020_中堅貴族、伯爵になる
防壁造りを続けていたら、僕の創造魔法もかなりすんなりと発動するようになってきた。
防壁は山から谷まで数十キロにもおよぶものを造っている。
スーラが悪乗りして提案したら、皆がそれがいいと言い出したのだ。
僕も防壁は大きく長いほうがいいと思っているから賛成したんだけど、全部僕が造るとは思ってもいなかった。
しかし、これだけのものを自分1人で造っていると思うと、創造魔法のすごさを実感する。
『ははは、小さな万里の長城だな!』
『万里? 何それ?』
『昔、オレの故郷の隣の国が造った防壁だ。長さが2万キロ以上もある防壁だぞ』
『に、2万っ!?』
『異民族を防ぐために築いた防壁だが、魔法も使わずにその防壁を築いた奴がいるんだよ。まあ、それによって多くの人が苦しんだんだけどな』
うわー、すごいことを考える人もいたんだね。
『おっと、モンスターがくるぞ』
『あ、うん』
魔法を使い続けていたおかげかな、僕もモンスターの気配が分かるようになった。
スーラには遠く及ばないけど、それでも早めにモンスターや人の気配が分かるのはありがたい。
『山から下りてきたみたいだな』
防壁はもうすぐ完成で山の途中、断崖絶壁のところまで造っていくつもりだけど、どうしても飛ぶモンスターと山から下りてくるモンスターは防げない。
『山から下りてくるモンスターを防ぐにはどうすればいいのかな?』
『そんなことで悩んでいるのか』
『そりゃー、悩むよ』
『東の大陸ではモンスター除けのマジックアイテムを使っているぞ』
『そんなマジックアイテムがあるの? 東の大陸はすごいね』
『東の大陸は色々な意味で進んでいるからな』
『そのマジックアイテムって高いの? 輸入できないかな?』
『輸入って、買うつもりなのか?』
『盗むわけにはいかないでしょ』
『いや、ザックは何を考えているんだ』
『ん?』
『ザックには創造魔法があるじゃないか』
『……創造魔法って、そんなマジックアイテムも造れるの?』
『当り前だろ。今さらだぞ』
スーラに呆れられてしまった。
でも、モンスター除けのマジックアイテムまで造れるのか、創造魔法は本当にすごい魔法だね。
『防壁を造ったら、モンスター除けのマジックアイテムを造るぞ』
『うん』
2カ月をかけて防壁を完成させた僕は、モンスター除けのマジックアイテムの創造にとりかかった。
だけど、マジックアイテムは簡単ではなかった。
一生懸命イメージしているけど、ちゃんとしたモンスター除けを創造できないんだよね。
「まさか、本当に殿お1人で防壁を完成させるとは思ってもいませんでしたぞ」
「しかも防壁と一体になって砦があるので、防御力は折り紙付きですな」
カルモンとゼルダが完成した防壁を見上げて話している。
「4キロごとに見張り所を兼ねた狼煙台を設置してあるので、監視もしやすいぞ」
狼煙台はゼルダの案で設置した。
狼煙台には5人の兵士を常駐させて何かあったら狼煙を上げるのと、馬で早駆けして知らせるというものだ。
「あとは定期的に兵を見回らせれば、安定するでしょう」
「しかし、そのためには増兵することになる。今まで以上にモンスターを狩らねばならぬな! がーっはははは!」
ゼルダと話していたカルモンが豪快に笑う。
そう、この防壁を有効なものにするためには、兵士を60人ほど増やして監視体制を確立する必要がある。
それにロジスタークに兵を多く回してモンスターを狩らなければいけないので、ロジスワンの兵士が少なくなる。
それを防ぐために合計で200人規模の兵士を雇うことにした。
ロジスタに入領したころの財政難はどこにいったのだろうか?
『バブルだぜ!』
『またわけの分らないことを……』
『こういう好景気の後には必ず景気の減退がある。その時のことを考えておけよ』
スーラがまともなことを言った!?
