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031_独立勢力、国王を名乗る

 


 第四王子派と王太子派の捕虜について処分を下したので、僕はロジスタへ向かおうと思う。


『ザック、俺はこの旧王都に残るぞ』

『どうしたの? 旧王都に何かあるの?』

『この旧王都にはまだ粛清しなければならない奴らが多い。俺がそいつらを粛清しておいてやる』

『……粛清対象は?』

『まず、第四王子派と王太子派で国王の殺害を主導した文官と知っていた文官。他に城の宝物庫から宝を盗み出した奴らだ』

『なるほど……。でも、全員を死罪にしたら文官が足りなくなりそうだから、ほどほどでね』

『任せろ! ザックは俺に全権委任すればいい。それで旧王都を掃除しておいてやる』


 僕は旧王都のことをスーラに任せることにして、ロジスタに向かうことにした。

 王都のことを旧王都と言っているのは、このクルグスをアイゼン国のように王都にするつもりはないからだ。

 僕の本拠地はサイドスであって、このクルグスではないから。

 人口がまったく違うけど、これから政治の中心はサイドスに移るから、民や商人たちもサイドスに移り住むと思う。


「スーラに全権委任して、このクルグスのことを任せることにして、僕はロジスタに向かう。カルモン、ゼルダ、ジャスカ、ケリー、パロマ、レオン、リサは僕と共にロジスタに。クリットはスーラを補佐してやってほしい」

「承知しました」

 カルモンが答えると、皆がそれに続いた。


「ザバルはどうする? 僕とくるか?」

「我が君、俺はロジスタへお供したく」


 ザバル・バジームは元剣王でカルモンに右腕を切り落とされた人物だ。

 でも、僕が創造したエリクサーによって右腕はくっついた。カルモンの剣があまりにも鋭くて切り口が綺麗だったのでなんの問題もなく腕を動かせるように回復している。

 おかげで、僕に恩を感じたのか、剣王ザバルは僕の家臣になりたいと言ってくれた。

 そして、今はソルジャーギルドに剣王の地位を返上して、僕の一家臣になっている。


 僕もスーラからエリクサーを創造しろと言われた時には無理だと思ったけど、鼻血を出しながらがんばったらできてしまった。

 さすがにエリクサーまで創造できると思っていなかったので、僕どころかカルモンたちも驚愕で開いた口がしばらく塞がらなかったのを覚えている。


「それじゃ、ザバルはロジスタに。他は何かないか?」


 カルモンが一歩前に出てくる。なんだろう?


「すでに国内に殿の敵はおりません。王を名乗りませ」


 カルモンが膝をついてそう言ったのを皮切りに、全員が次々とそれに倣う。


「僕が王……」


 弱小貴族の四男に生まれ、親に虐げられ、婚約破棄も経験した。

 そんな僕がとうとう国王か……。


「分かった。サイドス王を名乗ることにする。首都はサイドスにしようと思うけど、どうかな?」

「問題ありません。サイドスは開発すれば200万の民を支える生産力があります」

「それじゃ、スーラは僕が王を名乗ったことと、サイドスを王都にすることを布告しておいて」

「承知しました。その上で、各貴族と代官に軍を率いてロジスタへ向かうように命じましょう」

「ん? しかし、ロジスタは僕たちがいけば問題ないと思うよ」

「戦うためではありません。貴族の当主や代官が自ら軍を率いてくればよし。もし軍を出さなかったり、当主や代官がこなかったり、軍の規模が少なかった場合はその者を排除する口実になります」


