028_独立勢力、各勢力の動向を見る
「お初にお目にかかります。私はゼンビル・ドルストフと申します」
ボッス伯爵の使者はゼンビル・ドルストフという30歳くらいのかなりのイケメン人物だった。
『こいつ、第五王女の側近の宦官だぜ』
『宦官って、あれがない人のこと?』
『宦官にも色々あって、竿はあるが玉はない奴もいる。玉がないから子種も作れないから便利に使われている奴らだな。こいつは、竿も玉もない完全体の宦官だ』
『そ、そっか……』
竿も玉もない人が完全体というかは分からないけど、あまりツッコまないことにした。
「僕はザック・サイドス。元伯爵っていう自己紹介でいいかな」
「陛下が崩御された後に第四王子派の官僚たちが勝手に玉璽を使って偽の勅書を作成したにすぎません。サイドス様は今でも伯爵であると私は認識しております」
『偽の勅書でも玉璽が押されていれば本物になることをこいつは知っているが、あえて偽物と言うわけだ』
『それもおかしいよね。玉璽なんてただの印でしかないのに』
『そういうのをありがたがる奴らが多いんだよ』
「それで、ドルストフ殿はどういった用で、ここに?」
「ユリア様のお言葉をお伝えに参りました」
第五王女の言葉か……。
「お聞きします」
「ユリア様はアイゼンの名を捨てるとのことでございます」
「………」
『ほう、ユリアはなかなか先見の明があるようだ』
『………』
第五王女は僕の提案を受け入れると言ってきた。
アイゼンという家名はこの国では特別だ。僕と違って捨てても惜しくない家名ではない。
アイゼンの名を捨てるなんて、どれほどの覚悟なのか。それをユリア王女は決断した。
「ただ、お願いがあります」
「お願い?」
僕はどんな条件が出てくるのか、身構えた。
「ロジスタのモンスターをサイドス伯爵のお力で駆逐していただきたいのです」
僕が国王になったらロジスタだって僕の国の土地になると思う。その土地がモンスターで困っているのであれば、モンスター退治をするのは当然のことだ。
この頼みは僕にとってなんの障害にもならないし、第四王子や王太子と決着をつけたらロジスタに向かうつもりだった。
「分かりました。ユリア王女を、いえ、ユリア殿を受け入れましょう。ただし、ロジスタのモンスターは第四王子派と王太子派のケリがついた後に対応します」
「ありがとうございます。これでケントレス侯爵たちもサイドス伯爵の下につきましょう」
なるほど、この頼みはケントレス侯爵たちロジスタ領に接している領地を持っている貴族たちのものか。
先にモンスターを退治して、自由になったケントレス侯爵が僕たちの後背を突くことも考えられるので、僕が第四王子派と王太子派を潰すまで、モンスターはケントレス侯爵に抑えておいてもらおう。
僕もこんな下種な考えができるんだな……。自分で自分が嫌になる。
ドルストフ殿は僕の回答を持ってボッス領へ帰っていった。
僕もそろそろ本格的に攻勢を強めようと思う。それに、そろそろジャスカもくると思うし。
ジャスカには水軍を任せている。その水軍はサイドスを出て、今頃はケルン半島の先端にあるサムラット領を攻撃しているはずだ。
サムラット侯爵も今頃連絡がきている頃なので、焦っているんじゃないかな?
僕たちが入ったアスタミュール領は王太子派が立てこもる王都クルグスの北東にあり、第四王子派が陣取っているケールス領の北になる。そして第五王女がいるボッス領からは南に位置している。
簡単にいうと、どの勢力からも攻められる可能性がある場所だ。
3勢力全てから攻められる可能性があるということは、僕が全ての勢力を攻めることができるということを意味している。
ただし、第五王女派は僕についた。これによって第四王子派と王太子派が焦ってくれるといいんだけどね。
『おい、第四王子派と王太子派が一時休戦して、こっちにくるそうだぞ』
『第五王女派は?』
僕につくと言っても、それは口約束でしかないから警戒は必要だと思う。
『第五王女派じゃないだろ、今はユリア派だぞ』
『そ、そうだね』
『ユリア派はボッス伯爵がケントレス領方面に軍を動かして、ロジスタ領のモンスターの対応をするようだ。俺たちがいくまでケントレス侯爵たちを支援することにしたようだ』
ボッス伯爵は色々面倒を見てくれたので、できれば戦いたくなかったのでこの選択は助かる。でも……。
『モンスターの脅威はそんなにあるの?』
『あんなの瞬殺できる奴ばかりだから、ザックでも数日で掃討できるぞ』
『スーラの感覚じゃなくて、ボッス伯爵やケントレス侯爵たちの感覚で話してくれるかな』
『なんだ、俺にあんな凡人たちの立場で話せって言うのか? まったく……(ぶつぶつ)』
あー、これは面倒くさいやつだ。
『スーラは超絶スーパーな存在だからさ、お願いだよ、下々の者の感覚で教えてよ』
『……分かったよ。仕方がないな』
声が少し嬉しそうなものになった。本当にスーラは……。
