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魔法の使えない魔法使い  作者: 記角麒麟
12/13

リューカpart6 拒絶の先に 【改稿済】

 推敲、もとい改稿が完了しましたので、この場も借りて報告しておきます。

 ストーリー展開が、改稿前と全く違う展開になってしまったので、そこら辺は申し訳ないです。

 はい。

 ごめんなさい。


 次回からはこの様なことが無いよう努力しますので、今はどうかご容赦を。


 それでは、リューカPart6 拒絶の先に をお楽しみください。

「わ、私を――っ、マギクラフターとして弟子にしてください!」


 時は、その日の夜。私が勢い任せの勇気を振り絞って志願した、あの日の食後の時間の事である。


 私は、少し叫び勝ちになりながら頭を下げた。


 鈴虫の鳴く夜。

 ツキノメ商店街にほど近いところに建てられた、お世辞にも大きいとは言えない木造の造形の凝られた三階建の一軒家――そのダイニング。

 ポツリ、と蛇口から雫の滴り落ちる音が、いやにはっきりと聞こえる中で、彼は無言で彼女の志願を受け取った。


「……」


 青年は、心の中でその言葉を繰り返すようにして咀嚼すると、少しだけ哀しむような表情かおをしてから、真剣な目つきでこう答えた。


「駄目だ」


 言われた言葉に、暫し私の体は言うことを聞かなかった。

 言われた言葉を呑み込めなくて、心の中で噎せ返る。


 絶望したような瞳で彼の顔を見上げると、そこには少しばかりの悲哀が混じった、しかし確かな拒否があった。

 冷たい眼差しだったと、私には感ぜられた。


「他に、何か言うことはあるか?」


 言葉を続けられて、はたと我に返る。

 途端に、金縛りにあったように動けなかった体は、漸く自由を取り戻した。


「いえ……何も……。

 ……お手間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」


 私はそれだけを呟くと、目の端に小さな雫を浮かべることもせずに、その場から逃げるようにして部屋へと引き返した。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 リューカは部屋に戻ると、薄い桃色の布団の上に、頭からダイブした。

 頭の中を、何故という言葉がぐるぐると駆け巡る。


 ――何故、断られたのか

 ――何か、私が気の障ることをしたのだろうか。

 ――どうして。

 ――どうして。


 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。


 ぐるぐると駆け巡る思考。


(あの人も、やはり同じなのだろうか)


 ついには、そんな考えまで浮かんでしまう。

 私は、ただ助けられたというそれだけで、今までの人とは違うと、どこか自分勝手な期待をしていたのだろうか。


 私の、ただの妄想がそうさせていただけなのだろうか。


 一向に解に届かない、思考の迷宮に囚われそうになったとき、そういえば一瞬だけ、彼は哀しそうな顔をしていたことに思い当たった。


(……どうして、あんな顔をしたのだろう?)


 ふと、その事が何か、弟子入りを断ったことに関係があるのではないかと期待する。

 でもそれはやはり根拠も何もない妄想であり、牽強付会な思考に過ぎなかった。


 しかし今は、そうとでも考えなければ精神が保たないような気がしていた。


 それだけに、先程の拒絶は、彼女にとって精神的に大きなダメージを与えていたのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 翌朝。

 目が覚めると、天井が見えた。

 昨日の記憶は、ベッドに頭から突っ伏したところで途切れている。


 おそらく辿が部屋に様子を見に来た時にでも、ベッドへと寝かせてくれたのだろう。


「……」


 目尻に浮かぶ涙を腕で擦って、私はごろりと寝返りを打つ。


 まだ少し起きたくない気分だった。

 昨日のこともあってか、まだ彼と会うには、少し気まずいのである。


「……」


 どれくらい時間が過ぎたのだろうか。

 ふとベッドの上から見えたカーテンの隙間に映る景色は、鬱陶しいほどに蒼色だった。


(ずっと寝ているのも、なんだか退屈だな……)


 私はむくりと上半身だけをベッドから起き上がらせると、カーテンを開いて、ぼーっと外を見る。


 キラリ、と日光に反射して、少女のボサボサの銀髪が靡く。


 ふと窓の外を見下ろせば、碧々とした芝生の敷き詰められた庭で、小さな子どもたちが木の人形に向かって腕を物凄い速さで突き出したりしているのが見えた。


(……あれ、何だろう?)


