ニートな女神と初めての連絡先
最近気づいたこと。
筆者はこの神界でのアストレアの話であるドラマパートを考えるのが苦手だということ。
ゴッドワールド・オンライン内の玲愛の活動について書いているほうが好きだ。
だけど、ドラマパートの方も書いてて楽しい。ただ少し苦手なだけであって。
食事を終えてから私たちはしばらくゲーム的な出し物をしているお店を見て回った。
私は金魚すくいをやってみたら3匹捕まえたところでポイが破れた。
ただ、ヤヌスはなんか8匹も捕まえてたみたいだけど。
店主のネプチューンに捕まえた金魚を持ち帰るかと聞かれたけど私たちは断った。
そういえば昔、親と一緒にやってきた夏祭りでも私、金魚すくいで捕まえた金魚を持ち帰って金魚鉢に入れてすごく熱心に育ててた気がするな。ああ、懐かしい。
まあ、それでもすぐにその金魚は死んでしまってその時はもの凄くショックだったんだけど。
たしかあの時は、2、3日くらい誰とも口を聞けなくなったっけ?
次に射的屋で射的ゲームに挑戦してみたが、これは私もヤヌスも全弾何にも命中せず終了という残念な結果に終わった。
私なんて結構大きめの的っていうか、景品の熊のぬいぐるみを狙ったんだけど1発もかすりもしなかったのだけど。私には銃という武器は向いていないということがよくわかったよ。
ただ、それよりかなんだかヤヌスの方がえらく落ち込んでいた様子で。
「どうするヤヌス?、もう1回やってみるか?」
私は落ち込んでいたヤヌスにそう提案してみたらヤヌスは私の顔を見て、じゃあアストレアももう1回挑戦してみようよと言ってきた。
私の方はもう満足していたからヤヌスの好きにすればいいじゃないかと思ったけど、ヤヌスの目が意外とマジだったから私も仕方なく付き合ってあげることにした。
で、その結果なんと2回目の挑戦でもヤヌスはまた全弾外した。
だけど私は2回目の挑戦で見事に熊のぬいぐるみに弾を命中させることが出来た。
ただ、命中させただけで景品を棚の後ろに落とすことができなかったのだけど。
店主のアルテミスさんがサービスでその熊のぬいぐるみを私にプレゼントしてくれた。
「いいんですか?、落としてないですけど」
「もちろんいいわよ。そのぬいぐるみ見かけよりも重たくてね、1発じゃまず倒せないの。だから命中しただけのお客さんにもサービスであげてるんだ」
「へぇ、そうなんですか。そういうことなら遠慮なく」
それなら1発でちゃんと倒せる景品を用意すれば良かったのではないかとは言わないでおく。
いや、アルテミスさんもきっとわかってるんだとは思うんだけど。
というか1番大きな的であるこの熊のぬいぐるみなら狙うやつも多いだろうに。在庫とか大丈夫なんだろうか。
ああ、すっかり忘れてたけど2度目の挑戦でも何にも命中させらなかったヤヌスはさっきよりもさらに落ち込んでしまっていた。
私はかける言葉も見当たらなかったけどとりあえずアルテミスさんにお礼を言ってから落ち込んでいるヤヌスの服の裾をぐいっと引っ張ってその場を離れた。
「おいヤヌス、そんなに落ち込むなよ。たかが射的ゲームくらいでさ」
「そ、そうだね。うん、ごめん」
「いいけど。でもお前そこまで落ち込むってことは自信あったんだ」
「いや、そういうわけでもないよ。ただ、やっぱりこういう時って僕がいいとこ見せた方がいいのかなって思って。ほら、恰好よく景品に弾を命中させて落としてさ、それを女の子にプレゼントしたりとか」
「え…………ああ、うん。そだね」
なんと、ヤヌスでもそういうこと考えることがあるんだ。
なんだろう、男と女が射的屋に入ったら男が景品に弾をを当てて落とし、落とした景品を女の子にプレゼントする的なやつ?
それで景品をもらった女の子が取ってくれた男の子に対して好感度アップしたりしてね。
少女漫画とかではむしろ王道の、ありふれた展開だけど。
やっぱりヤヌスも男なんだな。そういう場面では女の子にいいとこ見せたいんだ。
でもただの女友達である私に対してそんな試みするのもどうかと思うけど。だって私の好感度アップさせたところで、ねぇ?
