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029_独立勢力、剣聖対剣王を見守る

 


 カルモンが剣聖だったことを知らなかった僕は、スーラにも笑われる始末だった。

 しかも、爆笑されてしまった。何がそんなにおかしいのか。


「この鬱憤を敵に叩きつける!」


 目の前に布陣する第四王子派と王太子派の軍を睨みつける。


「殿、何があったのかは知りませんが、目が座っておりますぞ」


 原因であるカルモンだ。

 今日も剣聖の証である聖剣を腰に佩いているが、僕はその聖剣を持つ人物が剣聖だと知らなかった。


「カルモン。今日は敵を蹂躙するよ。一人も逃がさないつもりで!」

「分かっております。ここで両陣営の軍を徹底的に潰します」


 カルモンが頷き、敵陣営を鋭い視線で見つめる。


「しかし、かなり減っておりますな。4万、いや、3万といったところでしょうか?」


 ゼルダの言うように、第四王子派と王太子派の兵数は当初の7万から大きく数を減らしている。僕たちと対陣する今では半数くらいにまで兵数が減っている。

 お互いにお互いを信用できずに軍の出し惜しみをしている状況なので、こうやって数が減ってしまったのだ。何をやっているのかと、呆れるしかない。


「ん? 誰か進み出てきますぞ?」


 僕はゼルダのその言葉で、敵陣からたった1人でこちらに進み出てくる人物を見た。

 視力も強化しているので、その人物の姿がよく見える。

 赤毛で無精髭を伸ばした、40歳くらいの人物。その体は鎧の上からでも鍛え上げられているのが分かる。


「む、あれは……」

「カルモンの知り合い?」

「……そのようですな」


 カルモンの知り合いということは、ソルジャーギルド員かな?

 こんな場所に出てくるってことは、それなりの人物だと思う。


「剣聖、アバラス・カルモン・マナングラードに一騎討ちを申し込む! いざ、勝負!」


 どうやらあの人物はカルモンと一騎討ちをするために出てきたようだ。

 こういった戦場では珍しくもないけど、相手が剣聖だと分かっていて一騎討ちを申し込むのだから、剣の腕に相当な自信があるんだろう。


「殿、一騎討ちを受けますが、よろしいでしょうか?」

「大丈夫。なんだよね?」

「もちろんです。すぐに蹴散らしてきます」


 カルモンの顔に、驕りはない。

 僕が頷いたのを見たカルモンは、僕に一礼してゆっくりと進み出ていった。


「ザバル・バジーム。久しぶりだな」

「剣聖殿が姿をくらましたのが6年前だからな」

「少しは剣の腕を上げたか? 剣王殿」


 赤毛の人物は剣王ザバル・バジームというらしい。

 剣王と言えば、剣聖のすぐ下の位階だ。カルモンが強いのは知っているけど、その剣聖カルモンに次ぐ地位の人物が出てきたので、カルモンが心配で心が落ちつかない。


「あんたの時代も終わりだ。次はこの俺、ザバル・バジームが剣聖になるぜ」

「ふっ、某に3度挑戦して3度とも軽くあしらってやったが、それを覚えていないようだな」

「それも6年以上前の話だ! 俺は死に物狂いで剣の腕に磨きをかけたが、お前は隠棲し無駄に年を重ねた! 俺が剣聖カルモンに引導を渡してやるぜ!」

「威勢だけは相変わらずだな。口では剣聖になれないぞ」

「ほざけっ!」


 10メートルくらいの距離を取って、口撃の応酬をする2人。それもそろそろ終わりのようだ。

 バジームが剣を抜いた。カルモンの聖剣にも劣らないほどの存在感のある剣で、淡い銀光を放っている。

 カルモンも聖剣を抜いて、だらりと構えた。まったく力が入っていなくてやる気のない構えだけど、隙がまったくないのが僕でも分かる。


「けっ、相変わらずふてぶてしいかまえだぜ!」

「無明の構えだ。お前はまだ到達できぬようだな」

「ほざきやがれ!」


 バジームが地面を蹴ってカルモンに切りかかる。剣がカルモンを捉える軌道を辿ると、カルモンの体がぶれたように見え、剣が空を切った。


「……カルモンの動きが見えなかった」

「カルモン殿の地の強さに加え、最近は殿の強化魔法によって体の衰えが止まったどころか若返ったようだと仰っておりました。おそらく、最盛期のカルモン殿の動きなんでしょう」


