奇妙な機械2
皆がペタペタと機械を触るなか、ナオさんは説明を続ける。
「これの説明には、プレイして貰う事が、一番分かりやすいんだけれど、ここで始めてしまうとお店の邪魔になるかもしれないからね。
申し訳無いけれど、帰ってから各自チュートリアルに従って覚えてもらおうかな。
ゲーム自体の起動は、横になれる場所に移動して、手首に機械を巻いて画面にタッチすれば起動するから、
誤って起動しないように、使う時だけ、腕に付けているのが良いよ。」
早足に説明しながら、ナオさんはアタッシュケースから最後の一個を取り出し、僕に投げる。
「あっぶないです!」
落とさないように胸で受け止め、抱き寄せるようにしっかりキャッチ…
「コーヒーだけ、俺の奢りで人数分注文してるから、それを飲みながら、皆でこの後どうするかとか、話し合うと良いよ、
それじゃ、また会う日まで。」
機械に下ろしていた目を、ナオさんに向けると、
もう既に身支度を済ませ、両手に荷物を持って立ち上がり、部屋から出ていくところまで行っていた。
皆が呆然と見守る中、手を振りながらドアノブに手に握る。
「えっ、はやっ」
僕の一言すら待たずに、ナオさんは部屋から出て行き、
それと入れ替わるように、お店の人がコーヒーを持って入り、僕らの前に1つづつ並べて、すっと退出していった。
「……」
あ、コーヒー美味しい。
「さて、皆はどうする?
俺はさっき言ったみたいに、ゲームをするって奴に付いてやっていきたいと思っているから、誰かと同時に始めたいんだが…」
シルバさんが機械を鞄にしまいながら、僕らに確認をするように話してくる。
「ランランはまず皆と、連絡先を交換したいなぁ…」
「あ、僕もそれには賛成です。」
ランランさんが提案して、レッドスター君もそれに賛同する。
「Rational…
ランランにしてはいい案ね、でも、わざわざ、メアドじゃなくて、TEL'rのアプリでいいんじゃない?」
TEL'rって無料通話アプリだっけ?
多機能で軽くて、音質も良いって絶賛して、カズが僕の携帯に入れてくれたっけ…
まだ使ったことないけど。
あ、電源…
慌ててポケットから携帯を取り出し、電源を入れる。
「うわ」
電源を入れると大量の不在着信とメールで、とんでもないことになってる…
メンバーを見ると、突然声を上げて、何事かと僕の方を見てる。
…カズだけ理由が分かるからか、にやにやしてる…
「どれだけ心配したか、分かっただろう?
さて、それじゃ、連絡先交換しようぜ。」
そう言いながら、カズもスマホを取り出し、机に置く。
僕はガラケー、カズはショップで買ったカバーを付けたスマホ、
ランランさんは、赤色の、ちょっと装飾の付いたカバーを付けたスマホを、やけにニヤニヤしながら出してる。
そのスマホを見て、カズとチルさんが表情を変える。
「ちょっと…あんたそれ…」
「すっげぇ、あの主人公と同じスマホカバーじゃん!
公式の意向で、グッズ販売なんて無かったのに…」
あぁ、そういうことね。
チルさんも、反応してたってことは知ってるのかな…
そう思いながら、チルさんの方を見ると、口を開けっぱなしでスマホの方を見てる…
ちょっと間の抜けた顔、でも、この顔の方が年相応の表情って感じ…
チルが何か言おうと、開いた口を一旦噤んだ瞬間に、ランランさんが横槍を入れる。
「ほらほら、チル殿の番ですぞ。」
あ、分かってて言ってる、勝ち誇った顔だ、
昔、カズがこんな勝ち誇った顔していた事あったような気がする。
あの顔を思い出して、少し顔を顰めていると、
チルから暖かな視線が送られてきた。
あ、違います、仲間にしないで?
てかいつの間にスマホの発表会みたいになってるの?
そんな中、チルが取り出したのは、真っ白なプラスチックカバーが付いたスマホだった
あれ、さっきの反応からこれは意外…
スマホを取り出したチルの顔を見ても、いつの間にか、最初に会った時見たような、威厳のある顔に戻っていて、なにも読めない…
ランランさんがさっきからニヤニヤしてるから、あの二人はほっとこう、うん。
その次は…っと、レッドスターさんの方を見ると、見た事のある人の写真のシールを、大量にベタァッと貼ってあるスマホを前に置いていた。
確か、あの写真の人は【赤咲 始】だ!
