ニートな女神と初めての敗北
第2階層編終了です。章の最後の話のタイトルに敗北って、なんかネガティブな空気になりそうですね。
今話はいつもより少しだけ文章量が多く長いですが、まあ章の最後なので大目に見てもらえれば幸いです。
ゴッドワールド・オンラインの対プレイヤー戦闘、決闘。
決闘はフィールドか、ダンジョンの安全地帯でのみ行える。
ただし先の階層には街中でも例外的に決闘が行える施設、あるいは場所もあるという。
決闘のルールは決闘するお互いのプレイヤーの合意によって決定するが、細かいルールの選択は決闘を申し込んだ方が選ぶことができる。最終的にその選んだルールに申し込まれた方のプレイヤーが納得しなければまたルールを選びなおす必要があるので一応はお互い話し合って決めるわけだけど。
今回は皐月さんの方が決闘を申し込んで来たのでルールの設定などは皐月さんが行う。
まずは皐月さんとパーティ登録をしてから、パーティメンバーの皐月さんの名前をタッチしてさらに現れたいくつかの項目の中から決闘を選択。すると両者の視界の前に1つの画面が現れる。どちらがどちらに決闘を申請するのかという画面だ。これは皐月さんの方が申請ボタンを押した。
<以下のプレイヤーから決闘申請が届きました>
プレイヤー名:五条皐月
『この申請を受けますか? はいorいいえ』
私は゛はい゛を選択する。それから決闘の形式については皐月さんの方に全部任せることにした。
そして決闘を行う場合、双方とも自分自身にハンデをつけることができるのだけど今回の決闘で皐月さんがつけてくれたハンデはすごかった。
①皐月さんのレベルを決闘中、レベル1の状態にまで下げる。
②スキルポイントの割り振りによって上昇した能力値の変化をオールリセット。
③種系アイテムによって上昇させた能力値をオールリセット。
④皐月さんは装備武器の武器スキル以外のあらゆるパッシブおよびアクティブスキルの使用禁止。
⑤皐月さんはあらゆる魔法の使用禁止。
つまりは皐月さんは最弱ステータスでなおかつほとんどのスキルと魔法も使用しないというという、まさに手も足も縛った状態で戦うに等しい究極のハンデを設定してくれた。
「えええ!?、いやそれはさすがに……」
私はもちろん止めたよ。
いや、あまりにも私がなめられているとかそういう考え以前の問題だと思ったからだ。
だって私の方は今の状態のままでいいと言ってくれたのだ。
「いや、あの、ならせめて同じレベルくらいに」
単にレベルを下げてくれるというのなら私と同じレベル26まで下げて同レベル対戦にしてくれればいいはずだ。しかし皐月さんは耳を貸さなかった。
「いいのよ。それに装備はこのままだから装備補正の値を加えたらそれでもう今の玲愛さんのステータスを大幅に超えていると思うし」
ああ、そうか。言われてみれば、皐月さんの身につけてる装備はいつもの第55階層攻略の際にフィールドでつけている装備のままなんだ。。
第55階層攻略中のプレイヤーの装備ともなれば、装備補正もきっと1つで能力値+300とか、もっと上の可能性だってある。
それを考えるなら皐月さんはレベル1で最弱ステータスなのに装備の装備補正値を足した数値で、今の何のハンデもつけていないいつもの私よりも十分強いんだろう。
「対戦ルールはそうね、先に10回相手に攻撃を命中させた方の勝ちにしましょう」
「え?」
「あくまでHPを減らすのではなく、相手に10回攻撃を通した方の勝ち」
「ああ、なるほど」
それならば私の方にも頑張れば勝ち目がありそうな戦いになる。
先に相手のHPを全損させるのだったら、皐月さんの装備の攻撃力なら今の私のHPなど一撃で消し飛ばしてしまえるだろうから。まあ皐月さんの方はレベル1だからHPの最大量は低いだろうけど、それも装備の防御力が高ければ私がどんな攻撃をしてもダメージ0で勝負にならない。