そういうのは自分が狙ってる、好きな女神に対してやるべきなんじゃないだろうか。
まさか私に気があるわけでもあるまいし。
「ヤヌスも、そういうこと考えるんだね」
「え、どういう意味?」
「いや、なんでもない。あ、そろそろヘスティアちゃんがやってるお店に行ってみようか」
「あ、うん」
いつか本当に好きな女神とか出来た時に、その子とまたこうして一緒に夏祭りに来た時にはちゃんと射的で景品を当てて女の子にプレゼントしてやるんだぞ、ヤヌスよ。
私は心の中でひそかにそうヤヌスを応援するのだった。
でも、そういやヤヌスってどんな子がタイプなんだろうか。
「あ、アストレアお姉ちゃん!」
「やっほー。約束通り来たよー」
「うん。ちょっと待ってて。今ちょうど作ってるところなの」
ヘスティアちゃんのやってるお店では、ふんわりパンなるものを売っているらしい。
ヘスティアちゃんは屋台の前で売り子をしてるみたいで、実際に屋台でパンを焼いて作ってるのはヘスティアちゃんのお父さんだった。
私はヘスティアちゃんのお父さんにも軽く会釈した。いつもはパン屋で奥にいるから私も滅多に話すこともないのだけどお父さんの方は普段から無口な神らしい。私の会釈に対して向こうも軽く会釈しただけで会話はなかった。
「ごめんねー。お父さん人見知りで接客は苦手なの」
「あ、うん」
ヘスティアちゃんがそこですかさずそう教えてくれたけど。
ああ、だからいつもパン屋のカウンターにいるのはヘスティアちゃんだったのね。
もっともヘスティアちゃんの方も自分から進んでお店の仕事を手伝っているみたいだし、なによりも看板娘って感じでお客さんたちにも可愛がられてるからそういうのもあるんだろうけど。
「あ、お姉ちゃん。パンの味はどうする?」
「え?」
ヘスティアちゃんにそう聞かれた私はそれでヤヌスと顔を見合わせた。
ふんわりパンというのは菓子パンの一種のようで、丸くて名前の通りふんわりした食感が売りのパンのようだったけど、どうやら味が何種類かあるらしい。
シュガー、シナモン、チョコレート、ストロベリーの4つの中から選べる。
「ヤヌスは何にする?」
「うーん。僕はなんでもいいよ」
「なんでもいいなら適当に決めてくれ」
「それじゃあシュガーで」
「そう、じゃあ私はストロベリーで」
私たちがそう注文するとヘスティアちゃんは笑顔で頷いて屋台で調理していたお父さんのところへ。
そしてほどなくして戻ってきたヘスティアちゃんの手には2つの小さい紙袋にいれられたふんわりパンがあって、ここは私がヤヌスの分もまとめて代金を支払って置いた。
「えへへ、まいどありがとうございます」
ヘスティアちゃんのそんな言葉に癒されながらも私はふんわりパンを一口食べてみたら、これがまた本当にふんわりしていて、まるでわたあめみたいな。うん、ふっくらじゃなくてふんわりだったんだよ。
「うわ、このパンすごくやわらかいね。それにおいしい」
ヤヌスもパンのあまりのやわらかさに驚いていた。
「作り方は企業秘密なんだってお父さんが言ってたの」
そして何故か自信満々でそう答えたヘスティアちゃん。
味の感想を聞かれた私たちはすごくおいしいと答えたらすごく喜んでくれた。可愛いな。
私が男神だったら1日だけでいいからお持ち帰りしたいなとか言ってそうなくらい可愛い。
あ、それは男神であるヤヌスに失礼か。だけどヘスティアちゃんの笑顔にはすごく癒される。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
「うん?、なあにヘスティアちゃん」
私はパンを食べ終えたところでヘスティアちゃんに声をかけられた。
ヤヌスはまたパンを包んでいた紙袋のゴミを捨てるためにゴミ箱の方まで歩いて行ってから今は1人だ。
「一緒にいるあのお兄さんは?」
「うん?、ああ、ヤヌスだよ。家具職人見習いしてる神で、私の住んでるアパートのお隣さん」
どうやらヤヌスは、ヘスティアちゃんのパン屋さんにはあまり行ったことがないみたいだったからヘスティアちゃんの方もヤヌスのことは知らなかったみたい。当たり前か。
「ふうん。もしかしてお姉ちゃんの彼氏さん?」
ただ、そこでヘスティアちゃんからまさかの質問をされて私は一瞬ポカンとした後で慌てて否定した。
「え?……いやいやいや。ただの友達だよ。うん、ただの友達」
「へえ、そうなんだ。なんだかすごく優しそうな人だね」
「うん、実際優しいよ。よく隣に住んでる私におすそ分けしてくれたりするしね」
