ニートな女神と初めての畏怖
畏怖[名詞]
意味:おそれおののくこと。うやまい、かしこまること。
例文:「神を―する」
エリュマントスの岩盤ライン爆破(と名づけることにした)攻撃は見た目の派手さからもわかる通りおそらくはエリュマントスの攻撃の中で一番やばいやつなんだろう。
いや、他の3つの攻撃も十分やばいんだけどもね。
だけども実際は、この岩盤ライン爆破攻撃こそがエリュマントス攻略の鍵だったのだ。
どういうことかというと、だ。
「あれ?、ボスのやつ自分が出した岩壁に激突してダメージを受けてるけど?」
エリュマントスは耐久が高く物理攻撃ダメージがなかなか通らない。
だから私は早々に魔法攻撃メインの戦いに切り替えて戦闘をすることにしたのだけど。しかしそれだと物理攻撃メインのパーティだと割と高確率で詰んでしまうことになる。
そういうパーティを救済するためというわけではないのだろうけど、エリュマントスには決定的な1つの弱点が存在していた。
隙である。しかもその隙の間は耐久力が減少しているのか物理攻撃が普通に効くようになる。
ではその隙はどうやったら作られるのか、その答えを今ナポリさんが言ってくれた。
エリュマントスの岩盤ライン爆破によって隆起した30メートルくらいの長さの岩壁、その岩壁に向かってエリュマントスの突進攻撃を当てさせる。
すると岩壁に激突したエリュマントスは少々のダメージと少しの間だけ目を回し、その目を回している間の時間は一切の攻撃・移動をせずさらに防御力が下がる。
つまりはここが最大の攻撃チャンスだということ。
目を回している時間は……どうだろう。10秒間くらいかな。だけど接近して攻撃を1発ぶちかますのには十分な時間だといえる。
岩壁はエリュマントスが激突すると1回ですべて崩れて消え去るので、次にエリュマントスの隙を生み出させるためにはエリュマントスにもう一度岩盤ライン爆破攻撃をしてもらった上で、上手いこと岩壁に誘導してエリュマントスを岩壁にぶつける必要がある。
岩壁は私たちの攻撃(物理・魔法問わず)でも攻撃が当たった部分については割と簡単に破壊できるのでどうしてもパーティの連携上邪魔な位置に岩壁が発生したりした場合は少し惜しいけど自分たちで岩壁を壊しても問題はない。
2分間私たちもエリュマントスも岩壁を破壊しなければ、岩壁は元の地面に戻るわけだけど、この2分間はエリュマントスは岩盤ライン爆破攻撃はしてこない。
つまりフィールドの岩盤ラインは同時に1本しか作られないのでエリュマントスを誘導して岩壁にぶつけるのが少し大変なのだけどでもまあそこは頑張ればなんとかなる。
「よーし、そうとわかれば後は簡単だ」
そう、パス太の言うようにそれからしばらくは戦闘は簡単になった。
エリュマントスの突進攻撃は、その時エリュマントスに最も近い位置にいるプレイヤーに対してほぼ一直線に向かって来るということがわかってからはさらに楽になった。
岩盤ライン爆破攻撃も、攻撃前のモーション(前足を上げて後ろ足立ちになる)を見極めれば回避することは容易だったし。あ、でも1回だけ避けきれずにペペさんが岩盤ライン爆破攻撃を受けた時には一気にペペさんの体力が5割強消し飛んだし、さらに上空に跳ね飛ばされてその後に地面に激突した際のダメージも加えるとたったの一撃で体力の7割が削られるという事態に。
このゲームは安全面に考慮してどれだけ大きなダメージを受けても痛みはそこまで発生しないのだが、上空に跳ね飛ばされてから地面に激突するなどの体験に伴う恐怖や、精神的なダメージまではさすがにカバーしきれない。
私もいまだに怖いと思う時はあるよ、壁や床に思いっきりぶつかるってなった瞬間とかは。
だけどもペペさんは精神的にもタフだったようで、いったん後方に下がって体力を回復させてからまたすぐに前線に戻ってきた。
そしてそこからはまあエリュマントスの体力が200%になるまでは戦闘に変化はなかった。
ああ、つまり3本ある大ケージの1本目が削り切れるまでってことね。