『ボッスやケントレス、それに他の有象無象がモンスターを掃討しようとしても一生かかっても無理だと思うぞ。大したモンスターじゃないのにな』
『そうか……。だったら早くこっちのケリをつけてモンスターの掃討に向かおう』
『いくら矮小な存在でも、油断するなよ。第四王子派と王太子派でも窮鼠猫を嚙むって言うからな』
『きゅうそ?』
『死に物狂いの反撃をされて、大きな被害を出すってことだよ』
『あ、うん。油断はしないよ』
スーラのおかげで重要な情報が速やかに入ってくる。
とてもありがたいけど、スーラの性格が面倒くさい。
「殿、第四王子派4万と王太子派3万の兵がこちらへ向かって動き出しました」
スーラから報告を受けた3日後に、第四王子派と王太子派が動き出したとゼルダから報告を受けた。
合わせて7万もの大軍だけど、これが全てではない。
共闘すると決めておいて、それぞれが牽制しあっていて全軍を動かしていないんだ。
「表面上は共闘して僕たちを叩きにきてくれたわけだ」
「たかが数千の軍に対して7万の軍を当ててくるとは、殿の評価は極めて高いようですぞ。がーっはははは!」
「ロジスタの悪魔がよほど恐ろしいようですな。はははは!」
カルモンとゼルダが楽しそうだ。
「ここで両軍に大打撃を与えるとして、その後の貴族たちの動向が楽しみですな」
「右往左往する奴らの顔が見えるようです」
2人は僕が勝つことが前提になっている会話をする。
もちろん、僕も勝つつもりで戦うけど、気が早い2人だ。
スーラじゃないけど、足元をすくわれないうように気を引き締めないと。
「2人とも、戦う前から勝った気分では兵士たちが浮つく。2人が気を引き締めてくれないと、困るよ」
「これは失礼しました。殿の仰る通りです」
「このゼルダ、少し浮ついていたようです。反省いたします」
2人が気を引き締めてくれたので、軍のほうは大丈夫だろう。
「ゼルダ、ユリア様のほうはロジスタに釘づけか?」
「はい、ロジスタでケントレス侯爵たちと共闘しています」
「ふむ、警戒は不要か」
「はい」
今のユリア派のことはスーラの分体が監視しているので、動きがあれば時間差なしで僕のところに情報が上がってくる。
スーラは本当に役に立ってくれている。
共闘する第四王子派と王太子派がこのアスタミュール領へ到着するのは、2日後。
僕たちは手ぐすねを引いて待ち構えることにする。
「すでにジャスカたちも上陸しているはずですな」
「ジャスカ殿らであれば間違いないと思いますが、あそこはサムラット侯爵の本拠地ですからな。油断はできませんぞ」
カルモンとゼルダが話しているように、僕は軍を2つに分けている。
僕はカルモン、ゼルダ、レオン、そして兵2000を率いて行軍している。
ジャスカのほうは、ケリー、リサ、パロマ、そして800の兵を率いて船でサムラット領へ上陸する予定になっている。
『スーラ、ジャスカのほうは順調かな?』
『予定通りだ。すでにサムラットの海賊衆と一戦交え、多くの船を海の藻屑に変えている。今は上陸してサムラットの城に向かって進軍しているところだ。向こうも楽しんでいるぞ』
『そうか、予定通りでよかった。しかし、あの外輪船にどれくらいの戦闘力があるのか、僕自身の目で見れないのは少し残念だけど、上手いこと上陸に成功したからまずはひと安心だね』
「ジャスカはともかく、ケリーがついているんだ。滅多なことはないはずだ」
「カルモン殿は姪であるジャスカ殿に厳しいですな。まあ、いずれはカルモン殿の後を引き継いで剣聖になる人物ですからな、厳しく接するのは仕方がありませんな」
「え? 剣聖?」
僕はゼルダの口から出た「剣聖」という言葉に驚いた。
カルモンが剣聖? え?
「ん? まさか殿はカルモン殿が剣聖だということをご存知なかったのですか?」
「……うん」
「カルモン殿……。殿に隠していたのですか?」
「うーーーん……。そういえば、殿に話してなかったよう……な?」
「全く聞いていませんけど!?」
「殿も、当代の剣聖の名前くらいは知っていてもよろしかろうに……。だいたい、S級ソルジャーの伯父でカルモンと言えば、目の前におられる剣聖アバラス・カルモン・マナングラード殿以外にいませんぞ」
僕のせい?
「殿、話してなかったのは、申しわけござらん。つい、うっかりとしておりました」
「いや……。僕も世間知らずだから……。もういいよ。しかし、カルモンが剣聖か……。どうりでS級ソルジャーのジャスカでも子供扱いなわけだ」
「殿はそのジャスカ殿に子供扱いですがな」
「う……」
そう、僕はまだジャスカに一本も入れることができない。
僕の剣の腕は多少成長していると思うけど、それでもA級ソルジャー中位の下といった実力でしかない。
剣の腕では、とてもS級ソルジャーのジャスカには勝てないんだよね……。
<<お願い>>
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