016_新興貴族、財政難です
僕の執務室にカルモンが駆け込んできた。何事だろうか?
「仕官希望者が列をなしています」
「仕官希望者が列を? なぜ?」
「アースドラゴン効果です」
ああ、なるほど。アースドラゴンを討伐したことで、ロジスタの名が高まったからか……。
正直言って、今のロジスタは人口に対して兵士の数が多いので、税収に対して兵士への手当が大きなウェイトを占めている。
今年はまだ収穫を終えていないので分からないけど、昨年の税収は金額にして約大金貨300枚ちょっと。
それに対して、兵士と使用人、そしてカルモンたち重臣への手当てが合計で大金貨230枚くらい必要なんだよ。
つまり、人件費が膨れ上がっていて、他のことを考えると赤字になってしまうんだよ。
アスタレス公国との戦いで回収した物資や金、そしてアースドラゴン討伐で得た金があるので、何もなければ7年くらいは補填できるとアンジェリーナは言っていたけど……。
この人口の少ないロジスタ領になんでこんなに兵士が多いかというと、アスタレス公国と魔の大地に隣接しているからだ。
特に魔の大地から多くのモンスターが領内へ流入してくるので、どうしても兵士の数が多くなる。
今までは国の直轄地だったので国が費用を負担していたけど、今は僕の領地なので費用は僕の負担になる。
領地を受け継いだ時に兵士を半数にすればよかったけど、僕が全員受け入れると言ってしまったのでこんなことになっているわけで、僕のせいでもあるんだけど。
そんなわけで、簡単に人を増やせないという経済状況なのだ。はぁ……頭が痛い。
僕の領地では兵士への基本給が他の領地よりも安い。だけど、モンスターを狩ると、その売却益から一定額が兵士に均等に分配される。
カルモンたちは、毎日交代で兵士たちを連れてモンスター狩りにいく。それがまたそこそこの収入になっているので、助かっているけど。
だから、がんばってモンスターを狩れば、他の領地の兵士よりも高給取りになっている。
「とりあえず、使えそうな人がいるか見てみようか。今日はゼルダはいるかな?」
いくら金がなくても人材はお金以上に貴重だ。
一般兵士ていどの人材はごめんなさいだけど、兵を指揮できる人材ならほしい。
「ゼルダなら訓練所で部下たちの訓練をしているはずです。呼びにいかせます」
「お願い」
僕の重臣の中でカルモンは総大将、ジャスカは切り込み隊長、クリットは偵察隊長、そしてゼルダが参謀長という役割になっていくと思う。
だからカルモンとゼルダがいれば、将に相応しい人材を見つけることができるはずだ。
カルモンとゼルダを引き連れて仕官希望者の面接をした。
300人くらい集まっていたけど、ほとんどはごめんなさいする。ほんと、ごめん。
「あの5人の中で、カルモンとゼルダは誰を推す?」
「そうですな、某はケリー・フーリガンがいいと思います。剣の腕はA級ソルジャー並みですぞ」
カルモンが推すケリーは大柄な女性で濃い緑色の髪の毛を背中の真ん中まで伸ばしているグラマラスビューティーだ。
ただ、A級ソルジャー並みの剣の使い手なら戦闘力は申し分ないけど、僕は将がほしいんだよな。
「カルモンは、ケリーが兵士を指揮できると思う?」
「ジャスカよりよほど指揮官としての能力は上でしょう。現在は中隊ていどまでなら問題なく指揮できると思います。ただ、大隊となるとまだ力不足だと思いますが」
中隊は200から350人くらいの部隊なので、今の僕が抱えている兵士の数なら全員指揮できるので問題ない。よし、財政は厳しいけど採用しよう。
「ゼルダが推す人物はいる?」
僕はゼルダに向きなおって聞いてみた。
「私はリサ・ライヤーがいいと思いました。彼女は魔法使いですので、今のロジスタ家にはいない貴重な人材になります」
リサはとても小柄な青い髪の毛の女性だ。
僕より5歳年上の19歳なんだけど、見た目は7歳くらいでスーラが『合法ロリ!』と騒いでいた。合法ロリってなんだよ?
「ザック様、ごう……リサ・ライヤーは絶対に登用すべきです!」
『今、合法ロリって言おうとしたよね? スーラの意見は聞いてないから』
『なんでだよー!? イエスロリ! ノータッチだからいいだろ!』
『意味分からないし』
念話で騒ぐスーラを無視してゼルダに聞いてみる。
「リサは四属性全てが使えるんだよね?」
「ウィザードギルドで魔導士になっているほどの才女です。性格はちょっとあれですが……」
リサはかなりハイテンションな人だった。
見た目は7歳だけど「わーーっははは!」とか笑う豪快な性格と言えばいいのかな、スーラが喜んでいたっけ……。
「ザック様、リサは絶対に必要な人材です!」
スーラがぐいぐいくる。まあ魔法使いは貴重だし、魔導士なんて二度と採用できる機会がないと思うから採用するけどさ。
ウィザードギルドは見習い魔法使い、魔法使い、魔術士、上級魔術士、魔導士、賢者、魔王の階級がある。
リサは13人しかいない魔導士の1人なんだ。あの年で魔導士は才能溢れるとゼルダは推してきた。
「じゃあ、ケリーとリサを採用で。それでいいかな?」
「「はい」」
「イエスロリ!」
スーラが敬礼している。真面目秘書官の設定はどうした?
