大都会
ジメジメとした梅雨が明け、蒸し返す様な熱気に包まれる7月…
「暑っ"…」
決して冗談では済まない暑さの中、
『とあるバカ』の誘い文句に乗ってしまったが故に、
僕は今、木陰のある駅前のベンチに座って、待ち合わせをする事になってしまっていた…
ポケットから携帯を取り出し、相手からの連絡が来ていないか確認し、数分前と同じ状態の画面に、思わずため息をついて、再びポケットにしまう。
いくら日陰に居るとはいえ、暑い…
もう少し風があると違うんだけどなぁ…
額を伝う汗を手で拭い、服の胸元を掴みパタパタと揺すって風を送る。
あー、クーラーの効いた部屋で冷たい麦茶飲みたい…
…事の発端は、昨日の放課後、
ようやく長い学校生活が終わり、夏休みに入る、
ウキウキな気分で帰宅の支度をしていた時に、
今僕をこの凄く暑い中を過ごす事になってしまった原因である、噂のバカが発した言葉の一言が原因だ!
「せっかくの夏休み、いつ遊ぶのッ」
鞄に筆記用具を詰め込んでいた、僕の手を押さえて止めさせてまでして言い放った、あのバカの変顔と一言、
普段なら迷い無く、一発入れて、
うん、一撃どころか、追撃の可能性もある一言だったね。
だけどその日は、明日からの希望溢れる日常に、胸躍らせていたせいか、「良いよ。」の一言返事で返してしまったのだった…
…今思い出しても腹が立つ、
なんだよあのドヤ顔……
「おっそいなぁ…」
夏のこの暑さでさ、人を待たせるとはいい度胸してるよねぇ…
ぐでーっとした動作で、周り確認し、依然変わらない風景に嫌気がさしつつ、
途中で買ってきたペットボトルのお茶に、少しづつ口をつける。
「全く…
本当にあんな誘い文句に乗るんじゃ無かった…
てか、呼んだんだったら、5分前にはしっかり集まってほしいなぁ…」
独り言の様に愚痴をこぼしつつ、これは合流したら右パンチだね、と、シュッシュッと、二回くらい素振りをして、
再び携帯を確認する、うん、既に10分遅刻だ。
メールも確認しようと、ポチポチと操作をしていると、ちょうど、そのタイミングを計ったかのように、メールが届く。
『From:カズキ』
携帯が振動して、画面には待っていた人物の名前が表示された。
おっ、きたきた!
カチカチ…
『その、誰かを思い、
待ち焦がれている様な姿は、
まるで、集合場所で彼氏を待つ、初デート前の初な少女のようですね(/ω\)キャー///』
シニタイラシイナ…
携帯をたたき付ける様に閉じ、勢い良く立ち上がる。
「どこだあの野郎ゴラァァ!」
辺りを見渡すと、人自体は疎らにあるが、それらしい人影は無い。
カズは、身長は180後半はあるし、金色に髪を染めてるから、
正直、あんなのが近くに居れば、普通すぐに分かるんだけど…
~♪
あ、またメールだ、
畜生、遊んでやがるな
左右を警戒しつつ、携帯を開きメールを確認する。
『From:カズ
後ろだ』
メールには短く一言だけ、 …後ろ?
「え?」
「後ろだって」
突然、背後から声が聞こえる。
「ふぇぁ!?」
慌てて振り返ると、そこには、
長身で、まっ金々に金色に染めた髪をワックスで固めた、釣り目で…
いかにも不良です、みたいな風貌をした、
噂のバカ野郎が立っていた。
その刹那、僕は振り返ると同時に、間合いを取り直す。
「え…?」
ザッ…
展開について来れないながら、相手は慌てながら構える。
…が、甘いよ!
今の心境状況から、それから起こせる行動を予測、判断。
そして、そこから見えてくる隙を見極め、最適な動作が出来る体制で、懐に入り込む!
「力を抜いて、膝を曲げて…」
しっかりと軸足に体重を移し、万全な状態を作りだし、
次の瞬間、僕の拳は風を切り裂く!
「遅いよ、遅刻だぁ!!」
パキッ!!