 視力強化をしても尚、カルモンの動きが見えない。それほどにカルモンは僕の先の先をいっている。

 なんだか何年経ってもカルモンには追いつけそうにない……。


『あれは正真正銘の剣の鬼だ。ザックが剣の鬼になる必要はない。ザックには身体強化魔法と重力魔法と創造魔法がある。総合力で勝負すればいいんだ』

『でも、幼い時から剣を学んできた僕としては、剣で追いつけそうにないと悟ることに感情がついていかないよ』

『ザックは魔法使いだ。剣ではなく、魔法で世界を盗ればいい』

『魔法で世界を……』

『魔法ならザックは世界一になれる』

『僕が魔法で世界一か』

『まあ、俺を超えることは無理だがな! はーっはははは!』

『まったく……。それじゃ世界一じゃないよね』

『俺は世界一を超えて複数世界を超越した存在だから、論外なんだよ』


 どんな考え方なんだか。

 でも、スーラのおかげで心が軽くなった気がする。


「おい、避けてばかりじゃ勝てないぜ!」


 バジームが激しい攻撃を繰り返し放つためか、カルモンは避けに徹している。

 あのバジームという男、剣王というだけあって恐ろしい剣筋だ。

 僕では身体強化をしていてもぎりぎり躱せるかどうかで、あれほどの剣撃を繰り出されては数合を躱すのがやっとだろう。


「ふん、お前の剣がどのていどになったか見てやったが、見るべき点はないな」


 あれほどの剣撃を繰り出されてもカルモンは余裕なのか?


「ちっ、くたばりぞこないが!?」


 バジームはさらに攻撃を激しく繰り出したが、カルモンはその攻撃さえことごとく躱しまくった。


「えーーい、ちょこまかと!」


 躱され続けて苛立つバジームに、カルモンは顔を振って応えた。


「なっていないな」

「このジジィが!」


 バジームが焦れて剣筋が雑になったのが、僕にも分かった。

 その瞬間、バジームは鮮血を飛ばして地面に倒れ込んだ。


「……ゼルダ、見えたか?」

「いいえ、まったく……」


 カルモンが動いたのは分かった。

 だけど、カルモンが剣を振った形跡がない。いや、僕には見えなかった。


 バジームは右腕を肩口から切り落とされて、地面に額をつけて左手で傷口を抑えている。

 悲鳴や嗚咽などは身体強化魔法で強化した耳でも聞こえないので、歯を食いしばって痛みに耐えているようだ。

 僕なら右腕を落とされて、声をあげることなくいられるだろうか? 無理だろうな……。

 それだけでもバジームの精神力、胆力が剣王の名に相応しいものだったと言えるのではないだろうか。


「皆の者! カルモン殿が一騎討ちに勝ったのだ! 勝鬨をあげよ!」


 ゼルダの声で僕の兵士たちが勝鬨をあげる。

 逆に第四王子派と王太子派の軍は意気消沈している。

 ん、兵士が逃げ出している……。あのような凄まじい一騎討ちを見せられては無理もない。


「よし、ゼルダ。軍を押し上げる!」

「はっ! 全軍前進!」


 僕はアルタを歩かせ、その後ろから軍が続く。

 カルモンは右腕を失ったバジームを放置し、敵軍へ向かって歩き出した。

 カルモンの背中がとても誇らしく見える。


「殿、敵が逃げていきますぞ」

「ゼルダ。貴族たちはできるだけ捕らえるか殺す。逃がすなよ、いいな」

「承知!」


 僕はアルタの速度を上げる。


「全軍、殿に続け!」


 ゼルダが兵士を鼓舞して速度を上げる。


「殿!」

「カルモンは王太子派のほうへ!」

「承知!」


 僕の後ろに続いている兵士たちから、およそ800人がカルモンに従って王太子派の陣へ向かう。


「スーラ、ゼルダ。いくぞ!」

「皆殺しです」


 真面目秘書官のスーラが言葉少なく応える。


「ここで決めましょう!」


 ゼルダの意気込みが見える。


 目の前に立ちふさがる兵士をグラムで切り倒し、僕はとにかく真っすぐ進んだ。と言っても兵士は逃げ出しているので、僕の前には逃げ惑う兵士とそれを食い止めようとする貴族や隊長たちがいる。


