ニートな女神と初めてのお返し
物語の主人公はたいていの場合恋愛には鈍感なやつが多いけどあれ実際見ててどう思う?
現実にあそこまで鈍感なやつ見たことある人いますか?
……実は筆者はあったりします。
まとめて調合のスキルで複数個のアイテムを同時に作る際に気づいたことが2つある。
1つは複数個作る場合は当然のようにそのアイテムを作るのに必要な素材アイテムも同じ個数作るのと同じだけ必要になるということ。
そしてもう1つは、複数個作る場合でも作るのに必要な時間は1個作る時と変わらないということ。
つまり1個作るのに30秒かかるポーションを10個まとめて作っても30秒で済むということ。
そしてどうやら、今回の調合のスキルレベルが上がったことで覚えたレシピのアイテムは一律で作成に必要な時間は50秒らしいということもわかった。
私はまず聖水を10個まとめて作るのを2回繰り返した。
そうして出来たのはもちろん聖水☆であり、それが合計で20個。
魔力草はその時47個しかもっていなかったのでキリがいいところで20個だけ作っておいた。
「1個作るのに魔力草は2個必要だからな。また街に戻る時にでも森で拾っておこう」
聖水☆の効果は絶大だった。
通常の聖水が1個でMPを25回復するアイテムだとして聖水☆のMP回復量はなんと50。回復量は元の2倍だった。
「まあ、きっとこの先もっと回復できるアイテムも出てくるとは思うけど、今の私にとってこれはすごく貴重なアイテムだ」
さらに私はそのままの流れで毒薬というものを作ってみた。
毒薬に必要な毒草とポイズンスパイダーの爪は聖水の魔力草と同じで共に2個ずつ必要だったけど私のアイテムボックスにはその2つのアイテムが共に100個以上入っていたのでまったく問題はない。
とくに毒草に関しては、あのビッグポイズンスパイダーがいた穴の下で大量に群生しているものを毎回のように取っていたのでたくさんあった。
一応作れるだけ作ろうとも思ったけど、全部使い切るのは避けた。
使い切ってしまった後でそのアイテムが必要になった場合、また第1階層の森林まで取りに行く必要があるからだ。正直それは面倒くさいので。
なので毒薬は計40個作っておいた。……問題はその効果であって。
〇毒薬☆
投げつけて敵に命中させると、命中した敵を状態異常:毒(大)にする。
「うわー、これあればもうポイズンの魔法いらなくね?」
ポイズンの魔法は、当てても敵は毒(小)にするというものでしかも魔法であるからMPも消費する。
その点こういったアイテムの使用についてはMP消費はもちろんない。
ただ、私はこう敵に直接投げつける系のアイテムはこれが初めてだったから後でちょっと試しに使ってみようとは思う。
「麻痺薬も今作っておこう」
キラービーの針に関してはキラービー狩りの時で100個以上手に入れていたし、麻痺消し薬の作成で30個使ったたけどそれでもまだ100個以上あったので問題はない。
ただし麻痺草の方は現在62個しかないのでここで麻痺薬は20個だけ作ることにする。
30個作ると麻痺草はあと2個になっちゃうからね。
〇麻痺薬☆
瓶を投げつけて敵に命中させると、命中した敵を状態異常:麻痺(大)にする。
「……うん、知ってた。でもだからこれさ、パラライズの魔法いらなくなっちゃわね?」
パラライズの魔法……さっき手に入れたばかりでまだモンスター相手に1度も使っていないけど、ポイズン同様にこの麻痺薬☆があればまったく使わなくなってしまうだろう。
「いや、投げつけて当てなきゃいけないってことはこっちのアイテムの方が、きっと射程距離とか命中率とか低いんだろうけど。至近距離に迫って来てる敵とかなら絶対にこっちの方がいいよな」
私はダーツやドッジボールなどはやったことはあるが、それほど上手とは言えない。
部屋の中にあるゴミ箱に離れたところから紙くずを投げ入れても10回に7回は外して床の上に落ちるくらいには物をなげて狙い通りのところに当てたり落としたりは苦手な方だ。
このゲーム内でもそういった部分がおそらくは反映されているはずだ。だから本当に至近距離にいる敵にでもなければまず投げて命中させる自信はないのだけど。
「うーん、まあ。余裕があれば使ってみるか」