~~~~~~~~
……
「いや…マジでゴメンって…」
「うるさい!
バーカバーカ!」
あれから少し経ち、僕らは無事、電車に乗り込み、席に座っていた。
「なんだその腹筋は!
筋肉馬鹿!」
足をゆらゆらさせつつ、ムッとカズを睨む!
「いやいや…
身構えて力入ったとこ殴ったのお前だろ!?
後、筋肉馬鹿じゃねぇよ!
野球部でちょっと腹筋してるだけだ。
むしろ、作った拳が油断した腹筋に負けるなよ…
てか、拳がペキッて… ペキッ……
ブフッ」
「笑うなっ…」
くそぅ…
完璧に決まったと思ったのに、まさか、僕の手の方がやられるなんて…
しかも変な音したから、近くにいたサラリーマンのお兄さん、
「大丈夫お嬢ちゃん、凄い音したけど…
救急車呼ぼうか?」
なんて聞かれたし、
てか、お嬢ちゃんじゃないし、
お兄さんだし…
「まぁ、あれだ。
実は遅刻したのは事実だし、着いた先で何か昼飯奢るぜ?」
「マジで!!
パフェ!パフェがいい!!」
「あー、はいはい
パフェね、パフェ
昼飯つったのに、まるで聞いてねぇな…」
そう呟くとカズはスマホを取り出し、画面を触る、多分、お店調べてるのかな。
その後は、僕ら二人とも特に話すこともなく、沈黙の中、僕は外の風景を眺めていた。
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「ちょっと気になってるんだけどさ、」
しばらく電車が進み、ふと、気にかかっていた事を思い出して、スマホを弄っているカズの方に、顔を向け声をかけた。
「ん? なんだ?」
「ねぇ、なんで今日、いきなり梅田に行こうって言い出したの?」
ほんの些細な、何となく気になったことだ。
その質問に対して、カズはスマホから少し目線を動かし、僕の方を見る。
「別に?
特に深い理由は無いけど…
逆になんでそんなこと聞くんだ?」
ゆっくりと、スマホを持つ手を膝まで下ろし、少し困った様な顔をする…
「いや、
僕も、別に深い理由は無いんだけど…」
腕を組み考えながら、ゆっくりと考えて言葉を繋げていく。
「急に話を決めるのはいつもの事だけれど、
場所を決めて、計画的にどこかに行くなんて言い出す事、
めったに無いからさ…」
カズは割と直感で物事を決めてる事が多くて、
コンビニに行ったついでに、家まで来て、遊びに誘って来たこともあったし、
お昼ご飯を食べに行ったときに、朝からさっきの寸前まで、蕎麦食べるって言ってたのに、店員さんが来たら、なんの前触れもなく、鍋焼きうどんを頼んでたりもする。
そういう一面が多いのだ。
「なんだ、そんなことか」
カズは興味なさ気に、スマホに向き直り、適当に口を開く。
「ただ何となく、だよ
出かけたいなーって思って、思いついたのが梅田だった、
それだけだよ」
「……ふーん…」
正直、納得出来る答えじゃなかった。
でもまぁ正直、カズが適当なのは今に始まった事じゃないし、今日が本当にたまたまなのかもしれない。
気にしなくて良いかな…
そう軽く思いながら、少し温くなったお茶を取り出し、少し口に含んだ。
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そうこう話をしていると、電車の揺れが止まり、
到着を知らせるアナウンスが、車内に流れる。
「着いたな、降りるぞ」
そう言うと、スッと立ち上がり、人の流れに混ざり混み、ホームの方へ向かっていく。
その姿をみて、僕も、座りっぱなしで固まった身体をほぐす様に背伸びをしてながら、ふらふらとカズの後をついて行った。
電車から駅のホームへ場所を移し、揺れる室内から開放された喜びをかみ締めつつ、もう一度背伸びをする。
「ユウ、そんなとこで止まると邪魔になるぞ?」
「あ、そうだね!」
人の流れの邪魔にならない様に、端まで移動して、それからカズはスマホを取り出した。
「まずどこ行く? 飯か?」
「いきなりだね…
んー、でもまぁ、そうだね。
もうすぐお昼頃だし、とりあえず何か食べよう。」
「パフェだっけ?
