうだろうか?


 ゲーム機にソフトを入れて電源を立ち上げると、オープニング画面は真っ黒で白抜きで『異世界に転生してみませんか』の文字が浮かび上がっているだけ。

 ヤバい、クソゲーの臭いがする。


 数秒後、いきなりアバターの設定画面になった。


「オープニングムービーどころか音楽もないのか? ……クソゲーじゃないことを祈るぜ」


 最初はゲームの難易度を決めるらしく、『イージーモード』『ミドルモード』『ハードモード』そして『ラッキーモード』を選択するようだ。てか、『ラッキーモード』ってなんだよ?


 カーソルを合わせてみると、それぞれの説明文が表示された。


 イージーモード

 全種族から種族を選べる。スキルは5つ選択できる。


 ミドルモード

 ドラゴンやフェンリルなど、ランクS種族以外を選ぶことができる。スキルは3つ選択できる。


 ハードモード

 亜人やスライムなどのランクDモンスターしか選ぶことができない。スキルは1つ選択できる。


 ラッキーモード

 完全にランダムでシステムが難易度と種族を決定する。スキル数もランダム。あなたの運を試してみませんか?

 初回選択特典があるのは、ラッキーモードのみです。ただし、ラッキーモードを選んだ場合、アバターの再設定はできません。


「なるほど……」


 この言葉以外になんと言えばいいかわからない。


「で、ラッキーモードの初回選択特典とはなんぞや?」


 カーソルを合わせても説明文は出てこない。


「さて、どれにするか……」


 などと迷うことはない。

 俺は常にヒューマン(地球人と同じような容姿)のアバターと決めているのだ。だが、もし面白そうなシステムがあるのであれば、その限りではない。

 つまり、俺が選ぶのは『ラッキーモード』だ!


「ぽちっとな」


 画面が切り替わりスロットのドラムが回っている画面になった。


「何が出るのか?」


 画面には、ストップボタンのようなものはない。ドラムの上にカーソルを合わせてクリックしても止まる気配もない。


「自然に止まるのを待つのかよ」


 やがてドラムは徐々にゆっくりになっていき、回転が止まった。


 画面には可愛らしい涙型のモンスター、スライムが表示されている。

 ただし、色は青ではなく黒色だ。


「種族はこの黒いスライムで決定らしいな」


 次に現れたのは、名前の入力画面だ。


 俺の名前は須浦(すうら)幸運(らっきー)

 この名前のおかげでどれだけ虐められたことか……。

 こんなキラキラネームをつけるクソな両親を呪ったこともある。まあ、今でも呪っているが。

 おかげで社会人になって家を出てからは、両親の住む家に帰ったことはない。


 そんなことはどうでもいい。

 俺はゲームのアバターに名前をつける時は、いつも『スーラ』にしている。俺の名前が『すうら』なので、『スーラ』だ。簡単だろ?

 名前を入力すると画面が切り替わって今度はスキルのようだ。

 だけど、ラッキーモードなので、スキルもシステムが勝手に選ぶようで、またドラムが回っている。ストップボタンは今回もない。


 今度もドラムは徐々にゆっくりと……じれったいくらいにゆっくりになっていき、やがて回転は止まった。


「スキルは1つかよ」


 だが、その画面に表示されているスキル名は……。


「創造魔法……だと?」


 これはいいスキルなのではないだろうか?

 いや、いいスキルに決まっている! ビバ、ポジティブシンキング!


 画面に『異世界へ転生します。準備はよろしいですか?』と出てきた。


 細かい説明はまったくなしか。

 まあいい。これでアバター設定は終わったようなので俺は『はい』を選択する。『はい』しか画面には出ていないので『いいえ』を選択できないということもあるが。


「ほいっと、『はい』を選択したぞ。次はなんだ?」


『異世界へ転生します。よい異世界ライフをお送りください』


 そのメッセージを読み終わったところで、目の前が真っ暗になって意識が朦朧となった。


「………」


 木漏れ日が眩しい。もう朝か……?

 ん? 木漏れ日? 俺はいつ外に出たんだ。昨夜は酒は飲んでないし……そうだ、衝動買いしたゲームをやっていて、寝落ちしてしまったのか……?


 しかし、木漏れ日を浴びるような場所は俺のボロアパートにはなかったはずだ、どうやって外にでたんだ? まさか夢遊病か!?

