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030_独立勢力、戦後処理をする

 


 僕たちはアスタミュール領で第四王子派と王太子派の連合軍と戦い、大勝利を収めた。

 第四王子派の首脳陣はほぼ捕縛し、王太子派も半分は捕縛できた。

 王太子派の首脳陣の捕縛が少なかったのは、半分が戦死したからで、両派閥とも逃げた首脳陣は少ない。


 アスタミュールの戦いによって、大軍がたった2000の軍に完膚なきまでに打ち負かされた情報は国中に伝わり、僕たちが王都に入った時には抵抗らしい抵抗はなかった。

 僕たちと戦うと言った時点で、兵士が逃げ出すことがあちこちで起きているためでもある。


「殿、ジャスカがサムラットの領都アシュタットを落とし、こちらに向かっていると報告がありました」

「ジャスカ軍の被害は?」

「死者はゼロです。重傷者は2人いましたが、殿がお作りになられたエリクサーによって事なきを得ています」

「そう。よかった」


 カルモンの報告を聞いて胸をなでおろす。


 それから5日後、ジャスカも合流してこれで全員集合だ。

 その間に僕たちは王都周辺の残敵を掃討した。


「第四王子は捕縛していますが、王太子は東部へ逃げたようです。東部の各家に王太子を捕まえて差し出すように命令しましょう」

「ゼルダに任せる」


 第四王子派の面々は、主力であるサムラット侯爵の本拠地であるサムラット領に逃げたけど、すでにジャスカがサムラット領を占領していたので、サムラット侯爵と第四王子を捕縛できた。

 王太子を逃がしたのは大きな失点ではないが、それが面倒にならなければいいと思う。


「ザック様。愚か者のケンドレー男爵とその息子です。どのように殺しますか?」


 スーラの中では殺すのが決まっているし!?

 とは言え、ケンドレー親子の返答次第では殺すことになる。

 親殺しか……。特に感慨はないかな。

 目の前で縄をうたれ猿ぐつわをされているケンドレー家の者たちとは、とっくに縁が切れている。それに10年以上前から彼らを家族だと思うようなことはなかった。


 僕たちは王都の中心地に建っている王城キングカリアスを接収している。

 代々の王族が居城にしてきたが、僕たちが入る前に財宝などは持ち出されていた。スーラに言わせると、火事場泥棒らしい。

 王の居城だった城なので、広い謁見の間で戦争犯罪者たちと面談する。もちろん、僕が玉座に座っている。


「猿ぐつわを」


 僕は言葉少なく、猿ぐつわを外すように兵士に指示した。


「ザック、この親不孝者が!」


 いきなり親不孝と言われても、この男が親として僕に何をしてくれただろうか?


「てめぇ、ザックのくせに俺たちに縄をうつなんて生意気だ!」


 敵である第四王子派のウォルフに縄をうつのは当然のことだが、こいつは何を勘違いしているのかな?


「ザック、すぐに縄をとけ。そうすれば今回のことは不問にしてやる」

「そうだ、早く縄をとけ!」


 どうやら、2人は自分たちの置かれている立場が分かってないようだ。

 誰がこの場を支配して、2人の命を握っているのが誰か、分からせる必要かあると思う。


「ゼルダ、この2人の処分は何が妥当か?」

「されば、死罪が妥当かと。殿の血縁者でもありますので、絞首刑ではなく斬首でよろしかろうと存じます」

「「なっ!?」」


 ゼルダの言葉に、2人が声を失う。


「なななななな、何を言うか!?」

「俺たちはザックの家族だぞ!?」


 未だにこの2人は気づいていないのか、頭が弱すぎて理解できていないようだ。この2人は僕と血の繋がっただけの他人であり、敗者であることを。

 敗者が勝者に強気でいられる理由はなんだろうか? 僕には思い当たらない。

 カルモンとゼルダは呆れた顔をしているし、スーラは無表情を装っているけど鼻の穴がぴくぴく動いているから、きっと面白がっているんだろうな……。


 この2人の処分をどうするか?


