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014_新興貴族、スーラが補佐官!?

 


「よし、決めた!」


 自室で創造魔法の訓練をしていると、肩から飛び降りたスーラがプルルンと体を揺らした。

 創造魔法はまだ一度も成功していない。


「何を決めたの?」


 ここは僕の自室なので、僕たちの他には誰もいない。だから、スーラは念話ではなく普通に喋っている。


「オレも人族の姿になってザックを支援してやる」

「はい?」


 スーラは何を言っているのかな?


「分かってるかな? スーラはスライムだよ」

「ふふふ、このスーラ様の辞書に不可能の文字はないのだよ、ナポレオン君」

「ナポレオンって誰!?」


 僕はスーラが言っていることがさっぱり分からなかった。


「まあ、見ていろよ。……変身! 超美形AC-02A!」


 スーラがプルルンと揺れて光ったので、僕は目を覆った。


「ほい、完了だ」


 僕はスーラのその声で目を開けた。


「え!?」


 驚いたどころの話ではない。スーラは……。


「に……んげん?」

「ふふふ、正確には人工生命体AC-02Aというのだ」

「人工……何?」

「人工生命体。つまり、人の手によって造られた人型の生き物ってことだ」

「………」


 目を白黒させる。スーラの言葉についていけない。


「まあ、人族だと思えばいい」

「……姿は確かに人のそれだけど……。スーラだよね?」

「今さらだな、オレはスーラ様だぜ!」


 本当にスーラだった。しかし、人の姿にもなれるのか……どんだけ万能なの?

 スーラは僕と同じ薄い紫の髪の毛を肩の辺りまで伸ばした美少女で、目の色は透き通った青色でまるで宝石のようだ。


「スーラは女の子だったんだね」

「バカ者! オレは男だ」

「でも、その姿を見ると女の子にしか見えないよ」

「この容姿は人工生命体のものなんだよ。人工生命体に男も女もないぞ。生殖器がないんだからな。だけど、オレは男だ」

「そ、そうなんだ……」

「しかし、この姿になるのは久しぶりだぜ」

「スライムの姿よりもそっちでいたほうが旅とかしやすくない?」

「別にスライムの姿だろうが、この姿だろうが関係ないぞ。この世界に俺より強い奴はいないからな」

「すごい自信だね」

「オレのは自信ではなく、事実なんだよ」


 スーラらしいな。


「これからはオレがザックの補佐官だ。そのように皆に紹介しろ」

「わ、分かったよ」

「ちなみに、真面目秘書官の設定でいくからな」

「真面目秘書官って……。まあいいけどさ……」


 場所を移して僕の執務室。そこで皆にスーラを紹介した。


「彼はスーラ。僕の補佐官をしてもらうことになった」


 スーラを補佐官にしたというと皆は驚いた。主に「彼」と紹介したスーラの容姿が女の子のところで。


「スーラです。ザック様の補佐官の任を全うできるよう、誠心誠意努力いたします」


 喋り方がスーラじゃない!

 真面目秘書官という設定だからだろうか。


 カルモン、クリット、ジャスカ、ゼルダはスーラが醸し出す強者の雰囲気を感じたのか反対しなかったし、アンジェリーナ、ジェームズ、セシリーも能力があるのならいいと受け入れた。


