033_サイドス国王、建国を宣言する
僕はユリアを連れて旧王都へ入った。
その道中に、ケンドレー男爵領を通ったけど、男爵領にはケンドレー家の者は誰もいなかった。
僕を産んだマリエーヌ、処刑されたケンドレー男爵の正妻ラビヌウス、側室ロイエイヌス、僕と血のつながった兄弟姉妹の誰もいなかった。
いたのはケンドレーの家臣たちだけだった。
「カリアウス、久しぶりだね」
カリアウスは祖父の頃からケンドレー家に仕えてくれている家宰だ。
元々白髪だったけど、今ではその白髪がかなり薄くなっているし、かなりシワも増えた。
「ザック様におかれましては、大変なご出世をされたよし、お喜び申しあげます」
全員が頭を下げる。
「ところでその姿は何?」
彼らは全員死に装束を纏っていた。
「我ら一同、ザック様にお手打ちにされても文句は言えぬ者たちでございます。ただ、できることでしたら、家族たちはお許しいただければ幸いにございます」
「なぜ僕が皆を手打ちにしなければいけないの?」
「我らはザック様が虐げられていても何もせず、見ていました」
「なんだ、そんなことか。その時はあのクソ親父がケンドレー家の当主だったんだ。仕方がないと思っている。それに、カリアウスは僕を差別していなかっただろ?」
「それはそうですが……」
「それにカリアウスだけじゃなくマレミスたちも僕に優しくしてくれた。僕は皆に遺恨はないよ」
「ありがたきお言葉……。感謝の念に絶えません」
僕はそこで話を切り上げて全員に罪を問わないと改めて宣言し、ケンドレー領は当面カリアウスに任せて僕は王都に向かった。
王都に到着すると、スーラとクリットが僕たちを迎え入れてくれた。
「ザック様、謀反人たちの処分をお願いいたします」
真面目秘書官モードのスーラが謀反人たちのリストを僕に手渡してきた。
僕はそのリストをざっと目を通し、いろいろツッコミたかった。
「なんでケリス・アムリスやロイド・ケンドレーまでいるの?」
ケリス・アムリスは僕の元婚約者。僕との婚約を破棄した当人だ。
そして、ロイド・ケンドレーはケンドレー家の長男。つまり僕の異母兄。
「ケリス・アムリスは父親の仇だと言っていました。それとロイド・ケンドレーはザック様の世では出世できないと言っていました」
バカなのかな……? バカなんだろうな。
まったくなんで僕と血のつながりがある人や家族になる可能性があった人たちは、なんでこんなにバカなんだろうか?
僕ってそういう意味ではとても不幸な星の元に生まれついてしまったんだろうな……。
いや、あのクソ親父が全ての諸悪の根源だったんだ。あいつと縁を切ったことで出世できて、今では国王だ。しかも、あいつが死んだらユリアに出会えることができた。あいつ、どれだけ疫病神なんだよ!
「それで、この者たちはどうしますか?」
「どうすると言ってもね……」
許すという判断もあるかもしれないけど、それでこのリストに載っている人物たちは改心するのかな?
