神からの贈り物を
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「おめでとうございます。おめでとうございます。
貴方は、ゲームの世界へ行くことが出来る権利を手に入れることができました!!」
目の前に、光の紙吹雪が撒き起こり、その紙吹雪の奥に天使が見えた。
え、なんだ、これ…
フリーズした頭を無理矢理動かし、状況を整理する。
確か、俺は、今さっきまで自分の家のベッドに寝転がっていたはずだ、
それで七時になったことを確認した後、今日貰った機械を腕に付けて、
画面をタッチしたら…
次の瞬間には、まず寝転がってないし、場所が、ゲームで見た神殿のような建物の中になってるし、
目の前には、 作り物のような整った顔付き、透き通るような白い肌で、月明かりのように微かに発光する金色の髪の美女が、
光を反射する様な純白の祭服と、蒼白く仄かに光る羽衣を纏って、パンパカパーンツと、屈託の無い笑顔で言いながら、こちらを見ていた。
訳が分らんぞ…
…これが、ゲームの世界なのか?
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「さぁ、これは、
大変、光栄な事であり、
素晴らしく、名誉な事でもあり、
これ以上無いくらい素敵な事なのです!
わぁ、世紀的幸運!!」
はぁ…
全くの規格外さね、辺り1つ見ても、規格外よ。
目の前に居る、やけにオーバーアクションのモナスチカル祭服を纏った美女、汚れくすみ1つ無い、真っ白の建物…
あり得ない!どんなポリゴンよ!!?
開く口に合わせて、喉が動き、頬が髪が、何から何まで、全てがそこに生きている様に動いている!!!
これがゲームだなんて…
それに、私の姿…
今はまだ、手や足しかまだ分からないけれど…
これは私、私自身の体だ。
約20年、この体で生きてきた自分が、一番良く分かっている、間違いない。
「どんな規模よ!
どんな技術を使っているのよ!!?」
…あの豚が言っていた通りね…
このゲームは… 普通じゃない!!
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「それがなぜならば、
幻夢の存在とされてる、魔法
架空、憧れの存在、モンスター
幸せハッピー幸福な道具、マジックアイテム!
それらが全て、現実の物として存在する、
そんなドリームライフなエンジョイ生活が出来る世界に、行く事が出来るからです!!」
「ごめんなさい、お姉さん、痛いです!
あ"あ"ぁ、アイアンクローやめぇ"ぁぁ"あ"!!」
「ファンタスティック!
それでは、あちらの世界へ行きましょう!!」
「逝っちゃうゥウヴ、逝っちゃいますからぁあ
もう、いきなり、胸鷲掴みとかしないですからぁ"ぁあ"」
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「もし、この事例を例えるならば、超ホワイト企業!!
さぁ、何も迷うことはありません
何故なら、沢山のむせ返る人混みから、貴方は既に、選ばれているからなのです!」
選ばれている…
そうだよな! 俺は、リアルでもネットでも…
「最強、最高の、スーパースターだ!」
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「で、それは分かった。
すまないが、時間を決めて他の人と合わせてゲームを起動したんだが、他の人は何処に居るんだ?」
「質問、承りました、解答を致します。
ゲームを初回起動した場合のみ、各自、個人毎に、私の前に転送されることになっております。
これが終わりましたら、しっかりと、皆様が居る町へ送りますのでご安心下さい!」
「…ふむ、チュートリアルか?
確か、ゲームをスタートすれば、説明が入ると言っていたな。」
「そうでございます!
それでは、まず最初に貴殿方に、神からの贈り物を授けましょう!」
女はそう言うと何もない空間から、杖を、さも当然のごとく発生させ、上空に捧げる様に持ち上げた。
すると、その杖の先端の青色の宝石から光が溢れだし、白い駒のような物が光から現れる。
「神は貴方に才能を授けました。
その力を持って、新たなる冒険へ旅立つのです!」
駒は、ゆっくりと俺の目の前まで降下し、手の届く高さで浮遊している…
…取れ、ということか。
チュートリアルということは、与えられるレクチャーを進めなければ先へは進まない。
気が進まないが、そのまま、目の前に居る祭司っぽいのに見守られつつ、その駒を手にした。
っ!!
