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019_中堅貴族、ドワーフがやってきた

 


 オスカーがアースドラゴンの頭部で作った言語理解の薬も入札で販売する方針になったので、国内の商人と王侯貴族にこんな薬が手に入ったよって通達したら、なんかすごいことになった。

 一番過剰に反応したのが、珍しいものを集めている国王だった。

 国王から大金貨3000枚で買うぞって手紙がきたんだ。すると……。


「あの禿国王、何言ってんのよ! 大金貨3000枚どころか1万枚は固いわよ!」


 アンジェリーナが国王を禿呼ばわりして憤慨している。

 僕が謁見の間で見た国王は王冠を被っていたので禿かどうかは分からなかったけど、アンジェリーナは見たことあるのかな? 興味ないからどうでもいいけど。


「ものは考えようだぞ。大金貨ではなく、領地をもらうってのもいいかも知れんぞ」


 ゼルダのその言葉に、皆がなるほどと頷いた。というか、国王からの要請を無視していいのだろうか?


「ザック様、ここは伯爵位を望むのがよいかと」


 スーラが真面目秘書官として発言した。


「そうか、領地は魔の大地を開拓していけばいいが、爵位はそうはいかぬ。伯爵位を望むのはいいかも知れぬな」


 カルモンも乗り気だ。


「それなら、ボッス伯爵にも口添えを頼みましょう。それと、もし伯爵位がもらえなかった場合、隣のエスターク領を要望しましょう」


 アンジェリーナが二段構えの対応を提案して、僕と皆がそれを了承した。

 ちなみにエスターク領は人口が多く農業が盛んな土地で、ロジスタよりもはるかに多い生産量が見込めると思う。


 ▽▽▽


 この間、ミスリルの1回目の入札があったけど、大金貨3万1000枚で落札された。大金持ちだ。

 大金持ちの僕が最近の日課にしているのは、午前中にジャスカと剣の訓練をすることだ。

 身体強化していない僕は、ジャスカの足元にも及ばないので、毎日体中に青あざを作っている。


「殿の剣はギリギリA級に届くかどうかです。もっと努力が必要ですよ」

「ジャスカ、ありがとう……」


 僕は地面に大の字になって、荒い息を整えている。

 体中を打ち据えられて痛いし、肺が空気を欲して苦しい。


「殿、ポーションです。飲んでください」

「ありがとう」


 ジャスカからポーションを受け取り呷る。

 ポーションというのは怪我を治してくれるけど、痛みはしばらく続く。これは内臓出血とかあったらいけないので飲んでいるだけだ。


 そこにカルモンがやってきた。


「殿、ドワーフどもがやってきました」


 僕はジャスカに手を貸してもらって起き上がった。


「カルモン、ドワーフって、あの鍛冶師が多いドワーフ?」

「はい、そのドワーフで間違いないかと」


 ドワーフと言うのは、僕たちのような人族よりも背は低いけど、がっちりとした体形の種族だ。


「ドワーフがなんの用なの?」

「ミスリルゴーレムがどうこうと申しております」


 よく分からないけど、とりあえず会ってみることにした。


「ワシらはこの土地で職人として働きたいのだ。受け入れてくれ」


 ずんぐりむっくりの髭もじゃ茶髪ドレッドオジサンが挨拶もなしに働きたいと言ってきた。

 ドワーフはあまり細かいことに頓着しない種族だと聞いていたけど、その噂に間違いないようだ。


「殿、ドワーフは皆凄腕の職人です。受け入れましょう!」


 僕でもドワーフの職人は凄腕ばかりだと知っているから、アンジェリーナは受け入れに大賛成のようだ。

 特にドワーフの鍛冶師や山師は他の種族を凌駕する職人だと聞いている。


「しかし、ロジスタ領にはドワーフが加工する鉄などの鉱山もないのに、なんで?」


 鍛冶師は鉄鉱石の産地やその周辺の土地に多くいると聞いたことがある。

 産地に近いほうが素材を手に入れやすいというのが、理由なんだけど。


「何をいっておるのだ。ミスリルゴーレムがいたということは、ミスリルの鉱床があるということだ。ワシらが鉱山開発からミスリルの加工まで全て引き受けるぞ。それにモンスターの皮で革製品もつくれるし、よい石があれば切り出して町を造る材料にもできるぞ」


