迷子
うーん、良い天気!
自由気ままにふらふらと、雲1つ無く、さんさんと輝く太陽を浴びながら、人が入り乱れ、ビルが立ち並ぶ知らない土地を散策する。
普段テレビでしか見ないような、大きな看板や、大きな交差点に目を見張り、時折吹き過ぎるビル風に髪を揺らす、
いやしかし、今日は、日光が眩しいねぇ!
歩き回る足を止め、右手で太陽を遮りながら、ふと空を見上げる。
そういえば、昔の偉い人はなんかこう… そうっぽいことを言っていたって、
友人の従弟の親から聞いたって、言ってた気がする。
出会いとは、別れを前提として在るものであり、出会いは永遠にはならなくて、
しかし、だからこそ、共にした時間は無限の輝きを放つ、その出会いは大切にしなきゃいけない、
いつか来る別れの後に、素晴らしい宝物として心に残るようにと…
いや、しかし、良い天気だね…
お昼寝とかしたら気持t「おい!、何ボーッと突っ立ってんだ! 邪魔だ!!」
「うひゃぁ!ごめんなさい!!」
全力で、建物の際の影に、飛び込む!!
怖い! 都会怖い!
ココドコ! 人多すぎ! 建物高過ぎ!!
意気がってみたけど都会怖すぎ!
全部同じ建物じゃん!
一階を歩いてると思ったら、二階に居るじゃん!
案内図確認しても、違う!!
見るたびに全然場所違う場所居るし!
うぅ… 空はこんなに青いのに…
もう元の道に戻ることも、
どこから来たのかも分からない…
僕は一体どうすれば…
雲一片も無い青空に、カズの顔を思い描きつつ、目から塩水があふれ出す。
…こんなことなら、お外なんかに出掛けずに、家でお布団のシーツ洗濯して干して、晩御飯の準備をしつつ、ラジオから流れるお話に耳を傾ける、優雅な休日ライフをエンジョイしておけばよかった…
平和だった昔を思い出し、雲1つ無いって思ったけど、よく見ればある、小さな雲を一つ一つ数えていく…
「へぃ!お姉さん、一人ィ?」
ここが迷路とかなら右手の法則で目的地にたどり着けるんだけどなぁ…
目的地が人だし、野外だし、本当にどうしようか…
あれ?左だっけ? あの中世ヨーロッパで迷路ブームが起こったときに編み出されたやつ…
「おーぃ、」
絶対に、声の方に目を向けまいと、空を眺めている顔を下に向け地面に落ちている小石を数えるのに切り替える。
絶対に 反応してはいけない、僕に話しかけてる訳じゃない…
無言で行き交う人込みの中で、こんな隅の方の壁際で、全く動かずに居るのは、至極当然、僕しか居ないわけなけど、
「君だよ、きーみ、一人ィ?
お兄さん達と一緒にお茶しなぁい?」
…目の前まで来てる、足見えてる…
僕じゃん、マジ辛い…
不服ながら、顔を上げ、凄く不機嫌な顔をして一応自分の顔を指差し、ジェスチャーで確認する。
うん、都会的な雰囲気をした三人組のナンパだ…
金髪ピアスに革ジャンのめっちゃ暑そうな長身の人と、帽子のつばを後ろに向けてかぶってるふくよか気味な人、
後は、髪の上が黒髪で、先端の毛先に向かう毎にV字に赤く染めているヤバそうな奴の三人組だ。
え、都会怖い、地元なら暗い茶髪にアディオスのジャージにサンダル、猫の缶バッチがトレンドなのに、
都会ヤバい、凄い…
「えっと、…僕ですよね?
ごめんなさい、僕、男なんで止めた方が…
期待には答えられないと思います。」
困った笑顔で、返事を返す、
答えは、ノーだ、
だって、お姉さんって声かけてる時点で、前提から間違えてるからね。
流石に、男をナンパする人なんて居ないよ。
その証拠に、ナンパしてきた三人が、狐につままれたような表情に変わっていく。
「マジ…?」
「マジです、大マジです」
いまだに信じられないといった表情の三人に、証拠を見せようと、鞄から財布を取り出し、学生証の性別の所を指差した。
「ほら、ここ、男になってますし、顔写真僕の顔ですよね。」
「うわ、マジだ
紛らわしいな…」
「自分でも困ってます。」
とりあえず、差し出された学生証に目を通し、更に信じられないといった表情へと変わっていく。
「あの、もういいですか?」
「あ、はい。」
今の隙にッ、と鞄に学生証を突っ込み、逃げようと一歩踏み出す。
「だが!!」
!!?