という結論を出すと私はそこで調合を終えた。
薬局のお婆さんには約束通り場所を貸してくれたお礼として麻痺消し薬☆を10個上げた。
聖水は私が使うし、毒薬や麻痺薬は……なんか違う気がしたから。
もし私がそれらを渡してお婆さんが店頭に並べて売りに出したら、薬局なのに薬ではなく毒を売ったことになるのでそれはなんかちょっと……違う気がしたから。
お婆さんはそれでも麻痺消し薬の、しかも最高品質のものを10個ももらえたことで大喜びしてくれて、また調合がしたくなったらいつでも場所を貸してあげるよと言ってくれた。
しかも今回のお礼は相当にいいものだったようで次回以降は今回のようにお礼として何か収める必要はないっぽいし。
うん、そうだな。こうなったらもう第2階層にいるうちは調合はこの村の薬局でやることにしようかな。
この村に来るには途中で森を抜ける必要があるけど、そもそもレシピに必要な素材アイテムの多くがその森で採取できるからかえって都合がいいし、そこまで頻繁に調合はしないからね。
毒薬は40個も作ったからきっと次のスキルレベルに上げるために作らなきゃいけない量のラインを越えたはずだろう。後は聖水、麻痺薬、眠り消し薬をそれぞれ40個くらい作れば調合はまたⅣにスキルレベルがあがるはずだ。
眠り消し薬についてはおそらくまだこの階層では作れなそうだけど聖水と麻痺薬については次の階層に行く前にまた数を作っておこう。
とくに聖水☆に関しては、マロンちゃんたちのパーティにも高く売れそうだし。
ああ、そういやまだ9100ゴールド分もマロンちゃんたちにアイテム卸さなきゃいけないんだった。
それにマロンちゃんも調合のスキル手に入れてたからもうポーションとか毒消し薬は売れないかな。
もう時期マロンちゃんたちも第1階層を突破してこの第2階層に来るだろうし。
「お婆さん、それじゃあお言葉に甘えてまたここで場所を借りにきてもいいですか?」
「ああ、もちろんだとも。それにしてもお嬢さんは凄いね。調合のスキルを持ってるなんて、孫みたい」
「え、お孫さんがいらっしゃるんですか?」
「いるよ。たしか孫は第1階層の始まりの街で薬屋をやっているって言ってたねぇ。私は最近もう足腰が弱くなってこの村から出ることもできないからもう長い間孫には合ってないんだけど」
おや、この流れっていうか話なんかちょっと前にも聞いたぞ?
いや、いやいやいや。まさか、そんな、ねぇ?
「ち、ちなみにお孫さんのお名前は?」
「孫かい?、孫はリックスって言うの。あら、そういえば私まだ自分の名前も言ってなかったわね。私の名前はクローディアって言うの。お嬢さんの名前は?」
「……玲愛です」
え、リックスってだからあれだよね。第1階層で私がお世話になった薬屋のお兄さん!
えー、こんな偶然っていうか、こんなことあるんだ。というかこの第2階層、第1階層とつながりある人多くないか?
「あら、もしかして孫とお知り合い?」
「え、ええまあ。お孫さんにはたいへんお世話になりました」
「そう。あの子元気にしてたかしら?」
「……はい。それはもう。元気でした」
「ああ、良かった。ふふふ、玲愛さんにはもう1つ感謝しなければね。実は私、この店にくるお客さんに孫のことをよく聞くんだけど誰も知らないっていうのよ」
「ああ、まあそうでしょうね」
ゲーム内のたかがNPCの名前なんて、よほどそのキャラクターが有名か印象に残ってでもない限りは覚えないし、そもそもNPCにそれぞれちゃんと名前が設定されているという事実にさえ気づいてない人もいるだろうし。
……あれ、でもよく考えるとそうなんだよな。このゲーム、特に何か重要な意味や役割のなさそうなNPCにまでちゃんと1人1人名前がある。別に今まであったNPC全員に確認したわけでもないけど。
それもリアリティーの追求なんだろうか。少なくとも現実では名前が存在しない人間っているにはいるだろうけど少数派だろうし。
「あの、お孫さんはこの店に来たりするんですか?」
「いいえ。孫は第1階層の生まれで冒険者ではないから」
「ああ、そうか。無理なんだ」
つまりこのクローディアさんは第2階層の生まれだから第1階層に行くことは出来るけど、もう歳で足腰が弱いため第1階層に転移できる祭壇のあるフローリアの街までは行くことが出来ない。
