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026_独立勢力、いばらの道を進む

 


 使者を追い出し、アイゼン国に宣戦布告した僕は軍艦を造った。

 これで軍を海上輸送できる。


『ザック、第四王子派の官僚たちは宣戦布告されると思っていなかったようで、結構な騒ぎになっているぞ』

『僕も宣戦布告まではしないでおこうと思ったけど、理由も言わずに爵位を剥奪された以上、ただで済ますわけにはいかないからね』

『火炎症の特効薬についても、サイドスで用意していたが爵位を剥奪されたから王都へ輸送できないと噂を立ててやったから民が大騒ぎしているぞ』

『火炎症は王都から広がっているって聞くけど、どうなの?』

『今のところ、王都ので死者が1000人くらい出ていて、徐々に周辺地域へ広がっている』

『1000人もっ!?』

『それと、国王が火炎症だったようだ』

『国王が……? なぜ薬を用意しなかったんだろう? 国なら国王が使う分の薬くらい持っていたはずだよね?』

『それに関しては反目し合っている第四王子派と王太子派が、同じ目的で極秘にしていたようだ』

『同じ目的……それって、国王に死んでもらって次の国王を自分たちが支持する第四王子か王太子にしようとしていたわけ?』

『その通りだ。この国の官僚は腐っているな。はははは、楽しくなってきたぞ』

『国王も踏んだり蹴ったりだけど、自分の家臣に殺されたようなものだから自業自得だね。でも、民が苦しんでいる火炎症の薬を政治の駆け引きに使いたくはなかったな……』

『タイミングが悪かったとしか言いようがないな。アホな官僚がいると、こういうことになるんだよ。だからザックが国を建国したなら、腐った官僚ができるだけ出ない組織にしろよ。苦しむのはいつも民だからな』