機械を手にした時と同じく、突然、握った駒が俺の手を貫通して発光し、あまりの眩しさに目を瞑る。
それと同時に、俺の頭に、記憶が流れ込んできた。
『母さん!俺、王宮魔導騎士の弟子になれたよ!認めて頂けたんだ、あの方に!』
『俺さ、この間、巨大な熊のようなモンスターを倒したんだぜ。』
『王に最大の敬意と忠誠を、与えられた双剣に誓い、国を守り抜くとここに誓う!』
『我死すとも、ただでは死なぬ… 我が命、総て懸けて、この扉を、国を… 守る!』
流れ込んできたのは、俺ではない他人の記憶、頭がグラグラする、あれは俺ではない、だが、彼のしたことは俺にも出来るだろう、
何故か、そう思える、彼と俺は違う。
だけど、彼の事が良く分かった。
頭の整理がつき始めたからか、ぐらつきが収まり始め、少し余裕が出てくる。
…双剣の、駒?
手に握った駒は、色形が変わっており、
今、俺の手の中にある駒は、二対の剣が刺さった、赤と青の色の駒になっていた
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「ねぇ、待って?
何?茶葉とコーヒーの兼業農家って何?」
「神からのお導きです。」
「え、なんでそんなにニッコニコなの?
おばちゃんが茶葉摘んでたり、お茶淹れてる記憶が頭に流れてきたんだけど、何?」
「神からのお導きですよ。」
「ねぇ、本当に神様に告げ口とか、本当にしてないです?
…おねぇさん、なんで目を逸らすの?
実はまだ、怒ってますよね?
本当にごめんなさい、謝りますんで、お願いします、
もう一度チャンスを、やり直」
「それでは、夢と希望の溢れる、未知の世界へ、レッツゴーです!!」
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目が覚めると、六時半だった。
布団の上に転がったまま、寝てしまったみたいで、掛け布団が体にかかってすらいない、
暑い時期で良かったぁ、涼しい時期にこんな格好で寝ちゃってたら、風邪引いちゃうからね。
…そういえば、もう休みに入ってたよね…
カレンダーを遠目で確認し、ゆっくりと起き上がり、目を擦りながら、台所へ向かう。
休みならもう少し寝てても良かったかなぁ…
あれ?
そういえば、何かあったような…
冷蔵庫の前に立ち止まり、扉に手をかけた瞬間、身体中の血の気が引いた。
「あ、あ…」
震えながら冷蔵庫の扉を掴む手には、ゲーム機が、
ただ、腕に付けたままの状態で、放置されたゲーム機が、視界に入った。
……
全力で冷蔵庫から手を離し、廊下を駆けて、自分の部屋へ飛び込み、布団の周囲をひっくり返す!
…あった! 布団の下に、携帯! 携帯電話!
集合時間は、昨日の夜の7時だったはず、
ヤバい、ヤバいじゃすまないよ、これ…
だって2回目だよね? 昨日一日だけで、連絡が付かなくなるの、
ヤバいよ、不在着信どうなってるんだろう
見たくない…
けど、こうなった場合、いち早く連絡を返さないと相手に失礼… 今さら失礼とか度が過ぎた案件というか、もうヤバい。
…えい!
意を決して、携帯を、開く!
…あれ?、TEL'rに個人のメッセージが一件と、電話が一回だけだ…
…
とりあえず、メッセージから確認しないと、
教わった通りに携帯を操作し、アプリを立ち上げる。
メッセージの送り主は、予想通りカズだった。
『カズ:
電話しても出ないってことは寝たな?
正直、今日のはしゃぎ具合から予想は出来てたから、今日はゆっくり寝とけ!