いや、足腰が丈夫だったとしても途中で森を抜ける必要があるからモンスターにも遭遇するだろうし護衛なしでは無理だろう。
そして対するお孫さんのリックスさんは第1階層の生まれであるため第2階層に行くためにはプレイヤー同様にあの迷宮のボス、ドラゴンを倒す必要があるのだがあの人は冒険者でもなんでもないただの小市民だろうから絶対にとは言わないけど無理だろう。
ということで2人はもうこの先一生出会うこともないのだろうけど。
「あの、ちなみにリックスさんの両親、クローディアさんの子供は?」
「ああ、ルドルフたちならフローリアの街で薬屋をやってるはずよ。年に1回くらい護衛をやとってこの村までやってくるわ」
「そう、なんですか」
フローリアの街に薬屋は何軒あったかな。私が前に入って麻痺消し薬買った薬屋の受付は女の人だったけど、ルドルフっていうのはきっと男だろうからもしかするとその奥さんだったのかな。
つまりあの人がリックスさんのお母さんにあたる人物だったのか。まだわかんないけど。
「ふふふ。それにしても玲愛さんは不思議な人ね」
「え?」
「だって。このお店にくる他のお客さんはどれも無愛想っていうか、ただただ無口でアイテムだけ買ったり売ったりしてそのまま出ていく人が大半なのに」
「ああ…………」
「村の人でもないのに私、お客さんとこんなに話をしたのはいつ以来かしらね」
そりゃあそうだろう。大半のプレイヤーにとってはこの店は、ポーションと聖水という最低限のものしか売っていないただの薬局であり、むしろ品ぞろえが悪いせいで良く思ってる人は少なそうだ。
それ以前に店の受付とはいえNPCと真面目に会話するプレイヤーなんてプレイヤー全体のうちどのくらいいるんだろうか。
たぶんだけど1割もいない気がする。プレイヤーの目的はあくまでこのゲームの攻略であって、ゲーム攻略に直接関係はないNPCとなんてまず会話しない。
まあ中には現実の人間関係があまり上手くいってないせいでゲーム内でのNPCとの会話などを心の拠り所にしているプレイヤー、なんてのもいるかもしれないけど。
あれ、ちょっと待てよ。それってもしかすると私のことではないだろうか?
……い、いやいやいや。それはない、だって私。別に現実で人間関係に困ったりしてはいないし。特に人恋しいとか寂しいとか思うことも……あ、けっこうあるかも。
でも違う。断じて違う、はず。私はゲームの中のキャラとの交流でそんな寂しさを紛らわせようとしている孤独な神ではない。
「は、ははは。まあ私は、けっこうおしゃべりな方でして」
「そうみたいね」
「あ、すみません。それじゃあ私もう、この後すぐに行くところもあるので」
「あらそう。じゃあ今度来たときはお茶とお菓子を容易するわね」
「いえ、大丈夫ですから。あの、じゃあまた来ますんで」
私はクローディアさんにそう告げると逃げるようにして薬局を出た。
行かなきゃいけないところなんて、ないんだけどね。なんか気まずくてそう言っちゃった。
でも、そうだな。今日は1回ここでログアウトしようかな。
もうお昼過ぎだし、たまには昼食もしっかり取らなきゃいけないし。
ということで私はそこでログアウトした。
次回ログインした時もこの村の中からスタートするけど、よく考えてみれば初めて街ではないところでログアウトしたかもしれないな。
――神界にある私の部屋――
現実に戻ってきた私だったが、頭ではまだこの後のゲーム攻略について考えていた。
森の攻略を終えて第2階層の攻略も序盤が終わって中盤にさしかかろうとしている。このまま攻略を進めるとしたら次は第2のフィールドである牧草地帯に向かうべきだけど。
その前にフローリアの街の冒険者ギルドでまたいくつかクエストを片付けておこうかな。
別に冒険者ギルドのクエストは全部クリアする必要はおろかゲーム攻略には一切やらなくても何の影響もないけど住人クエストの報酬なんかではスキルや魔法や、あと調合のレシピももらえるかもしれないし。
「うーん、そうだな。やっぱりクエストを片付けておくことにしよう。あ、でもヤタガラスみたいなボスが出てきそうなやつはまだパス。あれマジで死にかけるから」