僕が防壁を築いている間に、2回目のミスリルの入札があって、大金貨3万枚で落札された。
こういうことをバブルというらしい。
「殿、王都からの使者がお越しになりました」
「とうとうきたか」
言語理解の薬を国王が買いたいと言ってきたので、紋章官のリサを使者にして交渉していた。
国王はどうしても言語理解の薬がほしいようで爵位を上げる約束をしてくれたけど、家臣たちの反対もあって今頃の使者になったらしい。
家臣の反対を押し切ってまで爵位を上げてくれるのはありがたいけど、反対した家臣や他の貴族たちの嫉妬があるはずだから、僕は言動に気をつけようと思う。
「アムリッツァ子爵、何度もお越しいただき、申しわけありません」
「いえいえ、これもお役目なので気にしないでくだされ、ロジスタ伯爵」
そんなわけで僕は伯爵になった。
貴族になって1年もしないのに伯爵になってしまった。ははは……。
それと、魔の大地で僕たちが確保した土地も正式にロジスタ領に編入が許されたそうだ。
こっちのほうは薬とは関係ない。この国の制度で誰も治めていない土地に関する領有は、どれだけ実行可能かによって決まる。
つまり、砦を築いた僕は魔の大地の一部をロジスタ領に編入させるになんの不都合もないんだ。
いつものようにアムリッツァ子爵を歓待した。
今回は5日も逗留していった。もちろん、お土産もしっかり持って帰っていったよ。
「殿、ルマンジャ族の代表者がお会いしたいと申し入れてきました」
「ルマンジャ族?」
アムリッツァ子爵が帰ってから半月ほど。ジャンから聞きなれない種族が面会を求めてきたと聞いた。
「ルマンジャ族は鳥系の獣人の総称です」
「鳥系の獣人?」
「アスタレス公国からきたのではないかと思います」
「アスタレス公国から……」
「あの国は獣人を亜人と呼んで蔑んでいますから、逃げてきたのではないでしょうか」
なるほど……。とりあえず会ってみよう。
ルマンジャ族の代表は背中には翼があった。
獣人はこのアイゼン国にも多くいるし、貴族の中にも獣人はいる。
だけど、翼のある獣人は見たことがないので、僕は思わずその翼に見入ってしまった。
「失礼、ルマンジャ族を見たのは初めてなので」
「翼がある種族は珍しいですから、お気になさらないでください」
藍色の髪の毛と瞳を持った小柄な色白の少女がルマンジャ族の代表のようだ。
「僕はロジスタ伯爵。この地を治めている」
「私はパロマです。獣人の代表としてやってきました」
「獣人を代表してと言いますが、その獣人とは何を指しますか? ルマンジャ族ですか?」
「いえ、ルマンジャ族だけではなく、多くの獣人種族です」
つまり、彼女はそういった多くの獣人の代表としてやってきたわけか。
しかし、僕よりも年下と思われるパロマが代表なのに違和感を感じる。
僕はその違和感について率直に聞いた。
「私はあの北の山を越えてやってきました」
「北の山……? でも、あの山は……」
「はい、ワイバーンやグリフォンなど、飛行系のモンスターがうようよしています。ですから、私のような小柄で高速で飛べる者が岩の陰から陰に隠れながら山を越えてきました」
なるほどだからパロマというわけだ。
パロマの話はさらに続き、アスタレス公国では人族以外を人として認めていない。これはジャンに聞いた通りだ。
そして、今、アスタレス公国は内戦状態に陥っていて、そのため獣人のような亜人と呼ぶ種族を尖兵にしようと集めているそうだ。
武器も持たせず、防具も身に着けず、獣人たちは劣悪な環境下で1人、また1人と死んでいっている。
だから逃げ出すことを計画して、僕に助けを求めてきたと言う。
僕に助けを求めたのは、アスタレス公国の人族の間で公太子を殺した僕がこのロジスタの地を拝領したと噂しているのを聞いた獣人がいて、獣人の間でなぜか僕が救世主的な存在になっているそうだ。
「なぜそうなった!?」
『あーっはははは! 面白いじゃないか。助けてやれよ』
『助けるったって、どうやって? まさかアスタレス公国に戦いを挑むわけにはいかないし』
『まあ、戦うのも面白いが、あの山にモンスター除けのマジックアイテムを設置してやればいいじゃないか』
『いやいやいや、モンスター除けのマジックアイテムの創造は成功してないから!』
『バカ野郎! お前は虐げられている獣人たちを見殺しにするのか!? ザックがそんな薄情な奴だとは思ってもいなかったぞ!』
『う……』
『男の見せどころだぞ』
『……分かったよ、なんとかモンスター除けのマジックアイテムを造るよ……』
またマナポーション漬けだな……。