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027_独立勢力、恐怖を与える

 


「カルモン、進軍だ」

「しんぐーーーん!」


 僕は兵を率いてアイゼン国の王都クルグスを目指す。


 スーラの情報では第四王子派は王都クルグスの隣のケールス領に陣取っている。対して王太子は王都クルグスに陣取って両陣営は睨み合っている。

 そして第五王女派はボッス領で第四王子派と王太子派の動向を見守っている感じだ。

 そこに僕の勢力が加わって四つの勢力が覇権を争う。


 戦力的には第四王子派が抜きん出ていて、次いで王太子派、そして第五王女派、かなり離されて僕の勢力がある。

 他の勢力からしたら、僕のような小さな勢力が加わっても誤差範囲ていどなんだけど、僕はそれを覆す。


 サイドス領から王都を目指すには、いくつかの領を通ることになる。

 王都を目指すために最初に通るのは天領パラスだ。

 天領というのは王家直轄の領地という意味で、パラスには代官が置かれている。

 代官はそのまま領軍の将軍でもあるので、僕の軍を迎え撃とうと5000もの軍を率いてきた。


「ここは僕が1人で対処する」

「殿なら大丈夫だと思いますが……」


 ゼルダは僕が1人で敵の前に出るのが嫌そうだ。

 僕にもしものことがあったら、サイドス軍は担ぐ神輿を失うことになるので当然だと思う。

 だけど、僕は大人しく神輿でいるつもりはない。僕は僕が戦って国を得ると決めたのだから。


「大丈夫。僕を信じて待っていてほしい」

「承知しました。ゼルダもいいな」

「カルモン殿がそう仰るのであれば」


 僕は頷き、アルタを前に進める。

 5000人もの軍を前に1人で前に出るなんて、普通は考えられないだろうな。

 だけど、僕には身体強化魔法がある。重力魔法がある。創造魔法があるんだ。


 敵軍まで100メートルほどまで近づく。


「我が行く手を阻む軍に告ぐ! ただちに武器を捨てて降伏しろ!」


 大声で敵軍に向かって投降を呼びかけた。

 敵軍の反応は僕の予想通り、笑い声が上がる始末だ。

 そんな敵軍から1人の男性が馬に乗って進み出てきた。

 身に着けている鎧からそれなりの身分がある人物だと思う。


「謀反人ザックとその郎党どもに告ぐ、ただちに武器を捨てて投降せよ! いまなら謀反人ザックの首だけで済ませてやる!」


 敵軍からバカにしたような笑いが聞こえてくる。


「僕がザック・サイドスだ! 貴殿の名は!?」

「我はパラスの代官であるソーマ・エンデリンである! 謀反人ザック、ただちに投降せよ!」


 まさか代官自身が出てくるとは思っていなかった。


 僕はゆっくりとアルタを進める。


「止まれ! 命令である!」


 代官まで30メートルを切った辺りで代官が叫んだ。

 だけど、僕は止まらない。僕が代官の命令に従う理由はないのだから。


「えーいっ、あの謀反人を殺せ! 撃て、撃て、撃てぇっ!」


 その声で僕に向かって矢が飛んできた。

 だけど、僕は重力魔法を発動させて全ての矢を地面に落とす。


「なっ!? 魔法だ、魔法を撃て!」


 代官はかなり焦っている。

 僕と代官の距離が20メートルを切ったあたりで、代官は兵士たちの後ろに逃げるように隠れてしまった。


 魔法が飛んできても、僕はグラムを抜いて魔法を切り飛ばすのでダメージはない。

 そのまま進み、国軍の兵士の目と鼻の先まで到着した。


「もう一度だけ言う、武器を捨てて降伏しろ!」


 ゆっくりと、全ての国軍兵士たちに聞こえるような声量で最後通告をする。

 僕を目の前にして、兵士たちは後ずさっていく。

 後方からは僕を殺せとか喚いている代官の声がする。


「そうか、武器を捨てないか……」


 僕は重力魔法を5倍で発動した。

 敵軍の兵士たちは呻き声をあげてその場で地面に倒れ込む。

 兵士たちは何が起きているのか分からないと思うし、わけの分からないことが起きると僕に対する恐怖を産む。


「僕は二度、警告をした。だが、お前たちはそれを拒否した。皆殺しにしてほしいようだ」


 ゆっくりと、そしてじっくりと兵士たちの耳に染み渡るように恐怖を煽る。

 僕が兵士たちの恐怖を煽っている理由は簡単で、僕はここで兵士たちを殺す気はない。

 代官は別として、兵士たちには絶対に僕には勝てないと思うような恐怖を、二度と戦場で僕の前に立ちたいと思わないほどの恐怖を兵士たちの心に植えつけようと思っている。


 この戦いにもならない戦いの後、解放された兵士たちの口から僕のことが他の人たちに伝わるだろう。