今まで黙っていた、V字ヘアカラーのお兄さんが突然、声を上げ、僕はビックリして振り返る。
振り返ってしまった。
「それもあり!
だがしかし、むしろ、見目よい、素晴らしいぞ!!!
俺は、お前の、顔が、気に入った!!」
「たかくん!!?」
「え」
「気に入った、気に入ったぞ、
顔付きは、性別によって、によってその真価を左右する!!
俺は、お前が、男だと聞いてなお、その顔付きが、素晴らしく、目見麗しいと、一変すること無く、お前を感じた!
一例しよう、絶世の美女と世間で言われる居たとする!
しかし、実は、男だったら!!
顔付きに広がる美しいという雰囲気は一変し、男というイメージが入り混じり調和の乱れた不協和音を奏出す、俺は、そう感じる男だ!
男と言われたら顔付きが如何なる女でも、美しくは感じない!!
感情はたちまち色褪せ、その俺の中の評価は、大きく下がる!
だが、お前は、目見麗しい!
男と聞き、男と認識し、その姿を見ても、男として目見麗しい!!
男という事実にも、新しい違う印象が芽生えること無く、その顔付きは素晴らしく、その価値は失わないぞ!」
あ… あぁ…
「気持ち悪いですゥ!!!!」
「大丈夫だ!、俺は、顔付きが気に入っただけだ!!
罵られようが、その価値は失われる事はない!
さぁ、お茶しよう!その顔をもっとよく見せてくれ!」
あるうえぇぇぇ、よく見たら、ヤバい!!
この人以外の二人、もう居ないんですけど!!
お願い、連れて帰って! お願い、戻ってきて! お友達でしょ!
このやばいやつどうにかして!!?
凄まじい威圧感に、足が竦む、あと一歩二歩で、相手の手が僕に届く、それくらいの距離まで近付かれたその時、
不意に後ろから手を捕まれた。
「え…?」
「おい、こんな所で、何やってんだよ! 探しただろ?
スミマセン、これから行く所がありますので、この話はここまでで!
いくぞ!」
……え?誰? 誰このオジサン…
唐突な事に目を白黒させていると、
そのまま捕まれた手を、グイグイっと引っ張られ、走らさせられる。
訳が分からないけど、ここには居たくないので、抵抗せずに足を動かすと、
その場から離れて、少し先の建物の中へ追っ手を撒くように移動していく…
…でもこの人、誰なんだろう、
困惑しながら、相手の方を見て思考を巡らせていると、察してくれたのか、声をかけてくれた。
「…急にすまないね、けどもう少し走ってくれないか?
次の曲がり角を曲がったら一度止まるから。」
「は、はい…」
…そのやり取りから少し走り、その先にあった曲がり角を曲がって、ようやく男の人は僕の手を離した。
「ここまで来れば大丈夫だろう…」
…良く見たら、20後半くらいの人かな?
着崩したスーツに、無造作に伸びた茶髪の髪を後ろでくくっている、
おじさんじゃなくて、お兄さんって感じの人だ。ごめんなさい。
さっきは、眉間に皺が寄ってて、更に不機嫌そうな顔をしてたからもっと上に感じたみたい。
「あーと、いきなり悪かったな、
なんとなく、あの奴に悪い感じで付きまとわれてそうだったから、引き離しちまった」
「気持ち悪かったので助かりました。」
「ストレートだな… 君。」
そう言うとお兄さんは、ほっとした顔で、握っていた手を離して、僕の顔を見てニコッと笑う。
「それならよかった。
こういうの、多いから気を付けるようにね、お嬢さん。」
「はい、ストップです。」
立ち去ろうとするお兄さんの持っていた、アタッシュケースを掴み、とびっきりの笑顔で引き止める。
「“お兄さん”ですからね?
ほら、リピートですよ、私は“お兄さん”。」
「え、あ、そうなの?
え、本当に、男の子?
ナンパしてきたのを追い払うための嘘じゃ…」
「んがー!」
疑いの目を向けてくるお兄さんに、違うと主張して、手をブンブン振る!
