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ニートな女神がログインしました。  作者: 唯一信
第1階層―始まりの街―
43/171

ニートな女神と初めての決闘

前回とタイトルが意味的に被っている気がしますがそこは気にしないで。

ニートな女神と初めてのPVP2ぐらいの感じで見ていただければ。

あと、今回はいつもより話が長くなってしまいましたことを先にここでお詫び申し上げます。

 街中まちなかでは原則として全域で戦闘行為は禁止となっている。それはプレイヤー間で行われる決闘も同じであって、だから決闘は基本フィールドで行われる。


 平原フィールドに出て少し歩いたところでそれまで一緒に歩いていた李ちゃんがまずはパーティ登録をしようと言ってきた。

 どうやら決闘をするにはパーティ登録をする必要があるらしい。

 私はもちろん了承し、李ちゃんから送られてきたパーティ申請を受けた。


「それでね。パーティになったらパーティメンバーの名前が右上か右下に出てるでしょ?」

「うん」

「そこを指でタッチしてみると色々な項目が出てくるんだけど、その中に決闘の項目があるんだ」

「えーと、あ、これか」


 私は言われたとおりに指で視界右上に表示されている李ちゃんの名前の部分をタッチした。

 するとアイテム支援、魔法支援、の後に決闘と表示された項目があった。

 ああ、ちなみにアイテム支援っていうのは自分の持っているアイテムをパーティメンバーに対して使用すること。アイテムによって使えないものもあるけど。

 魔法支援は主に戦闘中に、たとえば味方の能力を上げる魔法とかをパーティメンバーに使用したいときに誰にその魔法を使用するのか選ぶときに使う項目なのだとか。

 私は李ちゃんに教えられてへぇそうなのかと言った。

 いや、だって基本ソロプレイを貫く私には今まで縁がなかった話だったしね。


「えっと、それで私はどうすればいいの?」

「ああ、うん。そうだな、今日は私の方から誘ったから私がお姉さんに決闘の申請をするよ」


 そうして李ちゃんが私と同じように指を動かすそぶりを見せるとすぐに私の前に画面が開かれた。


『プレイヤーから決闘申請が届きました』

 プレイヤー名:李


 この申請を受けますか? はいorいいえ


 私はそれで゛はい゛のボタンを押した。

 すると画面が切り替わり今度は決闘の形式を決める画面に。

 一言に決闘と言ってもどうやら様々な種類のものがあるようだった。


 最初に相手に攻撃を当てたほうが勝ちになる初撃決闘。

 相手のHPを先に半分まで削った方が勝ちになる半分決闘。

 普通の戦闘と同じように相手のHPを先に0にした方が勝ちになる純決闘。


 おもしろいところで、決闘中はお互いの武器が一切使用できなくなる素手モードや、決闘する両者のプレイヤーのレベルが大きく離れている場合はレベル調整などのハンデの設定もいろいろできるみたい。

 まあ、レベル制のゲームだからそれはあって当然だとは思うんだけどね。


「どうする?」

「へへへ、じゃあ純決闘でもいい?」

「えっと、つまり全力で相手を叩き潰す決闘?」

「うん、そう。ていうかお姉さん、その言い方なんか怖いよ」

「あ、ごめん」


 でもだって、純決闘ってようはただの決闘。

 現実世界なら普通に命の奪い合いを意味するからね、間違ってはいない。


 私は李ちゃんが提示してきた純決闘の申し込みを了承した。


「次で最後ね。フィールドなんだけど。基本は今私がいる場所から半径100メートル以内って設定なんだけどそれでもいい?、もっと広くしたり狭くしたりもできるけど」

「ああうん、別にそれはどうでも。あ、でも決闘中にモンスターとかって?」

「ああそれは大丈夫。決闘が開始されると今私がいった範囲にこう、見えないバリアみたいなのが張られてその中にはモンスターは出現しないし、外からモンスターが入ってくることもないんだ」