「アンジェリーナ殿、この書類は計算が間違っていますので、再提出してください」

「え!? 私が計算間違いをするわけ……あった……」


 スーラはすごかった。

 書類を受け取るとペラペラめくって、誤字や計算間違いを指摘してしまったのだ。

 それを見たアンジェリーナは目を白黒させていた。


「よし、書類の処理も終わったし、モンスターを狩りにいくぞ」


 僕とスーラの2人しかいないと、普通の喋り方に戻る。


「やる気満々だね」

「オレのすごさを皆に見せつけないとな」


 今回はカルモンとゼルダ、ジャスカを連れていくことにした。

 兵士は老兵士たちではなく、現地採用の50人の兵士を連れて僕たちは魔の大地方面に向かった。

 魔の大地に近づくと、すぐにモンスターが現れた。


「アイアングレートバッファローですか。肩慣らしにもなりませんが、いいでしょう」


 また真面目秘書官モード。

 スーラは1人で前に進んでいくと、猛スピードで突進してきたアイアングレートバッファローを左腕を前に出しただけで受け止めた。

 アイアングレートバッファローは前進しようと地面をかいているが、まったく動く気配がない。

 スーラは涼しい顔をして、右腕でアイアングレートバッファローの首を切り落とした。50人の兵士はスーラのすごさに息を呑む。


「剣もなしにあの切れ味か……。あれは化け物ですな……」


 カルモンが呟いた。


「カルモン殿でもそう思いますか……? 私が対峙したら、おそらく1秒であの世逝きですな」


 ゼルダは苦笑いしてそう言う。


「悔しいけど、スーラに私の攻撃が利く気がしない……」


 気の強いジャスカまでお手上げ状態だった。


「皆さん、血抜きはしましたから、解体は任せますね」


 スーラが歩いてきて兵士たちに声をかけると、兵士たちは緊張感のある顔で背筋を伸ばして敬礼した。今の光景がよほどショッキングだったようだ。


 その後、僕たちはどんどん魔の大地方面へ進んだ。

 兵士たちに強化魔法をかけてあげると、僕、スーラ、カルモン、ジャスカが手を出さなくても、ゼルダの指揮で50人の兵がワイバーンを倒してしまった。


「ワイバーンを50人で倒せるなんて思ってもいませんでした!」


 ワイバーンを倒すには、一個中隊(200人ほど)の戦力がいるとゼルダが驚いている。

 そう考えると、身体強化魔法で普通の兵士を4人分以上にできるというわけだよね。


「ザック様。身体強化魔法を極めれば、百人力の兵士に仕上げられますから魔法の訓練をもっとしましょう」


 スーラの言葉に僕だけではなく、カルモンたちも驚いている。


「ははは……。がんばるよ」


 さらに進むと、アースドラゴンが現れた。

 アースドラゴンは地響きを立てて僕たちへ向かってくる。


「あれくらいなら、ザック様だけで十分でしょう。ザック様のお力を皆に示してやってください」

「え、僕1人!?」

「スーラ殿、それはさすがに無理ではないか? あれは下位とは言え、最強種のドラゴンだぞ」

「ゼルダ様は、ザック様の力を侮っていますね」

「いや、そんなことはないが、ドラゴンだし……」

「ザック様が危険になることはありませんが、もしそうなった時は私が支援します」


 僕はスーラに背中を押されて前に出た。


「デカい……」


 アースドラゴンは体長20メートルくらいあって、体高も8メートルくらいある。


「やるしかないか……。地にひれ伏せ!」


 僕は重力魔法を発動させてアースドラゴンに8倍重力をかけた。


「グラァァァァァァァッ!?」


 動きを止めたアースドラゴンが咆哮をあげた。

 耳の鼓膜が破れそうだ。


「強化!」


 僕は自分自身と剣を強化して、地面を蹴った。

 すると、アースドラゴンは8倍重力を受けているのに、体を動かして僕を迎え撃とうとする。


「くっ!?」


 危うく巨大な口の中に飛び込むところだったけど、それをなんとか回避してアースドラゴンの横に回って腹部に切りつけた。

 硬い! 手が痺れるほどの硬さだ。

 僕の剣はアースドラゴンの鱗と皮を裂いて肉まで到達していたけど、どう考えても浅い。


「グラァァァァァァァッ!?」


 アースドラゴンが尻尾を振り回して攻撃してきたので、僕は大きくジャンプした。

 しかし、8倍重力を受けてもあれだけ動けるなんて、さすがは最強種のドラゴンだ。


「重力12倍!」

「グラァァァァァァァッ!?」


 今の僕は重力12倍まで行使できる。

 その12倍重力でアースドラゴンの動きを止めにかかる。これで止まらなかったら、泣くよ!