ガッ、ガッ… スポッ
「「あ、」」
つい、勢いよく、アタッシュケースを揺すり引っ張ってしまった…
勢い良く引っ張られたアタッシュケースは、スポッとお兄さんの手かから抜け、
僕も適当に引っ張っただけなので、僕の手からも抜け、宙を舞う。
時がスローモーションに変わる、
アタッシュケースがクルクル回る。
わざとじゃないよ? いつもならカズが止めに来てるから、つい本気で揺さぶっちゃって…
後悔の言い訳が頭の中を巡り回り、
“ガシャンッ”
言い訳が頭の中で落ち着く前に、アタッシュケースの落ちが着いた。
…あ、ガシャンった…
顔からサーッと血の気が引くのが分かる…
あれはヤバイ、凄く嫌な音だ。
お兄さんの方をギギキッと錆びた機械のように向けると、
お兄さんも青ざめてた。
……これアカンやつや…
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…目を離した隙に、うちの子が、どこかに行ってしまったらしい…
こっち(梅田)に着いてから、そのまま駅構内を歩いて目的地に向かおうと思ってたんだが、
失敗だった…
どうするべきかな、
スマホをポケットから取り出して、溜め息をつく…
「ったく、だから『手繋いで移動した方が良くねぇか?』って提案したんだろうが…」
画面は、ユウへの大量の発信履歴で埋まっているが、
内容は全て、電源が入ってない、もしくは、圏外なっていて連絡が着かない。
あいつの事だ、電車に乗った時に電源を切って、そのままなんだろう。
さてしかし、これからどうやって合流するか…
んー…
とりあえず、メールも入れとくか。
まぁ流石に、もうしばらくしたら携帯見るだろうし…
ちゃちゃっと、先に目的地の喫茶店に向かっておくという事と、喫茶店の場所と名前を書き込み、メールを送信しておく。
流石に時間には余裕あるが、向こうに迷子だって説明したくはねぇぞ…
こんな事なら、ユウに最初から話を伝えとけば… と思ったが、多分結果は同じか…
駅を降りてすぐにあのはしゃぎ様だったからな…
…さすがに喫茶店着くまでに連絡が着いて合流出来るよな…?
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…着いちまったじゃねぇか、合流どころか連絡すら来てねぇじゃねぇか…
目の前には、甘味処“あまみどころ”シードルと看板が上がっている…
外観は新しいお店だ、海外をイメージしているのか、柱のデザインや明かりがランプで洋風の製菓店をイメージさせる、
ただ、小物やベンチ、のぼり旗の古風さや、日除けの簾が、和風の老舗感を醸しており、
店の名前は、甘味処シードル…
良くわからん、何の店だこれ?
「Excuse me?
突っ立ってないで、入るなら入ってくださいませんか?」
店を眺めていると、突然背後かろ声をかけられ、ハッとして声の方を振り向く。
そこには少し… 割りと小柄な外国人の女の子が、あまり機嫌の良くなさそうな表情で立っていた。
「あ、えーっと、ソーリー」
「早く、入りなさい。
聞こえなかったの、Sh●t boy?」
この子スッゲー口悪いな、
入り口から横に避け、手を入り口に向ける。
「友達待ちたいんでお先にどうぞ
…日本語言ってるし、通じるよな…」
「もちろんよ、さっきから話しているじゃない、
全く問題ないわ、ご苦労。」
女の子は私に向かって手を上げ、暖簾をくぐる。
…ひょっとしてあの子もか?
いや、単なる客か?
待とうと思ったが、もう時間が近付いてきている…
もし、あの子もそうだったなら、あんな小さな子がもう集まっているんだ、
俺以外全員集まってるって可能性もあるな…
ポケットからスマホを取り出し、素早く店の写真、その回りの風景を二~三枚写真に撮り、
今だ連絡が付かないあいつの携帯に、先に入ると一言添えて、メールで送った。
まぁ、ゆっくりわき見に寄り道をしながら、ここまで来たんだ、あいつもそろそろ携帯に気がつくだろう。
…結局俺一人になったな…
一つ、溜め息を付いた後、暖簾をくぐり店へと入った。
入って直ぐに来店音が鳴り、奥から店員が出てくる。
「いらっしゃいませー」
…スーツにエプロン、三角巾…
ここまで来るとなんか拘りがあるんだろうな…
「予約しているらしいんですが…」
「お名前をお願いします」
「…“三日月”です」
俺がハンドルネームを名乗ると、店員は頷き、頭を下げる。
「御予約伺っております、奥の個室になっております」
こちらです、と店員は奥の廊下の方に視線を向けて歩き出し、案内をしてくれる。
「結構、集まっていますか?」
「そうですね、先程の女性の方とお客様を会わせると、もう、7名の方が来られてますよ」
……え、7人?
…数が合わなくないか?
頭に?マークを浮かべて着いて歩くと、一室の前で立ち止まる。
「こちらになります、それでは、私はここで」
「あ、ありがとうございました」
案内人、ランラン、シルバーにマチルダ、赤星… それに、俺
あと一人は…
ガチャリ…
「あ」
「あ」
……
「何でお前の方が先に店に着いてるんだよ、ユウ…」
5月21日 大規模修正 大筋は一緒ですが、中身を修正致しました
1月3日 微調整、多分最終