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鉄格子と木の仮面と見知った顔




 

 

 目が覚めたら、留置所に居ました。



 今朝、パンを届けに来た、看守さんに聞いた話では、 

 洞窟から運び込まれてきた第一級危険人物の犯罪者、という事になっているらしい。


 …多分、何かの間違いだと思ってた。

 



 

 取調べの場となる薄暗い狭い部屋で、

 機械から、羽根の駒は抜かれて、手には手錠と鎖、足にも木の板が付けられ、完全無力化の自由には動けない状態にされて、

 あ、これ、本気の奴だと気が付いたときにはもう既に遅く、

 


 取調室には、僕の他に、

 四隅に、黒フードと仮面で人相を隠している四人、ぱっと見て腕が立ちそうな武人が立っており、

 正面には、木の外皮をそのまま剥がして、仕立てただけのような、珍しい仮面を着けた人が、僕に質問をするために座っていた…



 

 「さて、それでは取り調べを開始する。」

 

 あ、この声、洞窟で僕を気絶させた人の声だ、

 あの人が、取り調べするんだ…


 木の仮面の人は、ギリースーツ?だっけ?

 葉っぱとか引っ付けた布を、全身を覆う様に着ているね。

 

 


 「まず、始めに、

 何故、友好的関係を築いていたダンジョンの主を、あれほどの状態になるまで、痛め付けていた?

 そして、それ以前に、運営すら侵入不可となっていたダンジョンにどうやって潜りこんだ?」

 


 んん? 交友関係?

 ちょっと待って? 僕の認識と木の仮面の人の認識が大分違ってる…

 ダンジョンマスターの人は、僕に話も聞かずに戦いになったはずだ。

 交友関係なんて微塵も感じなかったと思う。

 それに、ダンジョンに潜り込んだ記憶もない、気がつけばそこに居たんだから… 


 「僕は、あの日にゲームを起動して、気が付いたらあそこに居ました、なので、ダンジョンだったって知らなかったですし、入り口すら知らないです。

 ダンジョンマスターと戦ったのも、自己防衛の為でして…」

 

 

 「あぁ? しらばっくれてんじゃねぇぞ、ガキィ!

 あんまりチョケとるとイテコマスぞ、ゴラァ」

 


ひぇッ…

 突然に四隅で傍観していた一人が、怒声を上げる、ヤバい、めっちゃ怖い。


  


 「スティ… 荒げるのは、不必要よ?」

 

 「…失礼しました。」

 


 


 やばいよ、怖いよ… 

 

 

 1つ目の質問でこれ!!?

 どれだけ、取り調べと言う名の尋問に耐えれば良いの…

 涙目になりながら、震える手を誤魔化すように、拳で握り混み、下を向く。

 

 

 それと同時に部屋にノックが鳴り響く。

 

 「カシュです、入室の許可をお願いします。」

 「どうぞ。」 

 

 木の仮面の人が、一言返事を返すと、後ろにある扉が開いて、女の人が入ってくる。

 

 

 「報告します。

 ギルドから申請していた資料が届きました。

 それとジャパタシアにも連絡を取りましたが、あちら側の返事は、知らん、そっちの話を持ち込むな、ということです。

 私個人の意見ですが、彼女は今回の件に関しては、関係は無いと判断しても問題ないかと存じ上げます。」 

 


 「ご苦労様、カシュさん、資料は藤っちさんに渡して、もう下がって良いわ。」

 

 「畏まりました。」

 

 

 資料と思われる紙束を、黒フードの一人が受け取りに行き、受け渡し、

 カシュと呼ばれていた資料を持ってきた女の人は、黒フードの四人と木の仮面の人に一礼して、扉の前から踵を返して去っていく。

 

 

 「どうぞ」

 「ありがとう」

 

 …そして、ふじっちさんという人から、木の仮面の人に資料は渡される。

 回りくどいなぁって思うけど、自分は本当に、かなりの危険人物と見なされているみたいで、一定の人以外はこの部屋に入らないようにしているみたいだ。

 

 

 「……」

 

 

 しばらく、紙をめくる音だけが、部屋に響く…

 

 

 「…無いな。」

 


 「…何が、でしょうか?」

 

 僕が口を開くと、四隅から布の擦れる音が聞こえる、多分武器に手をかけてるとか、そういうのだと思う、

 ひぇぇ…

 


 「お前、名前は最初に聞いた、天野 祐紀、もしくはユウで間違いないんだな?」  

 

 

 「はい、前者がフルネームで、後者がよく呼ばれる名前です」

 

 

 


 それを聞き、木の仮面の人が指先で机を、とんとんとんと一定のリズムで叩く。

 

 

 「ない!

 ランキングにも、ギルド登録にも、依頼受注リストにも、

 そして、私の記憶にも、お前の存在は無い!」

 

 

 机をバンと叩き、声を荒げる、

 そしてその後、一体何なんだお前は、と小さく呟いたのが聞こえた…

 うわぁ、イライラしてらっしゃるよ。 

 

 

 「ポータブルとメモリーは無色、他のポータブルではメモリーを読み込めず、

 そのメモリーを使用した際の、お前のレベルは99」

 

 木の仮面の人は深いため息を漏らす。


 

 「事前に、牢の兵から質問させて集めたお前の話に、一致する事例は多い、

 だが、納得できない点も多数あり、矛盾する事も多すぎる!」

 

 

 余計に厄介だと言った後、フード越しに頭をがしがしとかきむしる。

 

 

 少し、うーっと唸った後、資料の紙をバサッと机に投げて、腕を組んだ。

 

 「聞いた情報を、一から整理する、

 質問に口を開け!

