017_新興貴族、砦を築く
ミスリルゴーレムを倒したはいいけど、持って帰るのが大変だ。
まず、ミスリルゴーレムの解体は僕しかできないので、僕が切り分けるしかなかった。
いや、本当はスーラもできるけど、やらない……。
20キロから30キロくらいの大きさに切り分けて15台の荷車に載せたけど、荷車が壊れそうなくらいに載せても全部載らなかった。
「荷車があと10台くらい必要ですね」
そんなわけで、急遽荷車10台を近くの集落から集めてやっと全部載せることができた。
そして屋敷に帰ったんだけど、アンジェリーナが切り刻まれたミスリルゴーレムを見て卒倒した。
「とーーーっのーーーーっ!?」
卒倒から復活したアンジェリーナが抱きついてきた。
「あ、アンジェリーナ。落ちついて」
「あ、これは失礼しました。私としたことが、お恥ずかしい」
アンジェリーナが落ちついたので、何がそんなに嬉しいのか聞いてみた。
「ミスリルですよ! しかも、ミスリルゴーレムのミスリルってことは、純度はこれ以上ないほどいいのです!」
「そ、そうなんだ……」
ずいっと顔を近づけてくる。まだ興奮しているようだ。
「あ、これは失礼……。えーっと説明しますとですね、金の価格が1キロでおよそ大金貨10枚です。これはいいですか?」
「うん」
「それに対してミスリルは1キロで大金貨28枚で取り引きされています」
「へー、すごいんだね。……ん?」
僕は25台の荷車に載っているミスリルの山を見た。
「えーっと……」
「気づいたようですね。はい、荷車1台でも大きな金額が動きますが、25台もあるのです!」
僕は呆然とした。
「単純に荷車1台に1トンのミスリルが積まれていたとして、25台で25トン。これを先ほどの相場で売った場合、総額は大金貨70万枚になります! 財政難なんてどこ吹く風ですよ!」
「あ、うん。理解できた……」
アンジェリーナじゃなくても卒倒すると思う。
スーラは、なんてもののところに案内してくれたんだ!? 嬉しいけど。
そんなわけでアンジェリーナから砦を築くOKが出た。
「砦だろうと要塞だろうと、造っていいわー!」
気が大きくなったアンジェリーナである。
『おい、わざわざ大金貨700枚を使わなくても砦は築けるぞ』
『本当に!?』
大金貨70万枚からしたら大金貨700枚くらいと思いがちだけど、大金貨700枚は今の僕の領地の税収の2年分以上になる大金だ。
それが必要ないというのは魅力的な言葉である。
『ザックが創造魔法で造るんだよ。そうすれば、金はかからないぞ』
『そ、創造魔法……。無理だよ!』
『無理なものか、砦くらいちょちょいのちょいで造れるくらいにならないと、実戦レベルで使い勝手が悪いじゃないか』
『うわーーー、無茶を言うーーー』
『アンジェリーナにはオレから言っておいてやる』
『てか、今さらなんだけど、創造魔法のことは内緒じゃないの?』
『内緒なのは敵に対してだよ。味方ならあるていど教えてもいいぞ。カルモンたちは信用できると思うぞ』
スーラが隠せって言ったのに……。まあ、グラムとか造っているし、今さらだね。
そんなわけで、僕は魔の大地の最前線に砦を築くことになってしまった。
アンジェリーナは大金貨700枚が浮いたから領内の開発に力を入れると言っていたけど、そもそも大金貨70万枚の予算があるんだから、大金貨700枚くらいは誤差だよね?
「殿。これまでの調査の結果、この辺りが一番モンスターを食い止めやすい場所かと思います」
南を見ると谷があり、北には峻険な山々が連なっている。
「ここはかなり魔の大地に入り込んでいると思うけど?」
「はい、ここは魔の大地と言われていた場所です」
言われていたって、今も魔の大地だよね?
