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021_中堅貴族、難民を助けにいく

 


『形なんて四角い箱でいいんだ。とにかくそれからモンスターの嫌いな音や臭い、そして気配が出ているイメージをするんだ!』


 僕は自分の部屋の中でモンスター除けのマジックアイテムを造ろうとイメージしている。


『世界のどんなモンスターも寄りつかないイメージが大事だ!』


 むむむ……。

 スーラの言うようにイメージするけど、なかなかマジックアイテムを創造できない。

 僕の想像力が乏しいのがいけないとスーラは言うけど、見たこともないものを創造するのは簡単じゃないと思うんだ。


『今日中にマジックアイテムを創造しないと、獣人たちはアスタレス公国の奴らに殺されて、山ではモンスターに殺されるんだぞ』

『うぅ……』


 僕の想像力よ、僕のためじゃなく獣人のためにモンスター除けのマジックアイテムを創造させて!

 お願いだーーーっ!! ピカッ!


「できた……?」


『やったじゃないか。それからはモンスターの嫌がる波動のようなものが出ているぞ』

『そ、そうなの? てかなんで分かるの?』

『おいおい、オレもモンスターだぜ』

『あ、そうだった。最近、その人型に慣れてしまって忘れていたけど、スーラはスライムだったよ。でも、スーラにモンスター除けのマジックアイテムは効かないの?』

『俺はモンスターだけど、モンスターを超越した存在だからな。このていどのこと、大して効果ないぞ』

『う……。このていどって、それって大丈夫なの?』

『問題ない。オレには効かないというだけで、雑魚どもにはしっかり効くさ』

『……それならいいんだけど』

『よし、これをあと100個造れ』

『えっ!?』

『1個じゃせいぜい半径2キロくらいしか効果ないぞ。山を越えるんだからあっちこっちに設置してやらないとダメだろ。それに獣人たちを受け入れたら、これをロジスタ領内に設置するんだろ。数は多いに越したことはないぞ』

『そ、そうか……。うん、がんばって造るよ!』


 僕は創造魔法でモンスター除けのマジックアイテムを創造しまくった。

 魔力が枯渇すると、スーラがすかさず僕の口にマナポーションの瓶を突っ込んできた……。それ止めて。


「ザック様、モンスター除けのマジックアイテムが100個になりました。よくがんばりましたね(ニコリ)」


 笑顔は天使だけど、やっていることは悪魔だ。


 翌日、僕はモンスター除けのマジックアイテムを山に設置する部隊を編成した。


「こんなものでモンスターが寄ってこないのですか?」


 カルモンは右手の上に置いた青く輝く四角い小さな箱を見つめて呟くように言う。


「カルモン様、そのマジックアイテムの効果は折り紙つきです」

「そうか、スーラ殿が言うのだから間違いはないな」


 なぜスーラの言うことを信用するのか分からないけど、信用してくれるのはありがたい。


「今回は新人の訓練を兼ねて、100人を連れていきます」

「分かった。いつものように身体強化だけしておくよ」


 任務前はできるだけ身体強化魔法で兵士を強化するのも僕の仕事だ。

 1度強化すると20日は効果が保つので、15日周期で僕のところに兵士がやってくる。このおかげで兵士がモンスターと戦っても被害が少なく済むとカルモンたちは言っている。


「おおぉ、力が湧いてくるぞ!」


 今回の兵士たちは新規採用の兵士なので、強化すると皆が効果を実感しているようだ。


「カルモン、進軍」

「はっ! しんぐーーーーん!」


 僕はアルタに乗り、腰にはグラム。

 左を見ると真面目秘書官のスーラが馬に乗って、右を見るとカルモンが馬に乗っている。

 僕たちのすぐ後ろにいる6人の兵士も馬に乗っているけど彼らは熟練兵士。

 その後ろに新規採用した100人の兵士が徒歩でついてくる。


「今回の作戦はモンスターとの遭遇戦はまずない。だけど、気を抜かないようにね」

「承知しております、殿」


 カルモンは問題ないけど、新人たちはどうなんだろうか?

 ピクニック気分だと痛い目を見るかもしれないから、気を引き締めてくれるといいんだけど。


 僕たちは駆け足ていどの速度でロジスタークに向かい、そこで補給して山に入る。

 身体強化をかけているおかげで、駆け足で進んでも兵士たちに脱落者はいない。


「殿、お待ちしていました」


 ロジスタークの城門の前では、ロジスターク守備隊の隊長であるケリーが待っていた。


「やあ、ケリー。元気だったかい」

「はい。ぴんぴんしています!」


 最近、ケリーが若返ったように僕には見える。

 最初に会った時は年齢くらいの32歳くらいの見た目だったのに、今は25歳くらいに見える。何があったのかな?