「なるほど。それで決闘の決着がつくまではプレイヤーもその中から出ることはできない、と」

「そういうこと。あ、それとね。決闘ではHPが0になっても死亡にはならないから安心して」

「え、そうなの?」

「うん。あ、でももちろん設定いじればちゃんと死亡扱いにすることも出来るよ。決闘って、割と自由にルールいじれるんだ」


 なるほど。まあそこら辺のことは別にどうでもいいけど。私から決闘挑む機会なんてないと思うし。

 さて、それで一応すべての設定が完了したみたいだ。あとは李ちゃんが決闘開始のボタンを押したら15秒後に決闘は開始となる。その15秒間のうちに好きなだけ間合いや距離をとったり出来るしその時間はまだ2人とも無敵モードでお互い相手にダメージは与えられない。

 でもさっき説明された目に見えないバリアは張られているのであんまり遠くに逃げると壁にぶつかったりすることもあるらしいけど、そもそも論としてプレイヤーが1対1で戦うのに半径100メートルも必要なのか。


 ああ、そうか。ドラゴンのファイアーブレスみたいな広範囲に攻撃できる魔法とかを避けれるだけの空間が必要なわけか。


「それじゃあ始めるけど、お姉さん準備はオッケー?」

「うん。いつでもどうぞ?」

「それじゃあ、スタート!」


 李ちゃんがそう言って決闘開始のボタンを押すと私の視界の中央上に金ぴかの懐中時計が現れた。

 懐中時計の中央に大きく書かれた15という数字が1つずつ減っていく。

 ああ、これが0になったらスタートってわけね。……よーし。


 私と李ちゃんはお互いに顔を見合わせるととりあえず初期位置として50メートルほど間を開けた。

 その間にも懐中時計のカウントは進み3、2、1の表示の後に私の視界内にでかでかと決闘開始の文字が現れたかと思ったらその文字はすぐに炎に包まれて燃えて消えた。なかなか凝ってるな。


 さあそれで決闘が開始されたわけだけど。

 どうしようかな。私は先にウィンドステップなどの支援魔法を使っておくべきか迷ったけども最初はまあ李ちゃんがどのくらいの強さなのか調べるためにも素の状態でやりあってみるか。


 決闘開始後、まず先に動いたのは李ちゃんだった。

 なんとなく予想は出来てたけど李ちゃんは正面からこっちに向かって走ってくる。

 なので私はやれやれと首を振りながらもそれを魔法で迎撃する。……いや、しようとした。


「ウォーターボール!……あ、よけられた」


 李ちゃんは槍使いで、おそらくはAGIとSTRを強化してるはずだ。

 私の方がレベルが上で、スキルや装備の効果で李ちゃんよりも絶対に敏捷の値も高いはずだと思っていたんだけど私の想像してたのよりもちょっと速いな。


「それなら弾幕張るか。サンダーボール、ウィンドボール、ライトボール、ダークボール、アイスボール、ウォーターボール、ソイルボール!」


 私が次々に繰り出した数々の属性の魔法攻撃に李ちゃんは驚きつつも全力で回避している。

 だけどそもそもこちらに向かって接近している途中であるために近づくにつれてもちろん回避の難易度は上がっているわけで。


 私は種々の魔法を放ちつつもあえて李ちゃんがギリギリでよけれる位置を狙って攻撃を続けた。

 李ちゃんはそれをあくまで自分の技量でかわしきれているのだと錯覚してくれただろうか。

 そして私が、最初からある地点に李ちゃんを誘導しようとしていることに気がついてるだろうか?