ようはこの決闘は、下界のスポーツの剣道などのルールによく似ている。
先に相手に10回有効打を与えた方を勝ちとするルール。
「ごめんなさいね。なにしろ急なことだったから今ちょっと弱い装備を持ってなくて。本当は装備の方も今の玲愛さんの強さに合わせたものに変えた上でお互い全力で戦いたかったのだけど」
「ああ、いえ。別にそこはいいんですけど、あの、確認なんですけど本当に戦うんですか?」
なんというか、それでも私は絶対に皐月さんに勝てないんだろうなと思うから聞いたのだけど。
「玲愛さんは私と決闘するのは嫌なの?」
「いえ、嫌っていうわけではなくて、むしろベテランプレイヤーとこんな場所で出会って戦えるだけですごく光栄な話だとは思ってるんですけど」
「ならそれでいいじゃない。勝ち負けはともかくとして、楽しみましょう」
「……はい、そうですね」
ダメだ。これはもう絶対に戦わなくちゃいけない流れだ。
でも、実際皐月さんみたいに遥か先の階層を攻略中のプレイヤーの実力が見れる機会というか、実際に戦えるのなんてすごく貴重な経験だと思うのは本当だったからもういいか。
皐月さんの言うように勝ち負けは抜きに(まあ負けるんだろうけど)楽しむことにしよう。
「……はい。ルールの設定はこんな感じでどうかな」
私は改めて今回の決闘の細かなルールについて目を通すと、皐月さんに大丈夫ですと伝えた。
後は皐月さんが決闘開始ボタンを押して15秒後に決闘が始まる。
決闘場所はもちろんこの森の安全地帯のルーム。そんなに広くない空間だったのでこの部屋全体を決闘のフィールドに選択した。
「それじゃあ始めるけど、玲愛さんはスキルや魔法はなんでも使っていいからね」
「はい。わかってます」
私が皐月さんにそう答えると皐月さんは決闘開始のボタンを押した。
すると私の視界の中央上に金ぴかの懐中時計が現れて15秒をカウントし始めた。私と皐月さんはお互いにそれを確認するとそこから距離を置いた。ざっと20メートルくらいか。
それからすぐに金ぴかの懐中時計が15秒を数えると決闘開始の文字が目の前に出てきた。
決闘開始すぐに気づいたことで、私の視界の右上に黄色い枠で囲まれたカウンターと、緑色の枠で囲まれたカウンターがあってカウンターの数字はどっちも10だったんだけど、きっと今回の決闘の相手に攻撃を命中させた回数を数えるものなんだろう。
どっちの色がどっちのものかはまだわからないけど、攻撃を命中させたらあのカウンターの数字が減っていって、先に自分のカウンターの数字が0になった方が負け、と。
私の方は蝶々シリーズの装備のまま短剣と片手剣のスタイル。
対する皐月さんは武器の方は鞘に入った長めの剣、日本刀だった。
「玲愛さんの方から攻撃してきていいわよ」
私が決闘開始からすぐに動けずにいると、皐月さんがそう声をかけてきた。
だから私はその言葉に甘えて一切遠慮せずに全力で攻撃していった。
でも皐月さんが私のしかけたほとんどすべての攻撃を華麗とも思える足さばきでかわしていったのにはさすがに驚いた。まるで私が攻撃をしかける前からどこにどんな攻撃がくるのか全部わかってるみたいな、むしろ私の方が皐月さんに誘導されて動いてるような錯覚。
そしてここが重要なことなんだけどこの決闘自体はものの5分で終了した。
そのうちの最初の4分ちょっとは私は一方的に皐月さんに攻撃をしかけていたんだけど、結局私の攻撃は皐月さんにたった1回しか当てられなかった。