「とのーーーっ!?」


 ロジスタークの中から小さい何かが飛んできた。よく見たらリサだった。

 今日はボンテージスーツではない。あれは、僕の精神にダメージを与えるから、魔法使いのローブ姿でよかった。


「やあ、リサ。久しぶり」

「はい、久しぶりです!」


 僕は2人に近況報告を聞いて、翌朝早く山に向かった。


「殿、あちらを」


 カルモンが指さしたほうを見ると、いつかのパロマが飛んでいるのが見えた。


「ロジスタ伯爵様!」


 パロマは地上に下り立つと、僕の前で地面に膝をついた。

 しかし、パロマの泥や土埃で汚れた姿を見て、僕は顔をしかめる。


「その姿はどうしたの?」

「途中でワイバーンに襲われましたので岩や木々の中へ逃げ込みました。お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ございません」

「怪我はないの?」

「はい、ロジスタ伯爵様のかけてくださった身体強化魔法のおかげで飛ぶ速さが上がっていて逃げ切ることができました。ありがとうございます」


 僕たちはパロマの案内で山に入っていく。

 山は1500メートル級なんだけど、本来はモンスターの巣窟なので人の往来はない。つまり、道がないのだ。

 僕はそんな山に登りながら、創造魔法で道を造っていく。地道な作業だけど、道を造る意味は大きい。


 この道を通って獣人たちが山を越えてくる。

 それを考えると、できるだけ歩きやすい道にしなければいけない。


「ふー……。やっと頂上か」


 僕は魔力を回復させるために休憩しながら、眼下を見渡した。

 アスタレス公国側の麓に多くの獣人が集まってきているのが、見えた。


「……なんだか数が多くない?」

「ザック様、パロマが言っていたではありませんか。数がかなり増えたと」


 そう言えば、合流した後にそんな話を聞いたっけ。

 しかし、最初は2万人くらいだと聞いていたけど、その倍……いや、もっといるんじゃないかな?


「どこからか話を聞きつけてきた獣人がどんどん増えていき、さらにはエルフやドワーフも増えていきました。申しわけありません」

「パロマが悪いわけじゃないし、いいよ」


 パロマもここまで増えるとは思っていなかったはずだからね。

 でも、情報管理の観点からするとあまりよくない。

 情報が洩れていたらアスタレス公国も動くかもしれないから。


「しかし、いい眺めですな。ロジスタもそうですが、アスタレス公国のほうも遠くまで見渡せますぞ」


 カルモンが感想を述べた。


「ザック様、この山の西側の頂に見張り所を造れば、アスタレス公国の動きが手に取るように分かりますね」

「ほう、スーラ殿の言う通りだ。殿、一考の価値ありですぞ」


 たしかに、ロジスタ領はここより西側にいくと、平地でアスタレス公国と繋がっている。

 山の上に見張り台を置けば、アスタレス公国が攻めてきてもいち早く察知できるし、陣形も分かると思う。

 なにせ僕はアスタレス公国の公太子を殺したから、恨まれていると思う。いくら内戦中だとしても、楽観視はできない。


「アスタレス公国側はモンスター除けを設置しなければ、見張り所が攻められることもないでしょう」


 カルモンが頷きながら自分で納得している。


「ザック様、モンスター除けを造れるのであれば、モンスター寄せも造れるでしょう。アスタレス公国側にモンスター寄せのマジックアイテムを設置しておけば、見張り所はモンスターによって守られます」

「なるほど! それはいい案だ!」


 スーラの提案にカルモンが大きく頷き、賛成した。


「僕もアスタレス公国の動きは気になるから、今回の作戦が終了したら場所を選定しようか」

「それがいいと存じますぞ、殿」


 休憩を終えた僕たちはさらに進んだ。もちろん、僕は道を創造しながら進む。


「殿、麓ですぞ!」


 何度もマナポーションを飲んで道を造って進んだ僕は、とうとう麓までやってきた。


「オレはこの獣人たちのリーダーをしているレオンという。よろしく頼む」


 獣人も丁寧な言葉遣いは苦手の種族だ。

 僕の家臣には獣人はあまりいないと言うか、人族以外の家臣はいない。

 決して獣人を差別しているわけではないけど、獣人は獣人貴族の領地にどうしてもいってしまうんだ。


 アイゼン国は人族の国ではない。

 人口的には人族が45パーセント、獣人が30パーセント、ドワーフが15パーセント、エルフが数パーセントで他にいくつかの少数種族がいる国だから、種族差別は比較的少ない。

 それでも北部は人族比率が高く、僕のロジスタ領は人族が95パーセント以上を占めている。


「ザック・ロジスタ伯爵だ」

「これは失礼した。まさか伯爵様が直々にきてくれるとは思っていなかった」

「細かいことは言わない。だけど、僕の領地に受け入れるためには、確認しないといけないことがある。僕の領地では種族で差別はない。獣人だろうが人族だろうが、法で等しく裁く。皆は法に従うと誓うか?」

「……差別がないのであれば、問題ない。誓おう。皆もそれでいいな」


 レオンの後ろにいたそれぞれの獣人の代表者たちが頷いた。


 

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