 いや、たぶん気づいてないだろうな。


「ファイアーボール!」

「うえぇあ!、しまった!」


 互いの距離が20メートルほどになった時、私は狙い通りの地点までやってきた李ちゃんに本命の魔法を撃ち込んだ。

 本命、すなわち火魔法最強の効果によって私が使える魔法の中でももっとも一撃で与えるダメージが大きいもの。つまりはファイアーボールを。


 しかし李ちゃんはなんとそれでもそれを直前で回避しようとした。

 それによりギリギリで直撃は免れたものも少しかすってしまったようで。

 その少しかすっただけで李ちゃんのHPケージは2割削られた。


 ああ、やっぱり賢さの値は上げてないよね。だって槍使いだもの。


「うそ。お姉さんどんだけ賢さ上げてるの!?」


 いや、実際には今のダメージは火魔法最強のスキル効果によるところが大きいと思うのだけど。

 まあその上でさらに装備とかでも底上げした上でのあの威力だからね。基本ステータスの値はそれほどでもないと思うよ。


「よーし、今度はこっちの番だー!」


 それでまあ、今度は接近戦だよね。

 さすがに私もずっと魔法で戦うつもりはなかったし、というか私は本来は剣で戦うスタイルなのだからちゃんと剣でも戦わないとね。


「はぁ~!、せや!、せい!、そりゃー!」


 私は接近してきた李ちゃんの槍攻撃を盾で難なくさばいていく。

 うーん、たしかに攻撃は速いんだけど対応できないほど速いってわけでもないし。

 盾で攻撃を防いだらダメージが0なのは惜しいところだ。


 というか、この決闘。たぶん最初から私の勝ちは決まってるだろうけど。

 いや、これは自信があるとかいう以前の根本的な問題で。


 だって私のVITってきっと李ちゃんのSTRの値を2倍近くあると思うんだよ。

 だからもう本当は盾で攻撃を防ぐ必要もないというか、ドラゴンシールドの特殊効果で自動カウンターが発生するかもしれないし。


「うー、くそー。お姉さんの盾硬すぎるよー!」


 だから李ちゃんがそう言ってきたところで私はこう提案した。


「じゃあ、ハンデで盾なしにしようか?」

「え、本当?」

「うん。……はい」

「ふっふっふ。お姉さん、後悔してももう遅いんだぜー!」


 私は左手に持っていた盾を手放した。

 私が再び念じない限り私の左手はガラ空きでありつまり盾はもうない。

 そして私が盾を手放したところで李ちゃんがしかけてきた。

 でも私は李ちゃんの攻撃を今度はすべて剣でさばいていく。


「うぅー、強い」

「ふふふ。じゃあ、剣も捨てよっか?」

「いや!、それじゃあさすがにお姉さんが大変になっちゃうよ。それにそこまでされて負けたら私、すごく落ち込むからやめて!」


 その気持ちはわかるけど、でもそれじゃあ李ちゃん私に攻撃当てられないんじゃないか?


「ふっふっふ。心配はいらないよ。私にはとっておきの秘策と秘密があるんだから」

「へぇ、そうなんだ。(でも、ならそれ今言っちゃって良かったの?)……それは楽しみだね」


 私は1度そこで仕切りなおそうと李ちゃんと再び30メートルほどの距離を取った。

 さて、李ちゃんの言った秘策と秘密とはいったい何がぁぁぁぁ!?


「うわ!」


 それは瞬間の出来事だったと思う。

 たしかに私は李ちゃんと距離を取ったはずだった。なのにその距離を一気に詰めてきた李ちゃんの攻撃を私は直で受けてしまった。

 ただ、本当に驚いたのはそこではなくその攻撃で私はダメージを負ったのだ。

 VITが高められているはずの私に。でも、それでもそこまで大きなダメージではなかった。

 ダメージが少なかった理由はきっとこのドラゴンシリーズの装備の効果のおかげか。物理攻撃で受けるダメージを半分にまで減らしてくれる。


「惜しい。もう一撃いけたと思ったのに!」

「い、今のってもしかして……」

「そうだよ。貫通攻撃!」


 ああ、やっぱりそうか。いや、やっぱりあったのか。

 貫通攻撃。それはRPGなど防御力が高い敵を倒すためにある技。

 このゲームでの正確な効果は不明だけどきっと今のダメージから推察するに対象のVITの値を無視してダメージを与えるといったところだろうか。

 たしかに今の攻撃を繰り返し当てていけば私は倒せるかもしれない。

 そして今の攻撃こそが李ちゃんがさっき言っていた秘策というやつだろうか。

 策というよりは技と言ったほうが正しいけど。


「なるほど。それでぇい!?、その速くなってるのはぁ!」


 私はそして、李ちゃんのもう1つ言っていた秘密というのももう理解していた。

 とにかく速い。今の一気に距離を詰められたのもそうだけど先ほどまでの李ちゃんよりも段違いに速く、つまりは敏捷の値が大幅に上がっている。

 さらなる攻撃の嵐に私はそれでもなんとか剣で応戦していたけど、感覚的に今の時点で私と李ちゃんの敏捷はほぼ互角か李ちゃんの方が少し上。そして私はそれだけにとどまらず、李ちゃんの動きがさらにだんだんと速くなってきていることに気がついた。