「ふうん、そうなんだ~」
ヘスティアちゃんはなんだかちょっと遠い目をしながらそう言ったけど、なんだろう。
「もしかして、ヘスティアちゃんのタイプ?」
私がそう聞いてみるとヘスティアちゃんは否定した。
「え、あ。ううん、違う、けど」
「けど?」
「うん。もしかしてあの人、お姉ちゃんのことが好きなんじゃないのかなって」
「え?」
「だって、さっきも私とお姉ちゃんが話してる時も横目でチラチラお姉ちゃんのこと見てたよ?」
え、そうだったの?、全然気づかなかった。
「いや、でもそれだけであいつが私のこと好きとか、わかんなくない?」
「うん」
「それに、あいつに限ってそれはないよ。あいつは私と違ってしっかりしてて、ちゃんと働いてるし、顔もそこそこイケメンでしょ?」
「うん」
「でも私はほら、ニートだし、性格もずぼらで面倒くさがりだし。顔もスタイルもそんなじゃん?」
「え?、そんなことはないと思うよ。アストレアお姉ちゃんはすごく綺麗だと思う」
おっと、ヘスティアちゃんがお世辞を言ってきたぞ。ははは、子供に気を遣わせちゃったよ。
いや、あるいはヘスティアちゃんは本当にそう思ってくれてるのかもしれないけど、少なくとも私はそう思っていないし。たぶん一般的にも今の私に魅力を感じる男というのはいないだろう。
いたら相当の変わり者に違いないし、だからヤヌスは違うといえる。あいつ、しっかり者だから。
私がヘスティアちゃんになんて言おうか考えていると、そこで最後にヘスティアちゃんが私にこう聞いてきた。
「お姉ちゃんは、あのお兄ちゃんのこと好きじゃないの?」
「……え?」
私が、ヤヌスのことを好きかどうか?
いや、普通に友達だけど。というか最近までその友達認定すら怪しかったところだし。
そりゃあヤヌスは見た目もいいし、中身もいいやつなのはもう知ってるけど。
別に好きかどうかって聞かれてもなぁ。私は恋愛経験ないからわかんないし。
でも、俗に言うところの一緒にいるとドキドキしたりとか、もっと一緒にいたいとかそういう感情はいまのところないから、やっぱり好きってことはない。
「うん、あいつはただの友達。そういう、好きとかいう気持ちはないよ」
「そうなんだ」
と、話していたところでヤヌスがゴミを捨てて戻ってきた。
「ごめん、お待たせ」
「あ、うん。あ、それじゃあヘスティアちゃん。私たちそろそろ行くね」
「うん。明日もここでやってるからまた食べに来てね」
「う、うん。気が向いたら行くよ」
いや、私は祭りに来るのは今日だけのつもりだったから明日は来ないと思うよ。
なんていうことは言わない。さすがにヘスティアちゃんのあの期待に満ち溢れた待ってますよという顔の前でそんなこと言う勇気は私にはない。
「アストレア明日も祭り見に来るの?」
ただ、ヘスティアちゃんの屋台から離れたところでヤヌスがそう聞いてきた時にはちょっとイラっと来たけども。
――神界大神殿ホール――
神界にも有名神というのはいる。
テレビでよく見かけるお笑い芸人、スポーツ選手、アイドルに知識神などから大きな企業の社長などは言わずもがな。
そしてその中のアイドル業界において今もっとも勢いがあるとされている3柱の女神で構成されたアイドルユニットがある。それがMOIRAIだ。
MOIRAIは元々SORSという6人組のアイドルユニットが解散した時に、そのうちの3柱の女神が解散からしばらくたってから再結成されたという経緯があって、ユニットとしての特徴は3柱の女神たちに姉妹の設定があるということ。
そして最も大きな特徴は自分たちのアイドル活動の大部分を自分たちでプロデュース・管理しているということ。
長女のクロートーはしっかり者のお姉さまであり、ユニットのリーダーでもある。司るものは「裁縫」。ユニットの衣装監督とスケジュール管理を担当している。
次女がラケシス。愛嬌のある声と顔立ちで性格は天真爛漫でまじめ。司るものは「測量」。主にライブの舞台監督や演出などを担当しマネジメントの一部も担当している。
三女がアトロポスで、彼女はおとなしくやや暗い雰囲気で毒舌家。しかしそこがまたいいとファンの人気は1番高い。司るものは「切断」。主に対外交渉や雑務、指示出し担当。
もちろん、すべて自分たちでやっているわけではない。
フリーではなく大手芸能事務所にも所属しているし、またメンバーそれぞれ個人の活動もあったりする。
たとえばクロートーはグラビアアイドルとしても活動しているし、ラケシスはバラエティ番組によく呼ばれていたりして、アポロトスは作家としてもデビューしていたりして。