 俺は体を起こし……た? あれ? なんだ? 俺、体を起こしたよな? だが、そんな感覚はなく……どうなっている?

 まあいい、それより問題はここが森の中だってことだ。俺が寝ぼけているか、夢を見ているか……。よし、頬を抓って……。あれ、頬を抓って……俺の頬、どこ?

 えーっと、頬はどこに? 手はどこに? 私はだーれ?


「………」


 え!? 喋れない!? なんで!? どうして!? 俺、どうなった!?

 ヤバい、本気でなんなんだ……。


 ん、ちょっと待てよ……。そうか、あのゲームは、本当に転生したのか!?

 すると、俺は……スライム!? スライムなのか!?

 あれ、ゲームだろうに……。


 と、ところで、自分がスライムなのか、どうやって確かめるんだ?

 確かめなければ始まらない!


「………」


 結局、俺はスライムかどうかさえ今現在分かっていない。

 体をどうやって動かすのかさえ分からないのだ。

 まさかとは思うが、スライムではなく、赤ん坊になったということはないだろうか?

 ないな。赤ん坊なら喋ることはできなくても泣き声をあげることくらいできるだろうし、手や足をバタつかせることもできるだろう。

 しかし、今の俺にはそんな行動をしたという実感はない。

 まずは自分の体を掌握することから始めるのかよ。これはハードモードだな。いいだろう、やってやるぜ!


 自分をスライムだと仮定して、スライムの体を思い浮かべる。

 画面を見た時のスライムの形は、涙型だったはず。

 自分の下側を意識して波打つようにイメージする。これが正しい移動のイメージか分からないが、やってみるしかない。


「………」


 おっといけない。移動のイメージも大事だが、俺自身のステータスはどうなっているのだろうか?

 ステータスのないシステムなのか、あるシステムなのかでこれからのスライム生活の指針が変わってくる。


 ステータスオープン!

 ……何も出ないか。なら、ステータス! ウインドウ! ウインドウオープン! スペック! スペック表示! 能力! 能力開示! 能力オープン! システムオープン! システムコール!

 まったくステータスが出ない。ステータスというシステムがない可能性が高い。そう考えて対応するべきだろう。そういうシステムなら、移動の訓練に戻ろう。


「………」


 ふぬーーーっ! はぁぁぁぁぁぁっ! とーーーっ! せいっ! うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! うん、まったく動けない。

 こりゃ、根気が要りそうだ。だが、それが俺の闘志に火をつけるのだ!


「………」


 やったぞ! 俺は移動に成功したんだ! 波打つような移動は無理だったので、ピョンピョン跳ねる感じの移動を模索してみたが、それもダメだった。

 だから考えたのがキャタピラのように体の表面を回転させるようにイメージして訓練してみたのだ。

 すると、なんとか移動ができるようになった。


 ここまでにかかった日数は20日!

 この間、誰も襲ってこなかったのでよかったが、もし襲われていたらアウトだっただろう。

 しかし、移動するのに20日もかかるのかよ、赤ちゃんプレイよりはマシだが、キツイものがあった。


 移動はキャタピラ式の回転走法だが、視界は動かない。

 どうも、体の外側が回転しても俺の瞳、もしくは視界を確保する機能は一定の場所にあるようだ。ただし、俺の意思で約360度上下左右を網羅できるくらいには動く。

 体は動かないのに360度全ての視界がクリア。体は動かないのに視界は動くとか、絶対恐怖心を呷る演出だと思う。


 次はどこまで速く移動できるか、確認することにしよう。今の俺は恐らく最弱。

 最弱なら逃げ足だけは確保しておきたい。これはゲームではなく、現実(リアル)の異世界なのだ。だから、死んだら終わり。死ななければ、いつか最強になれる。そう強く思い逃げ足の確保だ。


「………」


 大分速く移動できるようになった。もはや、転生してスライムになってから何日経過したか分からない。

 まあ、まだ俺自身がスライムなのか、確認していないのだが……。多分、スライムだろう。じゃなかったら、この回転走法が説明できない。

 地球人的な容姿で転がって移動なんてアホすぎるし、視界が固定されている理由が分からない。


 

<<お願い>>

この作品をもっと読みたいと思われる方は、

評価してやってください。

また、感想をお待ちしています。


次は3月17日の更新になります。

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