「ここは僕の領地ではないよ。砦を築くのはマズくないの?」
「ここはどの国にも属していない土地です。砦を築けばそれすなわち殿の領地になるのです」
「僕の領地……」
『いいじゃねぇか、この土地には色々な資源が眠っているぞ。手つかずの資源だぞ』
『手つかずの資源……』
『そうなれば、モンスターの素材に頼らないで済む。継続的に資金難を克服できるんだぞ』
なんだか乗せられている気がする。だけど、資源という言葉は甘美な響きだ。
「分かったよ。ここに砦を築こう」
「はい!」
僕はこの場所に留まって創造魔法で砦を築くことにした。
「ザック様、まずは防壁を築きましょう」
スーラがノリノリで真面目秘書官を装っている。念話の時は乱暴な言葉遣いなのに、本当に面倒くさい。
僕は魔力が尽きるまで防壁を築いた。
「ザック様、マナポーションです。飲んでください!」
無理やり口にマナポーションを流し込まれて、再び防壁を築いた。何度もそれを繰り返された……。
おかげで防壁は3日でできた。なかなか堅牢な防壁だと思う。
防壁ができたら建物を造っていく。
皆も防壁の中にテントを設置して住み込んでいて、そこを拠点にモンスターを狩っている。
半月もすると概ね建物もできた。
結構、立派なので砦というよりは要塞や城になっている。
僕は何度も魔力が枯渇して、その度にマナポーションを口に流し込まれた。
今度、スーラに仕返しをしてやる!
訓練所、兵の宿舎が3カ所、鍛冶場、井戸が5カ所、武器庫が3カ所、兵糧庫が4カ所、その他の倉庫が2カ所。その他にも客があった時の屋敷などを造っても余裕がある砦だ。
中のほうが概ねでき上ったので、今は防壁の外に空堀を築いている。
防壁だけでも結構な堅牢さだと思うけど、空堀を二重にすることで防御力はさらに上がる。
「もう少しで完成ですな、殿」
「本当にもうすぐ完成だね。完成後は誰に砦を任せようか」
「そうですな……」
カルモンは顎に手を当てて考える。
「ここはケリーに任せましょう」
「ケリーか……。砦を築くと提案してきたゼルダでなくていいの?」
「ゼルダは殿のそばにいたほうが役に立ちます。もしケリーだけで不安であれば、クリットを補佐につければいいでしょう」
「クリットなら経験豊富だけど、クリットは補佐でいいの? ケリーよりも古参だよ?」
「クリットはナンバーワンよりもナンバーツーのほうが性に合っていると言うやつですから、問題ないでしょう」
クリットと長い付き合いのカルモンが言うのだから本当だと思うけど、いいのかな?
『ぐだぐだ考えても仕方がないだろ。やってみてダメだったら直せばいいんだよ』
『そ、そうだね。分かった』
「それなら、ケリーに任せようか」
「それがいいでしょう」
そんな話をした数日後、空堀も終わったので僕は最後の仕上げとばかりに、砦のほぼ中央に城っぽい建物を築いていた。
すると、訓練の声にしてはおかしい声が聞こえてきたので、気になって見にいった。
「お前たちは犬なのだ! 犬ならワンと鳴け!」
「「「ワン!」」」
僕は何を目にしているのだろうか?
ボンテージスーツを着込んだ、ロリ娘がムチを持って兵士たちを踏みつけている……。
「ああぁぁぁリサさぁぁぁぁまぁぁぁぁぁっ」
よく見ると、ボンテージスーツを着ているのはリサだった……。
まあ、ロリの時点でリサなのは分かっていたけど……。
リサはハイヒールを履いているので、それで踏まれている兵士はとても痛いと思う。なのに、兵士は幸せそうな顔をしている……。
「なんだこれ……?」
「某もこの光景を見た時は心臓が止まるかと思いました」
カルモンが苦笑いを浮かべている。
「あれは何をしているの?」
「某には理解できないことです」
「兵士を虐待しているなら、すぐに止めさせなければ」
「それが、あの兵士たちは……あれがいいそうなのです……」
「あれが……いいの?」
「はい、あれがいいそうです」
僕とカルモンは顔を見合わせてなんとも言えない表情をした。
『いやー、リサ嬢はいい感じに仕上がってきたな』
『スーラ、何かしたの?』
『いや、オレはボンテージスーツとムチとハイヒールをリサ嬢にプレゼントしただけだぞ。あ、オレの国の話も少ししたかな』
『絶対そのせいだよね!?』
『何を言っているんだよ。あれはリサ嬢が自分で辿りついた境地だぜ。はーっははははは!』
スーラが悪の権化だった……。
「あの兵士たち……19名ですが、リサを女王様と呼び、ムチを打たれても喜びの声をあげ、ハイヒールで踏まれれば歓喜するのです」
「……うん、見なかったことにしよう」
「はい」
僕とカルモンは仕事に戻った。僕は何も見ていないし、何も聞いていない。
最近砦を築いている疲れが溜まっているようだから、空耳が聞こえるんだ。
「さてと、仕事、仕事。今日で終わらせるんだ」