ちなみにこの1回の攻撃が当たった時に緑色の枠で囲まれたカウンターの数字が10から9に減ったのを見て、そっちが皐月さんの攻撃命中カウンターで黄色い枠で囲われた方のカウンターが私のなんだと理解したのだけど。
「それじゃあそろそろ私の方からも攻撃するけど、先に謝っておくわね。ごめんなさい」
それが決闘の最中に私が聞いた皐月さんの最後のセリフだった。
この時はその言葉の意味はわからなかったのだけど。
2回。それが皐月さんがこの決闘で攻撃らしい動きをした回数だ。
刀を鞘から引き抜くとそれを2回振ってまた鞘に納めた……らしい。決闘後に本人の口から聞いた話によれば。
私が見えたのは皐月さんが刀の入った鞘に手をかけて少し刀を鞘から出した後に、そのまま刀を鞘に戻したというところだけ。いや、私の目にはそれしか見えなかったと言った方が正しいかな。
つまりはこの時皐月さんは私の目にも止まらぬスピードで鞘から刀を抜いて2回振って鞘に納めたのだ。それなのになぜか私の攻撃命中カウンターは一気に0になった。
「…………え?」
いや、うん。もうそれしか言えなかったよ。
いったい今何が起きたというのか……いや何かは絶対起きたんだろうけどそれがまるでわからない。
わからないままで決闘は終了しフィールドは元の安全地帯へと戻ったのだ。
決闘が終了してからもしばらくは私は呆然としていた。
でも近寄ってきた皐月さんにポンと肩を叩かれてそれで我に返ると、皐月さんの顔を見て一瞬マジでビビった。
「ひいぃ!?」(←私の怯えたような声)
「大丈夫?、ごめんね。最後はちょっとやりすぎちゃったかしら」
いや、やりすぎたちゃっていうか……もう何がなんだかわからない。
皐月さんの恰好というか、装備は前に街で会った時と同じものだった。
服は黄色と緑が入り混じったようなリアルで見かけたら一目で高級品だとわかる振袖の着物で、頭にはオレンジ色の花をモチーフにした髪飾り。足元はしっかりしたつくりの草履を履いている。
見た目だけではそこまで強そうにも見えないのがむしろ怖い。
でも何より最も怖かったのは皐月さんの武器である鞘付きの刀だろう。
結局のところ私は、決闘中にその刀の刀身をこの目でしっかり確認したことはなかったんだけど。
「あの、最後は刀を出してすぐに納めた……んですか?」
おそらくだけど現実で生きていて私のこの質問を誰かにしたことのあるという奴はいないだろう。
「ああ、玲愛さんにはやっぱりそう見えたか。実際はちゃんと鞘から刀を抜いて2回ほど振って玲愛さんを斬ってから鞘に戻したの。速すぎて見えなかったわよね」
いや、いやいやいや!?
え、でも皐月さんってレベル1にさげて最弱スターテスだったはず。
それなのに今の私が目で追えないほどの速度で攻撃したって、つまりそれもう皐月さんの装備の装備補正がいったいどれだけ高いんだよって話に……なるよね?
「あれ?、でもどうして2回なんですか?、たしか決闘のルールじゃ先に相手に10回攻撃を命中させた方が勝ち……でしたよね?」
もしも皐月さんの言うようにあの一瞬で私が2回斬られたとのだとしても、それでも私はあと8回までは攻撃を受けない限り負けにはならないはず。私のカウンターはあの一瞬までたしかに残り10だった。
「ああ、それはこの刀の特殊効果よ。そうね、驚かせちゃったお詫びに特別に玲愛さんには教えてあげる」
そうして皐月さんは、腰につけてた刀を鞘ごと引き抜くと私に見せてくれた。
「この刀の名前は五月雨、プレイヤーメイドなのよ」
「プレイヤーメイド?」
「プレイヤーが鍛治スキルで作った武器ってこと。作ったのは私ではないのだけども」
「ああ、そうなんですか」
「ちなみにこの刀はオリジナル武器で、ゲーム内にこれ1本しかないの」
「え!?」
ゲーム内に1本しかない武器!?……え、そんなのあるの?