そんな数日後、僕は久しぶりに部隊を率いてモンスターを狩りにいこうとしていた。
「殿、ロジスタ領に店を出したいという商人が許可を求めてきました」
「商人? アンジェリーナに任せるよ。上手いこと調整してやって」
そこにゼルダがケリーを連れてやってきた。
「殿、魔の大地方面に砦を築きたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「砦か……」
砦を築くのは賛成かな。でも、今は先立つものに余裕がないんだよな。
「砦に関してはどれくらいの予算が必要か出ているの?」
「はい、おおよそですが、大金貨700枚ほど必要です」
「アンジェリーナ、大金貨700枚を捻出できる?」
「殿がもう一度アースドラゴンを狩ってきてくださったら問題ないです」
「あ……。うん、そうだね……。がんばって狩ってくるよ」
商人のことを丸投げしたら、予算を丸投げされてしまった。
20人の兵士を引き連れて魔の大地へと向かう。
……なぜかいつもより多い15台の荷車が用意されているんだけど。
『ザック、今日は面白い獲物を見つけておいたぞ』
『え、いつそんなことしてたの?』
『俺は分裂できるから分体を魔の大地に偵察に送っておいた』
『色々隠し玉があるね!』
『こんなのオレの能力のほんの一部だぜ、はーっははは!』
スーラがとても楽しんでいる気がする。
『それで、その面白い獲物って何?』
『ふふふ、聞いて驚け。なんと……』
『なんと……?』
『ミスリルゴーレムだ』
『ミスリルゴーレム……。えーっと、伝説のモンスターだよね?』
『あんなのが伝説なわけないだろ? 瞬殺だよ、瞬殺』
『………』
『何、ビビってんだよ!? アースドラゴンと大して強さは変わらないから安心しろよ』
本当かな?
「……デっか!?」
ミスリルゴーレムは体長15メートルくらいの大きさで、とても分厚い胸板をして太い手足をしている。
アースドラゴンのほうが大きいと思うけど、高さがあるから威圧感が半端ない。
兵士たちも怖気づいているのが分かる。
「ザック様、ちょちょいのちょいとやってください」
スーラが気楽に言ってくれる。
「これを倒せば、アンジェリーナさんが言っていた資金も解決ですよ」
「分かったよ、やればいいんだろ!」
僕は身体強化を自分にかけて、ミスリルゴーレムに向かって駆け出した。
「重力10倍!」
ミスリルゴーレムを10倍の重力で拘束した。
でも、二足歩行のモンスターなら普通は膝を地面につけたりするけど、ミスリルゴーレムに変化はなかった。
僕は鞘から魔剣グラムを抜いて、ミスリルゴーレムの足を切った。
『主殿、ミスリルゴーレムの傷は浅いですぞ』
『分かった!』
僕は地面を蹴って飛び上がり、ミスリルゴーレムの胸を切りつけようとした。
だが、そのタイミングを見計らっていたように、太い腕が僕を殴ってきた。
なんとか防御したけど、僕は十数メートル弾き飛ばされて地面に激突してしまった。
「く、なんで10倍重力なのに、あんなに動けるんだよ!?」
「ザック様、ゴーレム系は10倍ていどの重力なら簡単に動きますよ」
いつの間にか僕の横にスーラが立っていた。
「もっと早く言ってよ」
「なんでも人に聞いていてはいけませんよ、ザック様」
なんかムカつくー。だけど言っていることは正論なだけに何も返せない!
「頭を使うのです。そうすれば、ミスリルゴーレムなど苦労もせずに倒せるのです」
「頭を使う……」
「さあ、いくのです! ザック様がさらなる高みに登るための試練だと思ってください!」
丁寧な言葉使いだけど、どうせ帰ったら暴言を吐かれるんだろうな……。
そんなことより、今はミスリルゴーレムだ。
見ると、ミスリルゴーレムは緩慢な動きでこっちへ歩いてくる。
重力は効いていないわけではなく、効きが悪い感じだ。
「そうか!?」
僕はあることを思いつき、創造魔法を発動させた。
「落ちろっ!」
僕は落とし穴を造ってミスリルゴーレムを地面に落とす。
「埋まれ! とにかく埋まれ! 地面よ硬くなれ!」
胸から上だけ出して、ミスリルゴーレムの動きを封じた。
土の中から抜け出そうとミスリルゴーレムがあがいているのが分かる。
「グラムを強化だ!」
『ぐおぉぉぉぉっ! 力が湧いてくるぞぉぉぉぉぉ!』
僕は全身全霊の力で魔剣グラムを振り切った。
「………」
静寂の中、ミスリルゴーレムの分厚い胸に一本のスジが現れ、上部がずり落ちた。
「やった……」
「ザック様、それはフラグですよ」
「フラグ?」
「まあ、核を破壊したので、フラグは折れてますけどね」
なんのことやら。