『……僕が建国か』

『なんだ、建国しないのか?』

『いや、建国できるんだろうか? 腐っていてもアイゼン国は僕たちよりとても大きい。勝てるかな……?』

『オレがいるんだ、勝てるに決まっている』

『スーラはすごい自信だね。それが頼もしいよ』

『ふっ、オレのは自信じゃなく事実だ』


 スーラが言うと、本当だと思えるからすごい。

 そこにセシリーがやってきた。


「殿、ボッス伯爵家から使者が参っております」

「ボッス伯爵の使者?」


 今のボッス伯爵は第五王女を保護という名目で御輿にして王位継承争いをしていたはずだ。そのボッス伯爵からの使者か……。

 僕は使者が待つ応接間に向かい、応接間に入るとカルモンと見知った顔があった。


「お久しぶりです、サイドス伯爵」

「お久しぶりです、ログザ騎士爵。それと僕はもう伯爵ではないので、ただのサイドスと呼んでください」


 ボッス伯爵の使者はアスタレス公国軍へ夜襲した時に一緒に作戦行動をしたキグナス・ログザ騎士爵だった。


「この度の件、ボッス伯爵は国のやりように憤りを感じております。ですから、サイドス様の怒りを理解し、協力したいとボッス伯爵は仰っておいでです」

「つまり、第五王女を次の国王にという意味ですか?」


 僕はずばり聞いてみた。


「いえ、ボッス伯爵は第五王女ユリア様の伴侶になられる方が国王になるべきだと申しております」

「第五王女の伴侶?」


『なるほど、そういうことか』

『どういうこと?』

『分からないのか?』

『分からないから聞いているんだけど』

『まったく、ザックは頭がいいのか悪いのか……』

『そういうのはいいから教えてよ』

『第五王女の伴侶の話をするってことは、ザックに第五王女の伴侶になってくれと言っているんだ』

『はい?』

『ボッス伯爵はザックを国王に祭り上げようとしているってことだよ』

『………』


 僕はスーラの話を聞いて、二十面相をしていたと思う。

 ログザ騎士爵が僕の顔色を窺っていたけど、そんなことは考えていられなかった。


「殿、どうしましたかな?」


 カルモンの声で我に返ったけど、どうも考えが整理できない。


「いや、なんでもない」

「そうですか……。ところで、ログザ騎士爵。第五王女の伴侶になられる方の名を聞かせてもらえますかな?」


 カルモンが核心に切り込んで、僕の心臓の鼓動が早くなる。


「はい。実は……」

「実は……?」

「ボッス伯爵は、サイドス様をとお考えです」

「と、殿を第五王女の伴侶にですと!?」


 カルモンが驚いて大声をあげた。

 僕はスーラのおかげで、あるていど心の準備はできていたはずなのに、不覚にも口をポカーンと開けてしまう。


「こほん。ログザ騎士爵様、それはザック様に国王になれとボッス伯爵が仰っているということですね」


 僕とカルモンがちょっと心を乱しているので、スーラが聞いた。


「左様、ザック・サイドス様に第五王女ユリア様を娶っていただき、国王になっていただきたいと仰せです」


 僕は息を大きく吸って、吐いた。

 まったく、ボッス伯爵も恐ろしいことを考える。まさか、僕を国王に担ぎ上げようとは……。


「そのためにも、王太子と第四王子との王位継承争いに勝たなければなりません」

「ふむ、殿が王になるためには、お2人が邪魔なのは言うまでもないか」


 僕にとっては降って湧いたような話であり、第五王女を娶って王になるのであれば大義名分が立つ。

 しかし……会ったこともない人と結婚か。しかも、第五王女ときたものだ。

 僕はケリス・アムリスに婚約破棄されている。

 今の僕があるのはケリス嬢のおかげとも言えるので恨んでいないけど、婚約とか結婚という話には少し抵抗がある。


「むむむ……。殿、どうされますか?」


『イエスかノー。単純な回答だ』

『僕は会ったこともない人と婚約や結婚なんて考えられない』

『だったら会って答えを出せばいい』

『会って……』

『それとな、第五王女の旦那になるということはアイゼン国の王になるということだ』

『………』

『それではお前の国ではなく、アイゼン国のままだぜ』

『僕の国ではなく……』


「ザック様、ここは家臣の方々とも相談をされてはいかがですか?」


 考え込んでいたら、スーラが助け船を出してくれた。時間をおいて考えたい。


「あ……うん、そうだね。……ログザ騎士爵、家臣と相談をしますので、別室でお待ちください」

「分かりました。よい返事を期待しています」


 場所を移して僕の執務室。

 モンスター狩りに出ている家臣を除くスーラ、カルモン、ゼルダ、クリット、アンジェリーナ、ジェームズ、セシリーといった主だった者を集めて、ログザ騎士爵から聞いた話を伝えた。


「某は反対です」


 ゼルダがすぐに反対を表明した。


「理由は?」

「ユリア王女を利用するとアイゼン国のままになってしまいます。我らはアイゼン国ではなく、ザック様の国を望んでいるのです。ですからアイゼン国王家の血筋に拘るような婚姻は避けるべきです」


 ゼルダの言葉に皆が頷く。

 これは事前にスーラが言っていたことと同じなので、スーラも頷いている。


「仮にユリア王女を娶らない場合、アイゼン国の全てを敵に回す可能性がある。それでも皆は反対かな?」

「お待ちください」

「アンジェリーナ殿は反対かな?」

「いえ、そうではありません。私はユリア王女を利用することを提案します」

「利用……?」

「もし、ユリア王女を娶って利用できれば少なくとも民の支持は得られるでしょう」


 たしかに、ユリア王女は民に絶大な人気がある。

 なんと言っても、ユリア王女は聖女と言われているほど民のために働いている。

 王族には珍しく民にも親しみやすい優しい性格だという噂は僕の耳にも入っているけど、会ったことはないから本当かどうかは分からない。こういう噂は話半分で聞くのがいいはずだし。


「王女にはアイゼンの名を捨ててもらわねばなりませんが、アイゼンの名を捨てることに了承いただければ、ユリア王女を娶るのは悪くないと思うのです」

「なるほど、アイゼンの名を捨てるか。それであれば、娶っても構わぬな」


 アンジェリーナの言葉にゼルダも同意する。


「なれば、ユリア王女がアイゼンの名を捨てれば娶り。捨てなければ共闘はなしでよろしいですな?」


 僕の家臣は、あくまでも僕の国を興すことに拘った。

 もちろん、僕も他人が興した国を受け継ぐよりも、自分で国を興したい。

 だけど、そのためにユリア王女を利用することには、あまりいい感情はない。それではユリア王女が政治の道具になってしまって、あまりにも不憫だ。


「殿、よろしいですな?」


 家臣たちが、僕に視線を集中させた。

 僕は……どうすればいいのだろうか……?


『好きにすればいい。オレがいるんだ、王国の貴族たちを皆殺しにしてでもザックを王にしてやるぞ』

『ありがとう……。よし、決めたよ。僕は……』


「僕は、ユリア王女を利用しない」


 皆が沈黙する。


「殿、それは茨の道ですぞ」


 カルモンは厳しい視線を向けてくるが、なんだか嬉しそうだ。


「構わない。僕が自分の国を興すのに、誰かの知名度を利用しない。それでは、本当の意味で僕の国ではないから」

「承知! 皆もいいな!?」


 カルモンが僕の意を汲んでくれてそう締めくくり、皆も頷いた。


「殿、現状、第四王子派は潰すことが確定です。アムリス侯爵とケンドレー男爵は根絶やしにしましょう」


 ゼルダの提案に皆が頷く。

 ケンドレーは僕の生家だけど、敵としか認識していない。それは僕も同じだから構わない。


「王太子派とユリア王女派については、こちらに降伏してきた者にはできるだけ寛大な処置をするということで構いませんか?」

「分かった。それでいい」


 再びログザ騎士爵と会談の席を設けた。


「お気持ちは決まりましたでしょうか?」

「はい」

「それでは、ユリア様と」


 ログザ騎士爵は僕がユリア王女を娶るものだと信じて疑っていないようだ。


「僕はアイゼン国の王になりたいわけではないのです」

「……それは……どういうことでしょうか?」


 ログザ騎士爵の顔があからさまに曇った。


「ユリア王女と王女を支持される方々は、僕に帰順していただきたい」

「………」

「僕はアイゼン国の王ではなく、僕の国の王になるつもりです。いえ、なります。ですから、ユリア王女とボッス伯爵、それにユリア王女を支持される方々には、僕へ降っていただきたいのです」

「そ。その……お気持ちはとても高尚なものだと思います。されど……いえ、なんでもございません」


 ログザ騎士爵は僕の書状を持ってボッス領へ帰っていった。

 これからどうなることか……。僕のやっていることは、皆を地獄へ誘っているのかもしれない……。


 

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