昼食はカップ麺だ。いや、夜食になるよりは全然いいだろう。
わかってるよ。今日の夜はちゃんとしたもの食うから。
そうして昼食を食べ終えた私は食い終わった容器を片付けていたのだけどそこで玄関のチャイムが鳴った。あれ、誰だろうって、いや、大体想像はつくけども。
私は玄関まで行きドアスコープを除いてチャイムの主を確認すると念のためチェーンをかけてから玄関扉を開けた。
「あ、アストレア。お昼ごはんはもう食べた?」
「食べたけど……お前仕事はどうしたんだよ。ヤヌス」
「今日は夕方からなんだ。あ、差し入れ買ってきたんだけど」
私は玄関先に立つヤヌスが前と同じようにコンビニのビニール袋を手に持っているのを確認すると1度扉を閉めてからチェーンを外した。
「いいよ、入って」
「ああ、うん。それじゃあお邪魔するよ」
何気に週1くらいで差し入れくれるんだよな、ヤヌス。
私は別にこいつに特に何かしてあげた記憶がないのだが何かと世話になっている。
もらいっぱなしでは悪いので私もいつか何かお返ししなければと思っているのだけど何をあげればいいのかがまったくわからない。
私はヤヌスの人となりは知ってるつもりだけど趣味嗜好とか、好き嫌いについては全然知らない。
というか私にとってヤヌスはただ仲の良いアパートの隣人であるからそもそもアパートの隣人のことをそこまで知っているやつなんていないだろうけど。
「あれ、この匂い。アストレア、もしかして昼食はカップ麺だった?」
「そうだよ。なんだよ。なんか文句あるのか?」
「いや、別に文句はないよ。ただ、出来ればもっとちゃんとしたもの食べたほうがいいんじゃ……」
「うるさいな。大体お前だって同じようなもんだろ。この生活不規則神め」
「ちょっと、それは酷くない?、僕だって立派な家具職人になろうと頑張ってるんだから」
ヤヌスは家具職人見習いだ。見習いだからまだまだ親方とやらの教えを受けているばかりで、家具も作らせてもらっているらしいがこいつの親方はまだまだだと言っているらしい。
で、その家具職人見習いの仕事というのが意外に大変で、まず仕事時間がとくに決まっていない。
今日も夕方からとか言ってたけどすごい時は朝から晩まで工房にこもりっぱなしとか言ってたし。
だから当然のように家に帰ってくる時間等も日によってバラバラで生活リズムは不規則になる。
「ヤヌスはいつになったら一人前の家具職人になれるんだ?」
「う……それは、まあ。ごめん、僕にもちょっとわからないよ」
「そうか。あ、それで差し入れは何?」
「ああ、うん。ソフトクリーム、コンビニのだけど」
「おおお、ヤヌスお前わかってるじゃないか!」
ラーメンの後のソフトクリーム。この組み合わせは最高だ。
まあ今回はラーメンはカップ麺で、コンビニのソフトクリームは実際には固いアイスクリームなんだけどそこはほら、雰囲気が大事なんだよ。
ヤヌスはソフトクリームを2個買っていたけど、まあ1個は自分用だよね。
私たちは2人してただただ無心でコンビニのアイスクリームを食べた。
「あ、そういえばさアストレア。前に僕があげたあのゲーム機。使ってるの?」
「あ……ああうん。まあ、たまにね」
「ふうん。僕はゲームとか苦手だからわかんないけど、楽しい?」
「うん、まあまあ。ほら、今もここにあるよ」
もちろん今の言葉は大嘘であるわけで、私はすでにヤヌスにもらったゲーム機を、ゴッドワールド・オンラインというゲームにどっぷりとはまっている。
今気づいたけど私、現実にいる時間よりゲーム内でいる時間の方が多いな。最近は。
「そういえば、ヤヌスはこのゲーム機知り合いからもらったって言ってたけど」
「うん、それがどうかした?」
「知り合いって誰?、ああいや、別にその人がどうこうってわけでもないんだけど」
「ああ、うん。えっとね、それをくれたのは…………あれ、誰だったかな?」
「え?、職場の人?」
「うーーーーーん。ごめんアストレア。ちょっと忘れちゃったみたい」
「そう。でもこんな高そうなゲーム機をぽんと人にあげちゃうくらいなやつだからそこそこ金持ちな人なんだね」
「どうだろう。もしかしたらその人も別の誰かからもらったのかもしれないよ?」
「ああ、そっか」