「鍛治スキルを最高まで極めるとね。レシピではなくプレイヤーが自分で素材アイテムの量や組み合わせを決めて武器を作れるようになるの。もちろんそれでちゃんとした武器が作れる保証はないらしいんだけど、でも上の階層で鍛治スキルを極めている人は結構こういうオリジナルの武器を作っているわ」
もう驚きすぎて何も言えないんだけど、でもまあ理屈はなんとなくわかる気もする。
そもそも剣とか刀って、リアルで作るならそれは全部作った人のオリジナルの作品になるから。
「完成した武器の名前も作成したプレイヤーがつけれるんだけどね。これを作った人はこの五月雨の他にもいくつもオリジナル武器を作ってて、実は私も今日は持ってきてないけどもう1本刀を持ってるのよ」
「え?、じゃあ皐月さんって本当は二刀流なんですか?」
「そうよ」
なんてこった。それはまたすごいことを聞いちゃったな。
二刀流、つまり右手と左手に刀あるいは剣を装備するという戦闘スタイル。
私も今は右手に片手剣、左手に短剣というダブル武器スタイルで戦っているけど、両手に同じ種類の武器も装備していいんだ。知らなかったな。
「それでこの五月雨の特殊効果はね。いくつかあるのだけど1番の特徴は追加攻撃」
「追加攻撃?」
「そう。この刀は通常攻撃で与えるダメージが5分の1になる代わりに、この刀で敵を斬ると5回連続で斬ったことになる」
「え?」
「だから今の決闘で、最後私が玲愛さんを斬るのは2回で良かったのよ」
皐月さんはそう教えてくれたのだけど、それってつまりなんていうか……
「皐月さん。それものすっごいズルくないですか?」
私は言った。だってそうだろう。
決闘のルールは相手に10回攻撃を与えた方の勝ち。そして皐月さんはいっさいの魔法を使用してこないから私は決闘の最中とにかくあの刀に10回斬られたら終わりだと思ってたのにまさかの追加攻撃の機能が備わっていただなんて。
「そうね。でも弁解させてほしいのだけど、実はこのことに気づいたのは決闘が始まった後だったの。ルールを決めて決闘が始まってから思い出して」
「ああ、だからさっき最後の攻撃の前に謝ってきたんですね」
「そうよ。だから本当にごめんね。あ、なんならルールを変えてもう1回決闘する?」
私はその提案は拒否した。もう今の1戦で十分理解したからいいよ。
私と皐月さんの間にある差ってやつが。まあだいたい私の予想通りだったし、決闘の結果も、まあ最初から勝てるとは思ってなかったけど。
それから私はしばらく皐月さんと決闘の感想についてお互い思うところを言い合った。
というより基本は全部私からで、内容もほとんど愚痴に近い感じでなんか最後の方は皐月さんのこと普通に化け物とか呼んだりしてたけど実はこの時何を話したのかはあんまり詳しく覚えてない。たぶんめっちゃ失礼なこと言ってたと思うんだけど皐月さんはそれをとくに気にする様子もなく笑顔で話を聞いていてくれた。ただ終わりの方で皐月さんが……
「でも私も驚かされたわ。1回とはいえ攻撃をよけきれなかったもの」
「え?」
「あ、怒らないで聞いてね。私はハンデはつけたけど油断はしていなかったの。だから玲愛さんの攻撃も全部よけるか防ぐかしてたんだけど」
「ああ、そうですね。でも結局皐月さんに当てられたのはあの1回だけで」
そう、たった5分で終わった決闘だったけど私は1回だけ皐月さんに攻撃を当てることに成功していた。そしてその攻撃が当たった瞬間だけは、それまでずっと笑顔だった皐月さんの顔が驚いた顔をしたのを私は見逃さなかった。
私がどうやって皐月さんに攻撃を当てたのかって?