語り始めるときりがないので今回はここらへんでやめておくけど。
つまり、私が何がいいたいのかと言うとだ。
「すごい熱気、いや人気だな」
「そうだね」
私たちが大神殿ホールにやってきた時点で、もうすでに席は最後方の場所だけがわずかに残るだけでありホール内は超満員。
そしてそこに集まった神たちはMOIRAIの登場とライブの開始を今か今かと待ちわびている。
その待ちわびてる間でさえ会場は湧いていた。
「なあ、ヤヌス。1つ言っていいか?」
「うん、何?」
「……やっぱ帰らね?」
正直まだライブが始まってさえいないのだけど、私はもう帰りたい気持ちでいっぱいだった。
この気持ちをわかってくれる人がどれだけいるのだろうか。
「ライブは見ていかなくていいの?」
「……うん。ごめん。やっぱり無理だわ」
「そう」
「あ、お前見たいならここで見てろよ。私先に帰ってるから」
「いや、いいよ。僕はもとから興味があったわけじゃないし、アストレアが辛いっていうなら出よう」
「……ごめん」
私だって、久しぶりにラケシスの姿を見てみたいという思いもあったし、というかそれさえ見れればすぐに帰るつもるだったけど。やっぱり私は神様の多い場所は苦手みたい。もう呼吸がおかしくなってきてたし。だから駅の地下街とかスクランブル交差点とかも絶対に行けないんだけど。
ホールから退場した私たちは大神殿から出た。
というか入場の時でさえ人混みに巻き込まれて半ばおしくらまんじゅう状態だったのに。
大神殿のロビーにはホール内に何台も設置されているカメラからの映像がテレビ画面にリアルタイムで映し出されていて、ホール内に入れなかった神たちがロビーをうめつくすほどいてロビーに設置されたテレビ画面の前に集まっていた。
というか、会場内にはテレビ局のカメラも入っていてこの特別ライブの映像はリアルタイムでテレビ放送されているはずなんだが、やっぱりテレビ画面越しで見るのと生で見るのとでは違うということなのか。
「今回は入場料は無料だったみたいだからね。お客さんもすごい多い」
と、ヤヌスは言っていたけどそれは違うと思う。
ここまでの人気にもなるとたとえ有料だったとしても同じ結果になっていたことは明白だった。
入場前もロビーが客で溢れていたのはそこでグッズ販売とかやってたからっていうのもあるけど。今はそれもやっていないということは今回もグッズは完売したようだ。
ああ、後でまたネットオークションが荒れるに違いない。
「ヤヌスは、アイドルとか興味ないの?」
「うん。というか僕はテレビ自体そんな見ないから」
「そうか」
私の部屋にはその普段見ないというテレビさえ置いていないのだけどね。
そういやこいつの部屋に行った時に置いてあったな。小さい液晶テレビが部屋の端にポツンと。
「それにしても死ぬかと思った。息が、苦しくなっちゃって」
「あははは。アストレアって本当に神が多いところ苦手なんだね」
「いや笑いごとじゃないからね、マジで」
大神殿を出たところで私たちはそんな話をしていた。
「それで、この後はどうするわけ?」
「え、どうって?」
「私的にはもう十分祭りは楽しめたから正直もういいんだけど」
「うーん、でもアストレアはお祭りに来るのは今日だけで、明日はもう来ないんでしょ?」
「ああ、そのつもりだけど?」
というか、明日はお前祭りの片付けとかで忙しそうだし。
私は、今日はもう疲れた。さっきの会場の熱気にあてられたのもあるけどそれ以上にもう汗がやばい。
早く、帰って、シャワー浴びたい。
でも、ヤヌスがちょっと残念そうな、寂しそうな顔をしたもんだから。
「ああ、わかったよ。じゃあ明日も私行くから。今日はもう帰ってもいいか?」
「え?、でもアストレア……」
「なんだよ、どっちにしても私はもう今日は帰って風呂入って寝るぞ?」
「いや、うん。……そうだね。それなら僕もそうするよ」
私が明日の夜も祭りに行くことを決めるとヤヌスはそう答えた。
「でも、お前は明日は屋台の片付けとか色々あって忙しいんじゃないの?」
「少しくらいなら大丈夫だよ。それに今日はもう仕事ないから僕もこのまま帰れるし」
「え、お前荷物は?」
「ないよ?、財布と携帯だけ持ってきたんだ。仕事道具は基本全部工房から持ってきてたし」
「そっか。それなら一緒に帰るか」
「うん」
そういうわけでそれから私たちは帰りのバスに乗り込むと祭り会場を後にした。