 そう言えば、スーラが資源がどうこうって言っていたっけ。


「しかし、ミスリルゴーレムを倒した場所は、魔の大地の中ですよ。かなり危険な場所ですが、いいのですか?」

「領主軍が砦を築いたと聞く。かなり安全になっているのではないか?」


 よく知っているね。


「分かりました、受け入れます」

「よし! 早速、ミスリルゴーレムがおった場所に案内してくれ!」

「今からですか!?」

「ザック様、案ずるより産むが易しです」

「またスーラの国の諺なの?」

「始める前は色々心配するものですが、実際にやってみると案外たやすくできるものの例えです」

「あぁ、なるほど……。うん、多分……分かったよ」


 ドワーフはなんと全部で50人。

 リーダー格はマッシュ・ムッシュというドワーフで、鍛冶師の親方でスミスギルドのスミスマスターだ。

 引き連れてきたドワーフは鍛冶師、大工、石工、鞍工、革工、山師の職人たち。


 実を言うと、ロジスタ領にはすでにスミスギルドがある。だけど、スミスギルドは町や地域に関係なく一定数の職人が加入していれば自由に組織できる。

 だから、ミスリルで話題になっている僕の領地で活動するために、ドワーフが集まってスミスギルドを組織して僕の領地へやってきたというのだ。

 鍛冶師だけでなく大工、石工、鞍工、革工が一緒にいるのは、魔の大地のモンスターの素材が流通していて、それがロジスタ家が供給していることを知っていたかららしい。

 供給元のそばに工房を構えれば仕入れの値段が下がるし、面白い素材が手に入りやすいと言っている。


「ほう、ここがミスリルゴーレムが出た場所か。バンバラ、どうだ?」

「いい匂いだ。ミスリルだけじゃなく、他の鉱物も期待できるぜ!」


 匂いで鉱物があるのか分かるのか?

 ドワーフだからというわけじゃないよね? あのバンバラという赤毛のドワーフが特殊なんだよね?


「この近くに職人村を造ろうと思う。いいか?」


 マッシュが聞いてきたけど、ここは魔の大地なので危険だ。


「ここは危険なので、近くにロジスタークという砦があるから、そこに住んではどうですか」

「ほう、砦に住んでもいいのか? 俺たちはありがたいが」


 急遽、ロジスターク内に職人たちが活動するエリアを造ることになった。


「これほどの防壁を備えた砦があるなんて知らなかったぞ! ロジスタはいいところだな!」

「防壁があるだけでいいところなんですか?」

「ワシらドワーフは素材が手に入りやすい場所に工房を構えるから、モンスターの生息地のど真ん中に工房を建てることもあるんだ。それに比べれば、ここは堅牢な防壁に守られているから安全だぜ。がーっはははははは!」


 さすがは職人の集まりなだけあって、僕が創造魔法で家を建てなくてもバンバン家が建っていく。


「さすがはドワーフですな」


 カルモンもドワーフたちの手際よさに感嘆している。


「殿、このロジスタークを町にしましょう!」


 ドワーフたちと商談もあるのでアンジェリーナを連れてきているけど、そのアンジェリーナがロジスタークを町にしようと提案してきた。


「ここは危険な魔の大地だよ?」

「でも、堅牢な防壁を造れば、町になります。ロジスタークはそれだけの可能性を持っているのです」


 たしかに、ここは広大な土地だから町を造れるけど、それって僕に防壁を築けって言っているんだよね?


「ふむ、ロジスタークを町にして人口が増えればソルジャーギルドの支部もできるかもしれませんな。そうなればモンスターの防衛もよりしやすくなりますぞ」

「カルモン様は、このロジスタークをモンスター防衛の最前線の町、つまり防衛都市にしようっていうのですね」

「うむ、スーラ殿はどう思うか?」

「私はいい案だと思います。人口が増え、税収も増え、モンスターを狩る人手も増えます」


 カルモンと真面目秘書官モードのスーラが意気投合している。

 でも、スーラのことだから何か裏がありそうなんだけど……。


「それだけではありません。ロジスタークでモンスターを防げば、ロジスワンのモンスターの脅威が減ります。それはあの肥沃な土地を活用した一大穀倉地にできるということです!」


 アンジェリーナも入って3人で話が盛り上がる。

 人口増と税収増を考えると、ロジスタークの規模を大きくするのはいいことかもしれない。


「分かった。このロジスタークを大きくしよう」


 当然、僕が防壁を築くわけだ。だけど、それは創造魔法の訓練にもなるので、不満なんてない。

 ただ、スーラが魔力切れの僕にマナポーションをがぶ飲みさせるので、それだけは勘弁してほしい。


 

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