013_新興貴族、モンスターを狩る
僕の領地であるロジスタは北にアスタレス公国、西にケントレス侯爵領、南にキャムスカ伯爵領、そして東に魔の大地に囲まれた土地で、七割ほどが平地になっている。
大小3本の川が流れていて肥沃な土地だけど、モンスターが多い土地柄なので、獣害が多いそうだ。
それでも人口2000人の領地から生み出される小麦の生産量は1000トン。大豆の生産量が500トンでトウモロコシも500トンなので、人口に対して作物の生産量は多い領地だ。
僕の拠点になるのは今まで代官所になっていた建物。
この代官所の建物も国から譲り受けているもので、建物は老朽化が進んでいるけど暮らすのになんの問題もない。
「今は建物の改修よりもモンスター対策を優先するから、僕はクリットとジャスカを連れて駆除に出かけるよ。カルモンとゼルダは兵の掌握をお願い。それとあの盗賊の頭の尋問も頼んだよ」
「「承知しました」」
カルモンとゼルダが軽く頭を下げる。
「アンジェリーナは人口と商人の把握、ジェームズは農地の把握、セシリーは2人を手伝ってやってほしい」
「「「はい」」」
文官の3人も軽く頭を下げた。
「殿、某は殿についていきますぞ」
「オスカー、僕はモンスターの駆除にいくんだよ?」
引きこもり錬金術師だと思っていたけど、アウトドアできるのかな?
「モンスターを駆除するということは、必然的に魔の大地に近づくということですぞ。彼の地に何があるか見てみたいのですぞ」
「たしかにそうだけど、魔の大地までいくかは分からないよ」
「それでもいくですぞ」
錬金術師は直接的な戦闘力はないけど、後方支援はできると聞くからいいか。
それに、オスカーがいれば怪我をしても薬には不便しないと思う。
早速、僕はモンスターの討伐隊を率いて屋敷を出た。
討伐隊と言っても、いつもの老兵士たちだけど。
なんだかんだ言って、老兵士たちはとても役に立っている。そこそこ戦闘もできるし、泣き言は言わないし、手際もいい。それに強いモンスターが出てきたら僕やジャスカが対応すればいいからね。
そして、僕の強化魔法を皆にかけてあげれば、精鋭の兵士になる。
今さらながら、強化魔法のすごさに気づかされる。
「いやー、殿の強化魔法をかけてもらってから、腰の痛みがなくなって助かっています」
「そうそう、膝の痛みもなくなったし、殿の強化魔法は治癒の効果もあるんじゃないかな?」
老兵士たちが僕についてきた理由の1つが、強化魔法をかけると体の調子がよくなるというのがある。
なぜか分からないけど、そうなるらしい。悪くならないのならいいかと思っている。
「殿、500メートル先に10頭のマッドディアがいます」
マッドディアは角の攻撃が危険なシカ型のモンスターで、農作物を食い荒らすので害獣だ。でも、肉は売れるから実入りにもなるはず。
「マッドディアの角は滋養強壮の薬になるですぞ。いい値で売れますぞ」
「へー、そうなんだ。オスカーは錬金術師なだけあって物知りだね」
「これくらい初歩の初歩ですぞ」
オスカーが胸を張る。褒められて嬉しいのかな?
「それじゃ、さっそく狩ろう! クリットは10人を連れて左へ、ジャスカは10人を連れて右へ回り込んで。僕は真っすぐ進むよ」
「「了解」」
2人が老兵士たちを率いていくのを見送って、僕は適当なタイミングで部隊を進める。
「殿、援護するのですぞ」
「うん、頼むよ」
僕たちは前進してマッドディアを視界に収めた。
「よし、まだ気づかれていないな。クリットとジャスカのほうは……配置についているね。皆、いくよ」
オスカーと老兵士たちが頷いた。
「殿、これをマッドディアに投げつけてやるのですぞ」
オスカーは小さな瓶を僕に渡してきた。ポーションではないよね?