ふふふ、それは秘密。また機会があったら教えるよ。なにせ私の考えたオリジナルのコンボ攻撃だったからね。
「私本当ににびっくりしちゃった。攻撃を受けてからやられたって思ったし」
「そ、そんなにですか?」
「ええ。それに玲愛さんのその短剣と片手剣っていうバトルスタイルも、珍しいわね」
「いや、これはその……たぶん、今だけです。また近いうちにバトルスタイル変わるかもしれないですし、元々は盾と片手剣だったんで戻すかもしれません」
そもそも私が短剣と片手剣というダブル武器スタイルで戦うようになったのは、この第2階層で短剣を新たに装備できるようになったことと、迷宮ボスの撃破報酬の金の宝箱の中に今装備している強力な効果を持っている蝶々の短剣が入っていたからであって。
たぶんこの先もずっとこの短剣と片手剣のスタイルでゲーム攻略を進めることはない気がする。
そうだな。第3階層の迷宮ボスもソロ撃破したら、そこでまた金の宝箱の中身の報酬を見て、かな。
たぶん今までと同じならそこに強力な装備が入っているはずだから、それで装備のつけかえをするかどうかというところでまた変えるんだろう。いや、変えないかもしれないけど。
「さて、それじゃあそろそろ私は行くわ。あんまりこの階層で油売ってたらリーダーに叱られちゃうし」
「55階層に戻るんですね?」
「そうよ。玲愛さんはどうする?」
「あ、私はせっかくなんでまだ少しこの森に残ってます。ここにくるのはこれが最後かもですし」
「そうよね。私も次の階層に移動する時はいつも思うわ。実際にもう全然訪れてない階層とか、街とかけっこうあるから余計に」
「ああ……」
まあ55階層まで進んだら必然的にそうもなるか。
「それじゃあ玲愛さん、またどこかで会ったらよろしくね」
「あ、はい。今日は戦ってくれてありがとうございました。決闘……楽しかったです」
「ふふふ、私もよ。久々に誰かと決闘して驚かされた。もしも次また戦う時は今度はハンデなしでやりましょうね」
「そうなったらたぶん、いや絶対私が瞬殺されて終わるだけなんでそれは勘弁してください」
私が最後そう突っ込んだら皐月さんはただただ笑いながら私の前から去っていった。
私は皐月さんが去った後でその場で大の字になって寝っ転がると、1人で少しの間考え事をした。
「……負けちゃったな」
私は決闘をしたのは李ちゃんに続いて2回目だったし、何度も言うが最初から皐月さんに勝てるとは思っていなかったので実は悔しさはそこまででもなかった。
というか皐月さんの動きはあまりにレベルが違いすぎて何の参考にもならなかったし、終わってから皐月さんに説明されるまで自分がどうして負けたのかということさえわからなったくらいだ。
「……でも、楽しかったな」
その言葉に嘘はなかった。なんだろう、強大な相手に全力で立ち向かっていくこと自体はこれまでのゲーム攻略でもそうだったけど、今日の決闘は負けたけど本当に楽しかった。なんでかな。
たぶん、初めて負けたからかな。うん。皐月さんは最後ああ言っていたけど私もいつかハンデなしで皐月さんと戦って、そして勝てるくらいになりたいな、なんて。
「何年先の話だよ。っていうかその時はきっと皐月さんも今よりもっと強くなってるんだろうしな」
おそらくだけど私が皐月さんと同じ実力になることはこの先ないんだろう。
でも勝ちたいと思った。少なくとももう少し良い勝負ができるようになるくらいには強くなりたいな。
「そのためにはとにかくまずゲーム攻略を進めないとだな。先の階層に進んで、レベルを上げて」
そして私の恩恵の効果込みでいうならもっとたくさんのスキルと魔法を覚えて、私は強くなっていく。
「……よし、そうとわかればいくか。第3階層」
私は立ち上がってそう言うと、それからまずは街へ戻ろうと歩き出した。
<第2階層:迷宮地下3階:ボス部屋>
そして、やってきたよお待ちかねのあの時間が。
私はついに、ついに自分の恩恵の効果を確かめる。
いやあ、もう本当にここまでくるの長かったよな。たぶんこのゲームでこんなに自分の恩恵の効果を確認するのが遅かったやつなんて過去にいないよな、絶対に。
「でもそれも今日でおしまいだ。よし、覚悟を決めろ!」
