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015_新興貴族、アースドラゴンを売る

 


 アースドラゴンを切った剣を見つめる。


「なんて切れ味だ……」


 カルモンが飛んできた。


「殿、やりましたな! これで殿もドラゴンスレイヤーの仲間入りですぞ!」


 ドラゴンスレイヤー。それは、ドラゴンを単独討伐した人物に与えられる名誉ある称号。

 僕がドラゴンスレイヤー……になるなんて、思ったこともないことだ。


「しかし、その剣はなんですか? そんな真っ青な剣は見たこともありませんよ!」


 ゼルダもカルモン同様に興奮している。


「それはザック様が自らの魔力で創り上げた魔剣です。ザック様、魔剣に銘づけを」

「銘づけ……」


 こんなに青く美しい剣が魔剣。

 魔剣と言うと、もっと禍々しいものだと思っていたけど……。


「ザック様の心の美しさが剣にも表れているのでしょう」


 スーラが僕をおだてる。

 僕もやればできるので、褒めてくれているんだと思う。


「よし、決めた。この魔剣は『グラム』だ」

「グラムですか、いい銘ですね」


 僕は魔剣グラムを眺めた。

 長さは140センチくらいの長剣で、凄まじい切れ味の魔剣。

 頬が緩んでしまう。


『我は魔剣グラム。主殿よ、これからよろしく頼むぞ』


「え!?」


『我を創り出しておいて、何を驚いているのだ』

『グラムなの?』

『さきほどからそう言っている』


「殿、どうされたのですか?」

「あ、いや……なんでもないよ」


 カルモンが不思議そうな顔をしていた。


「しかし、こんなデカいアースドラゴンだと運搬も大変ですぞ、殿」


 たしかにゼルダの言う通りだ。


「ゼルダ、近くの集落から荷車を集めてくるのだ。それまでにこのアースドラゴンを解体しておく」

「了解しました」


 今でも3台の荷車があるけどとても足りそうにないので、カルモンの指示でゼルダが10人の兵を引き連れて近くの集落に向かった。


「解体は某が指揮します。殿はお疲れでしょうから、休んでいてください」

「そうするよ。よろしくね」


 屋敷に戻る時に町中を通ったけど、大騒ぎになった。

 アースドラゴンの頭部はそのまま荷車に載せて運んできたので、目立って仕方がない。


「まさかあの戦力でアースドラゴンを狩ってくるとは思ってもいませんでしたよ、カルモン様」

「アンジェリーナ、あれは殿が1人で倒したものだ。某たちは手出ししていない」

「まぁ……。そうすると、殿はドラゴンスレイヤーになられたのですね」

「そうだ。我らの殿がドラゴンスレイヤーだ」

「うふふふ、あのアースドラゴンの素材を売れば大金になりますし、殿はドラゴンスレイヤーだし、ロジスタ家は安泰ですね」


 財務官僚らしい考えだ。

 しかし、アースドラゴンの素材を売ったらいくらになるんだろうか?