「これは?」
「投げれば分かるのですぞ」
「……分かった、投げればいいんだね」
「はいですぞ」
僕はオスカーの言う通りに30メートルほど離れた10頭のマッドディアに投げつけた。
瓶は真っすぐ飛んでいって、マッドディアの1頭に当たると、大きな音と閃光を発した。
僕たちはその音と閃光に驚いてしまい、棒立ちになってしまうが、それはマッドディアのほうも同じだった。
「殿、ぼーっとしていないで、今がチャンスですぞ」
「あ、うん。皆、いくよ」
どうやら今のは大きな音と閃光でマッドディアを驚かせて動けなくさせるアイテムのようだ。
それならそうと、最初に言ってくれればいいのに。後からオスカーを説教だ。
動きを止めたマッドディアを倒すのは簡単だった。離れていた僕たちでさえ固まってしまうのだから、直接浴びたマッドディアはもっと固まっていた。
「よし、解体するぞー」
ジャスカが解体の指揮を執る。
クリットは次のモンスターを探しにいった。
僕はオスカーに説教をした。
「今後は効果を先に教えること。いいね」
「分かったのですぞ」
オスカーがしゅんとする。
見た目で判断すると僕の倍くらいの年齢のオジサンのはずだけど、しゅんとする仕草が妙に愛らしい。まったく困った人だ。
解体が終わる頃にクリットが戻ってきた。
「東に900メートルにレッドボアが1頭です」
「レッドボアは魔石以外錬金素材はないので興味ないですぞ」
「オスカーの興味のあるなしじゃなくて、モンスターを駆除しにきたの!」
まったくオスカーには困ったものだ。
「レッドボアは落とし穴に落とせば簡単なのですぞ」
「オスカーは、興味ないんじゃないの?」
「ジャスカ殿、興味がなくても魔石はあるのですぞ」
「モンスターなら魔石があるのは当然だわ」
「魔石はどれだけあってもいいですぞ」
オスカーはとにかく錬金術優先の考え方だね。
ジャスカも呆れた顔をしているよ。
レッドボアはオスカーが地面を錬成して落とし穴を造って、そこに落としたら本当に何もできずに僕たちの攻撃を受けるだけになって死んでいった。
他にもオスカーは、ミノタウロスを爆弾という破壊力のある薬で吹き飛ばしたり、オーガを痺れ薬で麻痺させたり、ワイバーンに溶解液の雨を降らせたりと好き勝手やった。
「もうオスカーと一緒に狩りはいかないわ。あんな危ない奴といたら、こっちまで毒に侵されそうよ」
「何を言われるか、某は誰も巻き込んでいないですぞ」
「巻き込んでなくても、何をするか分からないから対応が遅れるのよ!」
2人が睨み合う。これは僕が仲裁しないといけないと思う。
「ふた……」
「気が合わないのは仕方ないな。殿、今後はこの2人は別の部隊にするということでどうですか」
クリットが仲裁してしまった。
「うん、そうだね」
……ま、いいか。
屋敷に帰ると、カルモンとゼルダが待ち構えていた。
「あの盗賊はケンドレー男爵からの依頼で殿を狙ったことが分かりました」
「誰かの依頼ということで予想はしていたから驚かないけど、あの人はそんなに僕が憎いのかな?」
「自分にはない力を持っている殿が妬ましいのでしょう。ただ、証拠がありません」
カルモンが難しい顔をする。
「証人と言っても盗賊では信用度が足りませんし、国に訴えてもケンドレー家を罪には問えないでしょう」
ゼルダも同じように苦虫を嚙み潰したよう顔をする。
「とりあえず、国へ訴えて、あとは国の対応を見守ればいいと思いますよ」
アンジェリーナは国に訴える案か。
「そうですね、こちらで対応するにしても同じ男爵家ですから、無駄な言い合いになってしまいますし、国に任せるのがいいでしょう」
ジェームズも国に訴えるね。
「国へ訴えるのと並行してボッス伯爵にも口添えをお願いしたらいかがですか?」
セシリーはボッス伯爵を巻き込んでケンドレー家を追い込もうという案なんだね。
ボッス伯爵はケンドレー家の寄親だから、寄親に見放された男爵家ってことになってケンドレー家の名は大きく傷つくだろう。
皆の視線が僕に集まる。
やっぱり僕が最終的に判断しなければいけないんだね。領主だもんね。
はっきり言って、国が動くことはないと思うけど、放置してはクソオヤジを調子つかせる気がしてムカつく。
それに今後僕に手を出せば自分が疑われると、念を押す意味でも国には訴えるほうがいいと思う。
『おい、忘れてないか』
『何を?』
『ケンドレーはキャムスカと繋がり、キャムスカはアスタレス公国と繋がっているんだぜ』
『アスタレス公国がロジスタにちょっかいをかけてくるってこと?』
『可能性はあるぞ。だから防衛も考えろよ』
『うわー、面倒くさいな』
『だから、国に訴えて国防を固める。さらにモンスターも狩る。面倒くさい領地だが、実入りもいいはずだ』
『実入りもって、モンスターはともかく、アスタレス公国はいつも大金を持ってきてくれるとは限らないよ。それに兵士を雇うお金だって要るんだから』
『何言っているんだ。俺たちには創造魔法があるのを忘れたのか、これからは創造魔法も訓練するからな』
『創造魔法……。とうとう訓練するんだね』
『血反吐を吐いても心を折るんじゃないぞ』
『なんか、怖い……』
『まあ、オレがいるんだ。ザックをこんな小領の領主で終わらせるつもりはないからな』
『うん。僕、がんばるよ』
『よし、ケンドレーのことは国に丸投げでいいから、今後のことを考えて稼ぐぞ』
『うん』
「アンジェリーナは国へ訴える書類を用意して」
「分かりました」
「ボッス伯爵へ支援を頼むのは保留する。なんでも頼っていてはいけないと思うんだ」
僕はボッス伯爵へ支援を頼むのは保留して国に訴えることにした。
皆が頷いた。