 これは何かのスキルか魔法の効果なのだろうか。いやきっと違う。これはきっと……


「もしかして神様の恩恵の効果?」

「お、当たり~!、戦闘中に時間が経過するほど敏捷が上がっていくんだ。でも1回の戦闘が終わるたびに効果はリセットされちゃうからフィールドじゃあんまし使えないけど、ね!」


 なるほど。たしかにそれは使えないだろう。

 だが裏を返せば長期戦、特に強敵との戦いでは無類の強さを発揮する効果だとも思う。

 あれでも待てよ。私は、そこでふとあることを思い出していた。それは数日前のビッグポイズンスパイダーを皆で倒した時のこと。

 あの時も結構な長丁場で戦闘中だったけれど李ちゃんの速さは常に一定くらいだったような。

 いや、私が集中してたせいで見逃してただけかもしれないんだけど。

 もしかしたら戦闘終了以外にも効果がリセットされる条件があるのかもしれない。たとえば一定のダメージを受けた時とか。


「ウィンドステップ!」


 私は色々と考えつつも今の状況をなんとかしようとそこでウィンドステップの魔法を使用した。

 このことでそれまで高速だった李ちゃんの動きが最初よりもちょっと速いかなくらいにまで相対的に下がった。

 そして私はさらにもう1つ、支援魔法を使用したのだが。


「ドラゴンハウリング!」


 私がその魔法を発動すると私の口からはなんか緑っぽいオーラの風が衝撃波となって李ちゃんを襲った。いや、くしゃみとかじゃないよ。ちゃんとした魔法だよ。

 だがそれにダメージはない。これはあくまで支援魔法なのだから。


「えぁあ!?、なんだなんだ?」


 李ちゃんは初見かつ高速のその魔法を直撃してしまい、しかしそれで一切のダメージがないところを見て不思議がった。

 うん、私もきっと初見じゃこの魔法の恐ろしさを見抜くことは不可能だと思う。


 この魔法はあの迷宮のボス部屋で、ドラゴン討伐の報酬である金の宝箱の中に入っていた巻物を読んで覚えた魔法だった。

 ドラゴンハウリング。竜の咆哮という意味のこの魔法は風属性の支援魔法だ。

 支援魔法といっても自身や味方を強化するものではなく相手になんらかの弱体化の効果を付与する魔法、デパフと呼ばれる種類の魔法の一種で、射程距離と発動速度に優れているので近距離で使われたら回避することも難しいこの魔法は、なんと1発でMPを20も消費しさらに再使用可能までに10分も時間がかかるという非常に燃費の悪い魔法。