そして迎えたエリュマントス第2段階。まずは既存の攻撃技が強化。
突進攻撃は、攻撃相手を最も近くにいるプレイヤーから直近でダメージを与えたプレイヤーに攻撃対象の選び方が変化。
ただ、その変化については特に意識はしていなくても問題はなかった。ようはエリュマントスに狙われたプレイヤーが上手いこと岩壁に激突させられるように誘導していけばいいのだから。
雄たけび攻撃は攻撃範囲がエリュマントスを中心に15メートル圏内までと少し範囲が広くなった。
けどもそれで割を食らったのはペペさんとパス太の2人だけであって、今回のボス戦で基本的に後衛を務めている私とナポリさんはあまり関係はなかった。
炎ブレス攻撃は攻撃をしている時間、つまりは口から炎ブレスを吐いている時間が少し伸びたけれど攻撃範囲に変化はなかったのでむしろ回避した後でまだ炎ブレスを吐いているエリュマントスを無視してHPとMPを回復させられる時間が出来た。このことでまた戦闘に少しの余裕が出来た。
……それで、問題は岩盤ライン爆破攻撃なんだけどもそれがまたなんというかね。
「来るぞ、またあの攻撃だ!」
「あいつの目の前から離れて!」
それまでと同じようにエリュマントスの真正面のゾーンから私たちは離れたのだけど、第2段階ではエリュマントスから見て斜め前右と斜め前左の方向にも岩盤ラインが出現するようになり、同時に3本の岩盤ラインが私たちに襲い掛かる。
さらに岩盤ラインの長さも30メートルから40メートルに長さが伸びていた。
さらにさらに、岩盤ラインの出現時間が2分から1分程度に短縮されてしまった。
このことでエリュマントスを誘導し隆起した岩壁に激突させるという攻略法がやや難易度が上がったかのように思えたが、岩盤ラインの本数が3本に増えた分だけ実は激突させやすくなっていたと私は思う。
ただし、岩壁に激突したエリュマントスが目を回している隙の時間も、10秒から8秒程度に短縮されていたようだけどそれでもまだ最大の攻撃チャンスであることに変わりはなかった。
1番の問題は、第2段階のエリュマントスが新たに使用してくるようになった5番目の攻撃にあった。
「なんだあの黒いブレスは!」
「新しい攻撃!?」
「とにかく避けて!!」
エリュマントスの新技はブレスだった。
赤い炎ブレスとは違って黒い炎ブレスというか、いやまあ実際そんな感じの技。
それでその黒い炎ブレスがね、特に私にとっては1番厄介な技だったと思う。
あのさ、皆あの沼地フィールドに出現したお化け、ゴーストのこと覚えてる?
そのゴーストが使用してきた技でさ、ブルーファイアーボールってあったと思うんだけど。それがどういう攻撃だったか覚えてる?
うん、覚えてる人はいいんだけど。その攻撃はまあ今の私が1番嫌だと思っている攻撃でさ。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「ナポリ!」
その黒い炎ブレスを運悪く食らってしまったナポリさん。しかしナポリさんにダメージはなかった。
……そう、体力には。
「あ、あれ?、攻撃受けたのにHPが減ってない……けどもMPが0!?」
「なんだって!?」
「それってもしかして……」
そうだ。エリュマントスの黒い炎ブレス攻撃の正体、それはMPダメージ攻撃だった。
MPダメージ攻撃は、その名前の通り受けても体力、すなわちHPは一切減少しない。
しかし代わりに魔力、MPが削られるという魔法攻撃メインのプレイヤーからしたら恐ろしいことこの上ない攻撃だ。
そして何より恐ろしかったのは、エリュマントスのその黒い炎ブレス攻撃を受けた時にはナポリさんのMPは少なくとも100以上はあったはずなのにそれが一撃で0にされてしまったという攻撃の威力。
いや、あるいは黒い炎ブレスは単にMPダメージ攻撃というだけではなくつまりは……
「MP0攻撃?」
MP0攻撃。受けただけでプレイヤーの残りMP量に関係なくMPを0にしてしまう攻撃。
……いやいやいや、それはちょっとひどすぎるんじゃないか!?