なんか勢いで明日も行くとか言ってしまったけど。まあ、別にいいか。
とにかく今日はもう疲れたから帰って風呂入って寝る。それが一番大事。
帰りのバスは空いていた。まあまだ祭りは終わってないから当然っちゃ当然かもしれないが。
浴衣を着た女神の隣にいるのが作業着を着たイケメンっていうのも画としてちょっとどうかなと思う。
私が射的の景品の熊のぬいぐるみを動かして遊んでいたらヤヌスに話しかけられた。
「あ、そうだアストレア」
「うん、何?」
「連絡先交換しようよ。そういえばまだしてなかったよね?」
「ああ……そうだな」
アパートの隣に住んでいるやつと連絡先を交換するなんてこと普通はないのだろうけど。
でもまあヤヌスとはもう一応友達だし、友達ならそれも自然な流れか。
今日みたいな一昔前の映画の中みたいな待ちぼうけをさせないためにも。
というか、ヤヌスとはそれなりに長い付き合いになるはずだけどむしろ今まで連絡先交換してなかったというのが不思議な話だ。コンビニバイト時代に後輩だったヤリーロの連絡先は私のスマホの中にまだ残っているのに。
「お前の携帯って何?、kasikomo?、HardBank?、それともEIU?」
「Kasikomoだよ。アストレアのも同じだよね」
「ああ」
どうやらヤヌスの携帯もスマホで同じ会社の製品だったようだ。
というか、作業着から取り出されたヤヌスのスマホをよく見たら機種まで一緒だった。
本体の色とカバーが違ってたんでよく見ないと気づかなかったけど。
「お前LINNEやってる?」
「うん、もちろんやってるよ」
「じゃあとりあえずそれな。ほら、QR読み取れよ」
「あ、うん。……はい、出来たよ」
LINNEとはいわゆるSNSの一種で神界でも下界でもおそらく1番普及率の高いだろうスマホアプリの一種だ。
最近ではメールアドレスや電話番号を教えるよりも先にこのLINNEのIDなんかを登録させた方が早いのだ。連絡とかだいたいそれで済むし。逆にメールとかほとんどしなくなったな。
私たちはお互いの連絡先を交換するとバスを乗り換えてアパートまで帰ってきた。
2人でアパートの階段を上り私の部屋である203号室の前に来たところで私はヤヌスに言った。
「それじゃあヤヌス、今日は楽しかったよ。久しぶりに誰かと一緒に外出て見て回ったし」
「うん。僕も楽しかったよ。アストレア、明日のことなんだけど」
「あー、うん。じゃあ明日は私適当な時間に会場に行くから着いたらお前に連絡するわ」
「わかった。じゃあ僕もなるべくいつでも仕事抜けれるようにしておくからそれで」
「ああ。じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ。浴衣はちゃんと干しておいたほうがいいよ、皺ついたら目立つから」
「大丈夫、わかってるから」
私はそう言うと自分の部屋の扉の鍵を空けて部屋の中へ。ヤヌスも自分の部屋へと向かう。
そしてすぐに隣の部屋の扉が開いてバタンとしまる音が聞こえてきた。
このアパート、ドアの開け閉めの時の音がけっこう響くんだよね。
「ふう、やれやれ」
私は玄関で靴を脱ぐと部屋の明かりをつけてそう呟いた。
「疲れた」
私の今日1日の感想はすべてその一語に集約されていたと思う。
まあヤヌスに言ったことも嘘じゃないけどね。だからきっとこれは良い疲れだな。
<神様の紹介>
〇ネプチューン
下界ではローマ神話に登場する神であり「海」を司る。
神界では普段は神界水族館の館長代行を務めている。水生生物に関して並外れた知識を持つ。
夏祭り期間中は水族館も休みであり、毎年金魚すくい屋を出店としてやってきている。
初老で頭がやや薄くなってきていることが最近の悩み。
同じ「海」を司る神であるポセイドンとは旧知の間柄で休日はよく2人で釣りに行くらしい。
〇アルテミス
下界ではギリシア神話に登場する神であり「狩猟」を司る女神。
神界では司るものの通りハンターをしており弓だけでなく猟銃も扱える。
その腕は神界随一とされており年に1回行われる神界射撃大会で何度も優勝を飾るほど。
現在は一線を退き、結婚活動中だがなかなか彼女の気に入るお相手は見つかっていない模様。
夏祭りでは射的屋をやっているがこれは実はアルバイトで、単に客寄せのために使われている。
趣味は手芸で、その技術はまさに神の領域に達しているという。(※本当に神です)
余談だがアストレアのもらった熊のぬいぐるみも実は彼女のお手製だとか。