パフェあるか知らねぇけど、
この駅から歩いていける場所に、新しく老舗の喫茶店があるらしいから、そこに行ってみようぜ?」
「…新しい老舗? チェーン店?
でも、喫茶店ならじっくりと、今日予定立てながら食べれそうだし良いかも。」
「いや、聞く話だと第一店舗の個人店らしいぞ?
うし、決定! 色々気になるしな。
楽しみだ。」
カズは、ニッと笑った後、スマホを素早く操作して、ポケットにしまった後、そのまま歩いて改札口から出口へと向かっていく。
…が、出てすぐに、カズが立ち止まった。
「…ん?
どうしたの?」
辺りを見渡しているカズに習って、同じく見渡しながら呟く。
実はここ、初めて来るから何が違うとか分からないんだけどね。
「何か騒がしいな。」
「そうなの?」
「あぁ、駅前だからざわついてるのは、何時ものことなんだけど…
なんか騒がしいというか、なんというか……」
「……イベントでもあるのかな?」
「んー…」
よし!聞いてみよう!
スルッとカズの隣から離れ、1番近くに居た、お兄さんの横へ移動する。
「お兄さん、何かあったの?」
熱心にそのあたりをキョロキョロしている、お兄さんの裾を引っ張り声をかける。
お兄さんは、少しビックリしたような表情をして、こっちを振り返えったけど、
僕の顔を確認した後、笑顔で答えてくれた。
「んん? 知らないのか?
この街に、今有名人が来てるらしいんだ。
俺も、人が話してたのを聞いた、又聞きなんだけど…
なんと、そ有名人ってのがさ、“赤咲 始”さんらしいんだ」
…誰?
とりあえず、人だかりの理由は分かったけれど、凄く興奮した表情で教えてくれた、人の名前は聞き覚えがなかった。
僕が頭に?マークを浮かべてると、
僕の反応が予想外だったのか、お兄さんの方も、固まっている…
「あー…すみません、こいつ世間に疎いんで…」
しばらく僕の方を眺めつつ傍観に入っていたカズが、会話が止まったのを見計らって間に割り込む…
っていうか、世間に疎いって… そこまで言うか!!?
クワッとカズの方を睨む!
けど、僕の方に呆れたような顔を返す。
「いや実際そうだろ…
テレビ見てたら、絶対知ってるだろうし」
しょうがねぇ説明すっか、と呟くと、
カズ… と、さっきのお兄さんが、掻い摘みながら、その“赤咲始”の事を説明してくれた。
ざっとまとめるとこんな感じ
・“赤咲始”は若手の出たばっかりの歌手で俳優。
・最近人気に拍車が掛かっており、
テレビ出て、ライブツアーして、最近は映画にも出ることが決まったらしい。
・そのプライベートは一般には、ほとんど知られていなくて、
事務所が過保護にやり過ぎて、私生活すら複数の専属マネージャーがカバーしているらしい。
ちなみに、僕もその人のことは知ってた。
強がりとかじゃなくて、テレビで見たことあったけど、名前知らなかった感じだ。
「それじゃ、俺、もう行くから。
この辺りには居なかったみたいだから、みんな移動してる、俺も付いて行かないと…」
「お兄さん、ありがとうございました…」
僕は引き留めてしまったお兄さんにお礼を言い、頭を下げる、
その姿をみて、お兄さんは別にいいよと言った後、人混みの中へ歩いて向かっていった…
「いい人だったね!」
「毎回ひやひやするんだよ、お前…
あんまり、見ず知らずの人に気軽に話しかけるなよ?
人は見て選んで話しかけてるのか、
厄介な事には、なったことは無ぇけど、本当さぁ…
毎回ヒヤッとするんだよ、まじで、お前は見た目がさ…」
「しかし、可愛い子に話し掛けられたと思ったら彼氏持ちとはなぁ…」
「ふぬぁぁ!!」
「落ち着けぇぇえ」
5/14 少し描写修正
1月3日 お正月修正、多分最終