 無罪とは言わないけど軽い処分で済ましたら、他の第四王子派の貴族に厳しい処分ができなくなる。血族を助けそうでない者に厳罰を与えれば、間違いなく不公平な処分だと言われるだろう。

 逆に死罪にした場合は、僕自身が親殺しと言われることかな。だけど、この国の全てを奪うと決めたのだから僕の略奪者に、親殺しが追加されたってどうでもいいことだ。

 それにこの2人を再び世に出したら、間違いなく僕に反逆するだろう。僕はそれでも構わないけど、この2人に巻き込まれる人はたまったものではないと思う。

 やっぱりこの2人は……。


「ゼルダ。この2人は死罪に処す」

「はい」

「「な、何を!?」」

「黙れ!」


 ゼルダが2人を殴って黙らせる。正直言って、これ以上この2人に家族だとか言われたくないし、聞きたくもない。

 2人は再び猿ぐつわをされて引きずられるように連れていかれた。


「次は第四王子と第四王子派の主要貴族たちです」

「入れてくれ」


 ケンドレー親子に対しては僕の個人的な気持ちもあったからとても厳しい処分をするけど、ここからはケンドレー親子にしたような短絡的な結論を出すのはいけないだろう。

 国内のことだけど、これは外交と同じなんだと考えて主張と妥協の折り合いをつける必要があると思う。


 第四王子と8人の主要貴族が兵士に囲まれて入ってきた。

 ケンドレー親子のように暴れないので、縄はうっていない。

 ただし、暴れたり騒いだりすれば、容赦なく切り捨てると事前に宣言している。


「さて、アイゼン国第四王子ゴウヨー・アイゼン。このままだと死罪だが、何か言いたいことはあるか?」

「簒奪者に言うべきことはない」


 随分と潔いことだ。


「ならば、その後ろに控えている者たちに聞く。言いたいことはあるか?」


 第四王子の後ろには、サムラット侯爵、アムリス侯爵、アッセンブルグ侯爵、ゾード伯爵、トールム伯爵、ウインザー伯爵、ベリッツ伯爵、オスマン伯爵がいる。

 彼らは第四王子派を主導してきた貴族たちだ。


「なれば、某から一言いいかな?」

「アッセンブルグ侯爵か、申せ」


 アッセンブルグ侯爵は領地を持っていない宮廷貴族と言われる貴族で、国軍の将軍をしていた30歳くらいの人物だ。


「我らはアイゼン国の王族である、ゴウヨー殿下を奉じて国を安定させようとしたが、サイドス殿は何をもって軍を起こしたのか」


 軍を起こした理由か、それは簡単だ。


「なんの瑕疵もないこのサイドスの伯爵位を剥奪したこと。理由はそれだけで十分であろう」

「笑止! 王命を無視し続けたサイドス殿が爵位を剥奪されるのは、当然のことであろう!」

「おかしなことを言う。このザック・サイドスがロジスタから移封される時、5年間の軍役の免除を受けた。なのになぜ軍役を課されなければならぬ? なんの罪もないのに再び移封されなければならぬ? アッセンブルグ侯爵がその立場であれば、唯唯諾諾と受けるのか?」