 しかしその分だけ効果の方はは絶大で……


「それじゃあ李ちゃん。そろそろこの決闘を終わらせるけどもういいかな?」

「え?、まさかお姉さん降参しちゃうの?」

「ううん、まさか。ただ、私からも本格的に攻撃するけどいいかなって話」

「もちろん。のぞむところだよ!」

「うん。じゃあ行くよ」


 それからわずか1分足らずで決闘は終了した。

 勝敗はもちろん私の勝ち。私が攻撃に転じた瞬間に李ちゃんはなすすべもなくやられて一気にHPが0になったのだ。

 でも私は特に何か剣の技を使ったわけではない。ただ李ちゃんに接近して剣で斬っただけだ。


 その攻撃を李ちゃんが一切防御できなかっただけで。


 李ちゃんのHPが0になった瞬間、決闘終了の文字が眼前に浮かんでは消えた。

 李ちゃんの頭上にはLOSEの4文字が浮かんでいるけど、ということは私の頭上にはWINの3文字が浮かんでいるのかね。

 そうして私と李ちゃんの戦い、いや私の初めての決闘は終わった。最後は本当にあっけなく。


 ――それから5分後――


「つまり、あの魔法を受けたプレイヤーは一切の防御行動ができなくなるんだ。攻撃と、あと回避しか出来ない。武器や盾で身を守ろうとしても体が動かなくなっちゃう」

「そっか。だから最後のお姉さんの攻撃、私まともに全部食らっちゃったんだね」

「そういうこと」


 決闘終了後、私は李ちゃんと共に始まりの街まで帰還していた。

 その間に今回の決闘の内容について最初から1つ1つ確認しながら話し合っていた。

 李ちゃんは、負けてすごく悔しそうにしてたけど、でも明るくて、まあ仕方がないかと言っていたけれど。内心ではやっぱり悔しかったとは思うよ。


「ねえ、お姉さんの神様の恩恵の効果って、どんなやつ。さっきの決闘でも使ってた?」

「あー、いや。私のは……さっきの戦闘では使ってなかったよ。そもそも戦闘向きの効果じゃないし」

「へえ。あ、でもお姉さんの恩恵ってあの光ってパワーアップするやつだったよね。ローズと同じで」

「ああ、うん。まああれも……たしかに恩恵の効果の1つではある、よ」


 私が最後言葉を詰まらせてしまったのはもちろんその発言に自信がないからだ。

 だってあの技というか現象、ヤタガラス戦の時が初めてだったしそれ以降まだ1度も発動してないんだもの。


「じゃあ、本当の効果はどんなやつなの?、誰にも言わないから教えて!、お願い!」

「ああ、うん。まあ、李ちゃんのも教えてもらったしね。いいよ」

「本当?、やったー!」


 うん、なんというかやっぱり李ちゃんは李ちゃんだ。

 感情表現が豊かでかつストレートにそれを表現してくる。ゲーム内のキャラのアバターなのにここまでいきいきとした姿を見ると本当にちょっと、羨ましくなる。少なくとも私には無理だ。


「私の恩恵の効果は、まあ言っちゃえば運が良くなるんだよ」

「運?」

「そう。モンスターからドロップアイテムが落ちやすくなったり、あとはアイテム作成スキルで作ったアイテムの品質が良くなったり、他にも色々」

「ふうん、そうなんだ。じゃあ、神様も幸運の女神様だったり?」


 うん、李ちゃん。それは言わないでほしかったよ。

 私は正義を司る神だよ。決して幸運を司る神なんかじゃないんだ。

 でも、今の説明を聞く限りじゃそういう風に思われても無理はない、か。


「私の神様はさ。クロノスって言って時間の神様らしいんだ」

「ああ、だから速度が徐々に上がって行く効果なんだ」

「うん、たぶんね。あ、もちろん効果はそれだけじゃないんだけど。でも私は別に、神様とか神話とかってあんまり興味ないからさ。本は、まあ漫画くらいなら読む程度だし」

「ふうん。え、でもそれじゃあ……」


 どうして自分の神様が時間をつかさどる神だと知っているのかと、私は聞こうとしたけどその前に李ちゃんが教えてくれた。


「ラフィアが教えてくれたんだ。ラフィアは逆に本の虫だし。神話とかにも詳しいんだよ。学校じゃ図書委員だしな」

「へえ……」


 私はそれを聞いてたしかにラフィアちゃんにはなんか似合いそうだなと思った。


「他の皆は、何か委員とか部活やってるの?」

「私は陸上部だったけど、途中でやめちゃって今は何も。マロンは帰宅部だし。ローズは……わかる?」

「剣道部?」

「そう。でもあいつは本当はフェンシングの方が好きだって言ってたけど。私はどっちも剣使うんだし同じじゃないって言ったら無茶苦茶怒られた」


 そりゃそうだろうよ。競歩の選手とマラソン選手にどっちも地面の上を歩いてるんだし同じでしょなんて言ったらキレられるのと同じだ。……あれ、でも具体的に何が違うんだろその2つ。


「お姉さんは?、高校で何か部活やってたりする?」

「いや、私は帰宅部。あ、でも子供の頃はバスケットボールが好きでよく友達と遊んでた」

「へえ、バスケねぇ。たしかにお姉さん運動神経良さそうだもんね」


 いや、現実だと今はアパートの一室で1日の大半を寝て過ごすニートですけども。


「……ねえ、今度また私と決闘してくれる?」

「え?……うん、別にいいけど」

「ほんと?、約束だよ?」

「う、うん」


 李ちゃん、嬉しいのはわかるけど顔が近いよ。離れて。


「じゃあ、指切りしよう」

「え、何?」

「だから、指切りげんまん」

「ユビキリゲンマン?」


 はて、それはいったいなんだろうか。下界で流行りの何かのおまじない的なやつかな?