 サイドスは恐ろしいと広まっていけばいくほど、僕やカルモン、そしてスーラがいなくてもサイドスの旗を見ただけで逃げ出す兵士が増えていくと思う。


「だが、僕はとても優しい男だ。お前たちに生きるチャンスを与えてやろう」


 僕は兵士たちに5倍の重力を与えていた重力魔法を解除する。


「道を開けろ」


 僕はグラムで代官を差す。すると、兵士たちが我先に下がって代官までの道が作られていく。

 反応が遅かった兵士は他の兵士に踏まれていくけど、そこまで僕は責任を負えない。


 僕はできた道を悠然と通って代官の前まで向かった。


「言い残すことはあるか?」

「ひぃぃぃっ」


 代官は腰を抜かして逃げようとしても逃げられないようだ。

 そのうちに、股間が濡れていき地面に水溜まりを作る。


「情けない。先ほどの威勢はどうした?」

「た、たしゅけてくだしゃい」


 僕は振り返って国軍の兵たちを見渡した。


「代官の次の役職者は立て」


 僕のその言葉で、老齢の騎士っぽい人物がゆっくりと立ち上がった。


「私だ」


 しわがれた声だが、はっきりと聞こえた。


「名を名乗れ」

「バルク・レスター騎士爵」


 僕は頷き、レスター騎士爵から代官に目を向けた。


「レスター騎士爵、この代官は有能か? それとも無能か?」


 代官がレスター騎士爵をすがるように見る。


「……見ての通りです」


 見ての通りと言われたら僕は無能と判断するしかない。

 例え臆病でも、部下に慕われている代官であれば、そのようなことは言われないだろう。


「そうか」


 僕はグラムを軽く振って代官を鎧ごと縦に真っ二つにした。

 その光景を見た兵士たちから悲鳴が上がる。


「今回はこれで勘弁してやる。レスター騎士爵は兵を纏めて町へ帰れ。ただし、次に戦場で遭ったら容赦はしない」

「……よろしいので?」

「お前たちを皆殺しにするのは簡単だが、僕は悪魔ではない。今回だけは許してやる」


 僕はアルタを歩かせ、できる限り悠然とした態度できた道を帰る。

 誰も僕に攻撃をしてこない。攻撃したらどうなるか本能で分かっているはずだ。


「殿!」


 カルモン、ゼルダ、そしてスーラが駆け寄ってくる。


「皆、軍を進めてくれ」

「あの者たちはいかがされますか?」


 ゼルダが未だに動く気配を見せない国軍に視線を向ける。


「放置していい。もし、追いかけてくるようなら、その時は皆殺しにする」

「それだけの恐怖を与えたわけですな」


 カルモンが楽しそうに聞いてきたので、僕は頷く。


「あれだけの数の兵士が生きて帰って、僕の恐ろしさを他の人たちに伝えてくれるはず」

「なるほど、もし逆らえば皆殺しにされると思い、逆らわなければ生きていられる。というわけですな」


 ゼルダも分かってくれたようだ。


「それでしたら、あと何度かは同じように恐怖を振り撒かなければいけませんね」


 真面目秘書官モードのスーラが不敵な笑みを浮かべる。

 僕と同じことをしようとしているんだろうな……。まあ、あと何回かは同じことをしないといけないと思っていたからいいけど。


「それでしたら、できるだけゆっくりと進軍して恐怖を振り撒きましょう」


 ゼルダもスーラの意見に乗っかった。


「なれば、次は某が」


 カルモンが次の恐怖撒きを志願してくれるので、僕はそれを了承する。


 それからの僕たちは、立ち塞がる軍の指揮官だけ殺して兵士たちに恐怖を味合わせながらゆっくりと進軍した。

 ある時はカルモンが、ある時はスーラが、兵士たちの心に恐怖を植えつけていったのだ。


 そして、僕たちは王都クルグスの東隣の天領アスタミュールに到着した。

 代官は我先にと逃げ出していて領都アスタスは無血開城したので、僕たちは代官所を接収した。


「殿、ボッス伯爵の使者がお越しです」


 カルモンとゼルダの2人と代官所の会議室で今後のことを話し合っていたら、スーラから取り次ぎがあった。

 今回、ボッス伯爵はいったいどんなことを言ってくるのだろうか?


「応接室に通しておいて」

「分かりました」


 スーラが下がると、僕はカルモンとゼルダの顔を見た。


「用件はなんだと思う?」

「殿が突きつけた条件を呑むと言われるのではないでしょうか」

「ゼルダの言う通りでしょう」


 進軍を開始する以前にボッス伯爵の使者としてサイドスへやってきたキグナス・ログザ騎士爵に、ユリア第五王女がアイゼンの名を捨てれば受け入れる(保護する)と言ったことがある。

 そのまま回答がなかったので、あの話はなくなったものだと僕は思っていたけど……。


 

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