私は(蝶々の仮面を外した上で)両手で顔を叩くとメニュー画面から私のステータス画面を私の目の前に表示させる。
名前:玲愛 レベル26
種族:人間 性別:女
恩恵:アストレア
職業:冒険者
この恩恵:アストレアと書かれた部分を1回タッチするだけでいいのだ。
ああ、やっぱりいざとなったら緊張してきたな。でもさすがにこれ以上はもう自分でも気になって仕方ないしいつまでも自分の恩恵の効果を自分で把握してないって問題があるからな。
「いいや、えい!」
そうして私はタッチした。すると私の眼前に私の、このゴッドワールド・オンラインというゲーム内でのアストレアという神様の恩恵の効果が書かれた画面が表示されたのだけど。
「……………………え??………………なんだ、これ」
そこに表示された画面を見て私は最初自分の目を疑った。
だってそこには私が私の恩恵の効果だと思っていた効果について何も書かれていなかったのだ。
モンスターを倒したらスキルや魔法を手に入れられる効果のことも。
モンスターを倒したら100%の確率でドロップアイテムが手に入る効果のことも。
アイテム作成スキルで作成したアイテムが100%の確率で最高品質のアイテムが完成する効果のことについても、何も書かれていなかった。
「うそ、でしょ?…………でもこれって……」
私はいまだに混乱の中にいた。だって私の恩恵の効果がもしもこの画面に書かれていた通りだったとしても、それじゃあ全然つじつまが合わない。いや、合わないと思っていた。
「まさか?」
そうして私が導き出した1つの結論が正しかったことはすぐにわかった。
私がもう1度目の前に映し出された画面をタッチすると画面が切り替わり、切り替わったその画面に書かれていたことを見て私はすべてを理解した。ああ、そんなことがあるのだろうかと。
それはいったいどんな偶然だったのだろうかと。
「ゲーム運営が私の方に何も言ってこない理由がなんとなくわかったよ」
それからしばらくして、私は目の前の画面を閉じるとボス部屋の青色のワープゲートに入った。
まったく冗談じゃない。こんなことなら最後まで自分の恩恵の効果は知らないままでいたほうがまだ幸せだったんじゃないかと私は少しだけ自分の恩恵の効果を確認したことを後悔していた。
あるいは、やっぱりゲームを始めてすぐに確認していればまた何かが違っていただろうな。
もっとも、もう確認してしまった以上はこれから先、私は自分の恩恵の効果と嫌でも向き合っていかなければならなくなったのだが。ただ、それにしても納得がいかない。
なんなんだよあの効果、まじで意味わかんないんだけど。
祝!!、第2階層編終了!
ということで今回の話で第2階層編は終わりになります。
本編を見た方からは苦情が殺到するかもしれませんが、特に最後のあたりで。
ですが今回の話で玲愛はついに自分の恩恵の効果を知りました。この恩恵の効果について明かすのはまだ少し先になる予定なのですが、第3階層編の最初の幕間的な短編エピソードでそのヒントとなるようなことを書く予定なので、今しばらくお待ちください。
アストレア「なあ、今ここで私の恩恵の効果言っちゃってもいいか~?」
筆者「ダメに決まってるでしょ。引っ込んでなさい」
アストレア「へーい」
あと、前回の後書きにも書きましたがこの後さらに2話分使って、第1階層編と同じようにゲームの設定資料と、玲愛が第2階層で習得したスキルと魔法の一覧表を記載するので、第3階層編の始まりはもう少し後になります。
ですが、一応最後なので第3階層編の予告をここで。
第3階層編―RED―
玲愛が次に攻略するゴッドワールド・オンライン第3階層は赤の階層と呼ばれている。
赤土の大地が広がる荒野に薄暗い洞窟、切り立った崖などがあります。
果たして玲愛はそこでどんな冒険を繰り広げるのか、そして第2階層編で手に入れたのはいいものの結局ほとんど使う機会のなかったスキルや魔法が活躍することはあるのか?、乞うご期待!
アストレア「なぁ、やっぱりいまここで言っちゃおうぜ」
筆者「おい、いい加減にしないと主人公から降ろすぞ」
アストレア「え、マジで?」
※本当に主人公が交代することはないので、安心してください。