「え、お姉さんもしかして指切りげんまん知らないの?」

「う、うん。どうすればいいの?」

「えっとね、こうして互いの小指をくっつけてね……」


 李ちゃんは一瞬だけ驚いた顔をしたけどすぐに笑って私にやりかたを教えてくれた。

 ただ、このおまじない。聞くところによると下界ではもうだいぶ昔からあるものらしい。

 私はまったく知らなかったけども。


「じゃあ行くよ」

「うん」

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。指切った!」」


 それにこのおまじない、なかなかに物騒だ。本当にこれが下界では普通に行われているのか疑わしいレベルで。だって、嘘ついただけで針を千本も飲まされるなんて罰としてはあまりに重い。もう拷問だよそれ。しかも最後なんか意味もわからずにお互い指を切り落としてるし。残虐だなぁ。


「はい、これで約束したからね」

「う、うん。約束、ね」

「言っておくけど、次に戦うときは私だってもっと強くなってるんだからね!」

「うん」

「ふふん。あ、そだ後ね。近いうちにラフィアからえーと、なんだったっけ?」

「アイテムの納入?」

「あーそうそうそれ。それを頼むから誰かお姉さんに会ったら伝えておいてって。せっかくフレンド登録して通話もできるんだし自分で言えばいいのにな」

「そ、そうだね」


 そうか、そういやたしかにあったな通話機能。フレンド登録したプレイヤーがお互いにログインしている状態でかつ両者ともに通話可能な状態であるって条件付きだけど。使ったことないしな、私。


「お姉さんの方からも何か質問があればラフィアに聞いてあげてよ」

「わかった。そうする」

「うん。……それじゃあ私はこの辺でログアウトするね。お姉さん、またね」

「うん。またね」


 そうして李ちゃんはログアウトして現実世界に帰還していった。

 どうやらアイテム販売の件に関してはラフィアちゃんに一任したような感じになったみたいだ。

 まあ、気弱だけど意外としっかりしていて驚異の記憶力を持つラフィアちゃんなら適任なんだろう。


 さて、もうそろ夕方だけどどうしようかな。あ、そうだ洗濯物忘れてた。

 私は一旦ここでログアウトすることにした。きっともう乾燥まで終わっているはずの洗濯物を取り込みに戻るために。


<神様の辞典>

〇クロノス

下界ではギリシャ神話に登場する神で「時間」を司る。

神界では高級時計店の店員をしておりどのようなお客様に対しても完璧に対応するカリスマ店員。

その目利きの腕はたしかで彼が選んでくれた時計はどれも客は大満足して一生を添い遂げられるという噂まで飛び交うほど。

温厚かつ紳士的で、悩みなどないように思われる彼にもただ1つだけ悩みがあった。


実はギリシャ神話由来の神にはもう人柱、クロノスという同名の神がいるのだが同じ職場で働いている。向こうは「農耕」を司る神で仕事もお茶くみくらいしかしていないのだが。

名前の発音までほぼ同じであるため職場では名前を呼ばれてもそれが自分のことなのか、あるいはもう一柱の方のクロノスであるのかわからずに困惑するというのが彼の悩みだった。


しかしその悩みは簡単に解決された。あだ名である。

店員の方のクロノスはクロ様、お茶くみの方のクロノスはノスさんと呼び分けることでこの問題は一旦は解決されたように思えた。

しかし最近、店員の方のクロノスには新たな悩みがある。

それは客から、クロ様とノスさんって兄弟なんですかという質問をよく受けるようになったこと。


なので解決策として、彼らが働く店の看板の下に、小さくこのような文章が追加されたらしい。


『クロ様とノスさんの間には血縁関係は一切ありません!!』


この看板の効果のほどはわからなかったが、少なくともそれでクロ様はご満足したようです。

なおノスさんの方は最初からどうでもいいと思っていたとのこと。

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