ただし、俺らとゲームで差が付けられても、文句は言わせないからなー!』
このメッセージを見て、詰まっていた息を深く吐き、安堵する…
『今起きました、ごめんなさい
どんな感じだったか、後で聞きたいです。』
っと。
…流石カズ、完全に理解されてたね…
安心と同時に、喉が渇いてる事を思い出す。
携帯をポケットにしまい、再び冷蔵庫へ向かい、お茶を取り出して喉を潤す。
「ふぃー…
あ、めっちゃ汗かいてる…」
昨日の晩そんなに暑かったかなぁ、さっきの嫌な汗かなぁ、
冷蔵庫前から離れ、脱衣場へ入り、服を脱ぐ。
…あれ、外れない…
服を脱いだ後、ゲーム機を外そうと引っ張るが、外れない…
「んんん…」
取り外しボタンも無いし、画面に触ると始まっちゃうらしいし…
…そういえば、僕の携帯、防水だったよね…
なら多分、これも防水だよね!
とりあえず、下手に触ると変な事になって、カズに後で起こられそうだし、無視しよう! うん!
若干の不安はあるけど、とりあえず、どうにも出来ないし、残りの服も脱いで、シャワーを浴びる。
途中、かなり機械が邪魔だったけど、なんとかシャワーで汗を流し、着替えも終えた。
…水になるべく当たらないように頑張ったけど、普通にべちゃべちゃになっちゃったね、ゲーム機。
家から出る予定も無いから、適当に服を着て、再び台所へ向かう。
朝ごはん、お味噌汁とご飯と梅干しと鮭で良いかな…
収納棚から雪平鍋を取り出して、お湯を沸かして、
ちゃちゃっとご飯の用意を終えて、コーヒーを入れて、椅子に座って一息付く。
…8時過ぎ、まぁ休みだしゆっくりでいいよね。
机の上の、テレビのリモコンに手を伸ばし、別に何が見たいわけでもないけど、電源を入れる。
『…といった、不可解な現象が発生し、国は総力を挙げての原因の究明、事態の解決を模索すると発表しており、』
んん? この時間はニュースじゃないよね、
あ、よく見たら画面上に緊急放送って書いてあるや…
…複数人の異変を確認、未知の病気か、ってテロップが出ている…
…あれ?
この家、見た事ある…
見た事ある?
違う、知っている、
でも、違う、そうであって…
カシャン…
手からカップが離れ落ち、自然と席から立ち上がる。
目がテレビから離せなくなる。
テレビが中継で周囲を撮している、その風景を知っている。
幾分かは、モザイクがかけられているけれど、その中心にある、住宅が誰の家なのかも知っている…
息が詰まる、呼吸が出来ない。
体が動かない、どうすれば良いの?
椅子からよろめきながら、携帯を取り出す。
…携帯にかけるより、家に!
素早く番号を打ち込み、耳に当てる、
携帯から何回かのコールオンが鳴り、
僕は、携帯を手から滑り落とした…
テレビの場面が変わり、よく知っている部屋のベッドの上で、青白い結晶に被われるように固まっている男の人の姿が、映し出され、そして、
テレビから電話の呼び出し音が鳴り響いていた。
どうすればいいの…
あの中継の後、映し出された感染者一覧に、カズの名前と、シルバさんの本名、それとチルさんも本名だったのか、そのままの名前が表示されていた。
間違いなく、これが関係している。
僕は、左手に付けたスケルトン仕様の機械の方を睨み、頭を抱える、
合計で約百人、梅田中心に全国各地で、こんな現象が発生しているらしい。
レオさんに、何が起きているのか、追及したいが、今思えば、連絡先も、ゲームの製造会社すら分からない…
どうする
このままじっとしているの
怖い、これを付けていて、もし起動してしまえば、僕もあんな風になるって決まっている…
何もしないの
カズの事はどうするの
…出来ないよ、何も分からない。
カズを助けたいけど、カズが生きてるかすら…
……
「え、誰?」
ただの自問自答
最後に1つ、出来るとしたら
皆を結晶から出してあげたい?
「…皆を、助けたいです。」
それじゃ、ここに居たら始まらないよ
不意に、右手が無意識に動き、機械へ手を伸ばす、
「…大丈夫なの?」
皆を、助けるなら、これしかない
「…分かった、信じるよ、私」
僕は、手に力を入れて、自分の手で、機械の画面に触れ、起動させた
1月3日 微調整、多分最終