「うわぁ、マジモンのアカサキストだ、初めて見たや」
アカサキスト…
「cra…
んーーと、Fever pitch?
と言うのが、彼の前で良いかしら…
最近やけに良く見るわね…」
あー、駅前の事かな… 多分、あの身長なら揉みくちゃにされたんだろうなぁ、
良く見ると、服にシワが寄ってたり、髪を直したんだろうけど、直しきれなかった乱れがあるのが分かる。
「メンバーには、あんまり赤咲始ファンは居ないんですね…
チルさんは、女性だから好きなのかなぁって思ったけど…」
「私は、チャラチャラした方は苦手ですので…」
あ、今までで一番すらすら喋ってる、常套句なのかな?
「もういいか?早く始めよう、
親睦を深める必要がある、と感じていたから口は出さなかったが、スマホを出して連絡先を交換するだけでこれだけかかるのか。
しばらく、苦労しそうだな…」
あー、精神年齢的に一番上っぽそうだもんね… この空気は大変そう…
年齢的にはランランさんが上そうだけど、火種はノーカウントで。
「仕事用…ですか?」
「個人用だ、…仕事用も同じ型だけどな。」
シルバさんのスマホ、凄くシンプルです…
使用感重視なんだろうなぁ。
カズのもシンプルだけど、実はここに置いてある中でも一番最新型だと思う。
ここに誘われる前に、明日発売のスマホを今日手に入れたとか言ってたし、
それが良い事なのか分からなくて、スルーしたんだけどね。
「それじゃ、集団フルフルでいいな?
…こんな機能、使うとは思わなかったな…」
集団フルフルは、TEL'r独特の機能で、
その機能を発動して揺らしていると、そのすぐ近くの同じ機能が発動している、TEL'rと連絡先希望を出し合えるものらしい、
公開初日、効果範囲が広すぎて即日修正が入ったのは良い思い出だと、カズが呟きながら僕の分も起動してくれる。
うん、そんな使い方や機能、僕が知るわけが無いからね、
すーっと近寄って携帯を差し出して、カズに任せてる。
どこかで…
てか、ランランさんから小声で、「だが男だ」と聞こえたけど、合ってるから気にしない…
「それじゃ、いくぞ」
シルバさんの掛け声に合わせて、皆でスマホをフルフルする。
カズは持ってるから来なくて、
“マチルダ シュタイナー”
“蘭乱”
“赤く輝くレッドスター”
“早河 裕作”
…
「あ、あの…約二名、分からない人と、本名の人が居るんですけど…」
…
「あ、ランランは“蘭乱”だよ」
「あら、豚の癖に贅沢な名前ね」
「そんなー」
「…あ、早河は俺だ、“silver”に変えといてくれ。」
…全員の絶妙な目線が、シルバさんに向かうけど、等の本人は澄まし顔… 気にしないみたいだね…
その後は、シルバさんが用事があるとコーヒーを飲みきって、退出。
レッドスターさんも、それに続けて出ていって、
その次には、そわそわした僕を見かねて、カズが一言入れて退出した。
…でもその後は散々で、カズなのに道を間違えたり、何をしていても上の空だったので、早い目に解散して帰ることにした。
…絶対ゲームの事で頭一杯だったね、間違いない…
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電車から降りて、駅でカズと別れた後、チャリに乗って帰路につく。
帰っている途中で、聞いたことのない音が携帯から鳴り響いた。
「あ、TEL'rか」
一旦自転車から降りてから、携帯を開いて、待ち受けに上がってきた一件チャット有りの通知を見て、そのまま確認する。
『早河祐作:
こっちの用事が終わるのが六時だ、それ以降で頼む』
「あ、名前直してない
でも直し方分からないしそのままでいっか」
そのまま、他の人がチャットを返し合うのを眺め、気がつけば7時にゲーム開始にすると決まったらしい。
えっと、『僕もそれで大丈夫です』っと…
『カズ:
見てたなら会話に入れよ』
いや、特に希望なかったし、
6月7日 らんらんの名前が蘭々になっていたのを蘭乱に修正
1月3日 微調整、多分最終