「はっ!」

「ぎゃっ!?」


 名も知らない貴族か隊長の誰かを切り伏せて、進む。

 見えた! 第四王子派の本陣だ。


「ザック・サイドス見参!」


 本陣で右往左往している誰かを切って駆け抜け、アルタを翻す。


「山猿が!」


 騎士のような大男が剣を向けてきたので、グラムを振って見えない刃を飛ばして首を斬り飛ばす。


「ひぃっ!?」


 僕の視界の端に逃げようとする見知った顔があった。アムリス侯爵だ。


「ひれ伏せ」


 僕は重力魔法を発動させて、その場にいた貴族や騎士たちに5倍の重力をかけた。

 多くの貴族たちが地面にひれ伏す中、2人がなんとか片膝をつくだけで僕を睨みつけていた。


「なかなかの胆力だ。名を聞こう」

「逆賊に名乗る名などない!」


 まだ20代前半だと思われる、青髪の騎士が剣に手をかけた。


「止めておけ。お前が剣を抜けば、ここにいる全員の命はないぞ」

「くっ」


 僕に皆の命を人質にされたことで、青髪の騎士は剣を抜くのを躊躇った。

 そこで、僕はその青髪の騎士の重力を8倍に上げた。

 5倍を辛うじて耐えていた青髪の騎士も8倍の重力には耐え切れずに、地面に張りつけられたようにひれ伏した。


 もう1人の人物はなんと女性で、30歳くらいの黒髪の女騎士だった。


「お前の名は?」

「私は近衛騎士長アマリエ・サージャスだ」


 黒髪はこの国では珍しい。

 僕の瞳の色と同じ黒色の髪の毛の女騎士になんだか親近感が湧いた。


「僕の父は黒い瞳は縁起が悪いと言い、僕を虐げてきた。近衛騎士長アマリエ・サージャスはどうだ? バカな貴族たちに黒い髪の毛を気味悪がられることはなかったか?」

「………」


 どうやら、それなりに辛いことがあったようだ。


「だが、アマリエ・サージャスは近衛騎士長にまでなった。僕も父に殺されるところから伯爵になり、そして理由なく伯爵を奪われた」

「き、貴様が伯爵位を剥奪されたのは王命を無視したからだ」

「王命か。だけど、その王命は領地替えの時に交わした約束に違反する。王命と言えど、約束を反故にしていいのか? それがまかり通るのであれば、貴族は王に従う必要はなくなるぞ」


 そもそも、王命といっても僕への命令は官僚がしたもので、国王はかかわっていない。

 近衛騎士ならそれくらい知っていると思うけど。


「………」

「答えられないか。答えてもらおうとも思っていないけどね」

「………」


 僕は話を切って、その場で地面に張りつけられている貴族たちを見ていく。

 そして、僕を婚約破棄したケリス・アムリスの父であるアムリス侯爵の前にアルタを進めた。


「久しぶりですね、アムリス侯爵」

「………」


 アムリス侯爵は返事もしない。いや、5倍の重力が苦しくて返事ができないようだ。

 5倍重力を解除してやると、やっと息ができたのか何度も大きく息を吸って吐いた。


「これで喋れるでしょ?」

「こ、殺さないでくれ」

「それは侯爵次第です」


 僕はアムリス侯爵に、この場にいる貴族たちの名前と地位を聞いた。

 アムリス侯爵は二つ返事で皆のことを教えてくれた。貴族たちはアムリス侯爵のことを恨めしそうに睨んでいたよ。


「殿!」


 ゼルダがやってきたので、貴族たちを捕縛することにして全員の5倍重力を解除した。


「ゼルダ、この者たちを捕縛しろ! 抵抗する者は切り伏せろ」

「はっ」


 僕はいつの間にかいなくなっているスーラを探した。

 探す必要もなく、左手のほうで殺戮を繰り広げていたスーラが、数人の人物を捕縛しているのが見えた。

 あのスーラが殺さずに捕縛するなんて、どうしたんだろうか?


 

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