「やっぱりそう簡単に勝たせてはくれないか」
エリュマントスは第1階層のボスクエストで戦ったヤタガラスよりもたしかに強くて厄介だったということを私はこの時改めて気づかされた。
「黒い炎ブレス攻撃も、範囲はこれまでの普通の炎ブレスと同じだけど」
「攻撃動作が早いし、なによりブレスが一気に攻撃範囲に届くから回避が難しい」
「MPダメージだから盾でも防げないし……最悪だな」
前にも言ったと思うけどこのゲーム、MPが0の状態だと本当にまずい。
一切の魔法とアクティブスキルが使えなくなり、プレイヤーは通常攻撃しかできなくなるわけであって、だからプレイヤーは戦闘中もHPと同じくらいMPの残量にも気を配らないといけないのだ。
それだというのにここにきてまさかのMP0攻撃とは、本当に最悪だった。
まだ絶対に回避できないわけじゃないのが救いというところか。
「どうします課長?」
ペペさんがパス太に指示を仰ぐ、このパーティのリーダーはパス太であり、状況が変化した際に作戦や行動の指示などはすべてパス太に一任されている。
「これは……聖水を全部使いきるかもしれないな」
パス太はなかば冗談交じりにそう答えたけど、この状況だとそれも冗談に聞こえなかった。
「MP0になったらそのその都度回復しながら戦い抜くしかない。こんなことならもっと聖水買っておくべきだったかも」
「たしかにそうね。私もボスがこんな攻撃してくるなんて事前に知ってたらそうしてたと思うし」
「ああ、俺もだ。でもそれは今から言ってもどうしようもないな」
「そうですよね」
私たち4人はどうやら全員同じ気持ちだったようだ。
「「「「とにかく速攻でボスのHPを削り切る!」」」」
もうこうなったらそれしかないと思った。
もちろん無謀にボスに向かって特攻をしかけるわけではない。ただそれぐらいの気持ちを持ってこの先の戦いに挑むというだけの話だ。まあもっとも、どっちにしろ私たちは最初からそのつもりではあったしこれはまだ勝利を諦めていないということの確認だった。
「ちなみに皆の聖水の残りは?」
私たちはパス太のその問いかけに、エリュマントスの攻撃を避けながらもなんとか自分のアイテムボックス内の残りの聖水の数を確かめるとそれぞれ答えた。
このクエストに行く前に私が手渡した5本の聖水☆についてはこの段階でパス太とペペさんは1本、そして割とMP消費が激しいナポリさんはさっきのMP0攻撃を受けたこともあってかすでに3本使用済み。そしてそれ以外の店で買える普通の聖水についてだけど。
パス太は8本、ペペさんが10本、ナポリさんが少し多めに持っていて18本だった。
……え、私は何本持ってたのかって?
いやいや、私はほら。これでも店売りのポーションと聖水については常備100本を、特に新しいフィールドとかボス戦に向かう前とかにはその都度補充してたからね。
「玲愛ちゃんは残り何本持ってる?」
「えっと、あの……79本です」
「え!!?」
「ごめん、今なんて言った?」
「79本、です」
ちなみにこのクエストに挑む前には聖水とポーションは100本ずつ持っていた私。
これでも先のバトルボア狩りや、ダークガーディアン戦でもけっこう魔法やスキルを使ってきたから聖水はそれなりに使ったんだけどそれでもまだ全然余裕があった。
ポーションにいたってはまだ92本もあるし。ああ、私はHPドレインⅩのスキル効果で戦闘中も体力は普通に回復できるからポーションというか、体力回復アイテムはそれこそボス戦の時くらいしか使わなくなっちゃってるんだよね、もう。まあそれでも使う時は使うんだけどさ。
「玲愛ちゃんそんなに持ってるの?」
「いえ、あの。というか皆さんは普段持ってないんですか?」
どうやら私のようなプレイヤーは少数派だったようだ。
私以外の多くの、特にパーティを組んでゲーム攻略をしているプレイヤーたちは、その日ログインしてその日のゲーム攻略に行く前に必要な分のアイテムを買っていくというスタイルの人が多いらしい。
もちろんそれがわずらわしくて1度に大量に回復アイテムを買っていくプレイヤーもいるのだろうけど、特に私のようにまず不必要な数の回復アイテムを常備しているプレイヤーは少ないのだとか。
「でもそれなら良かった。玲愛ちゃん、その、戦闘中で悪いんだけども」
「はい。隙を見て、ですよね?」
隙を見て私はパス太、ペペさん、ナポリさんの3人にそれぞれ接触すると急いでアイテムの譲渡、聖水を3人に分け与えた。
パス太に12本、ペペさんに10本、ナポリさんに12本渡した。
これで私の聖水の残りは45本となったけど、まだ余裕があった。
たとえボス戦の最中であっても、プレイヤー間でのアイテムの譲渡はできるのだ。
ボスそっちのけでほぼ無防備の状態になることを考慮すれば、の話だが。そこはパーティの人数が多い方が有利なんだろうな。誰かと誰かがアイテム譲渡している間に他のメンバーがそれを邪魔させないようにボスの攻撃を引きつけたりしてね。
「ありがとう」
「後で代金は払う」
「よし、これで行けるぞ!」
3人の反応はそれぞれだったけどこれでこのエリュマントス戦はなんとかこちらが押し切れるだろうか。
たとえ黒い炎ブレス攻撃を受けてMPが0になっても聖水を飲んで回復すれば問題はない。
でも聖水1本のMP回復量はわずかに25なのであまり調子に乗っているとすぐに使いきってしまうので、魔法やスキルの発動タイミングは慎重にならなければいけないのだが。
まあ、そういうことでそれから何度か黒い炎ブレス攻撃を食らって私以外の3人は何度かMP0になっては聖水を使ってMP回復というのをしながら戦っていたのだけど、それでついにエリュマントスの体力が残り100%を切った。きっと、いや絶対にここでさらにエリュマントスの行動パターンが変化するなと感じとった私たちはそこで全員いったんエリュマントスから距離を置いた。
え、私は黒い炎ブレス攻撃を1度も受けなかったのかって?