「ゼルダ、どう思う?」
「そうですな……。改心する者は罪を軽くし、改心する気のない者は死罪でしょうか」
そうだよな……。
僕もそれくらいしか思い浮かばないよ。
「おそれながら」
「何、スーラ?」
「改心する者は罪を減じ、改心しない者は奴隷に落として一生地獄を見せてあげましょう」
うわー、スーラが悪魔に見えるよ。
「簡単に死なせるのは、この者たちには生温いと存じます」
「カルモンたちはスーラの提案をどう思う?」
カルモンやゼルダたちの意見を聞いたが、皆顔を見合わせて頷いた。
「某たちはスーラ殿の提案のようにされるがよいと存じあげます」
ゼルダがそう言うと、皆がうんうんと頷く。
「分かった。このリストに名前がある者に罪を減じる機会を与え、改心する者は罪を減じる。そうでない者は、奴隷に落として鉱山へ送る」
皆が僕に頭を下げた。
他にも色々なことを決めて、僕はユリアが待つ部屋に帰った。
「遅くなってしまい、申しわけない」
「いえ、ザック様がお忙しいのは分かっていますので、お気になさらないでください」
ユリアは中庭の白い丸テーブルでお茶をしていた。
「ザック様もお茶はいかがですか?」
「うん、もらうよ」
僕はユリアの反対側の椅子に座って、彼女の顔を見た。
彼女はいつ見ても白く澄んでいる肌と青く澄んだ瞳をしていて、鼻筋がすっと通っていて美しい。
メイド、正しくは侍女らしいけど、ユリアつきのメイドがお茶を淹れてくれて、僕は湯気から漂う香りを楽しんだ。
とても心が落ち着くいい香りだ。
「うふふ、美味しそうに飲みますね」
「実際に美味しいからね」
「ニーナの淹れてくれたお茶は飲みやすくて美味しいので、私も大好きです」
ユリアの後ろに控えていて、僕にお茶を淹れてくれた20代と思われる茶髪茶目のメイドはニーナというのか。
たしかにこのお茶は、心を落ち着かせる魔力でもあるかのような味だ。
「ニーナ、美味しいよ。ありがとう」
「恐縮にございます」
ニーナは僕に軽く会釈をする。控えめで侍女の鏡だね。
「さて、ユリアと僕の結婚式はサイドスで挙げることになるけど、いいかな?」
「私はすでにアイゼンの名を捨てた身。言わば故郷を捨てた身です。ザック様がよいと仰る場所で構いません」
僕に気兼ねして自分を押し殺しているわけではない……よね?
ユリアの母はすでに他界しているため、他の元王族を参列させてもいいけど……。
元王族は数カ月前まで王族だったこともあり高飛車な物言いをするため、カルモンたちがかなり怒っていた。
僕も彼らにいい感情を持っていない。
僕のことは簒奪者や謀反人と言っても構わないけど、彼らはユリアも口撃する。自分たちは何もしなかったくせに、戦いを早く終わらせようと努力したユリアを口汚く罵倒するのは許せない。
思わず殺意を覚えてしまったので、あれ以来僕は元王族に会っていない。彼らの代表としてユリアの兄で第五王子だったカールを侯爵に叙して、元王族の全てを引き取らせることにした。
ユリアは僕に身売りしたと、元王族の中では言われている。
カールはそのユリアと良好な関係を築いている元王族で、自分の立場を理解している人物だ。
たしか僕より7歳年上だと聞いているけど、もう少し年上に見える。多分、バカな親族のために苦労しているんじゃないかな。
僕のそばに元王族を置いておくと皆殺しにしそうだから、カールにお願いした。カールもいい迷惑だと思うけど。
旧王都からサイドスへ到着した。
僕は急ピッチで城を築いている。創造魔法があるから何とかなるけど、さすがにきつい。
今まではただの屋敷でよかったけど、これからはサイドス王国という国の首都になるので立派な城を築けとスーラに言われた。
そのスーラは僕の横でマナポーションを持って立っている。また僕のお腹がたっぷんたっぷんになるまでマナポーションを飲ませる気なのは、すぐに分かった。
『気合が足りない! もっとイメージを明確に! 魔力が枯渇したのか? じゃあ、これを飲め!』
悪魔のような笑顔を浮かべたスーラが僕の口にマナポーションを流し込んでくる。
こんな日が何日も続いて、僕はやっとサイドス城を築き終えた。