 さほど興味を引くものでも無かったので、私は庭から視線を部屋の中へと移した。


「……」


 しばらくして、リューカはベッドから降りて軽く伸びをすると、廊下へと続く扉に手を伸ばして、躊躇した。


「……」


 扉の外が怖い。

 ふと、そんな感情が脳裏を過ぎっていった。


「……」


 私は、ドアノブへと伸ばした手を引っ込めると、もう一度ベッドまで戻ってきて、腰を落ち着ける。


 くぅ、と小さな腹の虫の鳴く音がして、私は仕方なくといった面持ちでその扉に手を掛けるのだった。


「……」


 朝食は適当に、台所にあった食パンを焼いてたべた。

 バターも何もつけずに食べた食パンは、ひどく素朴な味がして喉が渇いた。


「……」


 蛇口から水を注いで飲み干すと、寝起きのベタついた口内がさっぱりとして、目が冴える。


 ……さて、次は何をしようか。


 そう考えた私の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは、あの屋根裏部屋の本だった。

 それを思い出した私は、今日は一日中読書をして過ごすことに決めた。


 そういった日々が、あれからしばらく続いた。

 何度か辿と会ったが(同じ家に暮らしているのだから当たり前だが)、少女から彼に口を開くことは一切無かった。


 そんな日が長く続いた。

 何度か辿が彼女に話しかけてはみたものの、少女は生返事を返すばかりで会話は成り立たない。


 青年の方も、流石にあの時は言いすぎたと思っていたのか、何度か謝罪を口にするが、リューカの反応は今ひとつだ。


 そんな彼が途方に暮れていたある日。

 彼女の方から久しぶりに問い掛けがあった。


「……どうして、断ったんですか?」


 とある日の夕食の席。

 あまりにも唐突に切り出された彼女の質問に、青年は一瞬だけ何の事だったかわからなかった。

 しかし、それが何かなどと無粋なことを聞くことはなく、彼はそれに答える。


「お前を守るためだ」


「……どういう事、ですか?」


 今一、話がよく見えない。

 どうして、弟子にならないことが、私を守ることにつながるのだろうか?


 私は怪訝な眼差しを向けると、彼はコップに口をつけて唇を湿らせて、その理由を話した。


「俺の造る魔具は、普通の魔具より強力でな。

 そんなものが造れると知れたら、誘拐されたり何なり危ないだろ?」


 辿は真剣な眼差しを解くと、コップに残ったお茶を全て流し込んだ。


「それに何より、テロのこともあるからな……」


「テロ……?」


 思いがけもしない理由に、私の眉は一層訝しげに顰められる。

 しかし彼は目を閉じると、席を立った。


「ま、何にしろ、お前には自分の身を守る術が無いからなぁ……。

 それを身につけるまでは、当分弟子入りは無理だ」


 彼はそう言うと、コップにお茶を注ぐために、一度キッチンへと退避する。


 言い分は分かった。

 テロについてはなんだかはぐらかされたみたいだけど、まあ別に興味ないし。

 ……とにかく、彼が言っているのはつまり、自分の身は自分で守れるくらいに強くなったなら、弟子入りを認める、ということだろう。


 彼女はそう当たりをつけると、明日は護身術の訓練でもしようかと考える。


(……あ、でも教えてもらう人がいないなぁ)


 お兄さんに頼んでみようか。

 何でもしたいことをすればいいって言ってたし。


「……」


 でも、何て言ったらいいんだろう?


 ――お兄さんが私に訓練してくれませんか?


 ……だめだ、何だか偉そう。

 もっとこう、丁寧な感じに……


 ――お願いします、私に護身術を教えて下さい!


 ……いや、そもそもお兄さんは魔法使いだ。

 護身術の鍛錬なんて教えてくれるのだろうか……?


 ……図書館……は、お金いるのかな?

 見るだけなら大丈夫かな?