 スーラは色々と考えているね。


「たしかにスーラ殿の言う通りですな。私もそのようにするべきと心得ます」


 ゼルダが同意したことで、皆も同意していく。


「分かった。スーラの意見を採用する。上手くやってくれ」

「はい」


 こうして僕はサイドス王を名乗り、各地の権力者たちに軍の派遣を命じた。


 ▽▽▽


 まったくモンスターの勢力が衰えない。

 このままでは我らのほうが疲弊して軍を維持できなくなる。

 今、このロジスタには国軍と周辺貴族の3万の兵が集結している。

 兵糧は問題ないが、毎日の戦闘で兵士たちだけではなく、将たちも精神的にキツくなっている。


「ボッス伯爵、サイドス殿は本当にくるのであろうな?」

「ケントレス侯爵、すでに王都はサイドス様の手にあります。数日のうちには援軍に駆けつけてくれましょう」

「だといいのだが……」


 ケントレス侯爵は心配なのだな。

 今はこの国の王を名乗ったサイドス様がケリス・アムリス嬢に婚約破棄された時、なんの対応もしなかったのだから無理もない。

 あの時、婚約を橋渡しした家としてアムリス家に強く抗議していれば、ここまでサイドス様に引け目を感じることもなかっただろうに。


「しかし、兵士たちもそうだが、将らも疲弊している。どれだけ持ちこたえられるか難しいところですぞ」

「持ちこたえるしかありませんぞ、キャムスカ伯爵」


 アスタレス公国と繋がっていたキャムスカ伯爵でも、自領の危機とあっては謀反や反抗などしていられないか。

 しかし、キャムスカ伯爵は自分が謀反を画策していたことを、サイドス様が知っていることを知らないはずだ。もし、知っていれば、サイドス様の国を認めるわけがない。


「我らが崩れれば、隣接する我が領もタダでは済まない。だが、将兵の疲労は限界に達しようとしている……」


 それはここにいるどの貴族も同じだ。皆、自分の領地を守るために必死でモンスターと戦っている。


 元々、ロジスタの地はモンスターが多かったが、それを魔の大地へ封じ込めたサイドス様を移封などするからこのようなことになってしまうのだ。

 王都の連中は本当に碌なことをしない。

 しかも、王都から派遣された代官は魔の大地に築かれた要塞ロジスタークを守りきれず、モンスターをロジスタの中に入れてしまった。


 すでに1年以上も軍を展開しているケントレス侯爵やキャムスカ伯爵などはたまったものではないであろう。

 それは周辺の貴族も同じで、長期間軍を維持するための莫大な費用を捻出しなければならず、仮にモンスターを駆逐できても財政破綻寸前の家もある。

 いや、すでに破綻している家も少なくないだろう。


 王都で国王の座を争っている暇などないというのに、あの第四王子と王太子は何を考えているのか。

 もっとも、第四王子はサイドス様に処刑され、王太子はどこかに身をひそめている始末。

 私とてユリア様を奉じてと思わなかったわけではない。

 しかし、現実を考えれば、ユリア様を奉じる勢力は少ない。だから、第四王子派と王太子派に高く自分を売り込もうとしたが、まさかサイドス様があそこまで強いとは思ってもいなかった。

 いや、強いのは分かっていたのだ。ロジスタからモンスターを駆逐して、アスタレス公国の第五公子の首を取ったのも単独だった。戦においてサイドス様の右に出る者などいない。


 私はユリア様とサイドス様の間を取り持って、新しき国で重きをなす。

 そのためにも、ここでモンスターに蹂躙されるわけにはいかないのだ。


 その3日後、我らはモンスターの大攻勢に曝されることになった。

 今までにないほどのモンスターの数と苛烈な攻撃は、3万以上の軍を擁する我らさえ飲み込みそうなほどである。

 陣の中は慌ただしく伝令が出入りし、皆の顔にも疲労の色が隠せない。


「第4防衛ラインも抜けられてしまった。第5防衛ラインを突破されるのも、時間の問題だ……」

「もし第5防衛ラインが突破されれば、もはや我らの本陣しか残っていない……」


 ケントレス侯爵とキャムスカ伯爵は悲壮感さえ漂わせるほどの面持ちだ。


「陣を後退させましょう。さすれば、まだ……」

「我らはすでにロジスタのほぼ全てをモンスターに奪われた。陣を後退させるということは、ケントレス領とキャムスカ領にモンスターを引き入れることになる。それだけは……」


 ロジスタの全てがモンスターの生息域になろうとも、ケントレスとキャムスカにモンスターを入れるわけにはいかない。


「申し上げます! 第5防衛ラインが突破されました!」

「くっ!?」


 私は立ち上がる。


「各々が兵を指揮しモンスターを食い止めましょう。これからは生きるか死ぬかの戦いですぞ!」

「こうなっては是非もなし!」

「やるしかあるまい!」


 私の言葉で皆が立ち上がり陣を出ていく。

 私も陣を引き払い、兵を率いてモンスターとの決戦に向かう。


「皆、ここで我らがモンスターに負ければ、多くの民がモンスターの餌食になる。なんとしても食い止めるのだ!」

「おおおぉぉぉっ!」


 私は死を覚悟し、剣を抜いた。

 もう戻れないかもしれないが、ここで退くわけにはいかないのだ。


「いくぞ!」

「後方に土煙が見えます!」

「何!?」


 まさか、後方にもモンスターが!?


「くそっ、前方だけじゃなくて後方にもモンスターかよ。俺たちはここで死ぬんだ……」


 兵の誰かの言葉が聞こえた。

 もはやこれまでか……。


「おい、あれは!?」

「こ、後方の土煙は、モンスターじゃないぞ!」


 何!?

 私はこの世界に神がいるのだと、その時初めて信じたのかもしれない。


「あれは!?」

「み、味方だ!?」


 土煙を上げてこちらにばく進してくるのは、間違いない。


「サイドス様!」


 薄い紫色の髪の毛をたなびかせて巨大な馬を走らせる姿は、正に神のような神々しさだ。


「ザック・サイドスだ! 道を開けろ!」


 戦場にこだまするその声を聞き、私は慌てて兵らに命令を出す。


「道を開けるのだ! 巻き込まれるぞ!」

「道を開けろ!」

「道を開けるんだ!」


 私の配下の将が道を開けるように兵士たちに命じる。

 私は大きくなってくるサイドス様の姿に、胸の高鳴りを抑えられない。


「ザック・サイドス見参!」


 そう言ってサイドス様は我らの前を疾走し、モンスターの大群に突撃していった。

 巨大な馬に蹴り殺されるモンスター。その馬の背に跨り青く輝く剣でモンスターを一刀両断にするサイドス様。

 これは奇跡ではなく、現実なのだ。体の芯から震えがくるのが分かった。


「これで、我らは助かった……」


 

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