「あああああああ! アースドラゴン!」


 オスカーが走り寄ってきた。


「殿、殿、殿、殿、殿、殿、殿、殿、殿、殿、殿、殿、殿、これ、くださいですぞ!」


 オスカーはアースドラゴンの頭部に抱きついて頬ずりしている……。


「オスカー、ダメに決まってるじゃない! これは売ってお金に替えるのよ!」

「だったら、某が買うですぞ! いくらですぞ? 大金貨10枚? それとも20枚ですぞ?」


 アンジェリーナの目が、猛禽類が獲物を見つけた時の目になった。


「そうね、大金貨30枚ね」

「むむむ、仕方がない30枚で買うですぞ」

「よっし!」


 アンジェリーナがガッツポーズした。


「ちょっと待った!」


 さすがに僕は待ったをかけた。


「オスカー、そのアースドラゴンの頭部は何に使うの?」

「研究に使うのですぞ。ドラゴンの頭部ならいい薬ができそうな予感がするですぞ!」

「分かった。その頭部はオスカーにあげる」

「え!? 殿!?」

「アンジェリーナ、これは決定事項だから」

「う、殿がそう仰るのであれば……」


 アンジェリーナが渋々引き下がった。


「オスカー。その頭部はあげるけど、できた薬は僕がもらうからね」

「それでいいのですぞ。殿、ありがとうですぞ」


 オスカーは研究バカだから、でき上ったものを僕がもらえばいいだろう。

 どんな薬ができるか分からないけど、家臣から金を巻き上げるのは気が引ける。とは言っても、でき上った薬はもらうんだけど。


「アンジェリーナ、頭部以外を売る手配をしてくれるかな」

「承知しました」


 あとはアンジェリーナがやってくれるから、僕は鎧を脱いで自室で寛ぐことにした。


「ふー、今日は疲れたな……」

「何を言っているんだ、あんな無様な戦いをしやがって!」

「え!?」


 スーラが腰に手を当てて怒っている。


「な、何を怒っているのさ。現地では褒めてくれたじゃないか」

「あれは真面目秘書官のオレだ。本当のオレではない! あのていどのアースドラゴン(雑魚)にあんなに手子摺りやがって、一瞬で勝負をつけろよ!」

「いや、相手は最強種のドラゴンだよ!?」

「ふんっ。アースドラゴンなんて雑魚の雑魚、ちょー雑魚だぞ。もっと戦い方を学べ! そうだ、明日からジャスカやカルモンに剣の扱いを習え! 魔法は使ったらダメだからな!」

「明日は創造魔法の訓練じゃないの!?」

「バカ言え! 創造魔法は夜やるんだよ! 寝られると思うなよ!」


 うわー、地獄だ。

 でも、明日からと言うところがスーラの優しさだよね。


「む? なんだこの不快感は? ザック、変なこと考えただろ?」

「そ、そんなことないよ!」


 翌日から僕の地獄は始まった。本当に地獄だった……。


 ▽▽▽


「殿、アムリッツァ子爵を応接間にお通ししました」


 アムリッツァ子爵というのは、国王の使者だ。

 なぜ国王からの使者がやってきたかというと、アースドラゴンの魔石を献上したからだ。

 国王ももらうだけではなく、お返しをするために使者をよこしたわけだね。

 僕はスーラとアンジェリーナを連れてアムリッツァ子爵が待つ応接室に入った。


「お待たせしました、ザック・ロジスタ男爵です。以後、お見知りおきください」

「ハイマン・アムリッツァ子爵と申します。この度は陛下よりの使者を仰せつかり、まかり越しました」

「遠路はるばるご苦労様にございます」


 僕とアムリッツァ子爵は近況を喋りあって、本題に入った。


「この度は、ロジスタ男爵がアースドラゴンを単独討伐したよし、陛下は大変喜ばれております。よって、ロジスタ男爵にドラゴンスレイヤーの称号を贈り、大金貨100枚を下賜するものでございます」


 僕に書面を渡してきたので内容を確認すると、アムリッツァ子爵が述べた内容が書かれていた。


「格別のご高配を賜り、感謝の言葉もございません」


 ドラゴンスレイヤーの称号は簡単には得られないので、国が僕を正式にドラゴンスレイヤーと認めてくれたのは大きいし、嬉しいことだ。


「ロジスタ男爵、これはオフレコでお願いしたいのだが……」

「はい、なんでしょうか?」


 アムリッツァ子爵が言いにくそうにする。


「盗賊とケンドレー男爵の件です」


 そう言えば、あの件は国へ任せたんだった。

 アムリッツァ子爵の顔を見れば、あの件が上手くいっていないことが分かる。


「国としては盗賊の証言だけでケンドレー男爵を罰することはできないのが実情。それを承知しておいてほしいのです」


 これは無理だから期待するなって言っているんだろうな……。まあ最初から期待していなかったけどさ。


『おい、ここは分かったと言っておけ。だが、やられっぱなしじゃ終わらないと、念を押しておけよ』

『そうだね、それが最善の回答かな』


「アムリッツァ子爵、その件は理解しました。しかし、僕もやられっぱなしにするつもりはありませんので、ご承知ください」

「む、それは……。いや、そうだな……」


 アムリッツァ子爵は3日間逗留して帰っていった。

 国王の使者としてきた人を歓待して、お土産を持たすのは慣例になっているので、大金貨100枚をもらっても出ていくお金もそれなりに大きい。


「殿、アースドラゴンの販売益が出ました。ご確認ください」


 アンジェリーナが持ってきた書類を見ると、つらつらと書き連ねられている金額の合計が大金貨350枚を超えていた。


「アースドラゴンの頭部があったら、大金貨400枚を超えたはずですから、オスカーの研究に期待します」


 アンジェリーナはまだオスカーに与えた頭部のことが諦められないようだ。

 しかし、大金だ。このロジスタ領の税収はたかが知れているから、アースドラゴンのようなモンスターを狩ると税収よりも多い金が懐に入ってくるので、財政を預かるアンジェリーナとしてはありがたいんだろうね。


「それでも大金貨350枚なんてすごいじゃないか」

「はい。できれば、定期的にアースドラゴンを狩ってきていただけますと、財政を預かるものとして助かります」

「ははは、あんなのがたくさんいたら困るよ」


 笑ってごまかしたけど、アンジェリーナの目がもっと狩ってこいと言っている気がした。


「ザック様、魔の大地にはアースドラゴンよりも高値で売れるモンスターがたくさんいますよ」

「スーラまで……」


 

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