 お金が必要ならお兄さんにおねだりするしか……。

 いや、でもなんか、お金借りるのって怖いし……。


「う〜ん……」


 彼が帰ってくる短い間。

 リューカは眉根を寄せて唸っていた。


 と、そんな時だった。

 キッチンへと入っていったはずの辿が、別の扉からダイニングへと戻ってきた。


「リューカ」


 彼は私に呼びかけると、その腕に抱えていた石版をテーブルの上に置いてみせた。


 石版は長方形で、横百六十ミリ、縦二百二十ミリ、幅は約五ミリほどのサイズだった。

 黒色のそれは、表面がツルツルに磨かれており、何だか黒曜石の鏡みたいだと私は思った。


(……この石版、どこかで見たことがある気がする)


 不思議そうに眺める彼女に、辿はクスクスと笑うと、話を切り出した。


「さっきは、弟子にはしないと言ったな」


「……はい」


 私は、彼の笑顔に怪訝な表情を浮かべながら頷いた。


「だが今考え直してみれば、弟子にしないまでも、少しだけなら教えてやることにした」


 その言葉に、少女の心が、一瞬だけ揺らいだ。

 その動揺が、その心の奥底から湧き上がる噴水のような歓喜が、一瞬だけ彼女の無表情の仮面から透かして見えたのだ。


 だが、先述の通りその動揺も一瞬だった。

 ほんのわずかだけだった。

 猛り狂う程の歓喜が、溢れ出したのにも関わらず。


「だからこれから、お前の魔法力を測らせてもらう。

 それに合わせて、今後教えていくモノの予定を立てていこうと考えているんだ」


「魔法……力……」


 少女の口からこぼれ落ちる言葉は、その歓喜に反して些か勢いのかけるものだった。

 極力魔眼を使わないようにしていた辿には当時まだ分からなかったことだったが、リューカにはそもそも、魔法が使えないという欠陥があることを、彼女は自覚している。

 だからこそ、その言葉は弱々しかった。

 その喜びは、その小さな呟きの中に溶けて消えていったのだった。


 ポツリ、こぼれ落ちた彼女の言葉に、辿は訝しんだ。

 そして、その理由に、持ち前のスキルが、その魔眼の力を介さずに働き、思い当たる。

 ……否、それはおそらく、そんなスキルなんて無くても、ある程度感の鋭い人間ならば見抜けた理由であった。


「……」


(魔力に自信がないか……)


 彼女の反らした視線に、辿は内心で度得したものかと嘆く。


 魔法力、つまり魔法を操る能力。

 ウィザーティカという魔法の名門の家に生まれながらにして、その魔法力に自信がないということを他人から指摘されるのは、彼女にとって屈辱的であるに違いない。

 たとえ親族からあんな扱いを受けていたのだとしても、彼女はまだ子供だったし、精神もそんなに頑丈にできてはいなかった。

 辿が助けなければ、いずれ完全に壊れてしまっていたに違いなかった人生なのだから。


「……」


 彼女は暫く床を見つめ続けた後に、頭を振った。

 そのジェスチャーは否定の仕草というよりはむしろ、彼には決意の意思に見て取れた。


 魔法力には自信がない。

 自信がない、というより、そもそも簡単な魔法でさえ成功したことがないのだ。

 もしかすれば魔力そのものを持っていない可能性だってあり得る。


 ……だけど、マギクラフターになりたいなら、必ずこの問題を克服する必要が出てくる。


 少女はグッと握り拳を作ると、自分に今まで言い聞かせていたように、自分の心を捻じ曲げた。


 捻じ曲げた心の名前は、私はよく知っていた。


(魔力がないかもしれないなんて、今はまだ可能性でしかないんだ。

 ないかもしれないということは、それはつまり同時にあるかもしれないということでもある)


 私は息を吸って、いつの間にか疾っていた心臓の鼓動を沈めさせた。


 そして、私はようやく、永い時の末に、勇気を振り絞って言うのだった。


「わかりました。

 その測定、受けます」


 その目の色は、何時しか恐怖はなく、挑戦の色に燃えていた。

 ようやくリューカの物語が軌道に乗ってきた気がします。


 ようやく決意を出して一歩前へ踏み出した、名門の落ちこぼれリューカ・ウィザーティカ。

 その決意の言葉を絞り出す為に、彼女は明日もまた、トラウマという名の戦場へと立ち向かう!


 さて、ここからがリューカPartの本当の始まりです!

 長い間付き合わせてしまってすみませんでした。

 また次回以降より頑張ります。


 それでは皆さん、また次の話で。


 今回のリューカの奮闘を見て、「ガンバれ!」と思った方は、ついでに私の作品投稿にも「ガンバれ!」という意思を込めて、ブックマークをよろしくお願いします!

 あ、あとついででもいいので各評価等もお願いします!


 それでは読者の皆さん、また会いましょう!

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