内装はアンジェリーナが手配してくれた職人に任せるけど、本気でこの何日かはきつかった。
そんなある日、僕はボルドン伯爵から反抗的な勢力を掃討したと報告を受けた。
これを以て僕は旧アイゼン国を平定したと国内外に宣言することになった。
そして……。
「アバラス・カルモン・マナングラードを侯爵に叙すると共に近衛騎士団長に任ずる」
「は、ありがたき幸せ」
論功行賞をサイドス城の謁見の間で行っている。
カルモンは最後まで褒美を辞退していた。だけどカルモンが褒美を辞退してしまったら誰が褒美をもらえるのかと説得してやっと了承してくれた。
「ゼルダ・エンデバーを伯爵に叙すると共に軍務大臣に任ずる」
「ありがたき幸せにございます!」
カルモンが近衛騎士団長で、ゼルダは軍務大臣。
サイドス王国では騎士団を置かない代わりに近衛騎士を置いた。
近衛騎士団長はサイドスの町とサイドス城の防衛に関する全権を持っていて、軍務大臣はサイドス王国軍の指揮権を持っていて国防を担う。
つまり、軍務大臣(サイドス王国軍)はサイドスの町では一切の指揮権を持っていないことになる。
「ケリー・フーリガンを子爵に叙すると共にサイドス王国軍第一軍の司令官に任ずる。階級は中将である」
「ザック陛下に忠誠を!」
国軍の規模は1万5000人。この規模の軍団が第一から第六まである。
ケリーはその第一軍の司令官に就任してもらうことにした。
本来であればジャスカにも軍団を預けたかったけど、ジャスカは僕の元を去ってしまった。
僕と仲たがいしたわけではなく、ソルジャーギルドの剣王の椅子に空席があるので、近々剣王選定戦がある。その剣王選定戦に出場するため、ジャスカはソルジャーギルドの総本部があるレンバルト帝国に向かったんだ。
彼女の夢は剣聖になることなので、ここで剣王の座に就いておきたいと言っていた。
今回、僕の家臣として爵位と国の役職をもらってくれたカルモンも、剣聖の座から身を退いた。
ソルジャーギルドでは傭兵として貴族の下で働くのは問題ないが、S級以上の者が国や貴族に仕えるのは禁止されている。
ソルジャーギルドとしては、国や貴族の影響力を考慮してそのような規約があるそうだ。
僕のためにカルモンが剣聖の座を退き、ジャスカは自身の夢のために僕の元を去った。でも、いつかジャスカは帰ってきてくれると僕は信じている。
武官たちの論功行賞がどんどん進んで、今度は文官の論功行賞に移る。
「アンジェリーナ・ザルファを伯爵に叙し、財務大臣に任じる」
「謹んでお受けいたします」
アンジェリーナはロジスタの財政を健全に保ってくれただけではなく、移民を受け入れて食料不足が深刻な問題になってしまっても冷静に対応して1人の餓死者も出さずに済んだ。
それに今回の戦いの補給もつつがなく行ってくれた。彼女以外にサイドス王国の財務大臣の適任者はいないだろう。
「ジェームズ・アッシェンを子爵に叙し、農林水産大臣に任じる」
「あ、ありがたき幸せにございます!」
ジェームズは地味な印象だけど、ロジスタの時からサイドスに移っても農地の開発に貢献してくれた。
彼がいたからサイドスの農業事業は円滑に進んだと僕は評価しているし、誰もそのことに異論はなかった。
文官の論功行賞も終わって今度は諸侯の番だ。
「ダンケル・ボッスを侯爵に叙し、サムラット領に領地替えとする」
「ありがたき幸せにございます」
サムラット領は交易で栄えている土地で、これまではサムラット侯爵がその財力によって権勢を誇っていた。
ボッス伯爵の領地は内陸にあるので、侯爵になって海と交易拠点を得たことはとても大きなことだと思う。
他の諸侯にも領地を与えたり、陞爵させたり、金銭を与えて論功行賞を終えた。
また、この論功行賞を終えてすぐに僕は、サイドス王国の建国を正式に宣言した。
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034話は人物紹介になります。
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