うん、別に。……蝶々シリーズの装備で敏捷の上がっている今の私にとっては黒い炎ブレス攻撃も割と簡単に見切れるようになったし回避も余裕だったよ。攻撃範囲は普通の炎ブレスと同じだったから最悪全力でボスから距離を取って走り去ればまず当たらなかったし。
まあそれしたら他の3人には怒られたんだけども(いきなりどっかに行くから)。いやだって、MPが0になるなんて私にとって本当に致命的だからね。そりゃそうもなるよ。
ちょっと、臆病すぎるかなと思わなくもなかったけど。
まあいいや。で、私たちの予感は見事に的中してそこからエリュマントスは最終段階へと移行した。
いやもう本当に、体力があとちょっとってなった時でも最後まで油断はできなかったよ。
まず突進攻撃は、狙う対象が完全にランダムになって法則性なんてなくなった。
でもこれはさっきも言ったけど別にいい。誰が狙われても狙われた人が上手く誘導して岩壁に激突させればいいのだから。ただ、足の遅いペペさんが狙われた時はそう簡単にもいかないのだけど確率は4分の1だったからね。
雄たけび攻撃は攻撃範囲がさらに広がってエリュマントスを中心に半径20メートル圏内のすべてに重力波による衝撃が襲い掛かる。ペペさんとパス太も、もうそれで地面にいきなり叩きつけられることには慣れたみたいだったけど、それって慣れるものなの?
炎ブレス攻撃はここで攻撃範囲がちょっと広がった。でもまだ全然余裕で避けられる。攻撃時間に変化はなかった。
黒い炎ブレスも同様に攻撃範囲がちょっと広がったけど、まあもう今更それにいちいち驚く私たちではなかった。
それでもどうしても驚かされたのは岩盤ライン爆破攻撃だ。
まず、ラインの本数がさらに2本(エリュマントスから見て前左右2方向)増えて1度に5本のラインが襲い掛かってくるようになった。
ちょうど片手の指を全部大きく広げた形といえばわかりやすいかな。
で、ラインの長さも1本50メートルともう滅茶苦茶だった。回避が間に合わずに巻き込まれて大ダメージを受けることもあった。
しかもそれで出来た岩壁は40秒で消え去り、岩壁に激突したエリュマントスの目を回した隙の時間もさらに短縮されてわずか5~6秒に。
「くそ、後もう少しだって言うのに」
ペペさんのその叫びは私たち全員の叫びでもあった。
だけどもエリュマントスの方もこのままおとなしくやられてなどやらないとばかりにこの最終段階でさらに恐ろしい技を繰り出してきた。
それは第1階層のヤタガラスが体力が減った時に1度だけ使ってきたあの毒の霧攻撃と同じようで、エリュマントスがその技を使用したのはただの1度きりだったけども。
「なんだあれは!?」
「まさか、ブースト!?」
ブースト。つまり自身の能力値を一気に引き上げる技。
エリュマントスがなんか魂の叫びみたいなもの凄い声で雄たけびを上げたと思ったら、次の瞬間にはエリュマントスの体が真っ赤なオーラに包まれたのだった。あれは間違いなく何かしらの能力を上げた時に出るオーラだ。おそらく赤色だから力、かな?