 

 まず最初、お前がこの世界に来たのは、事件があった日、気が付けば現場にいた、間違いないか?」

 

 「はい、間違いないです」

 

 

 「ダウト!

 この世界に来たときは、最初に使者の前に通され、メモリーを受け取り、始まりの町へ飛ばされる!

 レベルも、最初から少し高い者も居るが、馬鹿みたいな数値は有り得ない!

 これらは前例はなく、例外はない、よって嘘の可能性が高い!

 事件の日からも日が経っているしな。


 次!

 どうやって、ダンジョンの主に勝った!?

 レベルはどうやって上げた!ランキングにも乗らず、依頼も受けずに、姿も知られずにだ!」

 

 「えっと…

 メモリーを差して戦ったら、勝てました。

 ここに来たその日ですので、レベルは上げた記憶はないですって…」

 


 「…レベルの件が嘘ではない?

 有り得ない話だが、もし本当にゲーム開始時からレベルが99ならば、初心者でもダンジョン主に勝つことは出来るのか…?

 …本当に、ここに来たばかり? ダンジョンがスタート地点だった?

 だが、データに乗っていない事も、それなら説明がつく…?

 この件は、後回しにしよう、しっかり考えたい…


 次だ、ダンジョンの主と何故戦った! 何があった!?」

 


 「襲われたからです!

 危険が何とか…必死だったので、あんまり覚えてないですけど。」

 


 「…ダウトだと思いたい。

 彼は心優しい、話せば分かる奴だし、

 戦いはあまり好まなかった。

 …これは、彼が回復したら、情報を擦り合わせる、片方の意見では真実は見えん。」

 

 

 別の人の話じゃないかと耳を疑っちゃうね…

 明らかに戦闘狂だったよ。

 

 

 「…疲れた、よく分からないことだらけだ…

 本日は、ここまでとする!

 片方からの意見だけ集めては、公平な判断はできないだろう、もっと情報も欲しいしな、

 被害者が起き上がり次第、もう一度ここで話をすることになるだろう。」

 


 そう言うと、木の仮面の人はぐったりしたように立ち上がり、目線を黒フードの人達に向ける。

 


 「お忙しい中、感謝する、

 報酬は、片付けの後に部屋で支給する。

 ボルケーノさんポンソーダさんは、容疑者の移動、スティマストンさんはこのまま私と部屋へ、

 藤っちさんは、部屋の片付けをお願いします。」

 


 木の仮面の人は、ささっと指示を出し、それに黒フードの人達は頷き、素早く行動を開始し、

 僕は、黒フードの人に持って持ち上げられ、搬送されていく…

 多分、この人たちがポンソーダさんと、ボルケーノさんなんだろうなぁ、

 フードで表情が見えない二人に運ばれ、なんだか変な気分…

 



 

 取り調べ室から出て署内を移動する、

 取り調べ室から留置所はそこまで長い距離はなく、途中に、鉄格子の扉と鉄扉があり、それらを看守の人に開けてもらい、その先へと移動する。

 

 

 「さ、入ってくれ。

 そのくらいなら何とか出来るだろう?」

 


 左右四部屋ある冷たい地下の鉄格子の部屋、

 その左奥、扉の空いた鉄格子の前へ運び下ろされ、そして、促されるまま兎跳びみたいにして、中へ入る。

 二人はそれを確認した後、扉を軋む音を鳴らしながら閉め、ガチャリと施錠し、 

 大人しくしておくようにと一言のを後、この場から立ち去っていった。

 

 



 手の錠はもちろん、足の板すら外されていない僕は、ピョンピョンと軽く跳ねて、藁で敷き詰められたベッドもどきへと寝転がる。

 

 務所暮らし…

 始まってすぐに刑務所暮らしだよ…

 

 始まってすぐに洞窟だったから、まだお日様すら見てないのよ…

 

 

 よよよ、と涙と愚痴を頭の中でこぼし、コロコロ転がる。

 

 …どうしよう、現実世界の事、色々確認したいのに、刑務所内じゃ合流することなんて絶対無理じゃん…

 色々と分からないことだらけだよ…

 

 


 どうしようと、唸っていると、入り口の扉が開く音がした。

 

 

 看守の、入れ、という声が響き渡り、目線をそちらへ向ける。

 僕の斜め前の牢屋に誰かが入れられる様子が見えた。

 

 「それじゃ、大人しくしといてくださいね?」

 

 「分かってる。」

 

 

 …あれ、この声どこかで…


 

 短いやり取りの後、施錠される音が聞こえ、看守が留置所から出て行き、扉の閉まる音が聞こえた。

 

 


 「…おい、お前は何をやらかしたんだ?」

 


 そうだ、この声は…

 

 

 「強盗か、詐欺か、殺しか? それとも俺と同じ…

 

 

 

 セクハラか?」

 

 


 らんらんさん、あんた何やってるんですか?

 

 

 

 

6/6 GW期間中に慌てて書いた部分を修正

1月3日 微調整

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