 アッセンブルグ侯爵は言葉を呑んだ。

 前提となっていることを無視した話で僕を謀反人や不忠者と言うのは勝手だけど、それで僕が納得しなければ意味はないのだと彼らは考えるべきだ。


「陛下の命であれば、受けるべきであろう!」


 声をあげたのはアムリス侯爵で、他の貴族も頷いている。


「死んだ国王がロジスタのモンスター討伐を命じたのは、ゾード伯爵であろう。それがなぜこのサイドスになったか、知らないと思っているのか?」


 僕が睨みつけるとアムリス侯爵は後ずさった。

 そもそもロジスタのモンスター討伐は、国王がゾード伯爵に命じると言った。

 ゾード伯爵は第四王子派の主要メンバーだったことから、アムリス侯爵たちが横やりを入れることになった。

 そして、いつの間にか僕の名に変わっていたんだ。もちろん、第四王子派が画策してゾード伯爵という名をサイドス伯爵に書き換えた。


「お前たちがやってきたことは分かっている。それを無視して王命のなんたるかを語るのであれば、聞くだけ無駄だ」


 スーラのおかげでここにいる第四王子と貴族たちの動きは筒抜けだ。

 この王城キングカリアスにも多くのスーラの分体が入り込んでいるんだから。


「どういうことだ!? ゾード伯爵にそのような王命が下っていたとは聞いていないぞ!」


 アッセンブルグ侯爵が他の貴族たちの顔を見て今の話のことを問いただす。

 アッセンブルグ侯爵は第四王子派だけど、真っすぐな性格なので宮中の権謀術数にはかかわっていない。

 彼が第四王子派で重用されたのは、戦の強さゆえだ。宮中の権力争いには興味がなく軍人として国に仕えていた。


「アッセンブルグ侯爵は知らないようだな。サムラット侯爵、国王がどうして死んだのか、教えてやったらどうだ」

「何を言うか! 陛下は不治の病だったのだ!」


 目の前にいる第四王子派の貴族の中で、国王の病名が火炎症だったのを知らないのはアッセンブルグ侯爵だけだ。

 生真面目なアッセンブルグ侯爵がそれを知ったらどう反応するか、楽しみだ。


「アッセンブルグ侯爵、あのような簒奪者の言うことに耳を傾けるでない!」

「そうか、アイゼン国では火炎症は不治の病なのか。遅れている国だな」

「ば、バカなこと!?」


 サムラット侯爵たちは口々に否定するが、アッセンブルグ侯爵は僕の言葉を信じたようだ。


「貴様ら! 陛下に何をした!?」

「落ちつけ、アッセンブルグ侯爵!」

「これが落ちついていられるか!? ゴウヨー殿下! 殿下は陛下のことを知っておいでだったのか!?」


 アッセンブルグ侯爵が8人に詰め寄る。

 このままでは殴りかかりそうなアッセンブルグ侯爵を8人から引きはがし、僕は話を続けた。


「第四王子と王太子は国王が火炎症だということを伏せて、効果のない治療を施すように侍医に命じた。それを直接侍医に命じたのはウインザー伯爵だったな」


 侍医の管轄は内務省であり、ウインザー伯爵は内務大臣である。


「おまけに王太子派のケストミア伯爵もその場にいたぞ」


 ケストミア伯爵は内務副大臣だから、内務省のトップ2人、そして主要派閥である第四王子派と王太子派の重鎮から命じられては、侍医も否とは言えなかったのだ。


「貴様らぁぁぁぁっ!」


 第四王子を含めた8人を怨嗟のこもった目で睨むアッセンブルグ侯爵。


「く、私は知らん! そんなことは私は指示していない! ウインザー伯爵が勝手にやったことだ!」


 ここにいたっても第四王子は言い逃れしようとする。往生際が悪い。


「そうか、ウインザー伯爵の報告を聞いた時、70年物のジャグバワインを傾けて陽気に笑ったのは誰だったかな?」

「なぜそれを!? うっ!?」


 第四王子は思わず口を滑らし、手を口に当てる。

 しかし、もう遅い。アッセンブルグ侯爵は血の涙を流しながら、第四王子に与したことを悔やんだ。


 やっぱり僕には外交はできない。だから、僕の心に正直になろうと思う。


「アッセンブルグ侯爵。後悔するなら僕に仕えないか?」


 第四王子たちに死罪を申し付けた後、残ったアッセンブルグ侯爵に聞いてみた。


「……ありがたきことなれど、このような無能ではサイドス殿の役には立てますまい」


 アッセンブルグ侯爵は頑なに僕の誘いを断った。

 多分、第四王子たちは許せないが、簒奪者である僕を受け入れることはできないんだと思う。


 

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