そうして私たちはほぼ同時にソフトクリームを食べ終わると容器は2つとも私が処分した。
そして用事も済んだのでヤヌスが帰ろうとしたところで私はヤヌスに聞いてみた。
「あのさ。ちなみにヤヌスは自炊とか出来るわけ?」
「え?、なに急に」
「いいから答えてよ」
「んー、まあ。出来なくはないけど、そこまで上手くもないかな。簡単なものくらいなら作れるけど」
「そっか……あの、それじゃあさ」
私はこれはチャンスかもしれないと思ってヤヌスに提案してみた。
「私が作ってあげよっか?」
「え?」
「いや、だってほら。いつもこうやって差し入れもらってばかりじゃ悪いし、たまには私もなんか返さなきゃだし。でも私に返せるものなんてないから」
「それで、料理?」
「うん。あ、言っておくけど私もそこまで上手いわけじゃないからあんま期待しないでよ。でも、たぶんヤヌスよりは上手いと思うから。いや、迷惑だったならやめるk……」
「迷惑だなんてとんでもない。むしろ嬉しいよ!」
「お、おお。そうか?」
なんかヤヌスのテンションがいきなり2段階くらい上がったみたいだけどどうしたんだ突然。
ははん、さてはこいつも普段はカップ麺とかそんなのばっか食べてるからまともな飯食うのは久しぶりだからだな。うん、その気持ちは私にもわかるよ。
いつもそんなのばっかり食べてるとたまにまともな飯食ったときはすげぇ感動するんだよね。なんていうか舌が震えるっていうのか。
「えと、それじゃあいつが都合いい?、今日は?」
「ああー、今日は僕夜遅くまで帰ってこないだろうから。明日の夜なら大丈夫だと思うけど」
「うん、わかった。じゃあ明日の夜な。言っておくけど食材費とかはそっち持ちな?」
「う、うん、わかったよ。あ、あんまり高くならないようにね」
「わかってるって。んじゃま明日の夜、何時がいい?」
「何時でもいいよ。明日は夕方から僕ずっと暇だし」
今日は夕方から仕事のくせに明日はその逆とか、まじで生活不規則だなこいつ。
「じゃあ6時で。チャイム押して5秒以内に出てこなかったら帰るんで」
「えええ!?、わ、わかったよ。ちゃんと待ってる」
「ふふふ。冗談だよ。お返しだって言ったじゃんか」
「あははは。いやアストレアなら本当にそれで帰りそうだし」
おい、それはいったいどういう意味だよ?……まあ間違ってもないけど。
そうしてヤヌスは出て行った。もの凄くにこやかな笑顔で。
そんなにまともな飯が食えることが嬉しいのか、あいつもしかしたら私以上に日頃の食生活乱れてるんじゃね?
いや、それはないか。私以上に食生活乱れてたら多分神様でも体とかいろいろ壊しそうだし。
とか、自分で言ってて悲しくなってきたよ。もうやめよう。
「さて、じゃあゲームの続きやるか。……それにしても料理か。あー、久々だし何作るっかな。ていうかあいつの好物とか聞いておきゃ良かったかな。今さらだけど」
私は明日ヤヌスに何を作ってあげようかと考えながらもゲーム機を装着すると電源を入れた。
本当であればこのゲーム機をくれたヤヌスにはすごく感謝してるから料理1回くらいじゃ返しきれないほどの恩があるんだけど。
それも明日会った時にそれとなく提案してみようかな。私に出来る範囲のことであれば願いをなんでも1つ聞いてやるくらいのことは言ってもいい。ふふふ、まるで神様みたいだな私。
<神様の辞典>
〇ヤヌス
下界ではローマ神話に登場する「扉」を司る神。
神界では家具職人の見習いをしており一応給料ももらっているがもらった給料はすべて生活費に消えていくようだ。
アストレアの住んでいるアパート『はしくれ荘』の204号室の住人でつまりは隣人。アストレアにたまに差し入れと称していろいろ持って行ってあげているが理由はもうお分かりだろう。
アストレアが彼の気持ちにいつ気がつくのか。あるいは物語が終わるまで気づかないのかはまだ筆者は決めていないためノーコメントで。
ただ、第1話でアストレアがヤヌスのことをさわやかイケメンと呼んでいたので少なくとも容姿はそこまで悪くないと思われる。がんばれヤヌス!
ちなみに第1話から登場してたヤヌスの紹介をなぜ今このタイミングでするのかと言うととくに深い意味とかはなく今までの話を読み返してみて紹介を忘れてただけです。ごめんヤヌス!