 僕はアースドラゴンの背中に着地して、アースドラゴンの頭部に向かって走る。

 さすがのアースドラゴンでも12倍もの重力を受けて、体が思うように動かないようだ。よかった。


「はぁぁぁっ!?」


 僕はアースドラゴンの脳を狙って剣を頭部に突き刺した。

 脳に剣を刺されたアースドラゴンは痙攣しているように見える。


「気を抜かないでください」


 スーラがそう叫んだ瞬間、アースドラゴンが大きく跳ねたため、僕は跳ね飛ばされた。


「うわっ!?」


 なんとか空中で体を反転させて地面に叩きつけられるのは回避できたけど、さすがはアースドラゴン、12倍重力を受けて脳を刺されても動けるのか。


「……剣を奪われてしまったか」


 僕の剣はアースドラゴンの頭に刺さったままで、今の僕は無手になってしまった。


「剣を創造してください」


 いつの間にかスーラが僕の横にいた。

 創造……魔法。まだ一度も成功していない魔法。それで剣を創造しろと言うのか……。


「さあ、剣を創造するのです」

「……分かったよ。やってみる」

「早くしないと、アースドラゴンが重力に慣れてしまって動きがよくなりますからね」


 そんなに早く重力に順応してしまうのか。アースドラゴン、下位でもドラゴンなんだと思い知らされる。


「魔力を練り、剣をイメージ……」


 僕の目の前に光が集まってくる。

 まだ一度も成功していない創造魔法。だけど、今やらなければ、いつやるのさ。


「こい! 僕の剣!」


 いつも使っている剣ではデカいアースドラゴンを切り裂くには威力が足りない。

 だけど、重いと僕の戦い方には合わない。

 切れ味がよく、振った時に威力が最大になり、岩のように硬いアースドラゴンの体を紙のように切り裂く剣がいる。


「くっ」

「気を緩めてはダメですよ」


 スーラの声を聴き、意識を集中する。

 不定形の光が長細くなっていく。

 魔力が暴れ、魔力の消費が半端なく多い。重力魔法の比じゃないほど苦しい。


「うおぉぉぉぉっ!」


 光がひと際眩しくなる。


「はぁぁぁぁっ! こぉぉぉぉぉぉっいぃぃぃぃぃぃっ!」


 光が爆発したように飛び散った。


「………」

「おめでとうございます。創造魔法をとうとう発動させましたね。ザック様」


 青く輝く剣身の美しい剣が僕の前に現れた。


「なんて美しい……剣なんだ」

「さあ、その剣であのデカ物を切り裂いてやってください」


 真面目秘書官の口調はどうも慣れない。だけど……。


「うん、ありがとう。スーラ」

「ザック様ががんばった結果です」


 僕はスーラに笑いかけ、空中に浮いている剣を手に取った。


「軽い。だけどとても手に馴染む……」


 アースドラゴンを見ると、まだ機敏に動けないけど、12倍の重力下でゆっくりながらも歩いている。化け物だ。


「身体強化魔法、僕を最大まで強化してくれ!」


 最大の強化を自分に施し、僕は地面を蹴った。


「はぁぁぁぁっ! 切り裂けぇぇぇぇっ!」


 僕は全身全霊の一撃をアースドラゴンに放った。

 剣はなんの手ごたえもなく、すっと振り切れた……。


「………」


 アースドラゴンと目が合った。

 だけど、アースドラゴンは動かない。

 すーっとアースドラゴンの首にスジが入ると、そのスジに沿って頭部がずるずると動いて地面に落ちた。


「………」

「うおぉぉぉぉっ!」


 後方から歓声があがる。それで僕はアースドラゴンを倒したと実感した。


 

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