「嘘でしょう!?」
「ここまで来て最後にこれか」
「くそっ!?」
ナポリさん、ペペさん、パス太の3人はそれを見て半ば絶望していた。
果たしてエリュマントスがいったい何の能力値を強化したのかはまだわからないが、それが何にせよただでさえクソ強いボスモンスターが強化されたとなれば誰だって最悪の展開を予想する。
すなわちここで自分たちは全滅するかもしれない、と。
「大丈夫ですよ。ふふふ、そんなこともあるかと思って今までほどほどに準備していて良かった」
だけど私だけは、3人とは違ってまだ絶望していなかった。
いや、むしろ余裕だったと言える。
「「「あ!!」」」
そして3人も気づいたようだ。今私たちが4人ほぼまとまった位置にいるということ。
そしてエリュマントスとの距離、その間に何があるのかということに。
エリュマントスは突進攻撃をしかけてきた。
プレイヤー全員がエリュマントスから離れた位置にいる場合は、雄たけびもブレス攻撃も放ったところでそもそも攻撃範囲内にプレイヤーがいないと意味がない。そしてボスモンスターに搭載されているAI、すなわちモンスターの行動を決める人工知能はザコモンスターよりかは有能であって、まったく無駄な行動というのをしない。
だから戦っているプレイヤーが全員同じ方向に、離れた位置にいる場合にはまずはプレイヤーたちに自分の攻撃が届く位置まで移動する必要があり、エリュマントスの場合は移動にも突進攻撃を使うことがままあった。その方が早く移動できるからだ。
「ふふふふ。こんなこともあろうかと思って最終段階に入った直後から量産しておいたこれを食らえ!」
エリュマントスは気づかない。あるいは気づいていてももう走り出したら止まれない。
私たちの方へ向かって一直線に駆け出してくるしかない。
そう。たとえ、その直線状に大量の泡が漂っていたとしても。
パパパパパパパパパパパパパパパン!!!!
私が生み出していた合わせて13個の泡、アクアバブルが一斉に破裂した。
アクアバブルは水属性の魔法攻撃。そしてエリュマントスは水属性が弱点属性であり能力値の中では賢さがやや低めであり魔法攻撃が効きやすい。
結果として、大量のアクアバブルを破裂させてまき散らされた水をほぼすべてその身に受けたエリュマントスは一気に体力を削られた。
「す、すげぇ!」
「今までの戦闘中も何回か玲愛ちゃんの作ったあの泡にあいつがぶつかって、ダメージを与えたところは見たから知ってたけども……」
「こんなに一斉に割れると爽快だな。いや、もういっそのことボスの方がかわいそうに思える」
エリュマントスの体力は80%近く残っていたはずなのに今のアクアバブルの連続破裂によって体力は半減し、残り40%になった。
しかも今のでエリュマントスの体から出ていた赤いオーラのようなものも消えたのはラッキーだった。
たぶん、一定のダメージを受けると解除される類のブーストだったんだろう。
「さあ、皆さん。最後まで気を抜かずに行きましょう」
私は3人にそう声をかけたけど3人は私の方をじっと見つめていた。
「私、玲愛ちゃんだけは敵に回したくないわ」
「ああ、俺もだ」
「僕も」
いや、いいから今はそういうの。でも、それって褒め言葉?
いやー、戦闘中だっていうのにそんなこと言われたら私だって照れちゃうよ……なんてね。
<モンスター辞典>
〇エリュマントス
前回に引き続きエリュマントスの紹介をします。
エリュマントスの攻撃方法について本編内の情報まとめ&補足説明。
①突進攻撃
プレイヤー1人に向かって直進する。プレイヤーにぶつかるか移動中に一定以上のダメージを受けるか、一定の距離移動すると停止する。狙うプレイヤーには法則性がある。
第1段階:最も近くにいるプレイヤー
第2段階:最も直近で攻撃をしてきたプレイヤー
最終段階:ランダムで選ばれたプレイヤー
②雄たけび(衝撃波)
攻撃範囲内のプレイヤーを地面にたたきつける重力波攻撃。ダメージ自体は低いが近くにいたプレイヤーの行動を強制キャンセルさせるため近接戦闘メインのプレイヤーは要注意。
エリュマントスを中心に円形に全方位が範囲であるため、後方にプレイヤーが接近している時によく使う傾向がある。無属性の魔法攻撃。
③炎ブレス&闇ブレス
共に口から放たれる。炎ブレスの方は火属性の魔法攻撃で受けると確率でやけどの状態異常になる。本編内で黒い炎ブレスと言われていたのは実は闇属性の魔法攻撃で、プレイヤーのMPを減らすMPダメージ攻撃。魔法メインのプレイヤーは絶対に回避せよ。
岩盤ライン爆破攻撃と、最終段階のブースト技についてはさらに次回の後書きにて紹介。
次回、ついに長かった最後のボスクエスト完結です。さて、いったいどうなることやら。
あ、ちなみに上記のやけどの状態異常についてはまた先の階層で説明しますのであしからず。




